漂流者

 昨晩、大嵐がありました。漁師は経験豊富なベテランのじいさん達が嵐が来るのはなんとなくわかっていて、
その日は漁にはでませんでした。大嵐の影響で海辺はゴミで散乱していると思い、海辺に行くとそこに大きな
女性が横に倒れているではないか。漁師は慌ててその娘の元に駆け寄るとある違いがわかった。この娘はこの
島の住民ではないということだけは確かにわかった。

 海辺に打ち上げられていた少女は、革の靴にショートパンツ型のジーパンを着用し、嵐でボロボロになった
Tシャツをきていた。髪型は水色のショートヘアー。一見見れば15、16ぐらいの年頃だ。なぜこんな若者
が海にでていたのかはわからない。もっとありえないのが彼女の大きさである。これは人間ではなく、巨人で
あった。1階立ての家なら大股でまたげそうなぐらい大きい。だいたい30mはあるだろう。
 漁師は村人達に急いでこのことを伝えました。村人もふざけているのかと思いつつ現場に向かうと、唖然と
したのはいうまででもない。“この娘が暴れだしたら危険だ”としかでてこなかった。とりあえず、ロープで
縛ることを考えて大きなTシャッツにしがみつきながら登ると女性は目を覚ました。
「う〜ん・・・ここは・・・」
 横に倒れている彼女は虚ろな目だ。意識は朦朧としているだろう。霧のかかっているかのような意識の中で
自分より小さな人間が後ろに後退している。さらに仰向けになっている状態だが、胸元にも小さな人間がいる。
「ボクを解放してくれたんですか・・・?」
 胸元にいる人間は後ろに尻餅をつきながら頭を何べんも縦に降った。恐らく一番びっくりしたのであろう。
怯えながらうなずいている人間を巨大な少女はニコッと笑みを浮かべ「ありがとう」と言い、また目を瞑った。

 ここから巨大な少女の物語が始まった。
 意識を取り戻したらそこは自分より小さな世界。
 昔、お婆ちゃんから聞いたことのあるような世界。

 世界には自分達よりも小さな世界があると、逆に世界は自分達が大きすぎるということ。
 
 巨人の種族と小人の種族。
 いや、彼女がこの世界では大きすぎる種族の人間なんだろう。
 嵐の出来事で記憶を忘れた巨大な少女。少女は村人に名を言えなかった。
 変わりに村人達は彼女に名前を考えてくれた。
 海の嵐の中で波が少女をこの島に導いてくれた。
 これは、何かの運命だったのだろう。
 村人は少女に“ナミ”という名前が与えた。
 

 ナミが漂流したその日の夜は大広場でお祭りを行うことにした。村人の大半は急に発狂とかしてその大きな
巨体に潰されないかと冷や冷やしていたが、足元を注意しながら歩きこちらのことも気にしながら身長にある
いていた。体は大きいがお利口な少女である。村人が怯えているのをナミは少々不安に思ったが、ナミに悪意
がないのをすぐに村人はナミを受け入れた。その村人達の優しさはナミには嬉しかった。
 日が沈むと大広場でキャンプファイヤーを行った。キャンプファイヤーは大広場のだいたいを照らしたが、
ナミから見れば小さな焚き火にすぎない。焚き火がつくとおいしそうな匂いがあたりを包みこむとナミのお腹
がぐぅ〜っと鳴った。その音を聞いて村人達は大いに笑った。近くにある食べ物をナミの元に持っていくと、
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんまずは食べて食べて」
「そうそう、たくさん食べないと元気になれないぞ」
「遠慮はいらんぞ〜米なんて腐るほどあまってんだー」
 村人達の暖かさに素直にナミは受けることにした。私がもし小さくて大きな生き物が現れたら逃げ出すけど
ここの村の人達は暖かく、自分のことを心配してくれて両目には涙を浮かべていた。一旦目をこするり深呼吸
をするとナミは笑顔で「はい。いただきます」と言った。
 宴の中で、ナミの周りには村人がナミの食いっぷりを見ていた。次から次へと料理が減っていくと料理を作
ってくれる奥さん達は負けじと料理を作っていた。しかし、速度があまりにも違いすぎるため男達も食べる箸
を止めて、自分の嫁の手伝いに行っていた。気づけば、宴はナミ対村人の料理という対決になっていた。ナミ
は申し訳なさそうな顔をしたが、残ってくれたちびっ子がじゃれてきて膝の上に乗せたり肩に乗せたりとして
子供達は家の屋根よりも高い位置で景色を見渡せて満足していた。また、ナミが一番困ったのは「どーやった
らおねーちゃんみたいにおおきくなれるのー?」と言う質問だった。村の料理を作っている人達もその質問の
回答を楽しみそうに家の窓から覗いていた。
「えー・・・っと、う〜ん・・・ボクみたいにいっぱい食べる・・・ことかな?」
 自分の食事の量に赤面になりながら答えたら村の人達は一斉に笑い出した。そんなこんなで宴はとても充実
していた。最終的には村人達の体力が尽きて降参してしまった。
 
