春、別れと出会いの季節だ。ある者は別れては、それぞれの道を歩み、新たな出会いがある。そんな
ことも去年あったなと思いつつ俺は二年生へと進学した。これといって何もない。部活動などをしていれば、
後輩とかが入部して新たな出会いがあるが、俺の所属する部活動は帰宅部だ。先輩、後輩などの上下関係に
囚われることのない自由な部活だ。
 一般的には部活は強制という高校が大半だが、俺の通う学校は、仄慕乃学園と言い。非常にまったりとした
時間を過ごせる高校だ。実に平和だった。が、ある日のことを境に平和だった学園生活がぶち壊されることに
なった。
 
 新学期早々にやってきた転校生によって。

 入学式も終わり、まもなくゴールデンウィークがやってくるそんな時期の事だ。いつもと変わらぬ時間に
チャイムが鳴り、担任の先生がクラスに入ってきた。先生は辺りを見渡すなり、朝のホームルームが始まる。
一通りの話を簡単に話をする。俺は窓際の後ろの席で何となく外をぼーっと見ながら話を聞いていた。
「―――と、言うわけだ。最後に転校生を紹介するぞ」
 転校生?
 思わずその言葉を疑った。
 どうしてこんな時期に転校生がやってくるのか。
 それともただ単に俺の聞き間違いだったのか。

 ズゥン、ズゥン…

 どこか遠くから重々しい音が聞こえたかと思うとぐらぐらと小さく揺れ、その強さは次第に強くなっていく。
「地震だ地震!」と、クラスで騒ぐ奴もいれば、大げさな一部女子は「キャーッ!」と、悲鳴を上げている。
先生はクラス全員にやけに落ち着いた口調で「はい、静まれ、静まれー」と注意をするが、音と揺れは次第に
強く、大きくなっていく。まるで、何かが近づいてきているのかと思った俺は外を見ると、そこには信じられない
者がいた。
 金髪のロングヘアーにオレンジ色の瞳で、仄慕乃学園のセーラー服を着ている巨大女子高生が今、校門を跨ぎ
越えようとしていたのであった。一体、どういうことなのか。状況がイマイチ理解できずに思わずその子を
ガン見していた。
 次第に「なんだアレは!?」とクラスメイトも彼女の存在に気づき、より一層ざわめきが強くなる。
「はーい、静かにしろー。今から大事な話するからなー」
 パンパンと手を叩きながら窓際に歩み寄る先生。周りも何かに察し始めたのか、まさか、まさかの雰囲気になる。
「あー、もうちょいバック。二、三歩バックしてー」
 先生は窓を開けて外にいる巨大女子高生にしっし、と手でデスチャ―を送ると、巨大女子高生はそのサインに
気づいたのか二、三歩バックをした。
「はーい、オッケーェイ。ウォッホン、えー、今日から二年B組に転校してきた、アンドロメダカさんだ。先月、
 自分の住む星に収まりきれなくなって、こっちに引っ越してきた宇宙人で、ちょっと体が大きいけど、みんな
 仲良くやってくれー。はーい、朝のホームルーム終了ー。一時限の準備をしろー、以上」

 以上って、先生ェ・・・。


 *


 それからというもの、物事はコレといって大問題も起きずにふつうにアンドロメダカさんはクラスに溶け込んで
いったと思う。アンドロメダカさんは基本無口なのかほとんど喋らず、休憩時間は窓際にクラスメイトが密集しては
「どこからきたの?」と、いった定番の質問をするものの我々地球人が宇宙のこのへんにいますっと言われてもピン
とはこないし、普通の高校生には理解できるわけがない。
 授業はグランドに座って、体を少し屈めて三階にあるクラスに窓から覗いて参加している。太陽の光も今では
アンドロメダカさんの巨体にシャットダウン。のどかな山の景色は、アンドロメダカさんの顔でいっぱいで、
オレンジ色の瞳がなんとも言えない威圧感があると俺は思う。何度か、チラッと窓際を覗く度にアンドロメダカ
さんの瞳に吸い込まれていくような感じになる。が、他のクラスメイトは何事もなく授業に受けている。むしろ、
前より授業に集中しているような気がする。
 俺が変に意識しすぎているのか、他が無頓着なのか。巨大宇宙人が突然転校してきたというのに、パニックにも
ならず、興味深々に食いついていく輩もいない。俺はこの状況が怖くて仕方がない。
 その気になれば、拳を振り下ろせば学校を破壊することなんて容易なハズだ。いや、みんなソレに気づいたから
変に刺激させては行けないと察した行為が現れているだけなのか。
 チラッと、窓を見る。ギョロっとしているように見えるオレンジ色の瞳に監視されている感じがやっぱり怖い。
変なことばっかり考えてしまって授業なんて集中できっこない。

