ある日、突然メイドがやってきた。

 事のきっかけは、おそらく『なんでも願いが叶う水晶』という胡散臭い商品をネットで購入した奴だろう。三千円の
一品限りだったから最後の一つを頂く事にした。
 まぁ、願い事が叶う~ってのはハナから期待せず、あくまでネタとして買ってみた。もし、願い事が叶えば
ラッキーとすればいい話で、嘘っぱちだったらネットの掲示板とかで『なんでも願いが叶う水晶をかった結果www』
というスレでもたててやろうと思ったからだ。
 そして、注文して翌日の夕方に商品は届いた。ダンボールを開け、プチプチをの海から出てきた無色透明の水晶玉。
コレに果たして本当に効果があるのか、実に楽しみである。一応、写真を撮ってながら作業を行う。一応、説明書には
『願いは一回』と書かれた紙切れが一枚。
 と、言われてもいざ願い事を考えろと言われても、ポンとでてくるわけでもない。本気で願い事をお願いして、叶う
保証はない。まぁ、ネタとしては美味しいだろうが・・・うーん、難しい。どう考えても不可能な願いか、もしくは
結構本気の切実な願いか。彼女欲しいとか、億万長者になりたいとか、そんなものか?
 水晶玉を両手にとり反射すて映る自分の顔、なんてひどい顔をしているんだと自分自身に言い、水晶から目を離して
辺りを見渡す。関係のない話だが、俺はアパートを借りて一人暮らしをしている。男一人で整理整頓とは無縁で自ら
片付けようと思ったことはない。料理も適当である。ザ・目分量。たまに上手い飯が出来れば、マズイ飯もできる。
これに、もし彼女なんて素敵な方がいるのであったら、片付けてくれたり、料理を作ってくれたりしてくれるんだろう
な~と思った。
「あ~、メイド欲しい」
 大きくて、スタイルがよくて、俺の面倒ちゃんとみて、一緒にいてくれるメイド。そして、俺は何もしないで優雅に
暮らせるそんな環境が欲しい。というのが、今でてきたが、いかんいかん。脱線しすぎだ。コレが願い事になっちまう。
真面目に考えろ俺。人生楽して生きていけるわけないんだぞ。彼女が欲しいだのに出来ないのは最終的には自分自身の
責任があるんだ。ちょっと、眉毛剃ってみるとか、髪の色染めるとかイメチェンして、アクセとか細かい所に目を配り、
自分のセンスで異性を魅了するってぐらいの意気込みじゃ、来てくれないだろ。あと、こっちから声をかける。ソレに
限る。出会いがないってのは言い訳にならん!
 っと、言ったとしても、眉毛剃ったり、髪の色染めるとかはこれから就職活動の俺には自殺行為である。ましてや、
やったこともない。自爆が目に見えている。結局、やれる範囲は限られちゃうから出会いがないっていいたくなるよね。
って、また脱線してるな。イカン、イカン。集中しろ俺。とりあえず、世の中金だろという結論をだす。あって得するし
ないよりはマシ。っというわけで『金が欲しい』という願いにしよう。
 俺は再び水晶玉に視線をあわせると、水晶玉には赤色で薄く「OK」という謎の表示が浮き出ている。
 えっ?
 ナニコレ?
 どっからどこまでの話?
 OKって何よ?
 まるで意味がわからんぞ!
 途方に暮れる事数分後。あ、これ詐欺のヤツやと思った。だって、水晶玉だぜ?
 何がOKだよバカタレが!
 これ、特殊加工か何かで何らかの事すると、内蔵されている何かが作動して『OK』って表示されるんだろ?
 今は『Thank you』という表示になっているし。
 くっそ、やられた!
 本当にくだらない奴に三千円もかけちまったぜ。初めてパチンコってのを触った以来の虚しさだわ。よくわからねぇ
うちに三千円消えていったっていうあの感覚。かーっ!畜生。この水晶玉ぶっ壊して、中に入っていると思うプログラム
的何かでも探しだしてやろうか。でも、片付けが面倒臭い。ガラスものって何色の袋だよ? あー、これ壊さない方いいわ。
どう考えてもめんどくせぇ。ガラスの破片とか回収したつもりでも回収忘れて突然の出血とかなったらやだな。
 もう、いいや。なんか、どうでもいいや。寝る。俺は寝るぞー!


