ある日のことだ。お嬢様が海岸を散歩していると、小さな人形のようなものを見つけた。お嬢様は
興味本位で近づいてみることにした。
「これは・・・」
 先日あった嵐で何か面白いものでも漂流していないかというだけの理由で海岸へと遊びに来ていたのだが、
こればっかりはお嬢様でも予想にもしていないものが流れついていたのだ。
 お嬢様が見つけたのは人形ではなく、小人。しかも、生きている。実際、お嬢様も小人を生で見るのは
初めてで少し動揺もしたが、これはある意味チャンスであると同時に思ったのであった。
 お嬢様はペットを飼ってみたかったのだ。しかし、今まで動物など飼ったこともなどなかったお嬢様に
うまく飼い慣らす自信は正直言ってなかった。
 しかし、人間の形をした小人ならどうだろうか?
 動物では言葉がわからないけど、小人なら言葉が通じ合う。動物より遥かに飼いやすい。最悪の場合は
少々手荒れであれ黙らせればいい訳だ。小人が巨人に敵うなどあり得ぬ話だ。
「ふふっ。さぁ、一緒に帰りましょうか」
 お嬢様は小人を片手で救い上げると、そのまま小人を持ち帰ったのであった。

 *

 あれから何時間経っただろう?

 あの嵐の中、俺は生きているのだろうか。視線は真っ暗で意識はある。目を閉じているから視界は真っ暗
なのは当たり前だ。だが、不可解な事がある。
 俺は本当に生きているのだろうか?
 船に乗り、嵐に襲われ、どこか遠くの島にでも漂流しているのであれば、俺はずぶ濡れで体中に砂塗れで
クソ気持ちの悪い思いをしているハズだ。
 しかし、今はどうだろうか。そんな不快な思いなどまるでない。むしろ、心地良い。
 だが、体全身を包み込む暖かさ。その心地よさが逆に不気味で、俺は死んでしまっているからそんな事も
感じずに済むようになっちまったのか。そう考えると、恐くて目も開けられない。
「あら?今、動いたのかしら?」
 人の声が聞こえる。しかも女性の。あぁ、なるほど。俺はこの人に助けてもらったのか。っと、なればこの
暖かさは布団の中で寝かされているのか。
 はは、とんだバカだな俺は。少々パニックになっていたようだ。どうして、素直に人から助けてもらったと
考えられなかったのか。俺はゆっくり目を開くと女性が俺を覗き込んでいた。
「あら、ご機嫌はいかがかしら?」 
 何かがおかしい。違和感はすぐに気づいた。手を伸ばせば届きそうな女性の顔であったが届かない距離に
ある事に気づいた。実際に手を伸ばしているわけではないが、目の前に映る女性があまりに巨大に感じる。
試しに周りを見渡せば、何も変哲のない部屋だ。
 では、何故彼女は巨大に感じる?
 これではまるで屋根を剥がされて巨人覗きこまれている。まるで、人形セットの家の中にでもいるような
感覚。
「ふふっ。私が怖い?」
 目を細め薄っすらと笑みを浮かべる彼女。しかし、彼女と目があっている以上すっとぼけている訳には
いかない。少し、怖いが話をしなければ進展はありえないな。
「ここは、どこなんだ?」
「ここ? そうねぇ・・・ここは、私の家の中の家よ」
「・・・家の中の家?」