 
 キーンコーンカーンコーン


 授業終了のチャイムが鳴る。もう、授業が終わったのか。周りの声はいつもの雑談が再び入り混じる。授業の話を
する者もいれば、授業中にゲームをして何か盛り上がっている。
 そして、気づけばもう昼休みだ。普段はクラス内で昼飯を済ませる所だが、今日はどこか違う所で食べたい。そう
思っていた時である。
「そこの人」
 アンドロメダカさんが声をかけたのだ。その声に一気に静まり返るクラス内。
「授業中、チラチラみているそこの人」
 背中から何かゾッとするものを感じた。
 あれ俺じゃね?
 いや、まだ俺と決まったわけじゃない。やっぱり、俺の他にもチラチラ見ているヤツはいたんだよ。そう思って
周りを見渡せば、結局誰?っといった空気。心当たりいる人いないの?
 俺は、振り向いてアンドロメダカさんを見る。そして、自分で人差し指を建ててみる。
「実はおれだったり・・・?」
「うん」
 マジかよ。できれば一番関わりたくなかったんだが・・・。
「ふたりっきりでお話がしたい」
「は!?」
 な、何を言っているんだこの子。今日初めて会ったのにも関わらず、いきなりふたりっきりでお話がしたいだと!?
仕舞いにはクラスメイトからは「なんだよ鮫島ー!」「一目惚れしてたのかー?」「手が早いぞー!」と、えっらい
煽られている。
 今すぐ教室の扉をぶち壊してでもここから逃げ出したい!
 でも、男子がディフェンス体制!
 万事休す!
「鮫島」
「は、はい!」
 クッソ。なんで、こんなんビクビクしていなきゃいけねぇんだよ。
 一旦、冷静になるんだ。
「屋上に来て」
「・・・屋上?」
 屋上、確かにふたりっきりで話をする場には申し訳ない場所だ。しかし、この仄慕乃学園は屋上へと行くことは
出来ないように鍵がかかっている。
「えっと、だな。アンドロメダカさん。この学校は、屋上へは行けないんだ。ま、また今度な」
「うるせー!鮫島ぶち壊してでもいいから屋上へ行きやがれー!」「なっさけないやつだな!」「このヘタレが!」
 先程より随分とアウエーになったものだ。所詮は他人ごとだからな。しかし、行けないものは行けない。嫌な上に
扉ぶち壊して屋上へ言った所で俺にはデメリットしかない。最悪、停学処分されるかもしれない。
「じゃあ、乗って」
「・・・へ?」
 アンドロメダカさんは窓際に手を差し伸ばし、もう片方の手でちょんちょんっと手の平を突いている。つまりそこに
いけと。やだよ。あんな巨大な手に乗った瞬間ギュッと握りつぶされるかもしれねぇじゃん! 俺、すっげぇこえぇよ!
 しかし、拒絶する素振りをみせるものの、俺の両腕はクラスメイトの男子に押さえられ強制的に窓へと放り出され、
手の平エレベーターで屋上へと向かったのであった。


