10.
 土曜日。今日は七海と俊介はお互い夏服がないから一緒に買いに行くところだった。
街中を七海と俊介が2人で歩くとすごく目立つ。185cmの俊介は、通り過ぎる男性
よりはわずかながら大きかったり、俊介よりも大きな男性もいた。しかし、その男性よ
りはるかに背が高いのが、七海だ。彼女は自分で身長を測ってみると220cmもあり、
今尚成長が続いている。あの日から数日立ったが、七海の服は締め付けるという抵抗が
あった。七海は次第に周りの目線が気になってきた。
「しゅ、俊介君・・・」
「どうした七海?」
「あ、あのさ、私って変かな?」
「変って、どこが?」
「だって、みんな私達のほうジロジロ見てくるんだよ?
ほかにもヒソヒソと喋っている人もいるみたいだし」
七海は顔が赤くなりながら下を向いたまま歩いた。俊介は左右に目を泳がすと通り
過ぎた人を見るとなにやらコソコソとしていた。
「大丈夫だよ七海。お前はお前なんだ。背が大きいからみんな珍しく見ているだけだよ」
「そ、そうかな・・・」
「そうだよ。女性で七海ぐらい大きい人なんていないぞ」
そういうと俊介は七海の背中にポンと叩いた。七海は「ありがとう」と小さく言った。
こうして、2人は歩いて、学校指定の制服が売っている店についた。

 店につくなり七海と俊介は中に入った。店が開く時間に着たので、七海と俊介以外の
客はまだ来ていなかった。俊介は普通に入っているが、七海は上のほうを気にしながら
入った。自分の家の天井に頭がつきそうな状態なので、入るたびに七海は天井を警戒
しながら入っていった。天井までは七海の家よりまだ余裕があった。
「いらっしゃいませ」
と店員。店員が俊介と七海のもとに来た。七海はこの店員も驚くのかと思ったが、特に
大げさに驚きを見せず、トントンと話を進めた。俊介の身長は185cmなので、
185cm用の制服を店員が準備をした。次は七海の番だ。
「お客様の身長は何cmでしょうか?」
「え〜っと、私最近身長が伸びっぱなしなので、何cmかよくわからないんです」
「では、学校で身体測定のときの身長は何cmか覚えていますか?」
「はい・・・」
それから、七海は黙ってしまった。今まで、身長伸びた〜とはしゃいでいた七海であったが、
学校で測ったときの身体測定の身長は141cm。前に測ったときは役220cmで、
身体測定のときとの差が79cmもある。これを店員は信じてくれないと七海は
考えてしまった。
「お客様?」
「あ、はい。え〜っと、信じてもらえないと思うんでうすけど、141cmでした」
あ〜ぁいっちゃったと七海は思った。店員も最初は「なんだって?」と言いそうな顔を
していたが、何かを思い出したかのように七海に答えた。
「失礼ですが、お客様の名前は永井七海さんでしょうか?」
「は、はい。そうですけど・・・。どうしてわかるんですか」
「え〜っと、ですね。過去に女性とは思えないサイズの制服を買った人が軽く、
七海さんのことも話していたので七海さんじゃないかと思いまして」
母の仕業かと七海は思ったが、自分の急成長で母が何度もこの店を訪れていたんだな
と改めて思った。
「それでは、改めて身長を測りますので永井さんこちらへどうぞ」
そういうと店員が七海に身体測定に使う身体計の置いてある部屋に連れて行った。
俊介はその後ろをついていく。俊介も七海の身長がどのくらいあるのか知りたかった。
 部屋に着くなり、七海は身体計では測ることはできなかった。それは、前々から
知っていたが、最近身体計とあったときとはそうとう七海は大きくなっていた。2mの
身体計が今では七海の肩ぐらいまでの大きさしかない。店員も困ったらしく、奥の
ほうから大きい身体計を持ってきた。その身体計は七海よりも大きい。身体計が天井に
つきそうなぐらい大きい。
「驚きましたか?この店に過去に2m越えの生徒さんがいたので、特注品の身体計が
おいてあるんですよ」
「この身体計て、最高何cmですか?」
今まで見たことのない身体計。七海は瞬時にこれよりも大きくなりたいと感じた。
店員がイスに乗り一番上のメモリを読むと、この身体計は250cm用だということだ。
身体計が250cmというとこからみると天井は255cmだ。七海はその大きな身体計に
乗ると店員がメモリを見る。
「え〜と、永井さんは225cmですね」
「ほ、本当ですか!?」
七海は驚きの声をあげた。昨日のお風呂後では、220cmだった七海であったが、
たった1日で5cm伸びたのは過去になかった。突然とはいえ、このまま大きく
なってくれるといいなと七海は思った。
そのあと、七海は今後の成長も考えて大きめの250cm用に制服を頼んだ。
店員からは「そこまで大きくなりますか〜?」と笑われたが、今日の出来事で一気に
5cm伸びた七海には250cmは簡単に到達するという自信があった。俊介は
そのまま購入。七海は出来次第連絡を入れるということで2人は店をでた。