「貴方は人形とその人形に合わせた家があるのってご存知かしら?」
「あ、あぁ。知ってるさ」
 どうやら、俺の考えはあっていたようだ。人形の家にいるという事は、俺は彼女から見れば巨大な人間。
そして、彼女からみれば俺はおもちゃの小人、ってところか。
「そう。ってことは、貴方と私はどういう立場にあるかって事ぐらい分かるわよね?」
「・・・俺をおもちゃか何かとでも?」
「失礼ね。海で漂流している汚いおもちゃなんて持って返ったりはしないわよ」
「・・・・」
「貴方は今日から私のペットになってもらうわよ。こ・び・と・さ・ん。死にゆく命を助けて
 あげたんだから当然よね?」
 おもちゃではなくペット、か。はは、相手が人間なだけでどうも捕虜か奴隷にでもなったかのような気分だ。
 しかし、こいつからはもうちょっと聞かねばならないことがある。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「何かしら小人さん?」
「俺の他に誰かいなかったか?」
「貴方以外ねぇ・・・それなら―――」
 そういうと彼女は天井から巨大な手を差し伸ばし、ベッドで寝ている俺を摘み上げる。背中から人差し指、
中指、薬指と差し込まれて胸元に親指で押さえられ、小指は膝を支えると、一気に俺の体は上昇した。
 家の中の家から出ると、そこは何から何まで巨大な家具が置かれている部屋に出た。そして、彼女と同じ
目線に立つと彼女はニッっと笑う。
「おいしかったわよ」
「なっ!?」
 右手で押さえられている俺にでもよくわかるかのように彼女は左手で自分のお腹を撫でていた。
「小人ってのはね。筋が多くて食べ難い生き物なのね。でも、そんな食べ難い生き物でも、口の中に放り込んで
 何回も何回も噛むと、血肉が口の中で弾けて、おいしかったわよ」
 な、何をいっているんだコイツは。俺以外は食べられた。だと・・・?
 冗談じゃねぇぜ。結局は俺もコイツに遊ばれて他のクルーと同じように食われるか、なぶり殺されっちまう。
「うふっ。冗談よ、じょーだん。貴方以外誰もいなかったわよ」
「へっ?」
「あら、脅かし過ぎたかしら? ごめんなさい。」
「じゃ、じゃあ俺は・・・」
「貴方は私がペットとして飼うだけよ? それとも逃げてみる? 最近、野犬が多いみたいだから下手に外に
 でるかは私に飼われている方が身の安全だと思うわよ? 私の気が変わらなければ、ね?」
「ぐぇっ」
 彼女が言い切ると同時に、ギュッと体全身を締め付けられた。確かに、歯向かわなければこうして彼女のペット
として生きていけるだろう。仮に逃げ出しても、俺以外は全て巨大だとすれば野犬は愚か野鼠相手でも俺からすれ
ば凶暴な小熊に襲われるような感覚になるんだろう。
 しかし、今は知らないことが多すぎる。俺は元は普通の人間だったが、ここでの俺は小人だ。周りが大きすぎる。
海の先には巨人の島があるっていう話は本当のようだっ・・・たな・・・。
「えっ? あっ! ちょっ! しっかりしなさい!!」
 薄れゆく意識の中、俺は彼女の慌ただしい声だけが残ったのであった。

