今年もまたこの時季がやってきた。皆が面白おかしく仮装を楽しむハロウィンがこの鎮守府にもやってきた。
普段の艦娘達の働きぶりを労ってもらおうと提督が上に無理言ってお願いをし、今日は一日各艦娘は個性豊かな
仮装で一日を過ごすこととなった。と、言っても勤務はある者もあればない者もいるから若干不平等な所もある。
 そんな不平等をまじまじと直面している第六駆逐隊の面々、今日も仲良く4人で遠征任務を行っていた。
早く鎮守府に戻ってハロウィンを楽しみたい一行。一人前のレディは自分は大人だからそんなイベントには出ない
と言いつつも遠征先の人から貰ったかぼちゃのバスケットを大切そうにもっている姿が微笑ましい。残念な事に
全員分はなく、4人で1つ。長女であり、旗艦を命名された暁が責任持って大切そうに持っている。
「ここで一旦速度を落として燃料補給をするわよ」
 と暁が言うと、かぼちゃのバスケットから飴玉を皆に配る。各艦娘の色にあった飴の入った包み紙を配る。
暁は紫色、響は青色、雷は茶色、電は黄色と。それらを舐めようとした刹那、あろうことか敵艦隊が現れてしまった。
「もう、せっかくのハロウィンなのに仮装もできないで入渠なんて嫌なんだからね!」
 各自飴玉を戦闘中に喉に詰まらせないように口には運ばず戦闘態勢を取る。しかし、今回の任務は短距離という
こともあり、提督からたくさんのお菓子という報酬をもらう為にドラム缶ガン積みで来てしまい、迎撃する物が
まるで持ってきていない。旗艦暁はかぼちゃのバスケットを持っている分、他の者に物資の負担が増えている分、
用心して持ってきた連装砲の精度が危うい。敵勢力もとんでもないものである。蒼い瞳のヲ級が2隻に軽巡ツ級に
駆逐二級後継機が複数確認できる。どうしてこんな海域にガチで来ているのかという感じの編成である。
 どう考えても勝てるわけもなく、帰路ルートを大幅に変更し、迫り来る艦載機から必死に逃げているうちに
第六駆逐隊は陣形を大幅に見出し各自バラバラになった上に、止めに大嵐に直面したのであった。

 *
 
「うー・・・ん」
 散々逃げ回っているうちに疲れて倒れて気を失っていたが、どうやら運よく陸に打ち上げられたようだ。
ここはどこだろうか、皆は無事なんだろうか。当たりを見渡すと頼りないけど一生懸命頑張る暁と、世話好きの
雷、心配性の電の姿が見えない。もしかすると、私だけがはぐれてしまったのか、それとも―――。
 いや、そんなことはない。みんなきっと無事のハズ。縁起でもないことを考えてはいけない。まず、いまやら
ないといけないのは状況判断をしなければならない。幸いにも目の前には港町が見える。まずはそこで情報収集を
しようと身体を起こそうと四つん這いの姿を取る時に異変を感じた。目に見えた風景の景色がグルリと変わり、
建物が自分の目線よりも下に来てしまった。一体何が起きているのか、目の錯覚なのか? いや、違う。これは。
「小人の・・・島?」
 目に見える全てが自分より圧倒的に小さいのだ。目線を下げ自分が倒れていた所をみると、響の顔が堤防が
円形に削り取られており、その両サイドにたったいま置いた両手でアスファルトをグシャグシャに押し潰し、
大きなクレーターを作っていた。
「これは・・・どうしたものか」
 あ然としてその場でぺたりと女の子座りをする。こう、小さすぎては1つ1つの大事故を引き起こしてしまう。
知らぬうちに未開の海域まで流されてしまったのか。助けが来るまでこの場でじっとしているべきか。そう考えて
いると耳元でピュルルルルっと、ロケット花火の様な音が聞こえた。港町の子供が遊んでいるのだろうか。
バチっと頬に当たった感じがしたが、この体格差だ。我慢しよう。
 そう、思ったときだった。目の前をブンっと通り過ぎる戦闘機。「えっ?」と思いながらも戦闘機の後を追う
様に顔を向けると、またピュルルルルっとロケット花火が戦闘機から発射され、今度は額に当たった。
 別に痛いとかそういうものはないが、やるべき行為ではない。状況が状況なだけであちら側もパニックになって
いるのだろう。
「待ってくれ。別に戦うつもりはないんだ。話を聞いてくれ」
 両手でなだめるような仕草を聞く耳持たずなのか、それとも攻撃をしかけてくると驚いたのか、戦闘機は再び
ロケット花火を打ち込んできた。今までにないぐらいの大量のロケット花火を射出してきたのだ。ロケット花火は
体のありとあらゆる部分に全弾直撃。
「そっちがその気ならこっちにも考えがある」
 そういうと、響は被っていた帽子を脱ぎ、ブーメランの様に陣形を組んでいる戦闘機の群れに投げる。くるくると
回る帽子は戦闘機に直撃。帽子にあたり、運良く当たらなかった戦闘機も帽子のツバに直撃した。残りの戦闘機も
反撃してきて動揺したのかすかさずロケット花火を飛ばすものの、今度はグッと握り潰し、足元の堤防を高々と
蹴り上げた。粉々に砕け散ったアスファルト、電柱、運悪くそこを通過していた車と土砂が舞い、あまりの広範囲に
逃げ切れなかった戦闘機が次々と何かに当っては地面に急降下していった。そして巻き込まれる罪のない住民の済む
住宅街にも降り注いだ。
「ハラショー」
 と小さく呟き、地面に落ちた帽子を拾い上げ、ホコリを払う。なんの警告もなしに先制攻撃してきたこの島の住人
達は少し懲らしめてあげる必要があるようだ。何の罪のないこの島の住人には申し訳ないが、中途半端に破壊して
しまった住宅街も修繕に差がでてしまうのは可哀想だから全て平地にしてあげよう。恨むなら君たちの政府を
恨んでおくれ。
 これは正当防衛なのだから。と、少し悪い顔をしている響であった。