 2人が店をでたときにはお昼を回っていた。お腹が減ったので二人は軽く、
ファーストフード店で食事をとると、俊介が七海を見てみると、七海の服が
窮屈そうに見える。あの山での出来事以来である。
「なぁ、七海。服大丈夫か?」
俊介が七海の服装を見て言う。座っているときの七海のジーパン(間に合わせで買ってきたヤツ)
の裾は履いている靴より10cm以上上がっていて、まもなく膝まで行きそうだ。
座っているときは特に気にならないが、七海が立つと服から可愛らしくおへそが見え、
七海の成長途上の胸が強調される。
「ん〜、実は危ないんだよね〜。あははは・・・」
右手で頭をかきながら七海は苦笑した。
「じゃあさ、今から服買いに行こうよ」
「え!?いや、だって、俊介君もいるし・・・」
「俺は気にしなくていいよ。俺は前みたいに七海に丁度いい服を持ってくる服はないぞ」
その俊介の何気ない言葉が七海にとって「今度服が破けたときには助ける服ないぞ」と聞こえた。
「むぅ、俊介君がいいなら、別に・・・いいょぅ・・・・」
七海は顔を赤くしながらストローからジュースを飲んだ。ジュースを飲むと、すぐさま
ズズズと七海の紙コップから聞こえた。ただでさえ、赤く顔がなっている状態だった
七海はもっと顔を赤くした。手はジーパンの上に乗せ、グーを作っている。七海は
恥ずかしいようで嬉しいような気分になっていた。

 それから、しばらく歩くと洋服屋が見えてきた。大きさ中型スーパーぐらいはあるが、
出入口では七海は体を少し曲げないと中には入れないが、中に入ると背が伸ばせた。
さきほど制服を買った店よりは天井より余裕があった。
 しかし、この店では七海のサイズに会う服はなかった。2mを越している女性の服は
流石に置いていなかった。しかたがないので、七海はオーダーメイドで服を注文する
ことにした。

 帰り道。洋服選びに悩んだりして、七海はちょっとくたくたになっていた。今日は
あっちこっちに歩いて疲れがたまってきて眠気も回ってきていた。
「ふぁ〜」
思わず七海はあくびをする。間の抜けた声が七海の口からでてきた。
「大丈夫?」
と俊介。七海は目線を下にすると俊介は七海を見上げていた。七海は目をこすりながら
「うん、大丈夫。今日はあっちこっち歩き回って眠くなっちゃった」
時間帯には夕方。ほぼ一日中歩き回っていたのだ。俊介も「確かに今日は疲れたね」
と言うが、七海みたいにフラフラ歩いているようではない。七海は荷物という荷物は
ないが、両手がブランと下がり、若干猫背になっていた。1人にすれば道路で
寝てしまいそうな顔をしている。そんな七海を見ていられなくなった俊介は左肩に
荷物を背負い、右手で七海の左手を握った。
「っえ、あの、しゅ、俊介君!?」
思わず七海は声を出した。無防備だった両手のうちの左手が俊介と手をつないで
いるからだ。急な出来事に七海は顔が真っ赤になり、目は漫画とかによくでてくる
グルグルマークのような目になった。そんな七海の反応を面白く見る俊介。
「ははは、七海って面白い反応を見せるね。手でもつながないと七海寝そうだからさ」
「っな!わ、私は酔っ払いと同じ扱いしないでよー!」
「ごめん、ごめん。あと少しだからがんばって歩いてね」
俊介はそういうと七海は「もー!!」と言い、頭からプンスカプンスカという擬音が
でてきそうだった。こうして、2人を見ているとまるで親と子。七海が親で俊介が
子供に見えるが、近くで見ると2人の身長の大きさに驚くだろう。

 七海と俊介はT字の道路で別れた。七海は俊介に馬鹿にされていた悔しさは今は
もうない。それどころか安心していた。前に、自分が犯したことに俊介に嫌われて
ないかと思っていた七海であったが、こうして手と手をつないで歩いたのは七海に
とって予期せぬできごとであった。
「俊介君の手・・・あったたかったな」
顔がポッと赤くなり、両手をギュッと握りながら思い出す。不意の出来事で何も
かも真っ白になりただ顔を赤くすることしかできなかった自分を恨んだが、この
ドキドキ感は七海にとって嬉しかった。
「仲直り、できたかな。うぅん、できた!」
道路を1人歩く七海はぐーんっと背伸びをした。仲直りはしていたが、今1つ安心して
いなかった七海のごちゃごちゃが解決され、安心から今日の疲労がどっときた。
 それから、七海は家に着くなり、七海は夕食をとる前に自分の部屋に戻った。七海は
普段はベッドの上で寝ているが、ベッドの上で寝る前に力尽きてそのまま床に静かに
倒れて眠ってしまった。