11.
 月曜日。
 土日が終わり、6月に入り、今日から夏服で学校に登校しなければならない。七海は注文しておいた制服がで
きあがったのだが、注文先の店で新米の店員の聞き間違いで250cmから270cmの制服を七海は受け取っ
てしまった。七海は自分の成長を信じて返品はせずに、そのまま受け取った。七海はいつも道理に自分の席に座
り、机に伏せて、ぶらーんと腕を出している。
「あ〜、やっぱり。返品すればよかったかな〜」
周りを見ると、みんな自分の身長にあっていて“夏”という感じだった。七海はそれに比べて、ダブダブだ。
店の方では「ダメだと判断したら、いつでも来てください」といっていたが、着てから交換するっというのも
なんかおかしい気がするが、それに、あの新米の店員のことも考えると・・・七海は迷ってしまう。
(でも、ここで弱音を吐いて、返品してくださいっていったら、あの新米の店員さんが可哀想だし・・・。
・・・よし、自分の今後の発育に期待しよう!うん)

 そんな、ある日だった。ぶかぶかしている制服での授業もようやく終わり、部活無所属の本気を出せばすごい
身体能力があるということで部活動のスカウトが来ている。特に、バスケ部やバレー部からのラブコールは絶え
ない。七海はなんとか困った笑顔で断っているが毎日スカウトは来ている。そして、今も部活動への勧誘が来て
いる。
「ねーねー、七海ちゃん!一緒にバレーやろうよ」
「そんなのより、バスケにきてよ〜、救世主待ちなんだよ〜」
「いやいや、たまにはゆっくりお茶なんてどうですかにゃ〜?」
 今回は珍しく茶道部もいるようだ。いい加減七海は嫌になってきていた。確かに七海の学校の部活動は強い所
と弱い所の差が強い。特に、バスケ部とバレー部はお遊びレベルのゆるい部活と定評があり、この時期に七海が
入るだけでも全然変わるものだ。まず、ポイントゲッターはほしいものだ。
「い、いや〜、なんというか・・・その・・・ま、また今度で〜・・・」
 この台詞で一機に逃げようとした七海であったが、前方にむらむらと沸いて動けなくなってしまった。
『ダメダメ!早くしないと大会はじまっちゃうよ!』
「茶道部はいつでもまってるにゃ〜」
 一名脱落。いや、あの子は何しにきたのだろうかっと七海は思いながら茶道部の後ろ姿を見ていた。1人でと
ことこと校舎に向かっている。
(あ、同じクラスの猫山さんだ。てか、茶道部だったんだ・・・)
 七海にも彼女と同じ身長の時があったが、彼女よりは小さくなかったが、今の七海は軽く1m以上差のある子
だ。下では、部活動の人たちが七海に声をかけていたが一切相手にしていなかった。
「ねぇねぇ、あの子じゃない?」
「ん〜、そうかもね〜」
「すみませーん!永井七海さんでしょうかー?」
 門の方から七海を呼ぶ声が聞こえた。七海は自分を呼んでいるほうに向かってみると、2人の女性が門の所に
立っていた。が、七海は驚き少し後ろに下がってしまった。
「でか!」
「七海ちゃん並って・・・いるもんなんだ・・・」
 バレー部もバスケ部も驚きのざわめき。
「えー、なんで私のことを・・・あー、いやいや、え、えーっと、トモダチまってるから、じゃ、また今度〜」
 そういうと七海の周りの人もあ然として何も言えなかった。