 ・

 *

 小人を飼うようになってから数日が経った。初めの頃は力加減が難しく小人と接するのに苦労したが、今では
だいぶ慣れてきて小人に悪戯もなれたものだ。
 小人を拾った時は本当にに苦労した。私の誕生日の次の日に、小人と出会い飼うことにして早々に殺してしまい
そうになったからだ。ほんのちょっと握りしめただけで気を失うほど小人は弱いのだ。病み上がりってのもあった
かもしれないけど、本当に怖かった。ベッドの上に寝かせて、ずっと泣き崩れてて、小人が目を覚ますのを待って
たっけ。そこで、目を覚ました時は本当に嬉しかった。もし、死んでしまったら最悪の誕生日になってしまっていた。
 そこからだったかな。私が小人に自分の誕生日の話をした時、小人の誕生日を教えてもらった。私の誕生日と
同じ月に生まれて少し間がある日付。

 そして、今日という日は、この小人の誕生日なのだ。小人との接し方で散々、彼を痛めつけてしまった一面のある。
ので、今までの仕打ちにごめんなさいをつけるために彼にとびっきりのプレゼントをしようと思う。正直、私には
彼氏というものがいなく、異性の方が何を貰えれば嬉しいのかなんて検討もつかない。小人に直で聞く方法もあるけど、
それではおもしろくない。
 でも、実際の話何がいいのだろうか?異性と言っても相手は小人。遥かに小さい。彼の為に服をプレゼントをする?
っと言っても、人形用の服を着せるのも彼には厳しいのではないだろうか? 仮に私が作っても、小人用の服を作れる
ほど手先が器用というわけでもない。
 アクセサリーを作ってプレゼント! ・・・は無理か。彼の大きさにあるアクセサリーなんて作れるなんて本当の
ミニチュア職人ぐらいしかいないだろう。小人を収容するアクセサリーができてしまう。それはそれでアリなのかも
知れないけど『そのペンダントに俺をいれて何をする気だ!』って言われそうで受け入れてもらえなそう。
 でも、ペンダントは面白いわね。虐める道具としては。・・・じゃなくて、小人の彼が喜びそうなもの!
 純粋に男の子だったら、女の子の手料理を作って食べさせてあげたら飛んで喜ぶんじゃないかしら?
 私作ったこと一度もないけど。
 そうね。料理にしましょう。そういえば、最近竜の肉とか手に入ったとか聞いたような。ふふ、最高じゃない。
竜の力を彼に与えて大きくなったりしたらどうしましょう。彼は巨人となって、私達と同じぐらいになるのか、それとも
ドラゴン並に大きくなってしまうのか。色々と面白そうだわ。私達の大きさでもドラゴンは巨大な生物だから、小人の
彼達から見たら塵みたいなものなのかしら。そうね。彼には竜の肉を食べて強くなってもらわないと行けないわね。
 あっ、でもドラゴン並に大きくなってしまったら、私が一番の標的にされそう。まぁ、ドラゴンから見たら塵みたいな
相手がドラゴン並に巨大化するなんてありえるわけないし。とにかく竜の肉食べてあの小人の誕生日を祝ってあげましょう。
 そうと決めたら私は急いで厨房へと走っていった。

 *

 初めましてこんにちは。私、この屋敷で料理長を務めているシェフです。今日はこの厨房に珍しいお客様がお目にかかり
ました。そのお客様というのはこのお屋敷のお嬢様です。が、なにやら様子がおかしいのです。要件はこうです。