 次の日。ナミは昨晩のお礼がしたいということで何か手伝うことはないかと村人に聞いたが、特に何もない
と言われた。ナミは仕方なく大広場に戻ることにした。意識しないと無意識に家にでっかい穴を開けてしまい
そうだ。大広場に戻ると子供達が遊んでもらいたそーにしていたので子供達の子守をすることにした。太陽の
日が沈む前に雲行きが怪しくなってナミは子供達をお家に帰えらせた。子供達が家に帰り終わると急に強い雨
が振り出した。
「ナミちゃん、大丈夫だが?」
 と村人達はナミのことを心配に来てくれたが、ナミは。
「あ、ボクは大丈夫ですよ」
 と言い、村人達には心配かけまいと笑顔を作った。村人達がみんな帰るのを確認すると、ナミは川沿いに向
かって雨水で体をこすった。意味はないと思うが、ナミは雨をシャワーが代わりに体を洗うことにした。辺り
を見渡し、ボロボロになったTシャッツもジャブジャブと川の水で洗うことにした。このときに誰かに見られ
ていないかが心配だったが、この雨の中じゃ誰もこないだろうと事故暗示をかけちゃちゃっと洗濯をした。
「よっし、後はなるべく泥がつかないように帰ろう」 
 ナミが慎重に帰ろうとしたら、不運な出来事がおきた。急にゴロゴロっと雲が鳴いたと思ったら雷がナミに
落ちたのだ。
「あぅ」といい、ナミは倒れそうになったが、ドシーンと全体重を前に出し倒れないようにした。ナミは痛そ
うに頭を抱え込んだが、思っていたより痛くなかった。ナミの生涯で最初で最後の雷はあっけない形だったな
と思った。ナミは足元を見ると自分の足跡があったので靴でその部分を均してから、大広場に帰ることにした。
 ナミの姿が消えると、草陰に隠れていた男がいた。男はしばらく放心状態だったが、我を取り戻したかの様
に急いでその場から去った。
「王様に報告せねば・・・」

 次の日は晴天だった。しかし、問題は色々発生したようだ。まず、小さな被害は雨漏れがおきたことと川の
橋が濁流に流されたりとしたが、一番面白い問題はナミにアンテナが生えた事だ。村人達はなんじゃそりゃと
笑った。アンテナといっても、髪の毛のてっぺんの毛がぴょんと跳ねていることだ。ナミはそのアンテナ毛を
元に戻そうと紙を撫でてもアンテナはすぐにひょいっと顔をだす。ぴょこぴょこ動くアンテナが非常に面白く
村人もその仕草を大いに笑った。
「わ、笑わないでくださいよ〜」
 その後、アンテナは水で濡らしても治らなかった。仕方がないのでナミは村の屋根の手入れの手伝い、川の
橋を作り直すのを手伝った。一番苦労すると思っていた橋を作る作業だったが、ナミが大きな木をあっさりと
引っこ抜き、運ぶ作業もナミが持っていったので予定よりも早く終わった。ナミは村人から感謝されて嬉しく
感じた。その頃には自分の頭にアンテナが立っていたなんてことは忘れしまったが少々体がだるく感じた。
 
「何?次の襲撃地に怪物がいるだと?」
「はい。しかも、本日再確認に行きましたら・・・アンテナが立っておりました」
「アンテナ?まぁ、どうでもいい。私の邪魔をするものは潰すまでだ。明日そのアンテナ怪物討伐隊をお送れ」
「かしこまいりました」
 
