とある城下町。

「やめてくれ!!」
「ダメです。納期は絶対です」
 城下町のあるお店の外で中年太りの商人とゴスロリを着ている金髪の少女が道端で騒いでいる。その騒ぎに周りの
人達も足を止めその光景を遠くで見守っている。中年太りの商人は必死でゴスロリの少女に頭を下げている。何度も
何度も頭を下げていると、中年太りの商人は跪き、ついには土下座をしている。その姿を見たゴスロリの少女は溜息を
ひとつ吐き、中年太りの商人を見下していると、商人は顔をあげ、少女と目が会うとすかさず叫びだした。 
「あと、3日!あと3日だけ待ってくれぇ!!そうすれば金は払えるんだ!!」
「納期は絶対です。払えないものには罰を与えるのがルールです」
「そんなぁ・・・」
「出来るのであれば、私もこんな事はしたくはありません」
「な、なら・・・」
「ですが、ダメです。コレを機に周りの者にもより深く納期は絶対であるという見せしめになるでしょう」
「やめて・・・くれよ」
 ゴスロリの処女は無言で首を横に振り、スカートを両手で持ち上げると黒のゴスロリブーツは地面から持ち上がった。
そして、狙いを定めるとその足は一気に商人の店へと振り落とされた。
「やめろー!!!」

 ズゴォォォン!

 まるで、大砲の弾でも直撃したのではないかという轟音と振動が辺りに響き渡ったった。周りにいた人達も舞い上がる
砂煙に顔を隠し、体制を低くして見守っている。中年太りの商人の店にはゴスロリ少女の巨大なゴスロリブーツが
突き刺さっている。
「な、なんてことだ・・・俺の店が」
 中年太りの商人の叫び声は虚しくも店は木っ端微塵になっていた。
 しかし、ゴスロリの少女は再び足を持ち上げたのだ。一体何をするのか?前に出た足を道端に戻すのか?
いや、それにしては足の落下地点はかつて商人の店があったところから微動だにしない。
「まだ壊れていない所がありますね」
「!?」

 ズガァン! ズガッ! ズガァン!!

 再びさっきの衝撃に匹敵する破壊音が三度続き、中年太りの商人の店は跡形もなく踏み潰されてしまった。
「・・・・」
 中年太りの商人は開いた口が塞がらず、目からは大粒の涙が流れていた。かつてそこにあった自分の店が一瞬で
瓦礫の山に姿を変えたのであった。
「それでは、私はこれにて失礼します」
 ゴスロリの少女は中年太りの商人に一礼し、指定された金額よりは少ないものの商人が用意した金銭を持ち、
その場をさろうとした時であった。
「・・・待てよ」
「・・・なんでしょう?」
 中年太りの商人の声にゴスロリの少女は振り向き、再び商人を見下す。
「おれは、これからどうすればいいんだよ!」
「・・・・」
「家も職場もたった今、あんたにぶち壊された」
「・・・・」
「来るべき金が、手違いで来なくなった。だから、納期に遅れたら利息をつけてちゃんと支払うつもりだったのに・・・
 何もここまでするこったぁねぇだろがよぉ!」」
「納期は絶対です」
「納期は絶対。あぁ、そうだよ。だがな、金は来るんだよ。ほんのちょっと足りなかっただけで・・・」
「そうですか。要件はそれだけですか?」
「・・・っ!!」
 目を細め、ゴスロリの少女が中年太りの商人を睨みつけると、怖気づいたのか、その場で黙りこんでしまった。
「私も、お仕事中です。情けを聞いている暇はございません」
 そう、ゴスロリの少女が中年太りの商人に言うとくるっと一回転してズシン、ズシン、ズシンと数歩歩いた所で足を止めた。
「次は、ここですね」
 ゴスロリの処女は小さな紙切れを目を細め確認を取ると、その場で跪き、店の前の扉を人差し指でドシィン、ドシィンと
軽くノックをした。
「すみませーん。納期の徴収にきたロロリです。扉をあけてください」
 しーんっと返事が返ってこない。
「すみませーん。開けてくださいーい」
 しーんっと、やはり返事は返ってこない。
「留守? なのでしょうか?」
 さっきのやり取りを見て怯えて逃げてしまったのか? あるいは居留守をしているのか? なら、確認してみればいいだけ
の話である。ロロリは、ドシィン! ドシィン! と、さっきより強めに扉をつきはじめると、扉もやがては衝撃に
耐えられず歪み始めた所で、ロロリはお構いなしに扉に手を強引に突き刺し、店内に巨大な手を差し入れた。
 ガチャガチャ、パリーンっと店内をお構いなしにかき混ぜるロロリだったが、人間らしき者を捕まえたらしく不敵な笑み
を浮かべ、腕を引き、店内から手を指し抜くと、そこにはその店の主と思われる老人が握られていた。
「イデデデデデ、折れる!折れる~~~」
「初めまして、お爺さん。私、ロロリと申します」
「あぁ、ロロリちゃんね。今日はいいお天気ですね」
「そうですね。いい納期日和ですね」
「あ、あのぉ、その納期なんじゃが・・・」
「ないのですか?」
「申し訳ございませぬ・・・。商談が上手く行かず今は払えそうにない」
「そうですか、それは残念ですね」
 そういうと、ロロリはお爺さんを地面に下ろし、立ち上がった。
「あ、あのぉ・・・ロロリちゃん? 何をしようとしているのじゃ?」
「ルールはルールです。ちゃんと、罰を受けてもらいます」
「ま、待ってくれ!わしゃ、文字通り一文無しの状態じゃ!そんな中でそんなことされたら―――」