 *


 開かずの扉の存在を無視して初めて屋上へとやってきた。率直な感想を言えば「へぇー、こうなってたのかー。汚い
なー」という感じだ。周りに3mぐらいあると思われるフェンスが配置されている。そして、そのフェンスの上に、
アンドロメダカさんの顔があり、俺を見下している。
 ただじっと黙ってこちらを見て数分が経過した。いい加減何か進展してくれないと昼休みが終わってしまう。 
「あ、アンドロメダカさん?」
「・・・・」
「僕に何用があって呼び出されたのでしょうか」
「自己紹介」
「へ?」
「自己紹介、まだしてない」
「あ、あぁ。俺は、鮫島・・・よろしく?」
「私は、アンドロメダカ。めだかって呼んで」
「・・・め、メダカ?」
「違う。めだか」
「・・・めだか」
「うん。めだか」
 発音の問題なのコレ!?
「実は鮫島にお願いがあるの」
「お、お願いですか」
 巨大宇宙人からいきなりお願いをされました。普通の男の子が一体どうやって彼女のお願いを聞いてやる事が
できるのか?
「うん。私、この星のことよくわからない」
「いや、俺だって全てを知っているわけではないよ」
「この星に住んでいるのに?」
「あ~、いや。その~なんだ。同じ星の下に生きていても、文化とか風習とかそういうのは知らないって事で」
「そうなんだ」
 なんか、やけに呆れられた今?
「そういうめだかさんは、前に住んでいた星の事は全て知っているの?」
「うん。全部歩いて行ってきた」
「行ってきたんだ・・・」
 そういえば、朝のホームルームで先生が『自分の住む星に収まりきれなくなって』っていってたなー。
「そして、たくさん壊しちゃった。」
『壊しちゃった』じゃねぇよ!
 何やってんだこの星のお偉いさんは!
 自分の星を壊しちゃった前科持ちの破壊神を何故、移住OKしてしまったのか?
「同じ悲劇は繰り返したくない」
「お、おう?」
「だから鮫島には私の面倒を見て貰いたいの」
「いや、でも俺じゃ役不足だ。違う人の方がいいよ」
「ありがとう。助かる」
「いや、俺はOKしてないからね?」
「よろしくお願いします」
「もしもーし、俺はOKしてないからねー!何勝手に話を進めているの!?」

 キーンコーンカーンコーン

「チャイム。授業が始まる」
 なんということだ。わけわからんうちに昼休みが終了してしまった。俺、飯食べてない!
「乗って」
「あ、はい」
 フェンスの上から伸びてくる巨大なめだかの手に俺は乗り、自分のクラスに戻ることにした。
「このフェンス、邪魔」
「壊しちゃダメだからね!?」
 なんか、色々不安が強くなってきた。この出来事、全部冗談だよね? 


 *


 キーンコーンカーンコーン

「―――っと、言うわけで『めだか係』は鮫島に決定します」

 パチパチパチパチパチ

 どうして、こうなったのか。
 アレからというものの、あっという間に時間がたち、本日最後のホームルームの時間で俺はめでたく『めだか係』に
任命された。
 めだか係というのは、めだかの世話を見るということだ。他所の星から来ためだかにとっては、この星の環境に合わ
せるのは非常に困難な為、人助けと思って面倒をみる係だ。
 もちろんの事、俺はこんな係を引き受けたくはなかった。が、しかし。お昼休みのめだかとの“ふたりっきりでお話”
が原因の一つだ。めだかは見ての通り、巨大である程度の距離だったらめだかの声は校内放送以上の音量で辺りに響き
渡る訳で、お昼に強引に進んだ“あの会話”。
『同じ悲劇は繰り返したくない』
『だから鮫島には私の面倒を見て貰いたいの』
『ありがとう。助かる』
『よろしくお願いします』
 このめだかの声だけで、めだかから衝撃的な告白をされ、鮫島は『だったら俺がお前を助けてやる!』という、ありも
しないデマカセを言った事になってたらしく、渋々引き受けることに。その代わり、行ってはいけない屋上へ行ってしま
った反省文は免除された。

