妖怪の山のとある川の流れている場所によくいる河童の少女、
河城にとりは、ここ最近疲れているような顔をしている。

私は物を作ってはばらしてみたりとするのが好きなんだけど、
ここ最近特に調子が悪い。
なんというか、発明にせよすぐに不具合を起こしてしまう。
普段は起こさないという保証はないのだけど、
おかしくなるのがいつもより早い。
原因究明の為にばらしてみてもピンとくるものもないから、
元に戻そうとするとパーツが足りなくなっていたり。
スランプなのだろうか?
「はぁ・・・」
足首に流れる水が心地良い。
この水の様にこの暗い気持ちも流れて行ってくれだろうかと
「はぁ・・・」
ため息ばかりでがっくりと水辺に浮かぶ私を見ると、
私の後ろに誰かが立っていた。
「こんにちは、にとり」
振り返るとそこに居たのは鍵山雛だった。
「おっ雛~!どうした~?」
「最近、大変そうね」
「うっ・・・。いや、なんのことやら。私にはわからないかなー?」
「とぼけても無駄よ。にとり、貴方には今ちょっと厄が溜まっているわ」
「うそぉ!?」
「本当よ」
「うぅ・・・」
雛の能力である“厄をため込む程度の能力”の前には私の周り憑いている厄が見えるのだろう。
厄は普通は見えないものだが、雛の周りには無数の厄があり、他の人でもその厄を肉眼で確認
できるほどある。厄に関しては雛の前では隠しようが無いみたいだ。
「雛、私の厄度はどのぐらいあるものなの?」
「そうね・・・。大したことではないけど、悪いことは間違いなく起きるわ。そうなる前に、
 私の力でにとりの厄を取ってあげる」
「じゃ、じゃあ。お願いするよ雛」
雛にお願いすると優しい笑顔で頷いてくれた。
雛は右手を私に翳してかざした。すると、私の周りからどす黒い何かがブワッとでてきた。
「ひゅい!?」
突然の出来事に変な声を出してしまった。
しかし、そのどす黒い何かは雛の呼吸に合わせるかのように右手集まっていき、やがて全てを
吸いきったようだ。
「はい、おしまい。気分はどう?」
「あ、うん。なんかスッキリした気分」
「それはよかったわ」
にこっと微笑む雛。
実際スッキリしたかはどうかわからないけど、自然とそんな言葉がでてきた。
「雛は凄いな~。厄ってのは雛しか見えないのだからなー」
「そんなことないわよ」
「いやいや、もっと『アイツに厄ある!』てのが一発でわかればこうして雛にお願いできるのにね!
 まったく、そんなものがあったら・・・あ」
「どうしたの?」
「そうだよ雛!無いんだったら作っちゃえばいいんだよ!」
「そんなもの作れるの?」
「作るよ~!最近、発明のアイディア全く浮かんで来なかったんだよ!ありがとう雛!」
「どういたしまして」
「うん!試作品できたらさ、その時は厄の集まってるかどうかのテストお願いしてもいいかな?」
「えぇ、いいわよ」
「やったー!よーし、ラボに戻ってつくるぞ~!あっ!明日は流し雛の日か!じゃあ今から急いで
 作らないと流し雛の厄見えないかも。こうしちゃいられない!今日はありがとう雛、まったねー」
右手でバイバイしながドボォンと川の中に飛び込む私は急いで家に帰ったのであった。

 *

水しぶきを上げてにとりは川の中に入っていった。無邪気でわくわくしているにとりの姿は微笑ましい。
ここ最近は、失敗して落ち込んでいる時に近寄ると、明るく落ち込んでいる所なんて見せなかった。
その時からほんの少し厄は見えたけど、持ち前の明るさで厄なんてを飛ばせるかと思っていた。
けど、こんなに溜め込ませてしまってごめんなさい。にとり。
元気をだそうと前向きになればなるほど、どことなく暗くため息をついている姿を遠くからみていた私を
許してください。

明日は流し雛の日。今から厄が見えるものを開発するっていっていたけど無理はしないでね。にとり。

 *

ちゅんちゅんっと鳥の声が聞こえる。気づけば私はどうやら寝ていたようだ。
椅子に座り、机にうつ伏せになって寝ているのも久しぶりだ。
机の上には雛からヒントをもらった厄が見える機械、ヤクミエール1号がある。
ゴーグル式でちょっとごっつい。これで厄が見えるのであれば、軽量化に力を注ぐ予定。
成功するかは、わからないけどね。よし。今から雛を探しに行こう。
そう、思った時だった。

