この話はとおーい昔にあった話である。魔法やら魔物やらわらわら存在していた時代である。
その中でももっとも脅威的な存在がドラゴン族である。ドラゴン族の前にはどんな魔物も人々も
恐れをいっていた。しかし、時代が進むにつれ、そのドラゴン族は今や絶滅の危機にさらされて
いた。
 ドラゴンの時代は終わると、そう思っていた人々。しかし、最後のドラゴンは過去に暦例がな
く、人型であり女ということだ。さらに、何万年にひとりというぐらい強大な力を持っているド
ラゴンである。彼女が飛べば、どんな国にも一瞬で飛ぶことができ、彼女にかかれば多大な群衆
を尻尾でなぎ払うことができ、彼女にかかれば跨げぬものはないといっても過言でもない。そん
な強大な力をもっている彼女に誰もが恐怖に怯えるであろう。
 しかし、彼女はどこか抜けているところがある。だから、平和なのだろう。

 そんなある日のことだ。突然平和は終わろうとしていた。彼女はついに動くことにしたのだ。
朝、彼女が目を覚まし今日も優雅に空の散歩でも楽しもうかと思っていながら体を起こすと地面
に彼女を侮辱するかであろう『つるぺた』と地面に書いてあったのだ。たった4文字でも彼女の
怒りを買うにはもってこいだった。
「ふふふ、誰かは知らないけど、よくぞもまぁストレートな文を私に見えるように書いたわね。
 誰のおかげで平和に過ごせたと思っているのかしら?誇り高きドラゴンの血、しあを怒らせた
 ことを後悔させてあげる」
 そういうと、しあは起き上がる。山よりも遥かに大きいしあは人間の住む土地を境界線として
いる山を跨ぎ、人間の住む大地に足を踏み入れ、境界線となる山に腰をおろしたのであった。山
は標高500mはあるが、1400mあるしあには関係のない大きさだ。
 バキバキバキっと山頂にある木々はしあのお尻の下敷きになり、大規模な土砂崩れも起こした。
しかし、しあにとっては座り心地が悪かったらしくお尻を上下左右に擦りつけ座りやすいものに
した。無論、登山を楽しんでいた者のことなどお構いなしにだ。この行為によって土砂崩れはも
ちろん、標高も小さくなったのは言わずとしれている。
 しあはひとまず足元の村に目をやると自分の足で全てを覆うことが出来る程度の村に優越感を
を浸っていた。
(人間は本当に小さいものが好きなのね。ちょっと脅かしてみようかしら『潰されたくなかった
 ら私の足をお舐め』ってでもいってみようかしら)としあは考えた。そして実際に口にしたの
がこれであった。
「ふふふ、小さいわね。潰されたくなかったら、私をお食め!」
 一瞬の沈黙。空を飛ぶ鳥も言葉を失った瞬間であった。顔を赤らめ急いで「わ、わたしに潰さ
れたくなかったら足をお舐め!」と言い直したが迫力がない。村の中にある点々が寂しい。しか
し、しあは強大だ。無視するのは逆に危険だろうと思い、いつ振り下ろされるか分からない足に
恐れながら話を進めた。

 昼。それは一番太陽の光が照らされるはずだが今は違う。巨大な足が村全体を覆い、巨大な影
の下にある。あるものは怯え逃げ出すが、振り下ろされたら逃げても意味がないと思い、人々は
勇気を振り絞り対策を考えていた。
「おい、大地震のあとはあのドラゴンが現れたぞ。どうするんだ」
「慌てるな。まだ、俺たちは悪いことをしていないんだ。年齢的に残虐を好むような娘には見え
 ねぇぞ俺は」
「バカ野郎。人は見かけによらねぇんだぞ」
「やかましい!」
 長老の一言で村人の騒動はピシリと納まった。
「喧嘩している場合ではない。しあ様が動いたということは誰かがあの可愛い娘のピュアーな心
 を傷つけたんだろう」
「し、しかし・・・。誰が・・・」
「今はわからんが何もしなかったらワシらは皆死ぬ。話をしようにワシらでは小さすぎてしあ様
 には届かない・・・」
「じゃあ、俺たちは死ぬしかねぇのかよ!」
 再びざわめく村人達。せめて話ができれば言いのだが、相手はあまりにも巨大な娘である。そ
んな中だった
「ボクに任せてくれませんか?」 
 ざわめきの中、そんなに大きな声でもない。しかし、誰もがその声が届いた。