 そんな感じの出来事があり、翌日である。
 俺は目覚まし時計のアラームなんざに微動だにもせずにスヤスヤと眠っていたが、遠方から近づいてくるズシン、ズシン
という物音で目を覚ました。今日は町内で運動会でもなんかあるのかと、大あくびをしながら考えていると玄関の方から
ピンポーンとインターフォンが鳴る。寝起きだけど、居留守するわけにもいかないよな。寝癖酷いけど、まぁ、いいか。
どうせ大事な要件でもないだろ。
 俺は布団から起き上がり玄関に向かう。ガチャリと扉を開ける。
「おはようございます。戸田様、これからお世話をすることになりましたメリカと申します。」
 女性の声だ。えぇー、やめてよ。俺、今すっげーだらしない格好しているんだけど。恥ずかしいじゃん!
 っと、思ったのもつかの間。色々とおかしい事に気づいた。まず、なんで白髪で目の色が水色なんだよ。外国人?
それに、服装はメイド。なんで、いきなりメイドがやってくるんだ。昨日のアレか? しかし、ソレ以上におかしい
のが、メリカと名乗るこのメイドである。デカすぎる。その俺より背が高いとかそんなレベルじゃない。なんだよコレ、
目の前に怪獣が居るみたいなもんじゃないか!
「どうかしましたか?」
「どうもするわ!」
 一体何が起きているんだよ。目の前のメリカというメイドもクエッションマークでも付いたかのように顔を傾けているが、
お前の存在自体がおかしいってもんだ。ここは二階建てのアパートで、俺はニ○三号室に住んでいる。が、このメリカとい
うメイドはうつ伏せの状態で、しかも顎を地面につけているという状態でこっちらをじとーっと見ている。タレ目っぽい。
何mあるんだよコイツ。外をチラチラと見渡すせば、まぁ、色々やられているわけだ。元にメリカの両手で電線を切断して
いるのがみえるし、メリカが今うつ伏せになっている所にも民家があったような、なかったようなで、どうしてこんな巨人
が存在するんだっという事実を知りたい。自衛隊は何をしている!
「あ、戸田くん。おはよう」
「あ、川上さん。おはようございます」
「じゃ、じゃあ僕はこれにて失礼するよ。あの子がインターフォン押せなくて困っていたのを代わりに僕が押しただけだから」
「あ、あぁ。そうだったですか。わざわざあありがとうございま・・・す?」
 何がありがとうございますなんだ?
 とりあえず、隣人の川上さんがこの子の代わりにインターフォンを押してくれたようだ。たぶん、指すらこの扉の中に
入れる事は出来ないだろう。たぶん。
「えっと、メリカさんはどうしてこちらにいらっしゃったのですか?」
 このまま黙っていてもらちがあかない。とりあえず、目的を聞いて適当に合わせて帰ってもらおう。
「・・・? 随分とおかしい事を聞きますね」
「な、何がだよ」
 まさか、昨日の水晶玉に言ったから大きなメイドさんですよって言いたいのか。俺は、あの時の大きいってのは胸の事な
んだからね?
「私もよくわかりません。派遣です」
「派遣!?」
 お前の方がおかしいよ。よくわからないのに、派遣でやってきましたってか。体も怪獣見たいにばかでっかいというのに、
お前の存在も十分おかしい。
「私は『大きなメイドを求めている人がいる』と聞きはるばるやって来ました」
 あ、やっぱり間違った方角で捉えられてた。てか、大きいって限度を超えていると思うんだけどね?
「えと、メリカさんはどこからやってきたのです?」
「日本」
「・・・あぁ」
 そら、ここは日本だ。ジャパニーズだ。え、なに、日本という国はこんな怪獣みたいな人間をどこに隠し持っていたのか
という疑問を僕は抱き始めましたよ。
「じゃ、じゃあ、メリカさんはどうしてそんなに大きくなってしまったのですか?」
「成長期」
「・・・あぁ」
 成長期じゃ仕方ないね。って、バカかーい!
 成長期でそんなにでっかくなるわけないだろ!?
 なんかの病気とかじゃねぇの!?