ズドォォォン

という、凄い音と共にガタガタと家が揺れた。どこかで爆発したのか?また守谷か?
とにかく私は急いで窓を開けて外をみた。
すると、山の向こうには頭には赤いリボン、フリルの多い赤いゴスロリの服に、
緑色の髪の色の少女がそこに立っていた。
「ひ、雛・・・なの?」
半信半疑から思わずそんな言葉が口からでてきた。しかし、おかしいところがあるのだ。
離れているのに、まるで雛が目の前にいるかのようにはっきりと見える。
妖怪の山を下りて魔法の森に向かっているのだろうか?
雛は飛んでいないのに、魔法の森に生えている木々にどっしりと足をつけ歩いているように見える。
魔法の森に生えている木はそんなに低いわけではないけど、ここから見る限り
雛の膝下ぐらいまでしかない。
「どうして・・・」
雛がおかしくなってしまった。一体どうしてこうなってしまったのだろうか?
私のせい、だろうか?私の厄を吸ってあぁなってしまったのだろろうか?
いや、そんなことより早く雛の元に行かないといけない。魔法の森を抜けた先には人間の里がある。
雛に限ってそんなことはあるハズがないとは思うけど、里にあの大きさの雛が入っていっては里は
壊滅状態になってしまう。自我があるのなら、話しあって戻るようにしないといけない。
自我がなければ、私は友達に手を挙げることになる。
一体どうしたらいいんだ。これは異変なんだろうか?
えぇい!考えるより先に行動にだすしかない。
私は急いで雛の元に飛んでいった。

 *

雛の元に近づくにつれて雛の体が段々大きくなっているのか、私が小さくなっているのかわからなく
なるかのような錯覚を感じがしたが、雛が私より遥かに大きい存在になっているのには変わりはない。
そのままゆっくり進む雛の横を通過し、顔の目の前に立ち両手を広げて仁王立ちをする。
「雛!一体どうしちゃったんだよ!」
息を切らしながら必死で雛に呼びかけるものの、動きは止まったが反応はない。
雛の様子がおかしいとはいえ、体が大きくなった以外どこか変わったところは見えない。
大きさ的に35mぐらいはあるかもしれない。
「雛、私だよ?河城にとりだよ。」
もしかすると、雛には何が起きているのか理解できずにただ単に彷徨っていただけなのかもしれないと思って、
私は自分の名前を言うものの雛に反応はない。目はどこか遠くを見ているかのようで私の存在に気づいていない
のかと思ったその時だった。雛の右手が急に私に迫ってきた。
捕まえられる。と、思ったけど雛が確認する為に私に触ろうとしてきたのかと思い、
されるがままに捕まろうと思った。
が、しかし。徐々に近づいてくる右手は私の体よりも遥かに大きく、
このまま握り潰されるのではないかと思い、怖くなって私は思わず避けてしまった。

ブウゥゥン

という空をきる音。無表情に右手を眺め、グーパーグーパーする雛。
「ひ、雛?どうしちゃったの・・・」
段々雛が怖くなってきて声が震えていた。
手を戻し、再び人間の里に向かい直進し始めた。
右足を振り上げ、足を落とす。

ベキベキベキ、ズゥシィィィン

木々が一瞬で雛の足の下敷きになり、また一歩前に進む。
潰される木もあればそのまま押し倒され踏みつぶされる木々。
踵を上げて更に前に進むとそこには雛の大きな足跡と潰された木々がクレーターとなって現れた。
雛に踏まれたら間違いなく危ない。だからといってこのまま放っておくわけにもいかない。
しかし、これは弾幕ごっことは違う。ルールではなく物理的に危ない。
怖い。でも、やらなければならない。
「雛ー!とまれー!!」
と叫びながら再び雛の元に近づく。
もしかすると、雛はあの時私の声が聞こえなかったから近くで見たかったんだと思う。
なら、耳元で大声だして気づかせてやると思い、雛の耳元目がけて猛スピードで近づこうとした時だった。
突然雛がこちらを振り向き、私を手の平でそのまま叩き落とそうとしたのだった。
いきなりの出来事に驚き避けることも出来ず、私はそのまま雛の手に直撃し、
魔法の森に叩き落とされたのだった。