「どうした?聞こえなかったか?やるぞよ?わらわは本気ぞよ?」
 もはや、口調も安定していない。そんな中しあのおでこにツンと何かが当たった。痛くもなく
なんともないが頭にツンときたのだ。
 ——聞こえますか?
「誰?私に何をしたの」
 ——落ち着いてください。ボクは『コノハ』というもので、貴方にお話をしたくテレパシーと
   いう形でお話をしています。痛かったのでしょうか?
「私に人間の攻撃が聞くとでも思うの?」
 ——はは。流石はドラゴン族のしあ様です。失礼ながらお聞きしますが、今日はお怒りのよう
   でどうかなさいましたか?
「そう。やっと話のわかるヤツが現れたか。私の聖地に何者かが悪戯をしてね、今まで我慢して
 いたけどそれも限界かなーっと思って今にいたるのよ」
 ——悪戯?少なくとも私達はしていません。村の人たちは無罪です。
 それから、しあとコノハの会話は続いた。しあはコノハに対し、どこかの国のように山を穴だ
らけにして用済みになったら放置する行為から人間という人種は勝手な生き物だから私の聖地に
悪戯というバカなことをするんだと話した。それに対し、コノハは村とは関係ないことを説明し、
むしろ緑を増やそうとがんばっているとのことだった。その話をしあは目を丸くして「え?そう
なの?」とでもいいたそうなことを言ったのであった。そして結論が。
「喜べ人間どもよ。今回だけは見逃してやろう。しかし、次があった場合は容赦なく踏み潰す」
 そう言うなりしあは立ち上がり村を跨ぐようにして次へ進んでいった。跨いでる中、尻尾の下
敷きにならないかと不安に晒されたがその脅威するらなくなったとき村は喜びの声に包まれた。
「やったー。すごいなお前」
「いえ、ボクはやるべきことをやっただけです」
「またまた〜あんちゃんは英雄だよ。それなのにボクってかわいいねぇ〜」
「・・・ボクは女ですよ」
「ははは、そうかそうかこの際女でも構わねぇよって女だと!?」

 しばらくしあは大地を歩いていた。最近というかしあは普段から空を飛ぶことしかしていない。
何故飛んでばかりいるのかはいずれわかるだろう。現在しあは村をあとにし、その大きな足は道
から余裕ではみ出し道端にあるものは容赦なくしあの下敷きになりクレーターへと形を変えた。
周りを見る限り何もなかったところだったが、木々が増えていることを確認する。小さな村だが
がんばっていることを認識した。そして、また境界線となる山が現れた。
 しあは先ほどどうように山を跨ごうとした。片方の足が片方の大地についた時、ゆっくり腰を
降ろしたのだった。ふたたび、しあの尻に山の頂上は飲み込まれていく。
「疲れたぁ」
 ぼそっと一言。さらに両手を山の頂上に添え、膝を曲げて体重を前にかけて座った。1日中飛
び回る体力はあるのになんで歩くのは苦手なんだろうとかぶつぶつ考えながら座り心地が悪いの
か、しあは前後運動で座りやすく山を削ろうとした。すると、今まではしらない経験をすること
になった。若干、複雑な気持ちでもあった。下がる際はお尻で山をえぐり、上がるときはしあの
繊細な部分と股で山を削っているのだ。
「んっ、ふぅ、ふ、ふぅ」
 と声を漏らし、その間に大地は凄くゆれたことをしあは知らないであろう。下半身が微弱に
痙攣してきたところでピタっとやめることにした。はぁはぁと息を漏らし「疲れているのに何の
ためにもっと疲れるようなことをしないといけないのよ」とつぶやいたのだった。しかし、気が
ついてみれば山は座りやすい形というよりも完全に凹の形にしてしまったのだ。

 その後、凹の部分で休憩し境界線を跨ぎ、数歩歩いたところに城下町があった。全体を壁で囲
み、梯子が東西南北にかかっており、中心部が少々高くなって大きな城がある。もちろん、しあ
より大きいものは何もないが、しあの足元をみると大軍の兵隊がいた。

