何かに浮かんでいるような感覚。
 私はいったい何をしていていたのだろう。ぼんやりとする意識の中で考える。

 私は、誰だ?

 ぼんやりとしている思考の中で考える。体は動く。ちゃぽんという音を立て、液体から右手を上げ掲げる。
この暗闇の中、誰かに見つけてもらえる様に。

 ・・・誰かに見つけてもらえる様に?
 あぁ、そうか。私は沈んだったんだ。白露型3番艦、村雨は突然発生した霧の中で仲間と逸れた上に、敵の
不意打ちに会った。最初はなんとか切り抜けたものの被弾の損傷が酷く鎮守府への帰投を試みるも途中で
力尽きたんだっけ。
 そっか、私って死んじゃったのか。となると、ここはいったいどこなのだろう。そのうちどこかへ流れつくのか、
それとも終わりなくどこかへ流れついてしまうのか。
 暗闇の空、うっすらと明るくなる。方角はわからない。私は明かりのする方角に顔を向ける。水面からうっすらと
上る太陽のようなものが見える。まるで、朝焼けのようだ。
 ・・・本当に私は死んでるの?

 * 

 しばらく浮いて時間を過ごす。普通に何事もないような日常、それどこからともなく聞こえる海鳥の鳴き声、
三途の川とは程遠い。体は動く。私は試しに体を起こしてみるとお尻は水底についた。ものすごく浅瀬に浮いていた
のである。幼稚園児が入るかのようなプール、水深はおへそと胸の間ぐらいであるし、服装も何故か水着に変わって
いてどうも釈然としない。
 体を起こしてみてわかったことはほんのり私の体は発光しているということ。なぞの光に守られている様で
どこか暖かいような温もり。だから海で沈んだ私は冷たいという感覚がなかったのだろうか。
 海に沈んだっという言葉から私は自分の手を舐めてみた。塩辛い。海水に似ている。海で沈んだからなのか、
それとも私は本当に沈んだのだろうか。なんとも不思議、不可解な現象に苦笑いを浮かべる。するとぷかぷかと
お風呂で浮かべて遊ぶ船がぷかぷかと浮いてこちらに近づいてくる。
「もぉ・・・いったいんなんなのよ」
 近づいてくる船を掬い取る。手のひらにすっぽりと収まる小さな小さな船。ガチャポンからでてくる小さな模型の
ように見えるが些か作りが巧妙である。更に観察していると操縦席の方に目をやると操縦士が見える。中の人も再現
するとはたいしたものだと感心する。
 が、よくと観察してみるとどこか見覚えのある服装、私のよく知る上司、提督そっくりなのである。ハッと驚くと
中にいたのはその提督そのものだったのである。

 *

「提督ったらぁ~~~!」
「だからごめんて!」
 ぷん! っと、謝る提督を逆目にほほを膨らませる。提督が私に起きている身を説明すると、私には『応急修理女神』
をこっそりと内臓していたようで、明石との試作品として従来の応急修理要員の上位互換である応急修理女神の量産が
目的だったそう。しかし、応急女神は傷の全回復はおろか燃料、弾薬までも回復してくれる優れものだが、そこまで
ハイスペックなものの量産は難しい、ならば応急修理要員と応急修理女神の間である、ひとまず身体治癒に特化した
女神の開発を極秘で行われ、一部艦娘にこっそり定期メンテナンスに組み込んでいた。性能は理論上可能ではあったが
実際に試す事はなかった。
 当たり前な話ではあるが、仲間をみずみず沈めるような指揮は他の艦娘にも影響を受ける。そして、知られてしまっては
“もしかしたら、私にもそれが内臓されているから沈んでも大丈夫”などという慢心のもと作戦に支障を及ぼす可能性が
極めて高かった。
 作ったはいいものの実用されることもなく、いつしかその計画は忘れ去られ、不運にも私はその実験体第1号として
その女神の効果を堪能してしまったのだ。
 ・・・確かに傷なんて負ったのであろうか? と疑うレベルの回復力だがそのコントロールの匙加減がわからず、
私は本来の姿を上回る回復力で限界を超え、身体が巨大化してしまったという。
 でも、極秘裏にその女神を入れられたのは許せない反面、それだけ提督は私の事を大切にしてくれたという事になるのは
嬉しかった。嬉しかったが・・・。
「何も本来の姿より1000倍も大きくすることないじゃない!」
「だからごめんって! サンプルも取れないんだから本来より回復量は多めに指示したんだよぉ・・・」
「まぁ、そんな事はいいわ。そのうち治るんでしょ?」
「・・・」
「どうして黙るのよ」
「わからない」
「はぁ~~~~? ナニソレ」
「ほ、ほらぁアレだよ。『村雨、パワーア~ップ!』って」
「・・・パワーアップしすぎなんですけど?」
 っということで、私は生きている。強靭的な肉体を手にし、手のひらに乗る船に申し訳なさそうに謝り続ける提督を
見ていると、ちょっとイタズラしたくなる。
「あ、あのぉ・・・村雨さん?」
「なぁに、提督?」
「さっきから船がミシミシ聞こえるのですが」
「村雨には小さすぎて聞こえないわよ?」
「や、やめてくれよぉ」
 青ざめる提督をみて反省してくれていることを確認する。
「大丈夫よ提督、仮にその船が壊れたとしてもパワーアップした村雨がいるもの、そんじゃそこらの大陸に匹敵する
 大陸サイズよ? 仮にその船から通信が途絶えたとしても大淀さんが場所を突き止めてくれるよ」
「う、うわぁ!」
 ベキベキベキっと、最後は粉々になる音は聞こえた。崩れ落ちる船から転げ落ちるかのように村雨の手のひらに落ちる
提督。
「提督、大丈夫?」
 一応心配する。ちょっとした高さにみえるけど、提督からみると結構な高さがあるのかもしれない。それと同時に
少し力を入れただけで簡単に船は握り潰せる。圧倒的な力。まるで神にでもなったかのような気分。
 提督は落下で気絶してしまったみたい。いざとなったら自力で陸を目指そう。それまでは大淀さんに見つかるまで
この体で提督を堪能しよう。
 ふふっ、村雨とたくさんいいことしましょ、て・い・と・くさん♪