暗闇の中、チカチカと光るひかりを感じる。どうやら意識を失っていたようだ。瞳を閉じている状態だと
いうことがわかった。上半身は暖かく、下半身は一部水浸しのような状態。一体、自分はどうしてこういう
状況におかれたのか記憶の整理がつかない。ぼんやりと瞳を開けると眩しい太陽の光が突き刺さる。あまり
の眩しさに顔をそむけると、チカチカと光る正体がわかった。海が太陽の光を反射している光だという事。
 ここはどこ? と疑問を持つ。どうして自分はここにいるのか、昨日何をしていたのか。とにかく今は
酷く身体が怠い。何かの任務をやっていたのかと考えればどことなく思い当たるフシがある。
 そう、あれは確か『タンカー護衛任務』の途中、深海棲艦と遭遇し、自ら囮になりその場をやり過ごした。
多少損傷は受けたものの、母港へ戻るだけの余力はある。今頃母港へ皆到着した頃だろうと思った時だった。
突然の大時化に襲われた。波は大荒れ、海面に立っているだけでも精一杯な上、損傷部分を庇い続けた所に
大波に襲われ、そのまま意識を失った。艦娘だったから助かったのかもしれない。
 となると、ここはどこかの無人島にでも漂流したのか。身体はすごく怠く、全身網にでも覆われている様な
感触、しかし、身体を引き詰めている感じはあるが、どことなく強度に疑問を抱く。まるで釣り糸のような
感じ、海釣りに来る者が釣り糸をそのまま捨てていったのか。そうなるとどことなく不愉快な感じはするが、
誰か人が居ることには違いない。まずは当たりの情報収集しなければならない。
 重い上半身を起こすと、身体に纏わり付いていた釣り糸の様なものは意図もたやすく引きちぎられる。
そして、新たな異変に気づく。どことなく人の声が聞こえる。驚いた声、悲鳴のような声がどこからともなく
聞こえるが、人の気配が感じない。どこかで事件が起きているのか。そう考えた時だった。目の前の、前髪に
振り落とされないように必死にぶら下がっている小さな小さな人間がいた。

 *

 昨晩の酷い大時化から一夜明けた朝、島の中では大騒ぎが起きた。一人の漁師が海岸に巨大な少女が仰向けで
倒れているとのことだ。この島では最近海賊による被害が多く、外者には厳しく対応していた。人間の様な容姿
から重々しい重機を身体に装備している。新たな兵器なのか、とにかく意識を取り戻して暴れられては困る。
自分達よりも数百倍も大きい身体と、その容姿からどうやってそんな重々しい銃器を持ち運べるのか。全く
もって不可解と所が多いが、最悪の自体が起きる前に対策を取る。
 ワイヤーで次から次へと巨大な少女を拘束作業に取り掛かる。巨大な金髪をロープの様に上り、山の様に
大きな巨体に次々と上り放たれるワイヤーで身動きをとれなくする。両手両足にも同様に杭を打ち込み、
ワイヤーでぎっちり固定していく。ある程度拘束作業が終えかかって着ている時、リーダー格の男が二つの
小山の片方に上り、巨大な少女を見下す。一体何を食ったらこの娘はこんなに大きくなるのか、と思いながら
も身体に受けている傷を見る限りこの娘にもなにやら訳ありなのではないだろうかと、巨大な少女の寝顔を
見ると不思議と悪い子ではないようにも思ってくる。
 そんな時だった。巨大な少女が目を開いた。真っ赤な瞳をしたその少女にどことなく背筋にゾッと冷たい
ものを感じた。しかし、太陽の光が眩しかったのかすぐさま顔をそむける。が、そのちょっとした仕草だけで
首の周りにおさえていたワイヤは杭ごと持ち上げられた。
 巨大な少女が動き出す。ググッと腕を固定していたワイヤーを引き千切り、上半身を起こそうとしている。
が、思いの外すぐに動き出したため、胸の上に登っていた男はそのまま首元へ転げおちてしまった。男も
なんとか態勢を整え無意識に巨大な少女の身体を蹴り上げるとそのまま顔の方へと飛んでしまった。次は口、
この巨大な少女の前では丸呑みにするなんて容易いだろう。考えている時間はない。早く次のモーションに
入らなければ、そのまま重力に引きこまれて、胸に落ちるであろう。男は少女の頬を蹴り、鼻へと飛ぶと必死に
前髪に手を伸ばし、なんとかぶら下がる事に成功した。しかし、これからどうなるのか男はただただ必死に
少女の前髪にしがみつくことしか出来なかった。
 やがて、巨大な少女もこちらに気づいたのか目をまんまるとしこちらを見つめている。
「ぽい?」
「・・・ぽい?」
 巨大な少女の第一声は『ぽい』だった。どこかの国の言葉にも思えるが、発音が我々の使う言葉と一緒、
もしや言葉が通じ合うのかとそう思った時だった。

