8.
 朝になり、窓から差し込む太陽の光に七海は目が覚めた。七海は体の上半身を
起こし、両手を上に伸ばした。いつもとかわらないな〜っと思いつつ七海は洗面
所に向かおうとした。改めて扉と七海を比べてみると、扉の方が小さく膝を小さ
く曲げなければならなかった。それから、七海はいつもどうり朝食をとり、学校
に向かったのであった。
 昨日は、途中までずっと走っていて回りがよくわからなかったが、ほとんどの
物が七海より小さい。学校に行く時に七海は最近よく思うことがある。それは、
『今この通学中にも背が伸びているんじゃないか』ということだ。七海自身そう
なってほしいとも思った。昨日の時点で身長が205cmあり、七海は先生方に
『一番大きな生徒って何センチですか?』っと七海は帰る際に先生に聞いてみる
と、七海が一番大きいと先生は答えた。もちろん、男女をあわせても七海よりで
かい生徒はいない。4月まで、中学生レベルの身長だった七海が今では2mとい
う長身の女の子になり、身長が伸びるにつれて七海の胸も大きくなってきている
のがわかった。
「本当に、大きくなったな〜。4月までチビだったのにね〜。今じゃこんなに大
きくなっちゃったし、嬉しいな〜。学校着いたら何センチなっているのかな〜♪」
七海はウキウキしながら学校に向かった。学校に行けば、俊介と会える。七海自
身よく俊介と身長を比べてみたな〜っと思った。今では、七海の方が大きい。昨
日の時点では俊介のおでこにキスをしやすい位置にいた。
(昨日はおでこにキスしやすい位置だったし、今日はどこかな?)
七海はそのことを考えるだけで顔がニヤニヤしてきていた。道端に誰もいないの
を確認したら、中学校1年生ぶりにスキップをしながら学校に向かい、七海は気
づいていないと思うが、体が浮くたびに七海の胸も大きく揺れた。
 学校に着くなり、七海は保健室には向かわず、まっすぐ自分のクラスに入った。
まぁ、今の七海では、1人で身長を計るのは難しい。2mの身体計ではもうはか
れないから、誰か1人にメジャーか何かで抑えてもらわないといけない。七海は
その抑えてもらう人を俊介にしてもらおうと考えた。自分の教室が近づき、七海
は教室に入ろうとした。
 ガツン!
「いっったぁーーーーいぃ〜〜〜」
七海はその場で両手を頭に押さえ、しゃがみこんでしまった。非常に鈍い音がし
たため、クラスにいた生徒も七海が教室の扉に頭をぶつけたのだとすぐにわかった。
(なんなのよ〜、もぅ・・・昨日はぶつからなかったのに・・・)
七海は片手でぶつけた頭をなでながら自分の席に歩いた。自分の席に向かった際
に、七海に「大丈夫かにゃ〜?」っと聞いてきた女子がいた。七海は「うん。
大丈夫だよ」っと頭をなでながら軽く笑った。しかし、七海の視線からだとその
女子の姿が見えにくい。七海の胸に心配できた女子が隠れそうになっていた。
さらに、その女子と七海と比べると七海の胸より下に頭があり、遠くからみると、
親子にも見えるほどであった。七海はその後俊介がいつ教室に入ってくるか楽し
みでずーっと教室の扉を眺めていた。眺めている時に私ってあんなところに頭を
ぶつけたんだなと改めて確認した。しばらくすると、俊介が教室に入ってきた。
七海はすぐにでも俊介のもとに行きたかったが、あえて我慢した。軽々しく俊介
に近寄ったら、クラスの1人や2人にからかわれそうだからあえて、七海は自分