 次の日、大広場にナミは居なかった。ナミは風邪を村人に移しては行けないと思い、村から離れた草原で横
になっていた。しかし、村の中では大騒ぎになっていた。
 ナミが横になって眠っていると草陰から兵隊がナミに気づかないようにゆっくりと後ろから忍び寄っていた。
ナミはそんなことを気づかずすやすやと眠っていた。そんな中チクリと露質部分の高い太ももと一気に兵隊が
斬りかかった。ナミはびっくりして体を動かした。攻撃を受ければナミは動くと予想していた兵士だったが、
想像以上に大きな壁が迫ってきて何人かはナミの巨体吹っ飛ばされた。
「いたたたあ〜・・・虫にかじられたのかなー・・・」
 ナミの足には切り傷ができていた。ナミは急に体を起こしたが、身体のダルさがでて前に倒れこんだ。その
落下地点には残った兵士達がいた。
「つ、つぶされるぞーーー!!」
 と兵士は叫んだが、その叫び声はズゴーンという音でかき消されてしまった。兵士達は瞑れるの覚悟してい
たが、両側に大きな柱がナミの身体を支えていた。ナミは現在四つん這いになっている状態だ。兵士とナミは
目が合った。ナミの目は虚ろになっており、兵士がいるのかがよくわからない状態だが、兵士から見ると大き
なナミの虚ろな目が逆に恐怖を与えた。自分達は殺されるのではないかと思った。

 へっくしょん

 突然の暴風に兵士達は吹っ飛ばされた。ナミがクシャミをするとそのまま崩れ落ちるかのようにまた眠りに
はいってしまった。30mのアンテナ怪獣を倒すにはあまりにも人数が少なすぎた。体力が残っている兵士は
ナミが倒れている間に逃げ出した。ある者はナミの巨体に吹っ飛ばされた者。ある者はくしゃみが来る際に顔
近づいて恐怖して動けない者がでた。後ろで隠れていた兵士達が動けなくなった者達の救助に向かった。兵士
達は“情報”と“戦力”が違い過ぎるのを教訓にナミの側から消えた。
 夕方ぐらいになると、ナミは大広場に帰ってきた。丸一日眠っている状態で風邪もすっかり治ったようだ。
これで安心できると思ったら村の人から怒られてしまった。
「ナミちゃん!あんた一体何処にいってたんだい!」
「あぅ、今日は・・・ちょっとお昼寝に・・・出かけてまし・・た・・・」
 小さいとはいえ、あっちの方が年は上。もちろん怒られると怖い。大きなナミも今では村人達の方が大きく
感じた。
「あんた、今日変な人にあってないかい?」
「そうそう、全身に武装を装備したおっかない人とか」
 ナミは正座しながら、今日の出来事を振り返ったがそんな人にはあっていない。
「ボクは、今日ずーっとお昼寝をしていて・・・たぶん、そんな人とはあっていないと思います」
 それを聞いて安心したかのように村人達はため息をついた。
「あんた、命をねらわれっているのにのん気なもんだねぇ〜・・・」
「え?ボク悪いことしましたか?」
「いいや、ナミちゃんは悪いことはしていないけど、城下町の方で“アンテナ怪獣討伐隊”が動いたからナミ
 ちゃんが危ないと思って皆今まで探していたんだよ」
「え?アンテナ怪獣!?そんなものがいたんですか!?」
 この発言で村人達はあきれてしまい、無言でナミの頭目掛けて指を指した。ナミは最初意味が分からなかっ
たが指先を追うと忘れていた自分の頭に出来たアンテナ毛のことだとわかった。
「ボ、ボクは怪獣じゃないですぅ・・・」
 頬を膨らませてぷぃっと後ろを見てしまった。

「・・・で、作戦は成功したのか?」
「いえ、作戦は失敗いたしました・・・」
「なにぃ?失敗しただと!?ならば明日にでもケリをつけて来い」
「王様、それはできません」
「何故だ?」
「戻ってきた兵士が使い物にならないからです。ある者は戦いでの負傷。ある者は精神的ショック状態な者と
 何故か風邪を引いてしまった兵士の方が多いので・・・」
「むむむ、ならば治療次第一気に攻め込むのだ」
「しかし、もう1つ問題がありまして・・・」
「こんどはなんだ!」
「アンテナ怪獣が情報による大きさではなかったという奇妙な情報が」
「大きくなってたのか?」
「そのようで」
「ならばこちらも次で倒せるぐらいに万全な状態にするまでだ。わかったな!」
「了解しました」