 竜の肉で料理がしたい。

 との事でした。料理でしたら私がしてさしあげましょうっと申したのですが『お嬢様は自分で作らなきゃ意味がない』
と言いましたので、私がお嬢様の料理を止めてしまった場合、この屋敷から首を宣告される危険性もあるので、お嬢様の
指示に従うことにしました。
 何かありましたらすぐに申してください。と、言いながらお嬢様の料理を見守ることにしました。実際、竜の肉など
貴重すぎて私自信も扱ったことのない肉をお嬢様はどのように料理してしまうのか、実に興味がありました。この肉の
竜は、口から火を吐き出すことのできるそうで、火の扱いはどうなのか? 火に耐性があるように火が通りにくいのか、
もしくは口から火を吐き出す時に油のようなものを体内に溜め込んでいるとしたら、肉に火をかけた瞬間、一気に炎上
するのかと考えると非常に興味があります。ですが、後者は明らかに危険です。ので、私は消火器を持ってお嬢様の
料理を見守ることにします。
 それから、数分竜の肉と睨めっこをするお嬢様。やはり、火を吐く竜の肉という情報があるとなかなか火をかけるのに
ためらいが出るのかこちらを振り向いて聞いてきました。
「料理長はどうなると思う?」
「さぁ、わかりませんね。燃えるか、燃えないかの二択でしょうか?」
「そう、なるわよね・・・。で、貴方は何持っているのよ?」
「消火器を持っています」
「見ればわかるわよ! どうしてそんなものを持っているのかと聞いているのよ!」
「それは、もし、その肉が燃える方の肉として、最悪爆発規模になりそうだった場合に私が急いで、コイツで務めて
 やろうかと思いまして」
「爆発って・・・私、危なくない?」
「では、私がやりましょうか? 爆発した場合、私が受けるだけになりますし」
「いや、いい! 私が・・・やる」
「そうですか、では私はこのまま消火器片手に見守ることにします」
「うー・・・。えっと、あの・・・じゃあさ」
「なんでしょうか?」
「爆発しても大丈夫な様に一切れサイズに切ってもらえるかしら?」
「了解しました」
 やはりお嬢様も恐れ多い模様。私はお嬢様の命令通りに竜の肉を一切れサイズに切り落とすと、竜の肉から肉汁と
思われる汁がドボドボ溢れんばかりに出てきた。
「お嬢様、これは爆発も覚悟して良さそうですね」
「さっきから怖いこと言わないでよ」
「失礼。では、火柱が立つぐらいは覚悟した方が」
「大体一緒じゃない!」
「そういわれましても・・・では、肉変えますか?」
「私は、竜の肉がいいの!」
「どうして竜の肉がいいのです?」
「かっこいいからよ!」
「そ、そうでございましたか。失礼しました」
 竜の肉かっこいいという事でフライパンに油を注ぎ火をかけて温め始めるお嬢様。普通に肉を焼くのだろうか?
「お嬢様、失礼ながらお聞きしたことが」
「何よ?」
「その竜の肉は、ご自身でいただくのでしょうか?」
「そ、それは・・・アイツの為、じゃなくて私が食べたいからよ」
 お嬢様の口からでてきた『アイツ』という言葉。
 アイツ・・・、あの最近拾ってきた小人のことでしょうか。
「・・・今日は記念日か何かで?」
「えぇ、まぁ、そんなところかしら」
「記念日・・・何かありましたでしょうか?」
「誕生日よ誕生日」
 誕生日。はて、誰の誕生日なのだろうか? お嬢様の誕生は先週行ったばかりですし、旦那様や奥様方の日でもない。
っとなると、あの小人だろうか? あの小人は確か男性。なるほど。
「お嬢様、仮に爆発規模でも決して怯まないでください」
「助けくれないの!?」
「あ、いえ。この消火器でちゃんとお嬢様をお助けいたします。ただ、アドバイスをするのであれば、相手方を想う料理
 は戦いです。そして、この肉が凄く燃え上がってしまった時、それは試練だと思ってください。それだけです」
「わ、わかったわ。でも、危ない時は本当にお願いするからね?」
「その時はこの消火器で成敗してくれます」
「そう、任せたわよ」
「承知いたしました」
 そして、決戦の時がやってきた。お嬢様は竜の肉をフライパンに放り込むといきなり肉は火柱をあげました。一切れと
はいえ、想像以上に燃え上がっている。一気に焼いていたら本当に爆発もあり得なくもないぐらいだ。そして、お嬢様は
というと、火柱を上げるフライパンの中にいる肉を菜箸でちょんちょんちょん。焚き火レベルに燃え上がる炎はやがて
お嬢様が握っている菜箸を除々に炭へと変え普通の箸より若干長い何かへと姿を変えた。
 しかし、お嬢様は怯まず偶然近くにあったトングを手に取るなり再び竜の肉をひっくり返したりを始め、お嬢様と
竜の肉との激闘はエスカレートしていった。

 激戦の末、竜の肉とお嬢様との戦いは無事終了した。この激闘を私はただただ消火器を大事に構えているだけで終わって
しまった。そして、お嬢様はドスンと近くの机に腰を下ろし、額の汗を拭った。
「お嬢様、お疲れ様です」
「えぇ、ありがとう。料理って大変ね」
「いえ、見事な戦いっぷりでした。私もお嬢様を見習って行きたいと思いました」
「そうね。でも、料理は戦いって教えてくれたのは貴方よ。こっちこそ感謝しているわ」
「ありがとうございます。失礼ながらお嬢様の料理を見てもよろしいでしょうか?」
「えぇ、いいわよ」
「失礼します」
 私はクロッシュを開けるとそこから現れた料理は真っ黒な何かと何かの汁の乗った皿が置いてあった。
「お嬢様、これは?」
「シンプルに焼き肉よ」
 炭や!
 これ炭の塊や!
 などと、心の中で叫ぶ事にした。しかし、未知の食材に挑んだからにはこういう結果も止むを得なかっただろう。
そして、この汁は肉汁か何かだろう。お嬢様、ご武運を。