の席から俊介を見た。俊介が七海の隣の席に座ると「おはよう、永井さん」っと
挨拶をしてきたので、七海も「おはよう、俊介君」っと返した。そこで、七海は
据わっている上体の目線で俊介と顔と顔とで挨拶をしたときに、目線が微妙に変
わっていたかな?っと七海は思った。
(放課後になれば、俊介と一緒だし、放課後まで楽しみは取っておこう)

 放課後になると、部活のある生徒はササっとクラスから出て行き、部活もなに
もやっていないものは残っていてもつまらないからとの理由で街に遊びに行きた
いが故に帰った者もいたが、まだ何人かは教室に残っている。七海は帰りの準備
をおわし、あたりを見渡すと俊介の姿を発見した。七海は前までだったら、探す
のでさえ、精一杯だったんだろうなっと七海は思った。七海は人ごみを抜け、
俊介の横に立つ。
「俊介君」
「どうしたの?永井さん?」
「えっとね、その、また、一緒に保健室・・・いってくれないかな」
七海はちょっと照れてしまった。2人っきりのときはあまり緊張しないが、今は
2人っきりでもないから、なんだか少し恥ずかしかった。
「いいよ。また、測ってあげるよ」
「あ、まだ何にもいってないのにぃ〜。どうしてわかったの〜」
「だって、七海また大きくなったかのように見えるし、気になってるでしょ?」
「まぁ〜、気になってるけど・・・」
七海は軽く頬をかいた。考えてみれば、七海は俊介と背を比べるというのを楽し
みに待っていたから、今日はほとんど自分の席からは動いておらず、動いたとい
ったら、近くに俊介がいないときぐらいだ。俊介が教室からでた後に、七海も
俊介とどんぐらい差がでたのかなっと軽く妄想しながら教室をでたら。
 ガン!!
朝と同じように頭をまた七海はぶった。右目に涙を浮かべ、泣かないように歯を
食いしっばった。保健室に行く際に七海はもう1つ気づいたことがあった。
なんだか、あと少しで学校の廊下の天井に頭がつくのではないかと七海は思った。
手を上に伸ばせば、余裕で天井に手が着いた。
 保健室に着くと、俊介は普通に保健室入り、七海は体を曲げて保健室に入った。
昨日使ったメジャーがそのまま机の上に置いてある。俊介はメジャーを取り出し、
七海の身長を測ろうとしたとき、七海は思った。俊介が昨日よりも小さくなって
いるからだ。事実上七海が大きくなっただけだが、昨日と比べると俊介より大き
くなってきている。この成長を維持できるのであれば、あと1週間もしないうち
に、俊介の顔を胸に挟めることが出来るであろうと七海は思った。
「俊介君ってさ、挟まれるのって好き?」
「・・・?どういう意味?」
「ん〜ん、なんでもない!気にしないでね」
「気になるから言えって」
「だって、ん〜、はずかしいからパス!」
それから、俊介は粘り強く『教えて!』っと言ったが、七海は首を左右に振って
拒否した。そのあと、俊介は七海の身長を計った。
「え〜っと、215cmだな」
「ほんとに〜?昨日より10cm伸びてるんじゃん!」
「本当に七海さんはどうしちゃったんだろうね〜、椅子使わないといけなくなる
とは思ってもいなかったよ」
「そんなの、私だって知りたいよ〜。急に大きくなったんだからさ〜」
っと、七海は照れながら俊介に言った。急に体が大きくなったのはあのノートの
おかげだなっと改めて七海はノートの有難みを知った。俊介が椅子から降りよう
としたとき、椅子の足が不注意にも折れた。
 バキィ!