 ズシィン、ズン、ズドォン、ゲシ、ゲシゲシィ

 ロロリはお爺さんの話を最後まで聞くことなく、お構いなくお店を踏み潰し、瓦礫の山に姿を変えた。
「わ、わしの店が・・・」
「残念ですが、決まりは決まりです」
「ま、待ってくれよぉ。一文無しなんだよぉ、これからどうすりゃいいんだよ・・・」
「ん~、そうですね」
 ロロリは店内に手を突っ込んだ際に手袋に付いた、汚れをポンポンと叩きながら考える。
「あっ!あるじゃないですか」
 ピンと閃いたらしく両膝を地面につけ顔をお爺さんに近づいた。そして、お爺さんに人差し指を突き刺した。
「だったら、お爺さんのその土地を売ればいいだけの話じゃないですか! そうすれば、多少なりお金は入りますよね?」
「そ、それじゃ・・・わしはどこに住めと」
「さぁ? そこまでは私は、面倒は見れません。自分で何とかしてください」
「そ、そんなぁ・・・」
「それでは、私はこれにて失礼します」
 お爺さんに一礼してから、ロロリはズッシ、ズッシっと次の場所へ向かったが、数歩歩く所で突然ピタリと足を止めた。
「私としたことが・・・」
 ボソっとロロリが小声で呟くとくるっと一回転し、逆走しはじめたのだった。泣き崩れるお爺さんの横切り、中年太りの
商人の横を通り過ぎろうとした時、ロロリは一瞬立ち止まった。
「貴方はまだいい方ですよ。あそこのお爺さんよりは、ね?」
 商人がロロリを見上げると顎でお爺さんの方角を指し、再びズシン、ズシンと歩き始めた。中年太りの商人の前方には
店を失い、金もなく追い込まれた老人がいる。中年太りの商人には3日後には金が来る面、あのお爺さんよりは最悪の状態
ではないということだけだ。


「次は、ここですね。すみませーん、納期の徴収にきたロロリです。開けてくださーい」
 両膝を地面につけて、姿勢を低くして人差し指を扉に当てようとした瞬間だった。
「はいはいはーい、待ってましたよ~」
 ロロリが扉に触る前に痩せこけた商人が飛び出し、袋をロロリに渡す。ロロリは袋の中身を手のひらに開けると、金銭の
確認を始めた。
「はい。丁度ありますね」
「あぁ、よかったよかった。足りてないか不安でポケットの中小銭だらけだよ。はっはっはっは」
「そんな、ある人には罰を与えたりなんてしませんよ。ない人だけが、罰を受けるのですから」 
「あ、あぁ・・・ちゃんと払えるように精進するよ」
「はい。それでは、私はこれにて失礼したい所なのですが・・・」
「ま、まだ何かあるのかい?」
「すみません。私、手が大きすぎて、袋にお金を入れるのが困難なのです。申し訳ございませんが、袋に入れてもらえない
 でしょうか?」
「あ、あぁ、いいよ。そんなの、お安いご用だ」
「ありがとうございます。でも、ちゃんと見ていますからね」
「し、失礼なこと言わないでくれよぉ。チョンボなんかしないからさぁ!」
「ごめんなさい。過去に2回ぐらいされているので」
「に、2回・・・。で、そのチョンボした人はどうなったんだ?」
「もちろん、後日罰を与えに行きました。『袋に指定された額がない』って、ちゃんと説明してから与えました」
「あぁ・・・それは、お気の毒に。っと、ホイ袋にちゃんと入れたよ」
「はい。ありがとうございます。それでは、私はこれにて失礼しますね」
 ロロリは立ち上がり、痩せこけた商人に一礼をすると、次のところへ向かったのであった。


 そして、全ての箇所を回りきり、城に戻る頃には日は暮れていた。ロロリは、城門を跨ぎ超えると、バルコニーで待つ
王様の元へと向かった。
「王様、ただいま戻りました」
「うむ。ご苦労であった」
「こちらが、納期のお金です」
 片手に山積みになっている袋を1つづつバルコニーに乗せていくと、次々と城の兵士達が回収に向かう。
「いつも一人で大変だが、すまんな」
「いえ、巨人族の私を王様が面倒を見てくださっている以上、ロロリはなんだっていたします」
 現にこの服も王様が私に用意してくれたのだ。職人中の職人を集め、私の為に服を作ってくれた素敵な洋服。巨人の身
でありながらこんな可愛い服を着れるのは王様のお陰でもある。きっと、王様に拾われていなかったら私はどこかできっと
退治されていたのかもしれない。だから、私は王様の言うことには何が何でも従う。
「ふむ。何軒か納期に間に合わなかった者もいるみたいだな。だが、決まりを守れぬものには罰を与えねばな」
「はい。徹底的にしています」
「うむ。それで良い。王として職を失った民にもちゃんと救済をしてやらんといかんからな。まぁ、なんとでもなるか
 とりあえず、今日はご苦労であった」
「了解しました。それでは、おやすみなさいなさいませ王様」
 ロロリは王様に一礼すると、バルコニーを去り、大きな庭の隅に体育座りをして眠りにつき、明日の徴収に備えるのであった。