 一方、しあが城に向かう前の出来事のことだ。耳を澄ますと遠くで何者かが大きな声で話をし
ているのがわかる程度だった。最初は、ヤマビコか何かだろうかと思うと、ズシーンズシーンと
大きな音が徐々に近づき、揺れも大きくなってきた。魔物の仕業か?と城を守る兵隊達が壁から
でて、門を閉めて迎撃態勢をとろうとしていた。しかし、とっている間に山の向こうに髪の毛が
見えたと思ったら顔、胸、翼、と見えてきた。何故、あのドラゴンがここにいるんだ!?と街中
ではパニックになった。しかし、しあはまだ幼い。その証拠に個人差もあるが胸もまだ育ち盛り
に入ってないないようにみえる。つまり、最強のドラゴンといえど戦いを知らなければ人間でも
勝てるのではないだろうか。さらに、最強のドラゴンに勝ったとなるとそれはその国の誇りにも
なるのだ。相手が大きくても戦いを知らないドラゴンに恐れることはない!兵士達はしあと戦う
ことを決意した瞬間だった。
 しあが山を跨ぎ、腰を下ろした瞬間だ。しあから見ればただ座っただけの行為だが人間からす
れば大地震。やはり、勝てる相手ではないのだろうか?さらに、しあは己の破壊力を見せ付ける
かのように前後に体を動かし山を削りどんどん山が沈んでゆく。敵わない。誰もがそう思った時、
国王が兵士に唱えた。
「今こそ団結の時、戦う前に負けていては戦では勝てぬ。今回の件ばかりは脇役とか、そんなも
 のは関係ない。皆が戦い、皆が主人公であるのだ」
 その言葉で戦意喪失していた兵士が立ち直ったのであった。

「何?私と戦うつもりなのかしら?」
 しあは足元にいる人間を見下ろしながら聞いてみる。すると、その国全体を囲んでいる壁から
大砲の攻撃があった。大砲の弾はしあの脛より下に集中的に当たったが、効果はない。続いて兵
士達も続いてしあの足の指を攻撃しているがしあには効果がない。剣や槍で突いても斬ってもし
あの皮膚に傷をつけることができず、それらの攻撃はすべて弾くような感じになっていた。
「いいわ。そっちがその気なら相手してあげる」
 しあは軽く足をあげ、兵士達が密集しているところに踏みつけた。ドシーンという音と共に数
百人の兵士がしあの下敷きになり、同時に発生したクレーターも残りの兵士が巻き込まれた。た
った一撃で、全体の7割ほどの戦力がなくなったのだ。しかも、しあからしてみれば手加減中の
手加減だからあまりの貧弱差に呆れてしまった。圧倒的な力の差を見せ付けられ、一部の者が負
けじと戦い、命惜しい兵士は逃げ出したのだった。
「人間は貧弱ね。圧倒的な力の差に滅びなさい」
 はぁ、っとため息を吐く。足元を見てもほとんどのものが逃げているのがわかる。しあは大き
く息を吸い込み、すぐ息を吐くのではなく、少し間を空けてから息を吹きかけると口からでたの
空気ではなく炎に変わり、炎の行方は壁を越えて街中に侵入しようとしていた。しあは焼き払お
うとしたが、突如紫色の光がその王国全体に包まれ、炎が紫色の半球体をあぶしている感じにな
った。
「・・・?何かしらこれ?」
 しあが球体に触れた瞬間、静電気のようなモノが走った。瞬時にしあは手を引き、両手両膝を
地面につき、国の周りを流れている川に口を近づた。もちろん、足元のことは気にせず戦ってい
た兵士、逃げ出した兵士もおかまいなしに潰した。しかし、川の方が口よりも小さかったので、
地面をかじりつきながら、川の水を吸い込み始めた。この行為により国全体を囲んでいた川の水
は全て干上がってしまったのだった。口の中に水を含め、先ほどあぶったところに水を吐き出す
が、水の量が吸い込んだ倍の倍というぐらい勢いよく吐き出したのであった。
 しあは炎より水をだす方が得意だが、一度炎をだすとどうやって水をだすのかを忘れてしまう
のはしあがまだ幼いからだろう。
 しかし、紫色の光の壁に亀裂を与えたかと思うとすぐに亀裂の傷は癒え、元の光の壁に戻った
のであった。
「へぇ〜。人間もおもしろいことするじゃん。でも、これならどうかな?」
 そう言うと、しあは膝を少し曲げ、思いっきり地面を蹴った。そして空中から大きな翼で1回
さらに上空に飛んだ。

 この行為に、人間達は喜んだ。あのドラゴンが諦めて帰った。誰もがそう思った。王宮に緊急
召集された23人の魔法使い達も喜んだのだった。
「やりましたな」
「いやはや、たとえあのドラゴンも23人の魔法の結界を打ち破ることはできなかったですね」
 と安堵をこぼしていた。しかし、その安堵は一瞬にして終わることになった。見張りの兵士が
何かに気づくまでは。
「ド、ドラゴンが・・・お、落ちてきます!!」