 ナミが風邪を引いてから数日がたった。ナミも健全にできる範囲でお手伝いをしたが、ほとんどは子供の
子守が主体になっていた。今日も子供達と遊んで肩に乗せてあげていた。
「ねーねー、おっきなおねーちゃん」
「んぅ?」
「さいきんまたおーきくなったでしょー」
「え〜、そうかな〜?」
「うん。おーきくなったよーまえよりたかいもーん」
「そんな気のせいだよボクぅ〜」
「ちがうもん。おとーさんもいってたもんまえよりおへそがみえるーって」
 その発言にナミはボンと顔から湯気がでるぐらい顔が真っ赤になった。
「も、もぅ〜、そんなわけないでしょ〜。ほらほら、今日はもうおわりだよ〜」
 そう言うと子供達にバイバイをした。その後ナミは立ち上がってみた。ボロボロだったTシャッツも言われ
て初めて気づいた気がする。確かに大きくなっていた。近くの家に並んでみたら前まで大股で跨げたが今では、
膝よりも小さいかもしれない。
「ボク大きくなってたよ・・・。」小さくナミは呟いた。なんで自分は気づかないのかとちょっぴりショック
だったようだ。
「あ、おとーさん。おっきなねーちゃんにおへそみえるーってきょういったらたったままぼーっとしちゃった」
 その子供の父親だと思う男は子供の頭を叩いた。
「いったー。なにするんだよー」
「馬鹿者!そんなこと言うんじゃない!意識して隠し始めたらおとーさんの楽しみが消えるんだぞ?」
 いつになく真剣な父親の顔に子供はおもわず「ごめんなさい」と誤ってしまった。しかし、そんな我が子を
みると父親は優しく頭を撫でて「お前にもいずれ分かるときがくる」と微笑んだ。
 翌日。何だかんだ行って楽しみが隠されたらどうしようかとヒヤヒヤしていた父親だったが、ナミはそんな
ことを気にもせずにいた。その微笑ましい姿を見て父親は今日もがんばれると心の中でつぶやいた。
 しかし、男共が働きに出かけている時に村人の奥さん達がナミを連れて大広場よりもひろーい草原でナミの
服の裁縫をしていた。無論ナミの上半身はいうまででもない。大きな服の裁縫がおわるとTシャッツだった服
がタンクトップに変わっており、おへそが出ていた部分に継ぎ足した形になった。
 その日の夕方に村人達はそのナミの服が変わっていることに気づいたが、これはこれで違う部分が強調され
ていいなと思った輩もいた。

 ナミが兵隊達から襲撃?を受けてから1ヶ月が経った。ついに王様が動き出したそうだ。全戦力をあげてあ
の村のシンボルになりつつある“アンテナ怪獣”にケリをつけようと張り切っていた。それ故、王様も兵隊達
の戦いっぷりを見物にきていた。兵隊の行列に城下町の人達は戦でもあるのかと兵隊達の後ろ姿を見届けてい
た。
 アンテナ怪獣が住む村から約500m遠くの草原で一時停止を命じた。しかし、命じる前に兵士達はぽかん
とした顔だ。色々な意味でぽかんとしていた。王様は望遠鏡でアンテナ怪獣を見てみた。
「あれが、アンテナ怪獣か?」
「はい。あのアンテナみたいな髪の毛がです」
「ふむ。ただのデカ物に我が軍が負けるハズがない」
「しかし、あの時よりもまた大きくなっている気がしますが・・・」
「構わん全軍突撃じゃ」

