物語は突然始まる。冴えない私にもこんなことがあるんだなと思った。高校生にもなって酷い人見知りの為
人と話す機会がなかった。仮にあったとしても会話が続かないものだった。そんな私に同じクラスの男の子か
らこんなことを言われるとは思わなかった。
「オタク・・・の俺でよかったら友達になってやるよ」
 私に初めて友達ができた瞬間であった。

  
 あの日、私は彼が大きく見えた。私は突然の事に赤面で無言で頷いた。俯きながら彼を見ると彼も恥ずかし
そうな顔をしていた。それからだろうか?私は無意識に彼に近づきたくて無意識に背伸びをするようになった。
彼に見失わないで欲しかったからかもしれない。

 彼に見てもらいたい。と思っていただけだった。いつしか私の体は人より大きくなっていた。私の地元には
高さ100mぐらいのビルがあった。けど、そのビルが私より大きかったのはほんの僅かだけ。ビルより八分から
同じ高さになって屋上が見えるようになったと思ったら胸の高さぐらいになっていた。
 大きくなっても私は女子高生。ちゃんと学校にいって授業を受けているよ。ちょっと遠く感じた通学路は近
くなった。近道ができるようになったからだ。今の私の足首までぐらいの高さの住宅地、膝に届くか際どいマ
ンションやアパートは身長140mある私には楽々跨ぐことができて遠回りをすることはなくなったのだ。でも、
そのかわり足元は大変な事が起きているみたいだね。踏まないように意識はしているけど、たまに大きなロー
ファーの下敷きになる家や車があるみたい。
 通学はこんな感じ。学校はもちろん中に入って授業は受けれないから私はグラウンドで。でも、そのグラウ
ンドもぎりぎり私収めるのは難しそうだ。女の子座りをすると私の両足は学校のフェンスを容赦なく外に追い
出し両手は住宅街に行って、胸のはるか下に校舎があって、授業が始まるときはお尻を後ろにずり動かし窓か
ら授業を受ける。窓際に彼がいて退屈なんだろうね、彼眠ってるよ。グラウンドにいる私の方を見て。授業が
終わる頃に彼は目が覚め、私と目を合わせるなり恥ずかしそうに目を逸らした。そんな事ばかりしているから
授業は私にとっては彼を暖かく見守る大切な時間になっていた。


 他の人から私はどのように映っているのかな?大きすぎるよね。高校生ぐらいで伸びるのはこれが最後だと
思うからみんな我慢してね。
 最後の成長期。なら、もっともっと大きくなりたい。彼が小さな私をどこにいても見つけられるぐらい。


 学校行事で彼は登山を体験するらしい。近くの山、私は皆と一緒にバスに乗ってその山まで乗っていけない
けど後ろからゆっくり、ゆ〜〜〜っくりついていくよ。皆バスの中で楽しんでいるのかな。そう考えるとちょ
っと悔しい。悔しからって踏み潰すわけにはいかない。彼が乗っているバスなんだから。でも、一回だけバス
の後ろに足をドシンと置いたら、バスは漫画の世界のように宙に浮いたのだった。
 そして、登山する山に来て私はちょっとがっかりきた。なぜなら私より遥かに小さかったのだ。今の私に対
して山は私のお尻ぐらいの高さ。最初の頃と比べると1000倍ぐらい大きくなったと思う。ここにくるまで幾つ
もの住宅街が私のローファーの下敷きになっただろうか?後ろを振り返ればハッキリわかる私の足跡。帰りは
一人でも帰れそうだっと言ってもいられないのでしゃがんで彼を見守る。山といったら虫刺され、彼は大丈夫
だろうか?ちゃんと準備をしてきただろうか。彼を刺すなら私を刺してね。私の方が吸う面積は大きいよ?別
に蚊に刺されたぐらいじゃ腫れないからね。最近、膝下がチカチカしてるけど何ともないからね。だから、彼
を虐めないでね。
 数時間後、彼は山の頂上についたらしい。あたりを見渡すなり彼は私にオーバー過ぎるぐらい大きくてを降
った。よく見ると、周りには誰もいない。おそらく彼が一番のりという達成感があるのだね。私も、彼に手を
降った。彼が一番乗りで他には誰もいない。私はそう思うと立ち上がり、彼を潰さないように隣に座るように
山に座り込んだ。数多とある木々が私のお尻の下敷きになると同時に地すべりが起きたのだろう。土と一緒に
木々も流されてゆく。彼が一番乗りで私が二番乗り。お尻の割れ目から半分は下りというのは残念だけど、彼
が隣にいてくれる。それだけで私は幸せだ。他のものはどうでもいいように感じる。