 *

 あの炎の戦いを制した私は、いよいよあの小人に私の手料理をプレゼントを与える段階まで来た。料理のほうは、
多少焦がしてしまったけど、料理長のおスミ付きだから、多分喜んで食べてくれるハズ。机のうえに料理を置き、
小人を家の中から摘み上げる。間髪入れずに摘み上げられた小人はジタバタと暴れる。もぅ、どうしてこういう時に
限って変に暴れまわったりするのよ。
 でも、大丈夫。私は前々から用意していた『Happy Birthday』と刺繍をいれてあるリボンで小人を縛り付けて身動き
を取れないようにする。
 そして、食事と題して、小人に私の手料理を食べさせようとすると小人は急に「食べないでくれ!」なんて言ってくれる。
もう、別に食べたりはしないわよ! むしろ食べて貰うんだから。と、いつもと若干違うようなやりとりに違和感を
感じながらいよいよクロッシュから開ける前から小人の驚く顔が目に浮かぶ。
「見て驚かないでね!」
 食材は竜の肉を使った私の手料理。少しぐらい調子にのってしまう。クロッシュを手に取り、私の手料理を見せつけると
小人は愕然と驚いたのかその場で座り込んでしまった。
「あぁ、これは・・・すごいね・・・」
 予想通り小人は驚いてくれた。驚愕のあまり声がでないみたい。さて、これからどうしようか。どうやって食べさせ
ようかと考えていると、この微妙な沈黙がやや気まずいかしら? 小人を祝って上げるんだから、少しでも楽しそうに
進めていかないといけないわね。ちょっと、リボンで縛る時焦ってきつくしてしまったし、挽回せねばならない。
「ふふん。美味しそうでしょ?」
 と、私は料理の自慢をする事にした。この肉は、最高級かはわからないけど竜の肉を使った料理。現に私は火柱を
上げながらこの肉と戦いながら焼いていた。おいしくないハズがない。
 でも、どうやって食べさせていいのかよくわからない。食べてとお願いするのもなんか違う気がする。お願いして
食べさせるのではなく相手からかぶりつくように食べさせる。そう、押してダメなら引いてみなとも言うし、一旦
焦らしてから食べさせよう。
「あ、でも・・・別にあなたの為に作ったわけじゃないんだからね・・・」
 そういうと、小人はムスッとした表情をした。ふふっ、怒っているのかしら? 食べさせてもらえるかと思ったら
実は食べさせてもらえなくて怒っちゃったのかな。
 ・・・変に長引かせても料理が冷めてしまうだけだ。
「でも、ほら、あなたがそんなに食べたいなら・・・食べてもいいよ・・・」
 よし。完璧だ。これで、小人はこの肉に飛びつくるだろうと、思っていたがなかなか飛びついてこない。もしかして、
この小人、実は草食系男子で肉はダメとか言うんじゃないだろうか?
 それでは、私の苦労が水の泡だ。あんな炎の中で苦労して戦ってきたんだからなんとしてでも食べてもらいたい。
「ほら、早く食べないさいよ」
なかなか食いついてこない小人に思わず命令口調でついに言ってしまう。早く食べて私を褒めて欲しい。でも、私は
貴方に褒められる為につくったわけじゃなく、貴方の誕生日を祝ってあげるために作ったのだからそこんところは
勘違いしないでもらいたい。