どうしよう。
痛みより先にそんなことを考えていた。突き落とされたものの、
運よく木がクッションになって思ったよりかはマシに落ちれた。
これからどうしようか?
もう、私一人では雛を助ける事は出来ない。誰かに手伝ってもらうしかない。
この辺りで頼めそうな人。なるべく近くにいる人が望ましい。
一旦妖怪の山に戻って椛に相談しようか?しかし、そんなことしている時間はない。
なら、守谷の巫女に相談しようか・・・。いや、あの子は色々と危ないからやめておこう。
巫女・・・。博麗の巫女に知られる前になんとかしないと、雛は異変の対象とされて退治されてしまう。
どうしたらいいんだ。
私にはどうすることもできないのか。
なにもできないまま、博麗の巫女に雛は退治されてしまうのを待つしかできないのだろうか。
悔しい。自分の無力さが悔しい。
「こんな所で何をしているのだぜ?」
「・・・ッ!」
うつ伏せの状態から聞き覚えのあるこの声は私は知っている。
顔を上げると、黒と白の服装にとんがり帽子。片手には箒を持って私を見下している。
「魔理沙!」
彼女は霧雨魔理沙。通称、普通の魔法使い。以前、地底で起きた異変の時に一緒に強力した仲でもある。
「デッカイ音が聞こえたから何だろうと思ったら珍しいのを見つけてしまったぜ」
「どうして魔理沙がここに!?」
「アリスの家に遊びに行ったら忙しいみたいだったからそのままキノコ狩りをしていたのぜ」
「キノコ狩りって・・・。魔理沙らしいね」
「そんなことより、今日はやけに地震が多くないか?あと、鳥も随分と騒がしいしいぜ?」
「魔理沙は今何が起きているのかわからないの?」
「・・・?なんのことだぜ?」
「あれをみて」
私は木と木の間から見える巨大な雛の姿目がけて指を指す。
その指の後を追うように魔理沙も振り向くと初めて異変に気づいたようだ。
「な、なんなんだぜアレは!?本当に雛なのか!?」
「本当に今まで気づかなかったの?」
「キノコ狩りに夢中でそれどころではなかったのだぜ。それに、キノコは空にははえないのだぜ」
どれだけ夢中でキノコ狩りをしていたのだろうかと思わず言いたくなった。
もしかすると、キノコ狩りに夢中で雛に踏みつぶされていたのかもしれない。
「魔理沙!盟友としてお願いがある」
「な、なんなんだぜ?」
「一緒に雛を助けてもらいたい」
私はその場で土下座するように頭を地面につけた。
「雛を助けてやりたいんだ。雛がああなってしまったのは私のせいでもあるんだ・・・。勝手なお願い
 だけど、私だけではどうすることもできないんだ・・・。だから魔理沙。力を貸してください!!」
「・・・・」
無言。聞こえてくるのは遠くから聞こえてくる地響きぐらい静かになった。
「にとり、顔をあげてほしいぜ」
私は魔理沙の言葉に従い、顔をあげた。
「困った時はお互い様だぜ。友達だろ?」
「魔理沙・・・!」
魔理沙はニッと笑い私に手を差し伸ばした。私はその手を掴み、立ち上がった。
「ありがとう・・・」
「いいってことだぜ。そんじゃ、一気に行くぜ」
「えっ?ちょっ・・・!」
私は魔理沙の箒に強引に乗せられると「しっかり掴まってるんだぜ」と一言いうと、
ボン!という爆発音と共に猛スピードで雛の元に向かっていったのであった。



猛スピードで木々をかき分けるかのように突き進むとあっという間に雛の元に近づいた。
人間の里との距離もあと僅か。時間がない。何としてでも雛を正気に戻さなければいけない。
死角からぐるりと回りこみ、雛の前に再び立つ私。
思わず雛の大きさから恐怖心が生まれ逃げ出したくなる。
しかし、今回は一人ではない。
「改めて見るとでっかいぜ・・・。一体どうするのぜ?」
「話会って、説得するしかない」
「はぁ?」

ズシーン

私と魔理沙のやり取りを無視するかのように雛は人間の里目指して直進し、目の前にいる私達を虫を払う
かのように手で払おうとした。
「おぅっと。危ないぜ」
が、魔理沙は間一髪で避ける。もう、人間の里に雛は入ってしまう。
「にとり!どうするんだぜ!?このままじゃ、里が危ないぜ!?」
雛の横を付いて行くかのよう後を追う私達。
考えろ私。もしかすると、雛はなんらかの目的が会って人間の里に向かっているのかも知れない。
雛の能力“厄をため込む程度の能力”に何か関係があるのかも?
厄をため込む能力・・・もしかしたら―――。
「にとり!」
「待って魔理沙!もしかすると雛の能力に関係があるのかもしれない!」
「能力?」
「雛の能力である“厄をため込む程度の能力”で、人間の里の厄を一気に集めようとしてるんじゃないかな?」
「その為に一々雛は巨大化したのかだぜ?」
「ほら、吸引力アップ的なヤツがあるのかも知らない。と、ともかくぎりぎりまで様子を見よう」
「んぅぅ・・・わかったぜ」
どこか納得のいかない感じだったけど、魔理沙もわかってくれたみたいだ。
何故、巨大化したのかはわからないけど、今の雛なら里の人間の厄を一気に集めることも出来るかも知れない。
だって、今日は流し雛の日だ。少しでも多く厄を集めようとしているのかもしれない。
そう願っていた。
雛は人里の入り口に立つと歩く事をやめた。早速厄を集めようとするのだろうかと見守っていると、
雛に動きが現れた。足を上げるなり、民間の家をいきなり踏みつぶしたのであった。