 一方ナミはアレから宴会などでも食べる量が増えたかな?とか思っているとナミの体は大きく成長していた。
以前までは家が膝ぐらいの大きさかと思ったら足を開いて座っている状態で足を閉じてしまえばその家を
木っ端微塵にできそうだ。1件にはとどまらず2、3件まとめてでもいけそうだ。
「ナミちゃんまた大きくなったんじゃないか〜」
「ボクもそう思います。今ぐらいの目線がここに来たぐらい・・・いや、もっとそれより上になってるかもし
 れないです」
「で、ナミちゃんそろそろ許してくれよ。本当に足閉じたら家ごと俺つぶれちゃうよ〜?」
「ダメです。寝ている際に襲い掛かるのはいけないことなんですよ〜?」
「申し訳ございません・・・」
 この男はナミが寝ている間に本能に従いナミの胸元に侵入しようとしたが、むずむず感に気づくとあっけな
く捕まった男である。で、現在説教中。そんなことをしていると村人の男が走ってナミのところにきた。息が
完全にあがっており、ばたりと倒れてしまった。
「あ、あのぅ、大丈夫ですか!?」
「はー・・・はー・・・、あ、ナミちゃんあんた、逃げた方がいい・・・」
「・・・どうしたんですか急に?」
「王が、あんたの命を狙っているんだ。あんたは逃げた方がいい・・・」
「王って・・・?あ、あの向こうで凄い行列でこっちに向かっている人たちですか?」
 ナミは目を細めて右手をおでこの高さに並べてこちらに向かっている行列をみた。
「ナミちゃんには、関係がないからはやくこの村から逃げた方がいい・・・」 
「だからどうしてボクが逃げないといけないのです?」
「王の狙いはこの村なんだ・・・我々が住んでいるのは土地は豊作で食べ物には困らないぐらい立派な作物
 ができる。王はこの豊かな土地を狙って自分の支配下を広めようとしているんだ・・・」
「王はこの村を狙っているんですか?」 
「恐らくそうだろう・・・しかし、ナミちゃんがこの村に来てから王の都合が悪くなったんだろう・・・王
 はナミちゃんを殺してからこの村を支配しようとしているんだよ」
「むぅ〜、そんな事聞かれたら逃げるわけにはいかないじゃないっすか」
 そう言うとナミは立ち上がった。前までは膝ぐらいの高さだった家はもう脛よりも低く、踝より高い位置
にあった。お尻についた砂をパンパンと叩いて「よっし」と呟いた。
「ナミちゃん・・・何を・・・?」
「決まっているじゃないすか。ボクが皆を護ってあげるんですよ」
「そ、そんなナミちゃんがいくら大きくたって相手が悪すぎる!やめなされ!!」
 しかし、ナミはその男の話を聞かないで兵隊達が向かってきている方に向かった。道幅もずいぶんと小さく
なったなと思いながら歩いた。ナミは今自分にできることはこの村を王の支配から護ってあげることだとナミ
は思った。そして、今までお世話になったこの村の人達に対する恩返し。そりゃ、ナミは喧嘩したことはない
し、ましては相手が兵隊だとナミ自信怖くて逃げたい気持ちだった。
「ボクがみんなを護ってあげますよ」


 兵隊達が村に向かっている中、ナミが村をでてこっちに向かっているのは丸見えだった。しかし、兵隊達は
徐々に大きくなる揺れに足がもたれていた。揺れが大きくなればなるほど兵隊達は恐怖で満ちていた。自分達
は、あのアンテナ怪獣に勝つことができるのだろうかと。現在兵隊達の配置は前衛、中継、後衛、王様がいる
場所に兵隊達が配布されている状態で、前衛が最初の出方次第では戦いの流れをかえることができることは
知っている。
 ズシン!ズシン!と音と揺れが激しくなりついには進めなくなり地べたに張り付いている状態になると辺り
はナミの影に包まれた。目の前には大きな革の靴。兵隊達はあわてて弓矢で露質の高い脛に矢を放ったが、手
ごたえは全くなかった。むしろ、刺さるよりは弾いてしまった。ナミの肉が厚すぎて矢が折れたり跳ね返って
いたりしていた。しかし、弓がダメとわかったらナミの靴に飛び乗り剣で斬りかかろうとしたが、斬れるはず
の物がびいーんと矢と同様に弾かれてしまった。これじゃ、ダメだと思い最後の手段をとることにした。ナミ
が動き出す前に秘密兵器を実行することにした。

 一方ナミは少々困っていた。兵隊さんの方に向かっている中、兵隊さん達の陣形が上からじゃ丸見えでそれ
が逆に綺麗に並んでいるなっと感心していたら、最前列の兵隊さん達を見失っていたのだ。
「あっれ〜?さっきまでいたと思ったのにぃなぁ〜どこにいったんだ〜?」
 とあたりをキョロキョロしている間に秘密兵器が発動した。