「うわぁ!」
「危ない!俊介君」
七海は急いで回り込んで、倒れこむ俊介を受け止めて、そのまま床に倒れこんで
しまった。
「あたたたた・・・大丈夫?俊介君?」
七海は俊介に聞いたが、返事が返ってこない。七海はおかしいなと思ったが、
さっきからどうも胸がもぞもぞする感じがした。胸のほうを見ると俊介が七海の
球体に顔が入っていた。
(あは、俊介君の顔が胸にあるや〜)
七海は思わず、嬉しくなった。七海は自分の胸の中に俊介の頭がある。やって
みたいなと思っていた七海にとっては思わぬ所で叶ってしまった。俊介からすれば、
顔になんだかやわらかい物がある感じがするであろう。たとえるなら、
大きなマシュマロだろうか・・・。七海はそのまま俊介の頭に手をあて胸に
ギュ〜っとした。
「ん——!ん——!」
俊介は急に顔が締め付けられるような感じがし、急いで手と足をバタバタさせた。
急に息がしにくくなったんだろうなっと七海は思い小さく笑った。だんだん、胸
が熱くなってきた。
 ガラガラ
急に保健室の扉が開いた。近くを通った先生が保健室で変な音が聞こえたので、
実に来たようだった。先生と七海が目が合った瞬間に七海は俊介の頭から手をど
かした。
「・・・お前達なにやってんだ?」
「えーっと、そう、あれです先生!あの椅子が折れて、俊介君が倒れて、それを
受け止めたらこんな形になっただけで、
その、決して、変なことじゃないですから!!」
七海はやや早口になりながら、先生に告げた。
「まぁ、わかった。椅子が折れたかぁ。俊介!ケガはないか?」
そう先生が言うと俊介はゆっくりと体を起こして
「僕は、大丈夫です。七海さんが受け止めてくれたから」
「そうか、お前達早く離れなさい。変に見られるぞ」
そういうと、先生は扉を閉めてどこかへいってしまった。一瞬の嵐が去ったかの
ようだった。俊介は七海から退(ど)くと、一息ついて
「さっき、七海が言いたかったのがわかったよ」
「え?なんのことかな〜?」
七海は軽く胸をなでながら余所見をした。俊介はその七海を見る。七海の顔が
少し赤くなっていた。やりたいっと思っていたが、急に先生が現れて恥ずかしく
なったんだなっと俊介は思った。俊介は立ち上がり、七海に手をさし伸ばした伸
ばした。
「ありがとう、七海さん」
「え・・・?」
七海は怒られるのかと思ったが、急に俊介から「ありがとう」っと言ったのは
予想外だった。どうして、お礼を言われるかがわからなかった。
「僕が倒れるときに、僕を抱きとめてくれてありがとう」
あぁ、そっちかっと七海は思った。俊介が手を握り立ち上がる。スカートについ
ているゴミを手で払うと
「でも、急に締め付けるのはびっくりしちゃったけどね」
「えへへ、びっくりさせてみたかったんだもん。急に変なことしてごめんね俊介君」
流石に七海もやりすぎたなっと思った。
 帰り道、七海は俊介と別れた後最近のできごとを考えてみた。身長が伸びたの
は嬉しいが、なんだか、積極的になってきたような気がした。体育の時間も前ま
で、ただボーっとしていたぐらいだった七海が今じゃ前とは比べ物にならないぐ
らい動くようになったと思う。そして、今日の保健室での出来事。体が大きくな
ると気が大きくなってしまうのかなっと七海は思った。
「やっぱり、最後にやったのは・・・やりすぎたかな・・・俊介君は怒ってるよ
うに見せてなかったけど・・・内心怒っていたらどうしよう・・・」
急に七海はあの時した行動に後悔が残ってきた。やっぱり、やってはいけないこ
とだったんだなっと七海は思った。胸に手を当て、目をつぶった。俊介が自分の
胸でもぞもぞしていた。もぞもぞするってことは、苦しかったんだなっと七海は
反省した。しかし、違う見方をしてみた。
「男の子が女の人の胸に興味ってあるのかな?」
唐突に思った。七海は自分の胸を触ってみて思った。逆に嬉しかったんじゃない
かな?っと思った。
「でも、学校であんなことするのはやっぱり間違えているよね・・・」
七海はどっち道今日した行動は間違っていると解釈した。今度からは、変な事を
思いついてもしないようにしようっと七海は思い、家に帰った。