 兵士の叫ぶ声が聞こえ全員が外を上空を見上げると、しあが城目掛けて落ちてきていた。その
行為に焦ったが、こっちには23人の魔法使いの結界がある。何をしても無駄だと思った。
 しかし、現実は違った。上空から飛ぶのを止め、国の中央部である城目掛けて落ちてきた。そ
して、問題の結界に足が触れた。瞬間、ガラスでも割れたかのように結界を破り、しあが入国し
てきたのだった。上空の結界が2本の巨大すぎる足でぶち破ると、国全体を包んでいた結界も音
もなく光の粒となってきえた。そして、王宮の終わりを告げようとしていた。
 しあの両方の足で城の左右を踏み抜き、速度を落とさず落ちてきたので尻餅をつかないように
両足を曲げ、股とお尻で中心部を潰したのであった。また、しゃがんでいる状態だが、しあの全
体重が一気にかかった地面からは大規模なクレーターや地割れが発生。その後、しあは立ち上が
り、大きな尻尾を待ちに叩き付け、左右に動かし住宅街をなぎ払った。一気に破壊したしあは満
足そうだったが、何かへんな感じがしたのだ。
「何だろう?なんか不思議な感じがする」
 しあは踏み抜いた城の足元を少し掘り返してみると大きな光の球を見つけた。親指と人差し指
でつまみ、自分の目の前に持ってくる。
「綺麗・・・」
 ついつい見とれてしまうしあ。ずーっと見ていたら急にきゅぅ〜とお腹が鳴り、食べれそうな
ものがなかったのでその光の球を口に運んだ。まるで飴を舐めるかのような感じで国の宝でもあ
る魔法の礎を食べてしまったのだった。
 ごくん。

 魔法の礎を食べ、しあは両手を前に出し少し集中し「ふっ」っと何かをした。すると、しあの
足元から四方八方に急激な爆発を巻き起こした。その爆撃により被害のなかった建物も一瞬にし
て、ぶっ飛び、あたり一面を火の海にしたのであった。
「うわぁ、何かすごいのだしちゃった・・・」
 自分でもまさかできるとは思わなかったのだろう。しかし、できたものは仕方がない。しあは
火の海と化した国を歩き、次へと進んだ。国からでて、数歩歩き腕を組み考え出すしあ。
「やっぱり・・・次は魔物かな?やっぱりあいつら怪しいし・・・普段から目を光らせてるんだ
 けどなぁ・・・」
 少々、嫌な感じをしながら空を飛び、魔物達の拠点である魔界まで飛んでいった。魔界は人間
とドラゴンたちが住む場所とはまったく別世界で「なんというか気持ち悪い」とのがしあの感想。








 月日流れ、某村にて。

 各地で行われたしあの破壊活動がもっとも被害が少なかったのはこの村だったのだ。今を生き
ているのが信じられないぐらいである。そんななか、コノハと若者ふたりは木陰で談笑していた。
「しっかし、コノハちゃん。やっぱりあんたがいなかったら俺たちは死んでいたのかもしれねぇ」
「そうですか?」
「あぁ、なんせ、王国1つ潰して国宝まで持っていっちまうし」
「そうそう、さらにその後魔界にまでいっちゃうし、コノハちゃんには頭があがらんぜヨ」
「いえいえ、ボクはよそ者なんで少しでもみんなの役に立ちたかっただけです」
「カァー!可愛いゼヨコノハちゃん」
「でもよぉ、国宝食っちまうのはどうかと思うんだがな・・・」
「いえ、あれは元はドラゴンがあの国に託したモノなんです。だから、しあ様は小さな国宝に気
 づいたんだと思いますよ」
「ぇ・・・なんでコノハちゃんはそんなこと知ってるの・・・」
「ボクは魔法使いですから」
 ニコっと笑うコノハが若者2人には少々怖かった。見た目は可愛いが、自分等より遥か昔に生
きていた人間に見えたのだ。
「まぁ・・・まぁ、その話はいいんだ。なんでコノハさんはあのドラゴンを様付けするんだ?」
「いきなり“さん”にしないでください。話すと長いんですけどよろしいですか?」

