クリスマス、今年もやってきた。もう、そんな時季がやってきたのかとふと思うと同時に今年も
もう少しで終わりかと思う。ふと時計を見ると時刻は22時を過ぎていた。今頃、一部カップル達は
夜の町でキャッキャウフフな事でもしているのであろうかと思うとため息も出る。俺もいたらなぁと
思いつつデスクに座り、残業をしている。いや、もし彼女がいたら彼女を待たせてしまうことになる。
ならば、いっその事いなくて良かったと思えば、まだ気が晴れるかもしれない。流石にそれは虚しいな。
 集中力が完全に吹っ飛んでいる。自販機でコーヒーでも飲んで一息ついた方がいいのかもしれない。
ふと、窓をみると雪の代わりにに大きな水色の瞳がこちらをじーっと見つめている。やれやれ、困った
もんだ。ついには幻影を見るようになって・・・ん?
 思わず二度見した。
 なんで?
 えっ?
 手で目をゴシゴシっとして再び窓を見ると、巨大な水色の瞳の持ち主がこちらが気づいたのかを
感じ取ったのか、嬉しそうにニコっと笑いながら手を振っている。
「やっほー! メリークリスマスだよ~」
 仕舞いには幻聴まで聞こえている。しかも女性。一体なんだって言うんだ。俺は思わず貧血にでも
なったかのようにその場でガクっと崩れ落ちる。疲労のあまり頭が狂ったか?
「あわわ、大丈夫ですか?」
 この場合どう答えたらいいんだろうか。無視するべきなのか、そのまま倒れてやり過ごした方がいいのか
どっちなのか。死んだふりの方がいいのか? もしくは、そのまま死んでしまうのか。そうか、これが過労死
ってやつか。
「ちょ、ちょっとちょっと、しっかりしてください~」
 
 ズガーン!

 何か凄い音がした。倒れながらも爆発音がした方角を見ると、窓を突き破り巨大な白い壁がこちら目掛けて
突き進んでくる。机だのパソコンだのお構いなしにその場で吹き飛ばし、書類の束が一気に舞い上がり、白の
壁が俺の元へ来た時に、ようやくその存在がわかった。これは巨大な手だ。っと、思った時には既に巨大な
手に摘まれ、そのままグンっと外へと引っ張りだされた。引っ張りだされながらふと思った、この肘まで伸び
ている手袋の名前、あれは確か、シンデレラグローブというもの。エロい人が言ってたっけかな。

 *
   
 巨大な手に掴まれそのまま強制的に外に出された俺、冬空の風が寒い。そして見上げるとサンタ帽をを被った
桃色のボブカットの少女がニコッと微笑んだ。
「メリークリスマスだよ! お兄さん」
 イマイチ状況が把握しきれない。まるで夢でもみていような感覚だ。これだけの巨大なサンタ衣装の少女が
現れれば、地響きはなるだろうし、周りも騒がしいくなるハズ。なのになんともないのはなんなのだろうか?
 珍しく仕事に集中していた?
 それはないな。
「もぅ、お兄さん聞いてるの? メリークリスマスだよ?」
「えっ? あ、うん。なんというか、なんなんだろうね?」
「どうしたの?」
「いや、これはびっくりした方がいいのか何なのかどうなのかもわからないし、これは夢? いや、夢だったら
 寒いって思うのはおかしいし、なんなんだこれ? 君は一体?」
「私? サンタだよ~?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「トナカイさんは私が重いから1人で言ってくれだって、酷いと思わない?」
「いや、まぁ、それだけ大きければそうかと思いますけど・・・」
「だから踏み潰しちゃった! ズッシ~ンって!」
「・・・えぇ!?」
「ぷふぅ。お兄さんおもしろいね~。冗談だよ冗談」
「あ、あははは、そう、ですか・・・」
「でも、お兄さん安心していいよぉ。これは、夢みたいなものだから。あ、そうだお兄さん、
 寒いって言ってたね。待ってね~」
 そう言うと俺を乗せた手のひらは一気に急上昇、あっという間に会社の屋上まで上昇するとそこでいったん
俺を下ろすと、少女は俺に巨大な人差し指を突き刺す。するとまるで俺の体が爆発したかのようにボン! という
音をたてる。
「うん。お兄さん、なかなか似合っているよ~」
 少女は嬉しそうにそう言うが、俺自身どうなっているのかがわからない。確かにさっきよりかは全然寒くはない。
全身茶色のもこもこした毛皮、まるで着ぐるみでも着ているかのような感じで、頭が少し重く感じる。まさかと思い
ながら両手で頭を撫でてみると、手には何かが当たった。角がある。
「・・・トナカイ?」
「正解っ! やっぱり、サンタのパートナーはトナカイじゃないと」
 この際服装の事はどうでもいいとしよう。しかし、一つ何かがひっかかる。
「ところで、お兄さんの名前はなんていうの? 私はサクラ」
「・・・タクロー」
「タクローか。いい名前だね」
「1つ俺からも聞いていいかな?」
「どうぞ~」
「これから俺は、その、サクラさんと一緒にプレゼント配りのお手伝いとかしないといけないのでしょうか?」
 さっきからやたら呟く“メリークリスマス”という言葉。これは、トナカイの着ぐるみを着て俺もプレゼントの
配りの手伝いでもしなければならないのかと思える。しかし、仕事がまだ終わっていない。手伝いをしている場合じゃ
ない。・・・そもそも仕事できるかも謎だが。
「全然。そんな事ないよ」
「え、じゃあ、どうして?」
「メリークリスマスだからだよ」
「まるで意味がわからんぞ」
「うるさーい! お兄さんは黙ってどんなプレゼントが欲しいかいいなさい!」
「そんないきなり現れた怪獣の様にでっかいサンタに言われても何も思い浮かばないよ!」
 いつしか俺も大声を上げて彼女と言い合いになっている。頬を膨らませ怒っている表情を見せている。しかし、
圧倒的体格差故、彼女を怒らせないほうが身の為か。
「そんな、私はお兄さんの為思ってやっているのに・・・」
「そもそもサクラさんは何者なんですか?」
「私はね、サンタクロース」
「それはわかったけど、どうみても人間離れしているところがあるからさぁ」
「・・・あぁ、そういうこと。うーんとね、神様かもしれないし妖精なようで幽霊かもしれない」
「正体不明じゃないですか・・・」
「サンタクロースは正体不明なのっ!」
「じゃあ、その正体不明のサンタクロースがどうして俺なんかの為にわざわざ出てくるんだよ!」
「それは、日々日頃からがんばっている君を見ているからだよ。今日も彼氏彼女、家庭を築いている部下は早々に
 帰らせて自分は残業残業、また残業ってがんばってるじゃない。仕事の要領も良い訳じゃないのに、さ」
「最後のは余計ですね・・・」
「ま、だから私が直々に頑張っている君にプレゼントを与えようかな!って思ってね。なんでも言ってね。魔法で
 ボンボンだしちゃうから。こんな風に」
 そういうと、サクラさんは両手を顔の高さまで上げるとパチン、パチンと指パッチンをする。すると、何もなかった
屋上のタイルからはボボンっとケーキ、チキン、クリスマスツリーなどがでてきた。
「さ、これが私の力だよ。遠慮せずにな~んでもいいなさい」
「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