 バァーン! と銃声が響いた。

 *

 目を開くと目の前に小さな小さな人間、小人がいた。鎮守府にも妖精という手のひらぐらいの小動物が
いるが、その妖精よりも遥かに小さい存在に驚きを隠せない。妖精さんの島にでも漂流してしまったのか、
そう思った時だった。バァン! と銃声に身体が反応する。すぐさま銃声のした方を見て、身構えるものの
小人が何かを発砲したみたいだが、何が起きているのかわからなかった。信号弾だろうか?
 しかし、バァン! という音はやがて四方八方から鳴り響く。しかし、身体には何も以上がない。人差し指で
頬をかき苦笑いを浮かべる。もしかして、攻撃しているのだろうか? それにしては痛みがまったく感じないが、
いつまでも鳴り止まない銃声が耳障りに感じた。ここは少し脅かした方がいいのかもしれない。
「ふ~ん…何それ? 新しい遊びっぽい~?」
 と、いつもは提督がちょっかいを出してくる時に発する言葉をちょっと強めに、最初に発砲した小人を睨み
握りこぶしを作ってみせる。すると、怖気づいたのか小人は発砲をやめたが、再び銃を構えた。これは少し
遊んで上げないとだめっぽいと思った時だった。
「やめろ! 撃つな」
 と、前髪にぶら下がっている男が言う。この連中のリーダーなのか、周りにいた小人達は攻撃をやめた。
ひとまず、前髪にぶら下がっている男を摘んで、手のひらに乗せる。いつまでも寄り目では目が疲れてしまう。
「貴方達はいったいなぁに? 私は白露型駆逐艦の4番艦、夕立」

 *

 一通りお互いの事情はわかった。この巨大な少女の名前は夕立という名前らしい。我々も彼女に事情を説明した。
どうやら夕立は争うつもりはないらしい。ただ、あれ以上攻撃を止めていなかったどうなっていたかは
わからなかったであろう。こちらの武器の攻撃では、夕立には痛くも痒くも何も感じていなかったのだ。更に
夕立の他に同じ艦娘というものがあり、夕立以上の艦娘というものも多くいる。ここは下手に手を出さない方が
いいだろう。大人しく夕立の言うことを聞いたほうが平和的に解決するだろう。
 そして現在。夕立はガツガツと食料を平らげる。ドラム缶一杯の食料を次から次へとわんこそばの様に平らげる。
流石にこのペースでは島の食料が全て食いつくされてしまう。黙っていればわからないだろうと、腐りまでは
しないが、廃棄処分する食料も混ぜて提供する。それを美味しそうに平らげている姿を見るとどことなく申し訳
なく感じる。
「お腹いっぱいぽーい」と、どうやら夕立は補給は済んだ様子。夕立との争いはないだろうが、我々には問題が
ある。それを果たして打ち明けていいものなのか、周りの男達も夕立の恐るべき食欲に思うものがあるみたいだ。
「もう無理だな」
 と、誰かが呟いた。その声に夕立が反応した。
「無理? 無理ってどうかしたっぽい?」
 きょとんと何か悪いことをしてしまったのか夕立は気になり始めた。次の瞬間、夕立の巨大な両手が左右から
襲いかかり、掴み、持ち上げた。周りの男達を見渡しても誰も相手をしてくれなかったようで、ものすごく面白く
ないような顔をしていた。
「何かあったか話すっぽい」

 夕立にこの島で起きていることを説明した。
 この島はこの海域近辺を縄張りとしている海賊おり、食料がなくなっては奪いに来るとのこと。隣国にその話
をし、助けを求めもしたが、何分無駄に腕のたつ海賊達は隣国と共同で一度戦争を試みたものの、敗戦。その後
隣国はその海賊に滅ぼされてしまった。そして、そろそろ海賊たちが補給にこの島へ訪れるであろうと。

「ふ~ん。それなら夕立に任せて欲しいっぽい!」
 と、笑顔で答えてくれた。

 * 

 快晴の空の下で海岸に座り小人さんとお喋りをする。
「つまり、貴方達の敵は深海棲艦ではなく貴方達と同じ小人さんが敵っぽい?」
「そうですね。ですが、最近では奴らの仲間も多くなってきています。数十の艦隊にまで拡大しており、
 これ以上奴らの好き勝手にされては我々も生きていけません。急なお願いですが、お願いします」
「任せて欲しいっぽい 夕立、ご飯を御馳走してくれた人たちの為にがんばるっぽい!」
 ブイッと右手でピースして小人さんに微笑む。小さな小人さんは私の為にご飯をごちそうしてくれるいい人達
なのに、その人達を困らせる悪い小人さんたちは夕立が一人残らず懲らしめてあげるっぽい。
 そんな話をしていると、水平線から何隻か見える。
「あれっぽい?」
 と、小人さんに敵だと思う船を指差しをする。小人さんは双眼鏡で確認すると「間違いありません」と険しい
表情。
「大丈夫っぽい! 今日で終わりするから安心してほしいっぽい!」
 両腕で地面を押してゆっくりと立ち上がる。
「駆逐艦、夕立出撃するっぽい!」

