かつて、この星に宇宙人が現れた。

 突然現れ破壊活動をするのかと思えば、突然車を弁償したり、ため息を吐き、開き直ったのか破壊活動を始めるや
否や、火災現場に向かい逃げ遅れた人々を救助した後に用を模様し、その場から姿を消した。その後、被害者当てには
十分すぎる金が振り込まれ、不幸中の幸いなのか死傷者はゼロ。本当に何子に来たのかは謎の出来事が起きのたのであった。
 しかし、この出来事をきっかけに新たな課題が浮き出てきたのだ。今回の件、ヒト型の宇宙生命体は我々に危害を
少なからずは与えたが、いつ地球外生命体が攻めこんでくるかはわからない。これはどこの国にも共通して言える事でも
あった。
 あの出来事から2年が経とうとしたした頃だった。地球外生命体対策本部等々準備が進んだ頃に、街中に奇妙な光が
突然出現した。あの時と一緒の感覚、もしやまたあの宇宙人が現れたのか。奇妙な光はやがて大きな球体を作り出し、
より一層大きく膨れ上がっていく。人々は恐る恐るもその球体から逃げるように動く者も入れば、その場に立ち止まり、
見つめる者もいた。
 しかし、強すぎる光に人々が目を晦ますと、光は音もなく消滅。代わりに光の球体からは巨大な生命体が現れたのだった。
全長30mはあろうであろう身体から、巨大で大きな球体を持ち、8本の触手を生やす謎の生き物は、まるでタコをそのまま
大きくしたかのような生命体であった。
 人々は驚いた。もちろん巨大すぎるタコの存在から当然驚く者もいるのだが、一部からは「なんだタコかよ」
「金髪のあの子じゃねぇのかよ」といった文句がとぶぐらいだった。
 その期待はずれだった発言に巨大なタコは腹をたてたのか行動を開始したのであった。タコはズズズっと地響きを
立てながら当たりを散策を開始。民間の住む住宅街が次々と襲われた。タコの巨体に押し潰されていく住宅もあれば、
周りをばたばたと暴れる触手がありとあらゆる物を叩き潰すしてはなぎ払う。車、電柱、家であろうが関係なく、ただただ
無造作に破壊の限りを尽くす。
 タコの狙いは、謎である。だが、あの時の宇宙人とは違いヒトの言葉を話さず暴れだした。交渉なども無理であろう。
タコの進行先には都市がある。なんとしてでもタコを都市へ到達するまえに仕留める必要がある。軍はただちに戦闘機を
展開。タコを発見次第、ガトリングガンからミサイルで先制攻撃を開始、少し遅れを取りながらも戦車隊もタコの後を追う。
触手を交わしながら攻撃を続ける戦闘機だが、何機かはタコの触手に撃ち落とされていく。それでも、戦車隊が来るまでに
なんとか時間を稼いだ。無事、戦車隊が到着した。戦車は一斉に巨大タコ目掛けて攻撃を開始、大きすぎる的にはどれも
吸い込まれていくように命中。
 しかし、戦闘機先に攻撃している中で薄々嫌な感じを感じていた。爆炎の中から姿を現すタコには傷など一つなく、
弱っている、攻撃が効いているという手応えがまるでないのだ。だが、ここで怯んでは何のための地球外生命体対策なのか
わからなくなってしまう。半ばヤケクソ気味に次々と加勢する増援ともに巨大なタコに攻撃を続けるも時間の問題だった。
タコもこちらの動きがわかっているのか、ミサイルを触手で払ったり、戦車を持ち上げては遠くへ投げてみせたり、地面を
刳りながら戦車を薙ぎ払ったりと逆にこちらを追い込んでいく。
 巨大タコとの戦闘を開始して数時間が経過した頃だった。一部からは核を使わざるを得ないなどの案も浮かんできた。
しかし、それでは軍の攻撃を受けながらも着実に都市へと向かっているタコを命中したとしても都市をふっ飛ばす事にも
なる。その他にも環境面にも被害が及ぶ。
 
 いったい、どうしたらいいんだ。

 深い闇の中、世界は混沌の渦に巻き込まれていた。
 怒り。
 悲しみ。
 驚き。
 恐怖。
 助けを求める声を聞きつけ、あの宇宙人が舞い戻ってきた。

 都市の中にあるとある公園。
 かつてあの宇宙人が現れた公園から突如、時空の歪みのような割れ目ものが発生したのだ。そして、その割れ目から
両手でこじあけるとまるで、公園のベンチから飛び出してきたかのように時空の割れ目から巨大宇宙人、奈々が姿を表した
のであった。