 ドカァーン ドカーン

「あつぅ!!!」
 ナミはいきなり両踝よりちょっと上の部分が熱くなり、驚いてその場に尻餅をついてしまった。

 ズゴォオオン

「いたたた〜・・・なんなっすか。急に・・・」
 踝辺りがちょっぴり火傷した程度に済んだ。火傷した部分を撫でていると兵隊さん発見。
「あ、みっつけたあー!覚悟してくださいね」
 そうナミが言うと座っている状態からお尻を持ち上げて兵隊さん達を見下ろした。兵隊からみると最悪な事
である。秘密兵器である小型爆弾もアンテナ怪獣にとっては軽い火傷程度にしか効いていないし、お尻を浮か
した後に大地がすごい陥没してしまったことを家の半分ぐらいの深さはあるか、それ以上の深さだ。
「しかし、流石兵隊さんですね。ボクの胸で死角になっていた足元に攻撃を仕掛けるとは・・・」
 ナミは素直に兵隊さんの頭脳プレーに感心をしてしまったが、兵隊からみるとあの小型爆弾が爆発するまで
気づいていなかったことを知らされて逆に怒りを買ってしまった。
「今度はこっちから行きますよ〜」
 ナミは人指し指で兵隊達を突いた。強くやりすぎると命に問題があるのではないかと思い、極力やさしく突
くことにした。しかし、ナミの突き攻撃はゆっくりすぎて兵隊達はひらりと身をかわし、隙があれば指に攻撃
するなどした。もちろん、指は斬れていなかった。
 ナミはそれからちょっと突く速さをあげてみたり、フェイントをいれて兵隊さん達を次々と突き倒した。
だんだん、ナミはこの精密作業に疲れを感じてきていた。やっと全員倒したかと思った瞬間。

 ドカーン!
「あぁ、うぅ・・・」
 爆発と共にナミはうめき声を上げてちょっとよろけた。しかし、この攻撃にナミは許せないものだった。怒
りのあまり、ナミは思わず叫んでしまった。
「もーっ!誰だぁー!股に爆弾を投げたりする人はー!」
 もう、顔からプンプンと擬音がでそうな位怒っている。目線を下げるとその場で一人の兵士が尻餅をついて
後退している。最後の兵士は自分の行動に手ごたえを感じた刹那ソレが絶望に変わってしまった。ナミの暗い
顔からボソリと「死ぬ覚悟はできましたか?」と言うと手の甲で兵士を弾いた。
「やりすぎは酷いです」


 次にナミは先ほどみたいな失敗をしないように四つん這いで前進。すると、兵隊たちが5人座っていた。
思っていたより、あっさりとしていてナミは驚いたが相手には戦う気持ちが完全になかった。
「あ、あのぅ、どうか・・・しました?」
「あー、ねーちゃんにはかんけーのないことだ」
 ナミはさっきの戦いと比べると冷めすぎていて思わず苦笑いをしてしまった。とにかくやりにくいのは確か
だと思った。悪い人でなければ無理に戦わずといいかなーっと思った。しかし、見逃すわけにはいかず、先制
攻撃を仕掛けることにした。
 ふぅーっとナミは息を吹きかけると5人の兵士は何の抵抗もなく地べたをごろごろと転がっていく。
「あの、こーゆうのも変ですが・・・ちゃんとしてください」
「ちゃんとしているさ、俺達は囮にすぎないんだからよぉ・・・」
「え?」
 気がつくと兵士だと思う人達は武器を持っていなかった。身につけているのは錆びた防具。明らかに先ほど
の兵士とは装飾品が違う。そんななか、おでこに鉢巻を巻いていた兵士がヤケクソそうにナミにどなりかけて
きた。
「どーりで話が面白すぎたわけだよ!俺達みたいな新米兵がこんな戦いに参加させられたと思ったら囮だもん
 よ・・・やってられんよォ!」
「あの〜囮ってどういうことでしょーかー・・・」
「あぁ、どうせ俺も最後だし言ってやるよ!いずれここにあんた目掛けて一斉に大砲で砲撃するだろうな。
 俺達はその砲撃であんたを着実に倒せるように誘導していたんだよォ!」

 ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!

 と、遠くの方から砲撃が始まったようだ。方角は前方にある岡の上からだろう。
「これで、俺達もアンタも最後だな。悪かったな最後がこんな終わり方で」
 兵士はそういうと大の字で仰向けに倒れていた。兵士が倒れている間にも砲撃の音は止まらない。一体何発
ぶっ放しているのかがわからないぐらい。そうしている間に黒い塊はナミの居るほうに飛んできているのがわ
かった。しかし、黒い塊はナミの手前で落ちる感じの放物線を画いているようにみえたが、ナミの前方には、
囮部隊として最後を迎える兵士達が5人、涙を浮かべていたり、悔しがっていたりしていた。
「あ、危ない!」

ズガガガガァン!ズガガガン!ドゴォン!ボォン!ドォン!


