笑顔の巨像


 昔、昔。これは、魔物とか人間とかがまだいたあたりのお話。
茶色のショートヘアーで赤い瞳の彼女の名前はミラ。歳は6歳頃だろうか彼女の家族は父、母、兄と一緒に暮らし
ていました。ミラは家で母の手伝いをしたり、町に買い物にもいっていました。しかし、ある日ミラに住んでいる
村に1人のおしょうがやってきました。ミラは八百屋におつかいに行っている時にそのおしょうと会いました。
するとおしょうは、ミラを見るなり「お前は人間ではないな?」と言われてからミラは不安になりました。八百屋
の親父も「そんなわけないでしょ」と高らかに笑った。しかし、おしょうは続けて「いずれこの村に災いが起きる。
それはこの娘が引き起こしている」と言い、おしょうは村から出ました。八百屋の親父は「あだなペテン師信じる
なよ」と言われました。ミラはちょっと複雑な気持ちで帰りました。機嫌を悪くしないように八百屋の親父は
にんじんをサービスしました。

 しかし、おしょうが去ってから2、3日経つと村に台風が襲ってきました。対して被害はありませんでしたが、
次の日は雷が村に落ちたり、作物は魔物に荒らされたりと急に村に災害が訪れました。最初はたまたまだと思って
はいたが、毎日のように農作物が荒らされたと思うと大雨やら強風も発生しました。次第に、村の人達はここまで
おかしくなるのはあのおしょうの言葉は本物だったのだと思い始めた。
 ミラが村で散歩をしていると、急に石が飛んでミラに当たりました。きました。ミラは石が飛んできた方向をみ
ましたが、そこには誰もいませんでした。しかし、嫌がらせが次第にミラに起きました。ミラはある日家族にその
話をすると、父は悔しそうな顔をし、母は今にも泣きそうな顔をしていました。ミラはだんだん不安になってきた。
あのおしょうの言葉が本当なら自分はなんなんだろうと・・・。
「ミラ・・・実に言いにくい話なんだが・・・お前はうちの子じゃないんだ・・・」
 突然の父の言葉。考えてみれば、この家族で赤髪はミラだけ。赤い瞳もミラだけ。しかし、それだけでは人間じゃ
ないと言い切れないハズだと信じていた。
「でもな、ミラ。お前が苛められる理由はないんだぞ。今はたまたま気候が荒れているのだ。ミラのせいじゃないよ」
 父はそう言いながら、ミラの頭をなでた。うちの家族じゃないけど、ミラは不安にはならなかった。むしろ、嬉し
かった。赤の他人のミラをここまで愛情をこめて育ててくれたことにミラは感動していた。

 だが、異常気象は止まらなかった。そのたび、ミラは村の人からも無視されたり、石を投げられたりしていた。
次第に嫌がらせがエスカレートしていった。ミラは自分は何もしていないのにこんな目にあうのかがわからなかった。
そして、毎日静かに泣いていた。そして、ある日。父は死んだ。土砂崩れの修復作業に参加しているときに、足を
滑らせ崖から落ちた。父が他界してから数日後母は畑で魔物に襲われ死んでしまった。家には義理の兄とミラだけに
なってしまった。ミラは悲しくて泣いた。これが全部自分の制なら私は死んだ方がいいのかと思った。そして、ミラは
一度崖から落ちて死ぬ覚悟をしたミラであったが、義理の兄に見つかり死ねなかった。
「なんで・・・私のせいでお父さんとお母さんが死んだのに・・・なんで死なせてくれないの!」
 
 ビシィ!
 
 と、ミラは初めて頬を叩かれた。
「馬鹿なこと言うな!お前は家族の一員なんだろ!お前が死んだら残される俺の身になって見ろよ」
 ミラの目の前の男は目に涙を浮かべていた。
「今はおかしいことが起きているのは事実だけどな、ミラが起こしてやっているわけじゃないんだろ・・・」
 ミラは黙って頷いた。
「なら、今までのは偶然だ。また嫌がらせを受けたらお兄ちゃんが守ってやるよ」
「・・・ぅん。・・・・ごめんなさい」

 その夜。ミラは兄に全てを聞いた。ミラが何故この家にきたかがわかった。
 父は昔お城の兵隊であった。ある日、魔物の討伐ということで森の討伐隊と山の討伐隊に別れており、父は山の
討伐隊に所属していた。そこで、魔物の巣だと思われるところには魔物は折らず、岩陰に赤ん坊がすやすやと寝て
いた。赤ん坊を保護し、そのままお城に戻った。その時、森の討伐隊の生還者は1名。オオケガをして帰ってきた。
赤ん坊の件については、赤ん坊を誘拐されたという件は入ってはいなかった。よって、その赤ん坊は魔物の子では
ないかということで処分する方針であったが、父は「こんな赤ん坊が魔物だなんてことないじゃないですか!」と
反論した。父は家族に訳を話すと家族は父の考えは間違えていないと答えた。そして、父は兵士を辞めて家族と共
に城下町から遠い遠い村に飛ばされた。村の人達には父が元兵士であったことも隠した。
「悪いなぁ、母ちゃんにサイル・・・」
「いいぇ、こんなに幼い子供を殺すという国の考えは間違えているわ。あなたが誤る事ないじゃない」
 母は笑顔で返した。父は本当にすまないという顔をした。
「ねーねー。もし魔物の子だったらどーするの?」
 6歳のサイルが父に聞くと。
「もちろん、家族だ。何が起きても家族だ。サイルは兄ちゃんになるんだからお父ちゃんがダメな時は母ちゃんと
ミラを頼んだぞ」
 と父は答えた。
 