「メリカさんは、どうしてメイドになりたかったんですか?」
「戦うメイドに憧れてた」
 そっかー。戦うメイドに憧れていたのか。もっと、違う職業があってもいいと思うよ?
 解体業とか。その巨体を生かしてバキバキにした方が重機に頼らずに楽々作業ができると思うんだけど?
「それに、こんな私でも必要にしてくれる方がいるのだとしたら、私は主に従うまでです」
「あ、あぁ・・・」
「戸田様が初めてです。私みたいな方をOKしてくれた方は」
 出来ればNOと言いたいんだけどね?
 現に今いろいろとぶっ壊したよね。それって、主の責任になるとかやめてね?
「さっそくですが、戸田様」
「・・・なんですか」
「ご命令を」
「帰ってください」
「それはできません」
「どうして?!」
「そういう契約だからです」
「契約って、あの水晶の?!」
「はい」
「って、事は君のことは召喚獣か何か的なものと考えてもいいわけなの?」
「構いません」
「・・・主の言うことは何でも聞いてくれるの?」
「解雇以外は」
「そっかー・・・」
 俺、これからどうしよう。この子、絶対破壊活動以外使い道ないような気がするし。メイドなら手短に部屋を掃除して
くれとか言いたいけど、この子じゃ絶対違う意味で部屋を掃除しそうだもん。「貴方の居場所を掃除しました」的な?
そんなブラックジョークいらねーよ!
「あ、じゃ、とりあえず、そこで待っといて。着替えてくる」
「了解しました」
 バタン。玄関を閉める。何故か鍵まで締める。そして、ため息。
 マジでどうしようコレ。魚眼レンズを覗いて見ればメリカはこちらをみている。仲間にしますか? はい、いいえ。って
感じの状態だし。できれば、いいえを選択したい。でも、契約上そんなことは出来ないと。メーカーに文句言ってやろうか
とも考えたけど、責任は問いませんって書かれていたし・・・なんて恐ろしい買い物をしてしまったんだ。
 はー、考えても仕方ないか。シャワーでも浴びて気持ちをスッキリさせるかと、考えた時だった。天井がメキメキと軋む
音がすると思えば次の瞬間にガバァっと天井が何処かへ消し飛んだ。天井が青空に変わると、ぬっとメリカが上から覗いて
きた。
「戸田様、まだですか?」
「まだだ! てか、何やってるんだよお前!」
「すみません。我慢出来ませんでした」
「我慢してくれよ・・・」
「初めてのお仕事に、この興奮は抑えきれません」
「結構冷めているような表情にみえるんだけど、気のせいですかね?」
「こういう表情なのです。顔にはだしません」
 このポーカーフェイスメイドは戦場に放っておけばいいんじゃないかと思った。大量殺人兵器にでも仕立てたらいかが
でしょう?
 でも、メリカにとっては初めて必要とされていると思っているわけなんだから内心嬉しくて仕方がないんだろうな。
今日は、何曜日だっけ? 日曜日か。
「じゃー、出かけようか」
「どちらまでお出かけしましょうか?」
「散歩程度でお願いします」
「了解しました」
 休日だし、バイトもないし、メリカに付き合うことにした。


 着替えを済まし、勝手に取っ払った屋根にメリカは手を差し伸ばし、俺は手のひらに乗る。手の平に乗り終えると、
ぐんぐんと手の平の高度は上がりメリカの胸元の高さになる。
「それでは、参りましょうか」
 そういうと、メリカは立ち上がり更に高度が上がる。全身を押し付けるGを必死に堪えて、いざ出発。
「ところで、戸田様どちらまで向かいましょうか?」
「適当でお願いします」
「了解しました」
 コースはおまかせ。メリカに任せる。ズシン、ズシンと一歩一歩進むだけで凄い重量を感じる音を響き渡り、時折
メキャメキャとかバキャバキャとか、何か踏んでいるよう音もするけど気にしないことにした。むしろ、諦めた。
 でも、主としてちゃんと注意しないといけない。
「メリカ、もっと足元に注意して歩いたらどうだ?」
「私に踏まれるほど小さいのが悪いのです」
「え? あ、うん。でもね、ほら、みんな困っちゃうでしょ? メリカに色々踏み潰されるのは」
「・・・了解しました」