 帰り道。今日は知らない人と一緒。
「あの、さっきはありがとう・・・ございました・・・」
 と七海が2人に頭を下げる。
「え?私達ただ呼んだだけだよ?何も頭をさげなくてもねぇ三咲〜」
「そうそう、呼んだだけ呼んだだけ気にしなくてもいいんだよ〜」
「それよりさ、今から・・・暇かな?」
 頭を下げている七海の顔を覗きこんでいる女の子が七海にきいてみる。
「あ、用事あるんなら私達帰るから気にしなくていいからね」
「でも、暇そうじゃない?」
「アンタとは違うかも知れないんだよ?優衣」
 七海は頭をあげてみる。2人はまだあーだこーだと話をしている。七海はこれからやることも特にない。まし
てや、これは何かの運命を感じそうなぐらいだった。七海は今、自分と同じ目線ぐらいの女の子同士の漫才に近
い会話が繰り広がっている。
「あ、私はぜんぜん大丈夫です」
 2人は七海の「ぜんぜん大丈夫です」に気がついたのは10分後で、とりあえず三人は公園に向かった。

 公園につくと、滑り台やブランコ、砂場やシーソー、ジャンブルジムなど小さい頃よく遊んだ遊具が置いてあ
る。しかし、七海とその遊具を比べるともう遊んじゃダメだよ?と大人の方から注意されそうだ。
「あの〜、初対面で失礼なんですけど・・・どうして私のことを?」
「えーっとだね。どこで〜って言われたら・・・風の噂かな?」
 滑り台に乗ろうとしていた女の子が空を見ながら答えた。その姿を見て「まったく・・・」という顔をしてい
る女の子が声をかけてきた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は三咲といいます。で、あそこのデカイのが優衣です」
「あ、私は七海といいます。高校2年生です」
 七海もあわてて自己紹介をする。
「ねーねー、三咲〜私、いま何cmぐらいの視線かな〜?」
「5mはあるんじゃない?あ、はしゃいでるから気にしなくていいからね」
「は、はぁ・・・」
「七海さんは、今何cmぐらいあるの?」
 やけに落ち着いている三咲が七海に聞く。
「えーっと、服は・・・わけアリで270cm用で、今は220ぐらいです・・・」
「ふーん、220ねぇ〜大変だね。これから」
 ニコッと三咲は笑った。すると、滑り台から戻ってきた優衣が七海に聞く。
「今何年生〜?」
「え?あ、高校2年生です」
「優衣、最初に言ってたよ・・・」
 片方が肩をがくっと落としている隣では「そうだったそうだった」と手でポンポンと叩いている。
「七海ちゃん、私達も高校2年生ぐらいで急に身長伸びたから同じだね」
「え?優衣さんと三咲さんは・・・その、学生なんですか?」
「私達は去年卒業で来年からおばさんだよ」
「今年は2人で海外の方で勉強しようと思っているの」
「そうそう、三咲ったら留学組にギリギリ入ったのだよ」
「うるさいなぁ・・・」
 三咲がぷいっと頬を膨らますと楽しそうに優衣は頬をつんつんと指でつついていた。楽しそうに突いていた優衣
だったが、何かを思い出したかのように突くのを止めた。
「そういえば、私達も高校2年生で急に伸びたね〜最初は私で、次に三咲」
 頬を膨らませていた三咲も口を開いた。
「そうそう、急にね。ソレまでお互いに体も弱くてどうしようもなかったのに?」
「あ、そうだ!七海ちゃんは今風邪ひいてるかな?」
「え、いや、風邪は・・・引いてないですねぇ・・・」
「じゃあ、これもってると良いよ!」
 そういうと、七海は優衣から白い粉の入っている袋をもらった。
「あの、コレなんですか?」
「風邪薬」
「え?」
 風邪も引いてないのに「ハイ、これあげる」はどうかと思った。が三咲も面白そうに続いてこういった。
「麻薬じゃないの?」
「えぇ?」
「まー、寝付けなかったら飲むといいわよ。てか、それまだ持ってたの?」
 と三咲が優衣に聞くと。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと冷蔵庫に入れておいたから」
「冷蔵庫に入れてても一昨年の薬をまだもっているなんてねぇ・・・」
「えええぇ!?」
 流石に、七海もこれもらっても、困るよっと顔にだしながら言ってしまった。
「え〜。たまに冷蔵庫からでてこない?謎の風邪薬」
「あんただけだよ。優衣」
「そうかな〜」