 *

 ズゥゥウン

 移動は一瞬で終わった。
 私はキョロキョロと当たりを見渡すと、前に来た時と一緒であのビル達が立ち並んでいた。そして、少し奥の方に目を
配れば以前私がつけた爪痕は綺麗に修復されているのを確認すると、ほっと、内心安心し、胸をなでおろした。

 あの出来事から2ヶ月、この星、T-9からすれば2年ほど経つのだろう。私自身、ストレス発散で買ったつもりだった
この星であったが、やっぱり私には破壊の女神なんてことはできなかった。やはり、悪いことは悪い。この星が作り物か
天然の物なのかわからないけど、自分の中にある良心には逆らえなかった。無造作に一部都市を破壊してみて、気分が
良かったのは正直な所だが、現実世界で、巨大地震で建物の破壊されているシーンを見た時、私もあの星にこのぐらい
暴れようと思えば暴れられたんだってのを考えた時、非常にぬるい事をしてしまったと思った。と、同時に非常に悪い事を
したと思った。
 なぜ、そう思ったのか。それは、もし、私があの星の住人でこの様なボロボロになった街をみてどう思うのかと思った時、
気が気でいられず、なかなか気持ちの整理がつかなくなっていた。数日間、そんなもやもやを抱えていて私はあの星に約束
した事、かっこいいスポーツカーの弁償をすることと同時にその被害にあった方へ独自で調べ、弁償したのだった。
 そんな事、する必要なんてないのだろうけど、償いだと思えば、ゲームに課金したと思えばっと思いやったのだ。
あ、でも、ゲームへの課金は私自身、少ししかしてないから大丈夫だよ。こっちとあっちとでは金銭面は10000倍ぐらい差が
あるから全然平気である。とりあえず、無事綺麗に修復されている街並みを見れて一安心。
 今日は、ジオラマの街を観光でもしようかと遊びにきた。本当は、そんな事して許されるようなんじゃないけど、
いざこの星に来ると気が高ぶって、小人の言う事なんて無視して好き勝手にしたくなる。
 でも、私は反省したのだ。中にはこの星シリーズを独自の性癖の道具にしている話も耳にした。なんというか、私からは
想像もつかないような事、パンツ越しから生で、買ってきた星をボールを掴むようにして、股間に押し付けるやり方。
力加減を誤ると生卵が割れたようになるみたい。男性の場合は勃起した性器をそのまま星に突き刺し、アダルトグッツ同様に
処理しているとか。世の中、恐ろしい変態がいるもんだと思った。
 おかげで、この星シリーズの消費も拡大。生産が追いつかないのもあり、間違った遊び方をして病気を患ってしまう一部
愚か者もいるようで製造中止。運良く天然モノを見つけるか、ネットオークションで入手するしか方法はない。
私が持っているこの『T-9』はお店で買ったもので、店員に聞いてみたところ、作り物なのか天然ものかはわからない。
鑑定にだせばわかるけど、プレミアものになって途中で紛失しても責任は持てない話を聞いた。

 そういった話を聞いて、私はこの星を大切にしようと決めたのだ。そして、今回久しぶりに遊びに来たのはいいが、
過去の記憶を思い辿っていくに連れて後ろで何やらドンパチしている音が聞こえる。まさか、軍が私に攻撃してきているのか
くるりと足元の公園の土をグリっと刳りながら後ろを見ると、どうも黒煙が上がっている。
 何かあったのかしら?
 目を凝らしながら凝視していると、足元から声が聞こえてきた。
「あー、でっかいおねーちゃんだー!」
 この星の惑星の子供の声。私は足元に目をやるとジャングルジムで遊んでいる子供たちがいた。っていうか、さっきの
一回転でよくふっ飛ばされなかったわね・・・。
「こ、こんにちわ~」
 とりあえず、私はぎこちなく手を振りながら挨拶を返す。はて、私はこの星ではどんなキャラだったのだろうか。
この子は私の事を知っているみたいだから聞いてみようかしら。私はゆっくりとしゃがみ込むとジャングルジムで遊ぶ
子供たちに視線を落とす。
「えーっと、ぼく? 今この星で何が起きているかわかるかな~?」
 なるべく声をかき消して話をかけて来たであろう子供に声かける。すると子供たちは顔を合わせ、何か喋った後に、
元気よく大きな声で返事を返してきた。
「タコ!」
「たこ?」
「タコ怪獣が暴れているのー」
 タコ怪獣が暴れている。はて、私以外この星に来れる方法があるのだろうか。少し疑問にも思ったが、空気中には
目には見えない細菌が浮遊しているように、私達の知らないところに細菌とはまた別の生き物がいるのであろう。
そして、その生物が偶然私の持つ星に付着して暴れているってことなのかしら。
「よし、じゃあお姉ちゃんがその怪獣やっつけてあげるわ」
「ほんとにー?」
「えぇ、本当よ。そんな事より、遊んでないであなた達も逃げなさい」
「はーい」
 子供たちは元気よく返事を返すと、ジャングルジムから降りると、私の股下をくぐり抜けるように子供たちは
走り去って行った。股下をくぐり抜ける際に「しまぱーん」とか「すげー」とか「こらー男子ー」っと、子供は元気だなぁ
っと思ったのであった。
 さて、私は私の星を荒らす怪獣さんでも倒しに行きますかね。