 日に日に小さくなる世界。女の子座りをしていても雲は私の目の前。飛行機も目の前を通過するぐらい大き
くなっちゃったのだ。私が立ち上がると膝下をぶんぶん飛び回っていては私の無意識のうちに落とされてしま
う。彼以外どうでもいいけど、私が動いたら彼を踏んでしまうかもしれない。それから私は立っていない。彼
に見てもらいたい、山よりも遥かに大きい私を。出来ればたまには会いに来てもらいたいな〜と思いながらま
た通りかかった飛行機に目を向ける。
 するとどうだろう?窓際に定評のある彼が乗っているじゃないか!私はとんだサプライズに驚き思わず立ち
上がってしまった。彼が会いに来てくれた!ただそれだけだった。でも、飛行機は雲に隠れてしまった。私は
四つん這いになって彼の乗っている飛行機を探した。ズシンズシンと突き進み、右手は住宅地をたたき潰し、
左手はビルが立ち並ぶ商業地帯を地中に埋めて、地面を抉りながら膝は山を崩し落とした。

 結局、彼を見つけることはできなかった。私はちょっと残念に思いながらも立ち上がり、膝についたゴミを
払った。その時だった。私は下の世界をみて気づいたものがあった。それは、一方的な破壊活動。それも無意識。
別にどうでもいいと思っていた世界だったが、この傷を追わせたのは私自身。私が飛行機を探しているとき、
下の世界はどうみえただろう。もしかすると、飛行機を探している時に、彼がのっていた飛行機を肩にぶつけ
て堕としたかもしれない。
 今や、食物連鎖の頂点であろう位置にいる私はこの世界にいては行けない。私の個人的な理由で傷をおわすこ
とは出来ない。私だって人間だ。私にとってちっぽけなものでも彼はそこで暮らしている。そして、疲れた私
に会いに来たであろう私に彼は会いに来てくれたんだと思う。

 もう、ここには居られないね。
 あと一発だけ耐えてね。
 ごめんね。

 膝を曲げているときにもわかる。今も大きくなっている私。足を踏ん張り、ドンっと一発強く、強く地面を
蹴り、私は故郷である地球から宇宙へと移り住んだのだった。案外、制服で宇宙に住むということは不可能で
はないことに私は知った。この時点で私は人間じゃなくなっていたのかな・・・。


 それからというもの、最初は大きかった故郷も同じぐらいの大きさになったと思ったらどんどん、どんどん
小さくなっていった。両手で故郷を包み込めるぐらいになったときに、宇宙に住む人々が地球に隕石を落とそ
うとしていたけど、そうはさせないもんね。私が故郷を護る。それが罪滅ぼしになるかもわからないけど、私
は隕石をデコピンで何処か遠くへ飛ばしてやった。隕石も、私にとっては豆みたいなものだった。

 そういこうこともありながらも、やがて故郷は小さく親指と人差し指で潰せるぐらい小さく小さくなった。
大好きな彼にも会えなくなって寂しい。でも、私はがんばってるよ。彼の住む地球を今日もがんばって護り抜
くからね。だからね、安心してね。
 さてと、今日も勤務は終了だと思うと眠くなってきた。ちょっと寝よう。もし、私が寝ている間に大好きな
彼の住む地球を侵略したりする宇宙人がいたら死より恐ろしいことをさせてあげるからね。忘れないでね?



 肩をつつかれれう感触。私をつつけるものがいるのかと思い、目を開けると、そこは教室だった。つつかれ
た方角を見ると「帰ろうぜ」と彼は私に行ってくれた。夢、だったのだ。すべて。でも、少し安心した。

 帰り道、彼は辞めた部活について話してくれた。彼はパッと見るとオタクのようには見えないスポーツマン
だが、先輩に彼はオタクっぽいところイジられ、部活を辞めたのだと。実力は彼の方があるが気に入らないこ
とは嫌いらしい。そんな中に私がいたらしい。
「それで、私?」
「うん・・・自覚はある。オタクっぽいところはな。でも、俺はお前のこと好きだぜ?」
「・・・ばか」
 私は背伸びをして、彼の大きな背中をポコポコ叩くのであった。叩いている内に左手をパシッと止められた。
「ほら、前の手相に不思議ちゃん線がある。これが長くなるとナイチンゲールになるんだ。簡単にいうと癒し
 系だ。俺がつらいときにお前に一目惚れできてよかったと思う」

 悪意はないのだろう。

 彼がオタクっとイジられるのがなんとなくわかった気がする。だからといって、私は彼を嫌いになったりは
できない。こんなダメな私でも彼の助けになるのであれば、してあげたいと思う。彼の隣に立ち、力がなくて
も護ってあげたい。

 これからも、ずっと。ずっと、ずーーーっと。