ずぅん、ずぅぅん

 空は快晴、いい天気。今日はとっても楽しい特別な日。お菓子を求めて歩いゆこう。
「トリック・オア・トリート」
 赤い屋根の前に立っているお婆さんに元気に挨拶。
「おやおや、可愛い魔法使いさん。こんにちわ」
「こんにちわ! お婆さん、トリック・オア・トリートだよ!」
 黒い三角帽子を被って魔法使いの格好をしている少女。女の子に言われてお婆さんも今日はハロウィンだという事を
思い出す。お婆さんは女の子に『ちょっと待っていてね』と言うと、家の中に入り、キャンディーを少々持って、少女に
渡す。少女はお婆さんからお菓子を受け取り上機嫌。
「ありがとうお婆さん!」
「いいえぇ。今日は楽しんでおいで」
「うん!」
 そういうと、少女とお婆さんは別れ、少女は街へ目指して歩き出したのだった。その後ろ姿を見てお婆さんは呟いた。
「初めは大きな地震が来たかと思ったけど、あの子の仕業で安心したわい。あの子はいつでも大きな声でモノを
 言ってくれるから助かるよ」
 ポンポンっと背中を叩くとお婆さんは家の中へと入って行きました。

 *

 ずぅん、ずぅぅぅん

「やっとついたー!」 
 少女は街に辿り着いた。街は賑やかでハロウィン一色といった感じの雰囲気だ。お店を出している人、歩いている人、
皆が皆、何かの仮装をし、ハロウィンを楽しんでいるといった感じだった。少女が街に来るまでは。
 次第に近づく何かの足音、ソレに伴って強くなる揺れ、雲ひとつない空の快晴に突如現れた謎の影。人々が顔を上げると
底には家よりもはるかに大きな大きな巨大な少女が我々を見下していたのだった。
「街のみんなートリック・オア・トリートだよー」
 少女は言う。ビリビリと響く轟音、少女の余りにも大きすぎる元気な声に耳を塞ぐ。
「むぅ。そんな意地悪しちゃうんだったら、悪戯しちゃうんだから、ね!」
 少女は自分の言った言葉を聞いてもらえなかったのだと思い少しご機嫌斜め。頬をぷくっと膨らませ、足を高々と上げる。
「ずっしーん!」
 少女の言う言葉と同時に足は勢い良く落とされ、少女の近くに建っていた家は一瞬にして崩壊し更地へと化した。
その光景を見た人々たちは少女から逃げるように一斉に散らばってしまった。
「えぇ!? どうして!? どうしてみんな逃げちゃうの!?」
 困惑する少女。お菓子欲しさに話を聞いてもらえず、手始めに悪戯として小人の家を踏みつぶしただけで、小人たちは
一斉に逃げ出してしまった。これではお菓子がもらえない。
「ちょ、ちょっと、話を聞いてよ~」
 逃げる小人を追いかける少女。しかし、小人も少女に捕まりたくない一心で必死で逃げるが、あっという間に距離を
縮められる。

 ずうぅぅぅん、ずぅぅぅぅん!

 巨大な少女の足音から逃げる小人たちであったが一部数人が足を取られ、その場で転んでしまった。
「あっ」
 転んでしまった小人が振り返り上を見上げた時には時既に遅し、漆黒の黒のパンプスの靴底が今々自分に襲いかかって
きたのだ。

 ぐちゃり

 少女には聞こえない、小さく弾けた小人の音。それを目撃してしまった小人たちはなお一層全力で少女から逃げようと
する。裏路地、小道と悲鳴をあげながら少女から逃げるのであった。
「もう、そんな所に逃げないでよね!」
 だが、皆とは違う変わった動きを少女は見逃さない。もしかすると、こっちの方が捕まえやすいのかと思ったからだ。
 しかし、小人達が逃げ込んだのは、家と家との間。小人でも1人入れるかどうかのような細道に少女が入りきれる訳が
ない。少女は、その場でしゃがみ姿勢を低くして、小人たちが逃げていった家と家との間に腕を突っ込む。
「捕まえた!」
 が、手に握り締めたのは、小人ではなく、ゴミ箱。
「う~~~」
 手にまとわりつく生ごみに不機嫌に低い声で唸る少女。よほど悔しかったのか少女はそのまま四つん這いの状態で小人
が逃げた細道に少女の巨体が突っ込む。無論、家という家は少女の体の一部と接触し半壊以上の被害だ。小人達は少女が
生ごみを握りしめた姿を見て、ここまでくれば少女は追いついてこれないという安心した矢先、家を破壊しながらこちらに
突っ込んできた。
「やっべ、逃げるぞ!」
 再び逃げ出す小人達。振り返れば、少女が次から次へと家を肩で、腕で、手で叩き潰してはゆらゆら左右に揺れる大きな
お尻になぎ倒されてゆく光景から必死で逃げた。
 しかし、やがて続いているであろうと思っていた道は行き止まりであった。まだ、少女は近づいてきてはいないものの、
目の前に立ちふさがる壁、隣の家に窓に飛び込んで逃げるか。あの少女の壊しっぷりを見ると結局、家と一緒に捻り潰さ
れるのではないかと、足が震える。やがて少女との距離が縮まる。猪のように突っ込んでくる巨大な少女は小人達の存在に
気付かず、そのまま小人達を磨り潰し、行き止まりになっていた壁に顔を思いっきり強打する。

 ドゴォン!

 という鈍い音。少女がおでこを抑えその場でペタリと座り込む。その時、運良く生き延びた小人達は少女の尻に敷かれて
赤いシミと化した。
「あいたたたた。どうしてこんな所に壁があるのよぉ。もぅ、小人さん達には逃げられちゃうし」
 ぺたりを座り込んでも小人の家よりもはるかに大きな少女。少女がもう少し成長していれば、おっぱいを小人の屋根に
乗せることもできるのではないだろうか? いや、その時には少女はもっと大きくなっているであろう。
「この調子じゃ全然お菓子が集まらないよぉ」
 はぁ、と一つため息を吐く。しかし、まだ日は暮れてはいない。日が暮れたとしてもそこから本番であって、まだまだ
時間はたっぷりある。焦る必要はない。
「仕方がない、作戦を変えてお菓子を集めなきゃ」
 少女は立ち上がり、パンパンっとゴミを払い、家を跨ぎ、大通りに出る。すると再び小人達の悲鳴がちらほら聞こえる。
「小人のみなさーん! お菓子をくれないと、小人さんのおうちに悪戯をしちゃいますよー!」
 両手を口元に寄せて逃げ惑う小人にも言っても聞く耳持たず。
「もう!」
 少女はややぷりっとしながら近くの家を踏み潰し、時計台を右手でフルスイング。一瞬にして時計台は崩れ落ちたので
あった。
「どうなってもしらないよーだ!」

 ズゥン! ズゥン! ズゥン!

 荒々しく足音を立てながら、少女は再び逃げ惑う小人達を追いかけ始めたのであった。

 巨人の少女と小人の楽しい楽しいハロウィンは続く。