 *

 ズシィン、ズシィン

 なるべく壊さないように注意を払いながら黒煙の上がっている方目指して進む私。道路はどうしても私の体重を支える
事ができずに無残に足跡を深々と刻みこんでしまったが、それは仕方がないことである。道幅が狭くなれば体を横にして
進んでは、スカートが引っかからないように注意を払い、たくし上げたり、恥ずかしい思いもしながらズンズンと進むと、
やっぱり無駄に大きい建物もまた厄介である。お尻でビルを押し倒す訳にも行かない。なるべく、被害の少なそうな所、
私は前屈み気味になりながら、胸でビルの屋上のフェンスを押し潰し、天井を少し胸で擦らせれば、振動で貯蔵タンクを
横倒しにしたりとした。もう、本当に弱いんだから。
 苦労しながら街を出ると、本当に巨大なタコがいた。全長が自分の半分ぐらいはあるんじゃないかと思うぐらい。
しかし、所詮タコである。どこの世界のタコなのかはわからないが、私はこの星より遥かに大きい。私の住む世界基準の
未確認のタコであれば、私とそのタコの大きさの差は大変な差になる。
 私は、ズンズンとタコに近づくと、頑張って戦っていた戦闘機は自主的にタコから散っていった。物分かりが良くて
助かる。
「さて、貴方は私の星で何をしているのかしら?」
 タコに話かけてみるものの、タコから返事はない。代わりににゅるにゅると右足に触手を伸ばし、巻き付いてきた。
「はぁ、まぁそんな事だろうと思っていたけど」
 私はタコの頭を掴むとそのまま勢い良く持ち上げると、なんともあっけなくブチブチっと数本の触手が引きちぎれて
しまった。
「あら、随分と脆いのね」
 実際のタコだったらこんなことはならないんだろうなぁっと思いつつ。そのタコをそのまま地面に叩きつける。

 ズドォォォン

 タコはピクピクとまだ生きている。というか、こんな事したら小人達にはもの凄い地震が発生してしまったんじゃ
ないかとハッと反省する。しかし、どうやって、このタコを処分すればいいだろうか。この場で食べてしまうわけには
行かない。一応、今の大きさから更に大きくなって、タコを食べるという方法もあるが、それでは、知らぬ所で小人さんを
傷つけてしまうかもしれない。使いたくはないけど、アレしかないみたいだし。
「なるべく使いたくないけど、一撃で決めてあげるわ。めんどうだし」
 私はそういうと、再びタコを片手で持ち上げる。さっきのぬめぬめした感触から少しザラザラしている。私は天高く、
タコを放り投げる。そして、息を少し吐きながら身体を少しずつ屈め集中する。しばらくすると、私の体からは青白い光が
身に纏い始め、狙いを定め、身体のバネを伸ばすかのように右人差し指をタコ目掛けると、指先から青白い光が勢い良く
ビームを射出。ビームは無事タコに命中するなりその場で消滅した。
「ふぅー」
 っと、深々とため息を吐く。正直この様な魔法は疲れるからなるべく使いたくないのだが、脆弱な小人の為だと思って
仕方なくしてあげた。
「まったく、貴方達はどうしようもないわね。せっかく久しぶりに遊びに来てあげたんだから、タコ如きに手こずらないで
 私を楽しませてよねっ!」
 っと、不甲斐ない軍隊達にむかって腕を組んで説教する私。しかし、こうではない。
「ま、貴方達が弱いのは知っていたけどね。これからも私が貴方達とは争わずに、仕方なく守ってあげるから、その、まぁ、
 仲良くしてよね」
 頬を指でかき、なんで私小人にこんな事言っているんだろうっとどことなく恥ずかしくなってきた。
「今日はこの辺にして置いてあげる。ま、また遊びに来るわよ」

 巨大な宇宙人、奈々はそう言い残すとその場からあの時同様に指をパチンっと鳴らすと、フッと光に包まれると音もなく
その場から姿を消し、元の自分の住む世界へと帰ったのであった。