 ズシーン! と一発凄い力のこもった音がした。今の絶対、悪意のある踏みつけ方だよ。落ちないように四つん這い
の姿勢で下を見ると、結構高い。容赦なく、メリカのストラップシューズは一つの民家を思いっきり踏んづけたように
思える。メリカの歩いた後ろの足跡と比較してみて、壊れ方が違う。周りへの衝撃も、今のは結構強いものだ。
「あの~、メリカさん?」
「なんでしょうか?」
「いや、怒ってるのかな~っと思いまして」
「どうしてそう思うのですか?」
「足元気をつけろっていって直に正反対のことしてくれたから、さ?」
「・・・すみません」
「いや、注意してくれればいいんだよ。無理にとはいはないからさ」
「了解しました」
 それから、しばしの間は聞こえては行けないような音は極力減った。メリカの適当コースで歩いて行ってもらったが
気づけば、海にまでたどり着いてしまった。
「海まで来てしまいました。どうしましょうか?」
「じゃあ、一旦ここで休憩をしよう」
「了解しました」
 俺とメリカは丁度いい感じの小高い丘に座り休憩をとることにした。が、丘からはメリカの長い足がスラっと伸び、
ストラップシューズは砂浜に付いている。ちなみに、俺が落ちたら大怪我しそうな高さである。
「戸田様、先程は失礼しました」
「・・・どれに?」
 済まないが思い当たる節が多くてどれについて誤っているのかがわからなかった。
「その『足元気をつけろ』の件です」
「あぁ、そっち」
 屋根については謝ってくれるのだろうか? てか、あれどうするんだろ他の住人さんも冗談抜きで盛大な迷惑をうけて
いるよね。
「その、私も極力注意を払って歩いてはいますが、どうしても踏んでしまい、足元に神経を使い過ぎるとどうも・・・」
 なるほど。
 アレはアレでもメリカなりに注意して歩いていたのか。それを何も知らずに、音だけで判断して叱ったというか、注意
したというか、それがメリカにとっておもしろくなかったんだろうな。
「あぁ、ごめん。俺も勝手な事言っちゃってごめん。てっきり、足元気にするの面倒になって踏んでいるのとばかり思った
 からさ」
「あ、それは少なからすあります」
「おぉうぃ!」
「ですが、戸田様が初めてです。ここまで私に構ってくれた方は」
 半ば強引なところもあるような気がするけど、そこは黙っておくことにする。
「これから迷惑もかけることがあると思いますが、何卒よろしくおねがいします」
「あぁ、こちらこそよろしくおねがいするよ」
「ありがとうございます」
 ペコリとお辞儀するメリカ。一応悪いことをしたと思ったらそれなりに反省はしているようだ。さーて、これからどう
するかな。俺はメリカの両手でゴロンを仰向けになり、空を見る。青空に一線飛行機雲が引かれている。俺が空を見ている
のに何かを思ったのか、メリカも空を見上げる。
「飛行機、ですね」
「飛行機だな」
「戸田様、飛行機にお乗りになりたいのですか?」
「いや、別にいいよ」
「取ってきますよ?」
「いやいやいや、メリカがいくらでっかくて飛行機が飛んでいる高さまでは届かないだろ。諦めろって」
「いえ、本気をだせばいけますよ?」
「いかなくて、いいから・・・。てか、本気だしたらどんぐらい大きくなれるのよ?」
「最近測った私の身長は、46mなので、100倍ぐらい大きくなれるかと。空港近くなら楽勝です」
「100倍ってなると、4kmか。なんか、届きそうだな。でも、間違ってでも捕まえなくていいからね」
「了解しました」
「ちなみに、ちっちゃくはなれないの?」
「なれます」
「なれよ」
「いえ、体を大きくしたり小さくするのは疲れるので、出来る限りはありのままの自分を表現したいと思っております」
「少しは、周りに影響を与えないように努力する気はないのかな!?」
「精進します」
「精進してくれ。頼む」
「心得ました」

 そんなこんなでどたばとたした日曜日は終わったのであった。帰ってからは、メリカに対する被害届が殺到したが、
コイツが本気出したら大変なことになるぞと俺から説明し、なんとなかなった。だが、これからは支払うものはちゃんと
支払うようにしないといけないけど、まぁ、どうにかなるだろ。


 おしまい。