 *

 ズガガガ、ズガガガ

 と次々と住宅街を薙ぎ払う響。ローファーを着ているおかげなのかも知れないけど、紙細工の様に壊れていく
住宅街。もちろん圧倒的体格差の前には当然なんだろうけど、ここまで歯ごたえもなく抵抗もなく、破壊されていく
住宅街。暁が夏に海で防波堤を作るものの波に流され崩れ去っていくあの光景を思い出し、ふふっと笑いが出てきて
しまう。これが『破壊』の味なんだろうと。普段微塵にも感じない感覚、もしかすると深海棲艦達はこの味に酔い
知れているんじゃないか。もし、私達艦娘達もそれを知ってしまったら―――。

 ぐぅ~~~

 はっと思わず鳴った腹の虫に顔を赤くする響。そういえば、遠征任務に出る前に食べてから何も食べていないことに
気づく。何かないかと体の至る所をまさがると、休憩の時に暁貰った青色の飴玉が出てきた。住宅街を破壊して
巻き起きる砂埃、黒煙を少しは吸っていて気分も悪い。普段思いもしない良からぬ考えが浮かぶし、一旦甘い物を
食べて気分を落ち着かせよう。
 青の包み紙を剥がし、青色の飴玉を口に運ぶ。ブルーベリーの味がした。コロンコロンと口の中で飴玉を転がし
ながらもまだ破壊されていない残さず破壊する。飴玉を食べきる頃には住宅街は廃墟と化した。これでターゲットは
なくなった。
「実にハラショーな結末だ」
 やるべきことはやった。おそらく奥に進みあの山を越えるとまた何かあるのだろうけど、そこまでする必要も
ないか。そうおもったときだった。
「・・・?」
 体に変化が。全身薄っすらと金色の光りに包まれる。
「これは?」
 自身の身に何かが起きている。あの飴の副作用なのか? そう、思っているとちらちらとみえる前髪の色が
変わった気がした。すかさず自身のもみあげの紙を掬い、髪の色を見ると青白い髪の色が真っ白く染まっていく。
同時に身に纏っていた服も変わっていく。全体的に真っ白に染まっていく。スカートとタイツはそのままだけど、
手に取った帽子の色が紺から真っ白に変わっていく。驚きの白さである。
 練度を上げて一定のライン達して改造すると容姿が変わると言うが、まさか小人の島の住宅街を破壊しただけで
経験値が加算されたのか。
 あれっきしの行為で? とも思ったが、小人側から見れば大量虐殺であるから、つまりそういうことなのだろうか。
それとも飴の力なのか?
 しかし、驚くのはそれだけじゃない。自身の身がどんどん真っ白に漂白されていくのに驚かされて、全く
気づかなかったが、さっきより一段と大きくなっている。奥に見える山、さっきまでの大きさでは山しか見え
なかったが、山の向こうにチラチラと見える高層ビルであろう建物にニヤリとする響。
 艦娘として生まれた響は都会というものを見たことがない。これも何かの縁だ。響は一度は目にした事のない
都会というも見ようと決心する。