「す、すみません隊長。追い風でアンテナ怪獣の急所をはずしましてしまいました・・・」
「いや、いい。あの位置ではアンテナ怪獣に当たらなかったのが何故か自ら当たりにいったからな。結果オー
 ライだ。しかし、今後ミスはするなよ」
「は、はい。申し訳ございませんでした」
 もくもくと爆発した煙がアンテナ怪獣の付近を包み込む。あれだけ打ち込めば倒れるだろうと兵隊達も思っ
ただろう。村人達もその煙がなんなのかが不安になっていた。風で煙が流れていく。
「な、なんだあれは・・・!?」
 隊長がそういうと煙の中から青いアンテナがぴょんと煙の上から見えた。煙がじょじょに流れていくと隊長
も愕然としていた。アンテナ怪獣は四つん這いの状態で丸くなっており、お腹の辺りには何かを護るかの様な
姿をしていた。


「あ、あんた、なにやってるんだよ?」
「ボ・・・ボクは大丈夫・・です・・・皆さんは・・・?」
 ナミは兵隊さんの声を聞いて折りたたんだ両手両足を伸ばし、四つん這いの姿に戻った。ナミは1人で全て
の砲弾から5人の兵士を護ったのだ。
「俺達は、大丈夫だよ・・・死ぬ覚悟はしていたが・・・あんたに助けてもらったよ・・・」
「そうでしたか。それは・・・よかった」
 ナミは兵隊さん達の安全を確かめるとほっとしたかのように笑みを浮かべた。それから、ナミはよろけなが
らも立ち上がった。立ち上がったがすぐに膝が折れてしまい、両手で膝を押さえて息を整えていた。
「あんた、無理はするなって。ボロボロじゃねぇか!」
「兵隊さんたちは・・・誰の命令で・・・囮なんてことをさせたのです?」
 息がぜーぜーっとなっているナミを見て皆で顔を合わせ、頷いた。
「お、王様が・・・いや、あの忌々しい王の命令だよ・・・」
「そう、この王がてきとーに囮を使って一気に倒せなんていいやがって・・・」
 囮で死ぬはずだった兵士達はこうして生きている。そして、敵に助けられ絶つはずだった命を救われた。
死ぬ覚悟をしておきながら兵士達は生きていた。言われた時は逆らえない圧力があった。もし、断れば自分の
家族にまで手をだすようなヤツだ。そんなことは、兵士達は口にはださないが、顔と仕草からして王への怒り
の自分達の無念さに嘆いていた。
「ボクは・・・ボクは怒りましたよ」


 ドシン!ドシン!ドシン!ドシン!
 と音がする。それはさっきよりドシーン!ドシーン!という音より速い。
「た、隊長!アンテナ怪獣が物凄いスピードでこちらに向かっております!!」
「構わん!撃てー!撃てー!」
 隊長の合図と共に第2回目の砲撃が始まった。砲撃はナミに直撃はするが、走るのを辞めない。砲撃してい
る岡の上の高さはだいたいナミの臍ぐらいの高さだったはずだが、徐々に接近してくるナミの大きさはまた異
なっていた。今岡の頂上はナミからすれば股ぐらいの高さにしかない。しかし、岡の上にのぼるのであれば、
減速するか、ジャンプするかのどっちかだがナミはスピードを緩めない。岡の上にいる兵士達のことなんかは
気にしていない感じだ。
「総員退避ィィィイイ!!」

 ボゴォオオン!!