 *

「お兄さんも変だね。私と一緒に夜の散歩がいいだなんて」
 そういう風にサクラさんが言う。現在俺はサクラさんの肩に座っている。

 ズシーン ズシーン

 サクラさんが一歩、また一歩と歩く度に地響きをたてる。その都度後ろを振り返れば深々とブーツで踏み潰された
道路、電線、車の後が深々と刻まれている。下を見ればサクラさんの見た目の容姿からみると発育のよい胸がぷるん
ぷるんと揺れ、その中に飛び込んでみたいという衝動もあるが、ここは我慢。
 そして、同時に気づいたことがサクラさんは意外と大きかったということだ。周りに立ち並ぶビル、だいたいうちの
会社と大きさは変わらないのだが、サクラさんはそれらのビルを楽々と跨ぐことができるぐらい巨大である。
「あん! もう、スカートにひっかかる」
 故に周りより少しでも大きいビルが出現すると、サクラさんのミニスカがビルにひっかかる。「邪魔!」と少し機嫌が
悪いとズガンズガンとビルを蹴り、崩し落とす。その姿がどことなく可愛く感じる。
 初めは散歩で色々壊してしまうのはよくないと思ったが、サクラさん曰く魔法でなかった事にするとか。時間が
止まっていうというのか、別の世界にいるようなものだから気にすることもない。だから、夢を見ているような感じ
なのかもしれない。
「ねぇ、お兄さん?」
「ん?」
「何かリクエストとかある?」
「え?」
「ほら、股でビルを挟めとか、尻で敷くとか、四つん這いになって進めとか、おっぱいブルドーザーを見せろとか」
「な、何を言っているんですか! そんな事しなくて十分ですよ。こんな高い所から見渡すことができるってのは
 なかなかできるものでもないですし」
 ほんとはしてもらいたい! しかし、俺が変態だと思われたくもない。
「じゃあ、お兄さんも大きくして、私を滅茶苦茶にしたいとか、思ったりしない?」
「な!?」
「な~んてね、お兄さんも中々変態だね。ほら、ここの小さなアパート、お兄さんのお家でしょ?」
 一瞬動揺したが、気づけば、俺の家についていた。しかし、そんな発想まるでなかった。確かに、サクラさんは
スタイルはいい。文句はない。だが、そんな子を会って早々にヤっていいものなのか? 聖夜だからおかまいなし?
「ちょっとお兄さん? 話聞いてた?」
「え、あぁ。ありがとう」
「さて、お兄さん。これにて私とはお別れです。またいつの日かお会いしましょう」

―――プツン

 まるで、電源を切れたテレビの様に視界がブラックアウトした。

 *

 いったい、あれはなんだったのか。あの夜、サクラさんと夜の散歩をし、意識を失ったと思ったら俺は自宅で
眠っていた。そして、通勤中にサクラさんが踏みつけた足あともなければ、会社も滅茶苦茶にされておらず、おまけに
残業分の仕事が綺麗に終わっていた。

 そして、月日が流れ新年を迎えた。

 冬が終わり、春がやってきた。そして、新たにやってくる新入社員にあろうことか、
あのサンタクロース、サクラが会社に入ってきたのだった。

「お兄さん、またお会いしましたね」