 本来の力まではスピードはでないものの、グングンと敵艦に接近する。目を凝らして敵を観察すると、
深海棲艦でもなく、鎮守府の歴史の授業にでてきた昔っぽい船、帆船らしき船に挨拶代わりに魚雷をお見舞い
する。太ももから放たれた魚雷は見事、敵艦に命中、跡形もなく吹っ飛んだ。そんな中、敵艦もこちらに気づい
たのが、攻撃をしてきた。黒いビー玉の様な物が飛んできた。砲撃をかわしながら、敵艦に近づくものの一発
だけほほに被弾した。
 が、期待はずれというか、期待通りというか複雑な心境に襲われた。頬に被弾したビー玉の様な砲弾は
ブドウがベチャと当たったような感触。殺傷能力はまったく感じないものの硝煙の臭さぐらいしか問題にならない。
そんなこんなしているうちに敵艦の目の前までついてしまった。数は数十隻あるが、力量は分かってしまった
以上、何も脅威を感じない。
「さあ、ステキなパーティしましょ!」
 と、いたずらっぽく笑うと、手前の帆船に手に持っていた12.7cm連装砲をぽいっと投げてみると、マストは
夕立の連装砲を支える事もできずメキメキとへし折れ、甲板にまで到着するなり船の半分以上めり込んで
しまった。このままほっておくと連装砲も一緒に沈みそうなので、連装砲は回収。まずは呆気無く一隻を撃破
してしまった。
 続いて隣の船には右足を高々と上げて、そのまま踏み下ろしてみると、バキバキバキっと一瞬で帆船を
真っ二つ切断してしまった。あまりにもあっけなく真っ二つになってしまい、態勢を崩してしまいそのまま
前の方に倒れてしまう。伸ばした手と胸に夕立の真下にある帆船のマストをへし折り、二隻を身体で押し潰し、
もう一隻は顔面で帆船を沈めてしまったのであった。
「いたたた・・・」
 と、海面で四つん這いになると、ゆっくりと海底に沈んでいく3隻の帆船、溺れまいと木っ端に必死に
しがみつく海賊達の姿が見える。その海賊たちには下で上唇を舐めて、食べちゃおっかなという仕草をすると
海賊達は恐怖を感じたのか、夕立から離れて行く。

 ポン! ポン!

「ぽい?」
 何か柔らかい音がすると思って振り向くと夕立のお尻目掛けて砲撃している。どうやら海賊もタダでは
終わらせないという意地なのか。それとも遊んでもらいたいのか。夕立はそのまま反転して、接近する。
 しかし、ここで腹部がやたら涼しく感じる。攻撃を無視して腹部をみてみると、帆船のマストに糸が引っ
掛かった糸がほずれ、下乳、腹部までの糸が抜け、露出していた。まさか、海賊の攻撃で中破までするとは
思っていなかった。これが終わったら早く母港に帰らないといけない。
「もう少し海賊さんと遊んであげても良かったんだけど、そろそろ終わりにするっぽい」
 夕立はそのまま立ち上がり、連装砲で残りの帆船を次々とドォン! ドォン! と次々と撃ちぬいていった。

 島では夕立の戦いを多くの人が見守っていた。武器を使わずとも圧倒的な強さを誇る夕立が燃え上がる帆船、
黒煙の中から次々と帆船を沈める姿を天罰を下す使者というよりかは、悪魔のような存在に見えた。
 もし、あの時夕立が目覚めた時、選択を謝ってしまったら我々もあの海賊達と同じ目に会っていたのかも
知れない。

 *

 その後、夕立は海賊共を始末するとボロボロの身体で「これでもう大丈夫っぽい!」と笑顔で帰ってきた
のだった。島の人達は夕立に感謝し、その夜はちょっとしたパーティーが行われた。

 翌日、夕立は朝早に鎮守府にもどらないと行けないといい、すぐさま海へと出て行ったのであった。
「またくるっぽーい」
 と、最後に言い残し腕をブンブン振り回して水平線の彼方へ消えていったのであった。


 後日、この小人の島は鎮守府から意外と近かった事が判明した。その度、夕立は友達を連れたり、お土産を
持って遊びに行くようになった。小人の島、隣国と呼ばれた島は滅ぼされてしまい、恐らく小人さんはここに
いる人で最後。
 今回の敵は同じ小人であったが、今後いつ深海棲艦に襲撃される可能性はゼロではない。小人さんに助けて
もらった恩を返すべく、夕立は今日も小人の島の近辺をパトロールするのであった。