 それから3人は雑談を公園でしていた。公園を通りかかった人たちは3人の女性が公園で立ち話をしているの
を一回みてしまう。目の前にあるベンチは普通の女子高生なら3人は軽くすわれそうだが、そのベンチはもはや
空気である。彼女らが七海に会いにきたのは海外に行く前に、1回ぐらいは目にしておきたいと思ったのだった。
七海は最近、自分ばっかりがこんなに急成長しておかしいものだと思っていたが、こうして目と目を向き合って
話せるというのがなんとなく懐かしく感じた。
 全国は、ひろいんだなあ。と七海は思った。
「そういえば、優衣さんと三咲さんは部活動とかしてましたか?」
「私はしてなかったかな〜」
「私もしてなかったけど、してたと思った?」
「はい、私・・・。ある日の体育以来ちょっと目を付けられたと思ったら6月になってから急に勧誘にきまして」
 ははは、と七海は苦笑いをした。
「それで、あんなに集まっていたのね」
「てっきりファンかと思ってたよ。私達もだけどね。ねぇ、三咲」
「で、七海さんはどうなの?」
「私は、できれば何もしたくないんだけど・・・どうしてもっていうなら・・・」
「嫌なものは断ったほうがいいよー」
「優衣の意見も一理あるわね。でも、したくもないのに入るんだったら思いっきり断ってみたら?」
「そうですね・・・。ありがとうございます。」

 気がつけば、日は落ちていた。優衣と三咲が帰るときに急に来て申し訳なく思ったのか優衣が七海に「今日は
急にきてごめんね!」と言った。しかし、七海は「いえ、全然大丈夫ですよ」と答えた。それから七海は優衣達
と別れた。七海は優衣と三咲に会ってよかったと思えた。年は離れているけどなんだか、同じ年頃のような感じ
に会話ができた。

 次の日。授業が終わり、教室をでようとしたらさっそくバレー部とバスケ部と・・・茶道部がいた。他の生徒
からみると「またやってるよ」と思っている人もいれば「なんで茶道部もいるんだ」と突っ込みを入れている人
もいるだろう。
「七海ちゃん!今日こそバレー部に!」
「バレー部よりバスケ部においでよ!」
「茶道部は人が少なくて寂しいにゃ〜」
 次から次へと人が集まってくる。もはや、増援を呼んでどっちが熱意があるかどうかみたいな感じにも見えつ
つある。七海も困りきってしまった。中途半端に答えるのもダメだと思い、七海は思い切って言ってみることに
した。
「私、バレーもバスケも興味ないので、やりたくありません」
 お祭りの用に沸いていた生徒達も急に静かになった。まさか、七海ともある方がこんなにもキッパリいえると
は思いもしなかった。しかし、バスケ部は諦めなかった。
「で、でも。七海ちゃんなら・・・」
「茶道部はどうかにゃ〜?」
「じゃあ、茶道部に入ります。よろしくお願いします。猫山さん」
 最後に声をかけたバスケ部はその場で崩れた。そして、諦めたかのようにみんなそれぞれのところに帰ってい
った。また、部外者の者もまさか茶道部が勝つとは思ってもいなかったろう。
「じゃー、職員室で手続きをおねがいするにゃ〜」
「うん。茶道部って何をするの?」
「これといって、何もしないにゃ〜。何かに所属していればもうスカウトは来ないと思うにゃ〜」
 七海は何も言えなかった。じゃあ、なんで私を誘ったのかと思った。まぁ、バスケもバレーもしたくはなかっ
たのは一理あるが、どこかに所属していればもうあんな騒動に巻き込まれはしない。
「猫山さん・・・もしかして私のために・・・?」
「泥舟、泥舟。泥舟にゃ〜」

 高校2年生の6月に七海は茶道部に入部した。入部してからは、毎日のように来ていたバレー部もバスケ部も
来なくなった。そして、七海には日常が帰ってきたのであった。