「ふざけるなよ!」

 えっ?
 突然小人が大声で怒鳴り始めた。
 ふざけるな?
 どうして? 
 私はこんなに一生懸命に作ったのに、どうして怒鳴られなければないのだ。しかし、小人の怒り爆発。鬼の形相で
私を睨みつけている。
「こんなものが食えるわけないだろう! 見てわからないのか? どう見ても丸焦げじゃないか!」
 えっ?
 丸焦げ?
 そんな、ちょっと、表面が黒いだけで丸焦げにした覚えはないわけじゃないのに。
「どうせいつもみたいに、俺を虐めるためにわざと黒焦げにしたんだろ?最低なやつめ!」
 違う!
 そんなんじゃない!
 私はそんなつもり決してない。虐めようなんてこれっぽっちも考えていない。なのに、どうしてそんなことを言われ
なきゃならいのよ。私は、あんなにがんばって料理をしたっていうのに・・・。私はただ、貴方の為にと思って料理を
したのに・・・どうして。
 皿の上に乗っている小人の姿が霞んで見える。口元がゆるゆるで、鼻水もちょっと気を抜けば汚いぐらい出てしまう。
あぁ、私、泣いているんだ。
 今までの努力を裏切られた気分だ。そして、私は決して小人からいいようには思われていなかったんだ。小人にした
些細な悪戯も小人からすればいい迷惑だったんだ。さっきの言葉からも『虐める』とでた。悪戯と虐めるでは捉え方が
違う。
 悔しい。そして、恥ずかしい。自分が今まで行っていた事は全て間違っていたんだ。私では、いい飼い主にはなれない。
小人という生き物が珍しく、ペット感覚で飼おうしたところから間違っていたんだ。小人も人の形をした生き物だ。
もっと、最初っから優しく接してあげて悪戯・・・もとい、小人虐めもやらなければこんな事にならなかったんだ。
 私は本当にバカだ。
「うっ・・・ううっ・・・・・・えぐっ・・・・・・えぐっ・・・・・・」
 今までずっと声に出さないと唇を噛み締めて堪えていた泣き声も、我慢が出来ずに口から漏れ始めた。これから
私はどうやって小人と迎えあっていけばいいんだろう。目に溜まりに溜まった涙も額を通り机へと落ちていく。
本当に最悪だ。私は何もしてやれなかった。むしろ不快にさせてしまった後悔からこの場と小人と出会ってしまった
あの時を消し去りたい。そう思った時だった。
「ああもう!食えばいいんだろ食えば!」
 と、ヤケクソめいた言葉が聞こえた。私は涙を手で拭うとリボンで縛れた体で竜の肉に近づいて少し躊躇いながらも
口を開き、肉を引きちぎって食べてくれた。
 どうなんだろう?
 私の手料理。
 おいしのかな?
「お・・・美味しい?」
 私は恐る恐る聞いてみた。さっき、黒焦げとか言ってたのに、無理して食べてるんじゃないのかな?
 不安ばかりが募ってゆく。
「あ、ああ、美味しいよ。ありがとう」
 ・・・!
「いや、しかし本当に美味いよ。・・・・・・肉がとっても良い。うん、こんなもの今まで食べたことないね」
 よかった。本当に良かった。一瞬凄い顔をしたように見えたような気がするけど、小人は喜んでくれた。嬉しい。
でも、これは竜の肉にも感謝しなければならない。やっぱり、小人の言う通り、外見どう見ても真っ黒焦げだ。
そんな真っ黒焦げでも『肉がとっても良い』と言ってくれた。竜の肉はこげても美味しいということだ!
 よかった!
 本当によかった!
 料理長に他の肉を勧められても竜の肉で押し切って本当に良かった。竜の肉じゃなかったら、ここまで食べてくれない。
「そ、そう?・・・そんなに美味しいなら、明日から毎日作ってあげても・・・いい・・・わよ」
 次は竜の肉に頼らず、料理を勉強して、食材に頼らずおいしいご飯を食べさせてあげようっと、思って小人に話かけて
みたら小人は急に意識が跳んだかのようにその場で倒れこんでしまった。
「ちょっ!? えっ? 大丈夫!? だ、だれか―――」

 ・
 ・
 ・

 と、たちまち慌ただしい小人の誕生日パーティだった。最後に、私も自分の手料理を食べてみたけど、これは食材も
何もないものだった。ただの炭だ。食べれたものじゃない。でも、あの小人はこんな真っ黒焦げの料理を無理してでも
食べてくれた。彼の優しさに私は負けてしまった。
 次、小人に食べさせる時は美味しすぎて気を失わせるようなものを作ってあげたいな。