 ナミはそのまま岡の頂上付近を膝で蹴り上げ、蹴り上げた足が引っかかりそのまま倒れるような形に倒れた。
兵隊の配置は最初の頃とはことなり、前衛の戦いを見て大きく後退をしていた。中継部隊の5人を除く兵士は
後衛に向かったがたった今、ナミの突進で先頭不能になっただろう。あとは王様を護る兵士ぐらいしかいない。
 王様は後衛より数百m離れた位置にいたが、岡にぶつかりそのまま前に滑り込んだナミはもはや王との距離
はほとんだない。
「な、何をしている!さっさとこのアンテナ怪獣にトドメをささんかい!」
 しかし、王の声は聞こえていて動ける兵士はいなかった。ナミは王と顔を合わせており、ナミの気迫に負け、
逆らえば自分達は殺されるのではないかと思い尻餅をついて足がガクガクしていた。
「えぇい!聞こえんのか!トドメをさせといっているのかが聞こえんのかぁ!貴様らあとでどうなってもいい
 のかあ!」
「あなたが・・・王様ですか?」
「私以外誰がいると思うのだね?アマが!」
「あなたは・・・何故村を狙っていたのですか?」
「あの土地は立派なもんじゃよ?あそこだけで多くのワシの支配下に食料を恵んでやれる。まぁ、本拠地が
 主体になると思うがな!」
「あなたは・・・何故囮なんてものを考えたのですか?」
「無論、使えない駒を使うには囮になってもらったほうがいいだろぅ。囮で死ねるんなら名誉があるだろう?」
「あなたの・・・理想はなんです?」
「私の理想かね?邪魔するものには容赦なくいたぶり、ありとあらやる手段を尽くし、私がこの世界の——」
 王が最後を言い切る前にナミは右手で握り拳をつくり、宙に浮かせた。
「人の気持ちを理解できないあなたは、王様だなんていってはいけない」
「な、何をする気だ貴様・・・」
「自分だけがいいだなんて、そんな王様がいいわけない」
 そういうと、振り上げた握り拳を一気に王目掛けて振り落とした。
「や、やめろおおおおおお!!」と王は最後に叫んだ。
 
 ドゴォオン!!

 拳は王の手前に落とされた。王は恐怖のあまり、声がでなかった。無様に地面にへばりつきナミから逃げよ
うとした。
「ききき、貴様、こ、こんなことして、ただだですむとおもうなよ!?」
「ボクはもうただで済むとは思っていません。今後、村や兵隊さん達に戦いたくもない戦いなんかさせたら、
 今度はボクが黙っていませんよ?」
 最後にナミが王様を睨みつけると王はへなへなへなと気絶してしまった。


 その日の夕方。ナミは村に帰る際に途中で力尽きて倒れてしまった。倒れこんで薄れる意識の中で今日ナミ
がとった行動を振り返えった。
(あぁ、ボクはみんなのためにできたかなぁ・・・。逆にまた、あの王が攻め込んできたらどうしよう・・・)
 しかし、色々考えているうちにナミは眠りについた。うつ伏せの状態でぐったりとした状態で眠った。 

 ナミが目を覚ましたのは、3日後だった。まず、目が覚めた時には目の前には多くの人々がいた。その中には
村の人達、兵隊さん達もいた。ナミは状況がまったくわからなかった。
「おぉ、ナミちゃんが目を覚ましたぞ!」「あ、でっかいねーちゃんめをさましたぞー」「おぉ、よかった。
 アンテナちゃんがいきていたぞー」など色々な声援を受けた。暖かい感じがした。
「もー、ボクはアンテナちゃんじゃなくてナミですぅ〜」
 
 あの戦いからナミ河の近くで倒れており、近くを通りかかった村人がナミを発見し、ナミのケガの手当てを
していた。その治療の手伝いに兵隊さんの方も手伝いにきてくれていた。また、背中も砲撃を受けてアザや
火傷を負っていた。人間ではありえないぐらいの回復力で今では、そんな傷があったのかも疑わしいぐらいだ。
そして、目が覚めるまでずっとナミの側についていてくれたそうだ。ナミはその話を聞くと、嬉しくて泣きた
くなった。同時に、村の人達には敵わないと思った。
 一方、王様はナミの拳がトラウマになり、夢の中でもあの小娘・・・いや大娘がわしを襲いかかってくる〜
などととても王を続けていけるようではなかった。そして、王はある日自室の果物ナイフで自殺をしていた。
そして、現在はその王の息子が王様になった。息子は前の王とは違い、戦争を好まない。できれば穏便でいた
いという感じだ。そして、今まで支配下にしていたところを解放し、ナミの看病を手伝いもした。
「この件は本当に申し訳ありませんでした」
「え、あ・・・いえ、こちらこそありがとうございます」
 など、ギクシャクした会話がおもしろく、村人達は高らかに笑った。



 でも、ナミはこのすばらしい時間が永遠に続けばいいと思った。
 







 
 嵐のショックで記憶を失った少女。
 未だ、自分のことは思い出せない。
 自分はどこから来たのか。
 自分は前までどうだったのか。
 わからない。
 いつ思い出すかも
 わからない。
 思い出したらどうしよう。
 わからない。
 でも、1つだけ思い出したことはある。
 少女は記憶を失う前の頃と比べると、
 
 笑顔を見せるようになったことだ。