 その話を聞いてから、ミラは今の現状に負けてはいけないと思った。一度殺される運命でありながら、この家族
はミラという子を護ってくれた。だから強くなろうと決意した。
 数ヶ月、ミラは嫌がらせを受けていた。その嫌がらせを兄のサイルはミラを護った、慰めた。共に試練を乗り切
ろうと誓った。災害がある日ピタリと収まったが、村の人はまた災いが訪れるのではないかと不安であった。生活
が苦しくなり、兄はあっちこっちへ稼ぎに出た。体がボロボロになるまで働き、差別をうけ少ない賃金でミラと
一緒に過ごしていた。サイルはミラがいたからがんばれた。ミラは兄がいたからがんばれた。
 災害がピタリと止まってから一年が経った。旅人の占い師が村に立ち寄り、村長のがこの村の未来を占って
もらった。「この村は緑に溢れるだろう。天災は5年分ぐらい一気に前払いしたから心配はない」と占った。その
言葉通り、村は何事もなく平和な日々が戻ってきた。次第にミラの疑いも自然になくなるようになった。
 
 しかし、ある日の夜。帰りの遅いサイルに心配しミラは外にでると家のすぐ近くでサイルは倒れていた。ミラは
急いでサイルを家に運び、お医者さんの家に向かった。夜遅くにお邪魔するのは失礼だとは思ったが、兄の疲れ果
てた姿を見てなにやら恐怖を感じていた。医者はぶつぶつと文句を言いながら現場に向かった。自分でも焦ってい
るとわかりながらも医者の人に「早く来てください」と言うが、急ごうとはしなかった。
 やっとのおもいで、家についたが、サイルは死んでいた。診断結果は過労死と言われた。医師は「あれだけがん
ばって倒れないほうがおかしい」と言い家に帰った。医師が帰ったあとミラは泣いた。今まで自分のためにがんば
ってくれた大切な人を失った。
 
 ミラは泣き疲れて眠りそうになったが、大切な人をそのままにしておくわけにはいかない。失ったものはもう戻
ってはこない。家の庭に穴を掘り、ミラは大きい箱にサイルを入れ庭に埋めてあげた。パンパンっと埋め終わると
ミラはまた泣いてしまった。ひとりぼっち。孤独。寂しい。
 やがてその感情は怒りに変わっていった。あのおしょうと会ってから日常が変わった。家に帰るなり、兄の部屋
に行くとテーブルの上に1つの小箱と紙が置いてあった。箱を開けると綺麗な銀のブレスレッド。最近城下町から
商人が来て売っていた噂を思い出す。その中のミラが思わず「綺麗」と呟いた一言。値段も結構するものがあった。
そして、紙には兄が最後に書き残した言葉がある。
“もし、ダメになった場合この紙の存在に気づいてほしい。ミラ、誕生日おめでとう”
 簡単すぎる一文。しかし、この時点で兄は自ら限界に気づいていたようだ。それを無理に笑顔を作り自分の体を
ごまかしていたのだ。
「許せない・・・」
 怒りという感情が強くなる。私は何もしてないのに。かばってくれた村の人もいつしかはイジメるようになって
いた。ここに住む村の人は自分勝手。許せない。手紙をテーブルの上に置き。兄の最後のプレゼントを右手首に身
につけ外にでる。ミラの家は村はずれにあり、ミラは村のほうに歩き出した。今日の満月は綺麗だなとミラは思った。

 ズシン、ズシンと地響きが聞こえる。1人の男が気になって外にでると大きな黒い影が見えた。しかし、地響き
はどんどん近づいているかのようだった。一瞬満月の光で大きな影の正体が見えた。それは家よりも大きい女性の
影、ミラであった。しかし、ミラ何故ミラがこんな姿になったかは男にはわからなかった。不気味な地響きがピタリ
と止まるとミラの姿は再び大きな黒い影になった。大きな影は村の入り口の柵の前にそびえたっている。