 そして、気づけば夕方。誰もいない教室には放心状態の俺と、外からじっと、俺をみているめだかだけになっていた。
いったい、これからどうすればいいのか。どっからどこまでがお世話の範囲なのか?
「鮫島」
「んぅ・・・」
「帰らないの?」
「めだかは帰らないの?」
「・・・・」
 ん?
 今、思ったことが一つある。めだかってこんなにでっかいのにどこに住んでいるのかという疑問。
「帰る場所はあるけど、置く場所がないの」
「・・・ドユコト?」
 すると、めだかはゴソゴソとスカートから黒い薄っぺらいのを取り出して俺に見せる。まるでスマートフォンのような
感じだ。
「これ、私の家」
「・・・うそぉ!?」
「ほんと」
「いや、そんな小さいものにどうやって入るっていうのさ?」
「実際に見せるから、グランドに来て」
「あ、はい」
 俺は自分のカバンを取り出し、グラウンドに向かった。グラウンドに向かう際に色々考えた。どう考えてもアレは
携帯電話とかであって、決してめだかの家ではないということだ。ちょっと、したジョークに違いない。散々俺に迷惑
かけて、あの放心状態をみてちょっとした何かを見せてみただけだろう。
 昇降口で自分の下足箱から靴を取り出し、グラウンドで待つめだかの所に行く時に思ったことが一つ。嘘かも知れない
けど本当かもしれないって所だ。今から起きる出来事が嘘であったら、めだかの存在そのものが嘘になってしまう。
ましてや、宇宙人なんて架空上の生き物だと思っていたが、実際にここに居る訳で、だんだんめだかが言っていた事が
マジな気がしてきた。
 昇降口の扉を開けて外にでれば、そこには女の子座りしていためだかが待っていた。めだかも俺が昇降口から出てきた
事に気づいたようで、体を屈めて俺の目の前に先程の黒いスマートフォンみたいなものをつきたてる。
「触って」
 俺はめだかの指示通りに右手を黒いスマートフォンみたいなものに触れると、一瞬ピカっと光ったかと思うと、
スマートフォンみたいなものは光のカーテンのようなものに包まれ、みるみるうちに俺の手の平に収まる大きさになった。
 なんだこれすげぇ。
 いや、違う。やべぇ!
「ちっちゃくなっちゃったのですが・・・めだかさん?」
「それでいいの」
 そう言うと今度はめだかは両目を瞑ると、今度はめだかが光のカーテンのようなものに包まれるなり、めだかはその場
から姿を消したのだ。
「消えた・・・?」
 周りをきょろきょろ見渡すが、めだかの姿は見当たらない。あんなにでっかい体が一瞬にして姿を消すとはどういうこと
なのか?
「鮫島、ここよ」
 突然めだかの声が聞こえた。聞こえた方角は俺の右手の方角からだ。そして、俺の右手にはスマートフォンみたいなものを
持っている。
 まさか・・・。
 俺はゆっくりとスマートフォンのようなものに目を向けると、そこにはめだかの姿があった。
「どゆこと?」
「ここが、私のお家」
「そういうことなの」
「うん。次に真ん中下の丸いボタンを押して」
「あ、はい」
 ボタンをポチッと押すと空気中に光の粒子のようなものが突然発生し、その粒子がやがて巨大な人型の形を形成すると、
一気に弾けた。そして、そこには巨大なめだかの姿が帰ってきていた。
「こういうことなの」
「なんとなく、わかった」
 まるで、某ゲームの球体の中から出てくるアレと同じようなものか。あと、液晶からめだかが見えるから、これも昔
流行ったポケットゲーム機に似ている。餌を与えたり、遊んだり、トレーニングしては、持っている人と対戦とかできる
アレ。
「私のお家、鮫島に預ける」
「あ、あぁ」
「よかった」
 安心したかのようにめだかはにこっと微笑んだ。しかし、このスマートフォンみたいなものは、俺が触れる前と
比べれば俺より倍でっかいというわけではないが、家に帰る度に町のどこかへ置いて暮らすのはいささか不便だろう。
このように小さくできるのであれば、誰か信頼出来る人に預けてもらったほうが、イタズラはされないし、扱い次第では
故障するなんてことはないのではないだろうかと思う。
 しかし、一つ気になることがある。
「めだかは、どうして俺にお願いしようと思ったんだ?」
「授業中、一番私を見てきた」
「あ、それは・・・その・・・」
 めだかに気を取られていたの俺だけだったんだとちょっとショック。てか、みんな無頓着すぎやしねぇかい!?
「私のこと、好き?」
「なっ!?そんなんじゃねぇよ!!」
「そうなんだ」
「そうだよ!」

 こうして、俺の非常に長い一日は終わり、これから先、俺はめだかの面倒を見る日々が続くのであった。