ズシーン ズシーン

一歩。また一歩と里の中に入っては家を踏みつぶしていく雛。
当然、雛の足元の人間達は悲鳴を上げながら右へ左へと逃げまわり踏み潰されまいと必死に逃げる。
ある程度進むと今度は膝をちょっとかがめて家に手を当て屋根を剥ぎ取ったり、小さな小屋は握り潰したりと
やりたい放題だ。
どうして・・・。私の知っている雛はこんな事は絶対したりはしない。
なのに、なぜ・・・。
「にとり、流石に限界だぜ」
「魔理沙・・・って、何をする気!?」
魔理沙は八卦炉を雛に向け、魔力を集中している。
「魔理沙、ダメだって!雛は友達なんだ!」
「その友達に私と同じ人間が危ないんだ!このまま見殺しになんてできなぜ!」
確かにそうだ。
私は、何も出来ず自分の力ではなにも出来ず人に任せっきりだ。
何もできなくて。ごめん、雛。

バアァァァァァァァァ!!!

やがて、魔理沙の八卦炉は魔理沙のスペルカード、恋符「マスタースパーク」が雛の胸元目がけて射出された。
マスタースパークは雛の胸元に直撃。普通ならば光の粒子に飲み込まれるぐらい分厚いレーザーが飛び出すの
だけど、雛は飲まれることなかった。それだけ、雛の体は大きかったのだ。
マスタースパークのレーザーを出しきると、そこには雛は立っていた。
弾幕はパワーだぜと言う、魔理沙のマスタースパークでも雛の胸元を破く程度の攻撃にしかならないのだ。
そして、破けた服から現れた雛の谷間。
「うそ・・・だぜ・・・?」
思わず魔理沙の口から漏れた。凄く同様しているようだが、私も魔理沙のマスタースパークを耐え切った
所を見たのは初めてだった。
あ然としていると雛の手が襲いかかっていることに気づかず、私達はそのままガッチリ捕まり辺り真っ暗に
なってしまった。



「うわぁああああああ~~~~あぁ?」
目をパチと開けると目の前にはヤクミエール1号があり、溺れている時みたいに両手をバタバタさせてしまった
ものだから机の上に載っていた工具もガチャガチャと床に落ちてしまった。
「・・・あれ?」
周りをみると、どうやらここは自分の家のようだ。
「大丈夫?」
「うぉい!雛ぁー!!って、うわぁあああ」
突然横から声が聞こえたと思って振り向くと雛が立っているものだからびっくりして思わず机から倒れてしまった。
でも、安心した。ここにいる雛は、大きくはなくいつもの雛だ。
「にとり!」
「えへへ。びっくりして倒れちゃったよ。よいっしょっと」
「ごめんなさい。にとりの姿が見えないから家の方まで来たら随分とうなされていたから・・・」
「あれ?あ。もう午後じゃないか」
「そうよ。流し雛楽しみにしていたみたいだから迎えに来たのよ」
「ごめんごめん。あ、それより雛、これ・・・できたよ!ヤクミエール1号!」
「本当に作っちゃったの?」
「そうそう、これを・・・こうつけて、見ると厄が見えるんだ。おぉ!雛からすげー厄が見える」
「私の場合は厄が強すぎて肉眼でも見えるのよ」
「ありゃ?」
どうやら成功したというにはほど遠い品になったようだ。
「それより、雛」
「どうしたの?」
「厄ってため込みすぎると暴走して巨大化したりするの?」
「・・・はぁ。するわけないでしょ」
「さっきまで大きくなっていたりとかしていなかったの?」
「どうして大きくならないといけないのよ」
「だって・・・」
「まだ寝ぼけているみたいね」
「うぅ・・・」
「怖い夢でもみたの?」
「・・・わりと」
「そぅ」
そういうと雛は優しく私の頭を撫でてくれた。
「もう、怖くないわよ」
と雛は私に優しく言ってくれた。
「ありがとう・・・」
「後でその夢の話聞かせてね」
「あ・・・うん。あ、それより、流し雛!早く流し雛しよう。
 まだ、ヤクミエールが失敗作と決まったわけじゃないし」
「はいはい。じゃあ、向かいましょうか」



こうして、私達は流し雛を終えると、怖い夢を見た話をしようとした時には、
どんな夢をみたのか上手く思い出せなず何を喋っているのかわからない私がいた。
でも、あんな夢は二度と見たくないという記憶だけはハッキリと覚えている。


Fin