 ミラが村の入り口の前についたころは、綺麗な満月は雲に隠れていた。
「あんた達が悪いんだからね」
 そう一言呟くと、ミラが村の入り口である柵を踏み潰し村に浸入した。バキバキバキっと膝にも満たない大きさ
の柵を破壊し、入り口に一番近い家はミラの膝よりも小さい。足を高く振り上げ重心をかけながら勢いよく家を踏み
潰した。ズガァーンという豪快の音と共に、家という家から明かりがついた。流石に村の人とただの地震ではないと
確信したのだろう。急いで起き上がり、外にでると巨大な黒い影がある。ある男は松明を影に近づけたが次の瞬間
大きな影は宙を舞い、松明の光と共に男の命は消えてしまった。ドゴォンという後が後から聞こえた。
「ば、ばけものおおお」
 と叫ぶ。ミラは叫べばいいと思い手当たり次第逃げ回る村人を踏み潰す。見当たらなかったら家を蹴ったり、潰し
たりする。ただ、その行為だけでも逃げ惑う村人に破壊された家の破片に直撃したりと村人は逃げるので精一杯で
あった。獣とかなら対抗手段はあるが、相手は大きな影。せめて月の光でもあれば見えるが今は逃げ惑うしかなかった。
 一方ミラからすれば人間がポツポツに下で惑っているのが丸見えだ。しかし、ミラは容赦なく襲い掛かる。次第に足
だけでは村人が逃げ切ってしまうと思いミラは四つん這いになり、家をそのまま掴める大きさの手で人間をドゴォン
という音と共に絶命させる。四つん這いになるだけでも、ミラの攻撃範囲は一気に広がったものだった。
 村人は影が形を変えてますます混乱状態のなかがむしゃらに逃げ迷う。しかし、どこまでも追いかけてくる大きな
手の下にやがては潰されてしまう。ズズズ、ズズズと四つん這いになりながら前進するミラ。前まで優しかった八百屋
も四つん這いで前進する膝の下に飲み込まれる。ビタン!ビタンと虫でも潰すかのように平手打ちをする。

 しばらくすると、建物という建物はミラに潰された。砂埃や火の煙が立ち上がる中、ミラは復讐を果たしたと思った
が、1人フラフラの男が村からでようとした。しかし、ミラはその人間を見逃さなかった。立ち上がり、最後の人間の
上を跨ぎ先回りすると、人間は腰を抜かしてうごけなくなった。ミラは哀れみな顔でその人間を見る。
「た、たすけて・・・」
 人間は後ろに這いずりながら後退する。ミラは四つん這いの姿になりその人間をみる。傷だらけでよく逃げた方だ
とミラは思う。
「私は失いすぎたの。私の家族はこの村人に滅ぼされたの。だから私が家族の代わりに復讐として村を滅ぼすのよ」
 そういうと、ミラは右手をあげる。人間は「やめろおおお!」と最後に叫んだが、ドォオオンという音と共に絶命
した。
「あんた達が悪いんだからね」
 ミラはそういうと立ち上がった。立ち上がると先ほど隠れていた満月がみえた。月の光であたりを見渡すと荒れた
大地が当たりに広がっていた。その後ミラは荒れた大地を後にし家に戻ったが、巨大化してしまったが故にミラは家
には入れなかった。仕方がなく、ミラは家の前に土下座をした。
「いままで・・・本当に、本当にお世話になりました」
 そういうとミラは家を後にした。ドシン、ドシンと地響きを立てながら自宅を後にし森の中に入っていった。森の
中を歩いていくが、しばらくたつと1人という孤独に寂しくなりその場でぺたりと座り込んでしまった。

 ひとりぼっち。
 さみしい。
 
 そう考えると今にも泣きたくなった。でも、泣いてもしょうがない。とりあえずミラは笑顔を作った。どんなに
辛くっても笑顔でいた兄の様に。
「ごめんね。なにもできなくて」
 目からは涙という雫がでていた。やがてミラは足から石になっていた。最初は気づかなかったが、半分ぐらい石
になってから自分が石になっていることに気づいた。でも、構わない。もし、石になれば兄にまた会えるような気
がした。泣き顔でいったら兄、家族が心配しちゃう。笑顔で、笑顔でアッチにいかなくっちゃっとミラは笑顔を作った。





 月日は流れた。ミラが石になってからだいたい4年ぐらいたったあたりで、森の中で大きな女性の石造が発見され
たという話が持ち上がっていた。そんな中、お城の牢屋の中で会話。
「今日は何か面白いことはあったかい?」
 牢獄につかまっている男が、見張りの新米兵士に問う。見張りの兵士も暇なのかその質問に答える。
「今日か?今日は森の中で石造が発見されたんだってよ」
「石造?どんな石造が見つかったんだい?」
「そこまではよくわからないが、4年前に急に魔物にでも襲われた村の近くの森で見つかったそうだ」
 兵士もよくわからないそうな話をする。牢屋につかまっている男は眼鏡をかけなおした。
「そうか・・・。ちなみに海の向こうから誰か来たかい?」
「また、その質問ですか?今日は何もありませんよ。毎日のように聞くけど、何かあるのか?」
 兵士もそうとう聞かれたんだろう。他の兵士は無視をしているようだったが、この兵士は話相手にはもってこい
という感じに話が好きな兵士であった。
「娘を・・・待っているんだよ」
「あんた、悪い親だねぇ・・・」
 兵士はなんとも思えないような感じに答える。
「あぁ、僕は悪い親だ。娘になにもしてやれなかった。1人にさせて本当に申し訳ないと思っているよ」
 牢屋に捕まっている男は眼鏡を机の上におくなり、汚い布団に包まり寝る姿勢をとった。
「無事帰ってくるといいな。娘さん」
 兵士はそういうとイスに座りながら眠りこけてしまった。