 ズンズンズン 

 とさっきより重低音が響き渡っている様な気がしながらも一歩、また一歩と都会を目指し進んでいく。途中
ちらほらと見えると民家や学校もこのさいだから踏み潰して上げた。おそらく戦闘機も飛び回っていたのだろう。
途中体のどこかで花火が打ち上がる。ロケット花火なのか、ノロマな戦闘機なのか。肉眼で確認し辛いし気に
することもない。
 近づく都会に繋がる境界線の山、徐々に広がる都会の風景に目を輝かせ、そして、辿り着いた。
 大きく見えた山も近づいてみれば踝程度の高さしかなかった。気分が高まり巨大化したのか、破壊という経験値が
身体に影響を及ぼしたのかわからない。
「実にハラショーだ」
 響は満足げな顔をした。憧れの都会を見上げるのでなく、見下している。航空地図で見ているかのような景色に
思わず子供の様にはしゃぎたくなるものの、内心で抑える。ドタドタと外面に表わす暁のようにはしゃいでしまって
は大地震を起こして都会がぐちゃぐちゃになってしまうかもしれないからだ。

―ぐちゃぐちゃになる。

 脳裏に過るそんな言葉に新たな感情が芽吹きそうになる。今の私ならぐちゃぐちゃにできる。いや、ぐちゃぐちゃに
してもいい。これは正当防衛なのだから。
 お腹が空いているからなのか思考までもおかしくなっているのか。
「ふふ、都会って美味しいのかな」
 思わず口ずさむ。しかし、欲望の限界なのかそれともただの空腹を抑えきれないのか、気づけば響は山を飛び越え、
都会にダイブしていた。

 ズドォォォォン

 と轟音と共に横倒しにならなかった高層ビルに普段は小さな口を精一杯大きく開けてまとめて数棟口に頬張った。
どんな味がしたかは覚えていないが獣のごとく、口を動かした。逃げる車や小人を見つければ逃すまいと、下を
地面につけ、横倒しになったビルの残骸、まだ無傷だった小さな建物ごとまとめて口の中へと夢中で運んだのだった。

 しかし。

「響! 起きなさい!」
「!?」

 ハッと聞こえる暁の声。見られた? と思いながらも暁の言葉を思い出す。
「おきな・・・さい? あ」
 何かを気付かされたかの様な顔をした。そうか、これは―――。

 *

 意識を取り戻すと泣きわめく電の声、視界を開ければ心配そうに声をかける雷と顔をぐしゃぐしゃにしながら
自分の名前を呼ぶ暁の姿に、あれは『夢』だと思い知らされる。
「どうしたんだい?」
 と、何気なくかける言葉にみんなは喜び、どんだけ心配をかけさせたのか怒る一同。に不死鳥の名は伊達では
ないさとジョークを流す。どうやら、あの戦闘中、途中打ちどころが悪く気を失っていたらしい。そこで、私を
置いていく訳にもいかず遠征任務の物資を破棄して私を担いで皆で逃げたそうだ。

 任務は失敗に終わってしまったのだ。しかし、このハロウィンという大切な時期にボロボロにさせられた
第六駆逐隊に同情したのか艦娘全員で提督に抗議し、任務失敗ではなく、全員休暇を取らせるべきだったと
提督の謝罪会見で幕をとじたのであったが、響にとっては中々貴重な体験ができたハロウィンであり、もっと
『夢』という事を早く見抜ければ夢の中で、ハロウィンという事で小人達に散々なイタズラという名の楽しい
破壊活動ができてたのかなと思ったのであった。
 
おしまい。