 コノハの生まれ地はしあが国宝を食ったあの土地で生まれ育った。当時は城ができるほど活気
はなかった。その頃に、魔物達が襲い掛かり人々を殺した。もちろん、コノハの両親もだ。最後
にコノハだけが残り、魔物達に殺される瞬間にドラゴン達に助けられたのだ。コノハにとってド
ラゴンは命の恩人である。
 当時、人間が一番非力な存在であり、身を守るためにドラゴンたちは不思議の力を宿す球を置
いていったのだ。人間からすればそれは相当大きな宝だった。それから月日が経ち、人間の世界
に魔法というモノが生まれ、ドラゴンの中から魔法は消えたのだった。
 ドラゴンから見れば魔法は消えたのではなく忘れ去られたのだろう。口から炎や水、毒などを
出すことのできるドラゴンからすれば必要のないもの。それ以来、ドラゴンと人間が会話ができ
なくなったのだった。人間の言うことはドラゴンにはなんとなくわかる。しかし、人間はドラゴ
ンの言葉がわからなかったからだ。
 やがて、ドラゴンの時代が終わろうとした時にしあが生まれたのであった。しあは、人型に近
いドラゴンであるから人間の言葉はわかる。しかし、しあは今までのドラゴンとは比べ物になら
ないぐらい巨大であった。やはり、言葉がわからない。
 しかし、コノハにとってはしあの誕生は嬉しかったのだ。コノハの命を助け、コノハに力を与
えたドラゴンと初めて会話ができる。故にコノハは国の財産でもある“24人の魔法使い”の称
号を捨て、ドラゴンの監視役として立てられた村に移住することにしたのだ。この監視役ができ
るたのはしあの誕生のため。あまりにも強大なので万一のことを考え、その村の人を捨て駒のよ
うな扱いをさせた。
“監視村から不穏な音が聞こえたらそれは事件だ”と教えられたのだった。その行為にコノハは
許せず、国を去ろうとした。しかし、国はそれを許さなかった。もし、でるのであればコノハが
所持している“不思議な力を宿す球”を置いて行けとのことだった。
 コノハに迷いはなかった。むしろ、コノハにとっては大きすぎるものである。コノハはすんな
り“不思議な力を宿す球”を国に譲り、監視村に移住した。
 もちろん、村に移住して来たときに歓迎されることはなかった。監視村の人から見れば変な物
好きがいるものだと思ったのだ。
 さらに、国は監視村にドラゴンの逆鱗に触れぬように自然を汚さないことと荒地を豊かにする
ことが監視村の役目であった。その役目を知った時、コノハは自分の故郷に嫌気がさした。自分
1人だけだった所に人が集り、村ができ、最終的には王国までできたのだった。コノハが初めに
いたことなど知っている者など既にいなくなっていた。
 コノハは思った。あるべき力はあるべき場所へ返すべきだと。コノハは失礼ながら水晶でドラ
ゴンの領地、しあの領地をみてみた。すると、あたりに緑はない。しあの大きすぎる寝返りで緑
は全てしあの下敷きになったのだろうと思われる。また、練習で火でも吐いたのだろう。それか
らコノハはしあを観察し、『つるぺた』と文字を書いたのであった。

 では、なぜしあは空しか飛ばなくなったのか?しあは、本当は人間が好きなのだ。故に、人間
に被害を与えないため、寝るときとちょっと食事をするとき意外はほとんど飛んでいた。大好き
な人間を困らせたくない。人間は綺麗だ。しあの住む世界は茶色の世界だけど、人間の住むとこ
ろは何といっても綺麗だ。飛んでいてもすがすがしかった。しあにとって世界を観察するのが日
課であり、楽しみだった。
 しかし、ある日のことだ。海を渡り、荒れ果てた山をみた。穴だらけになりゴミのように捨て
られた山だ。その時、初めてしあは人間を疑うようになった。初めは偶々だと信じていたが、あ
ちらこちらから山や川、湖等が汚れていた。
 やがて、しあは『人間は皆いい人ばかりではない』と思い、しあは少し人間が怖くなった。そ
して今回の『つるぺた』の件だ。しあはついに自分の聖地にも悪い人間が入ってきて汚されるこ
とが怖かったのだ。そして、今一度ドラゴンが最強であることを示す必要があると思い、今回の
事件にいたったのであった。



「もしかすると、ボクは近いうちにドラゴンに殺されるかもしれません」
「えぇ!?そうなると俺等も死ぬかもしれないってことゼヨ?」
「いえいえ、その時はボクがなんとかします」
 2人の若者はその言葉に安心した。しかし、木陰で談笑している中、急に暗くなった。時刻は
まだ昼。雲が太陽を隠すのとはまた違う暗さの中、恐る恐る空をみた。
「うああああ!!でたゼヨーーーッ!!」
 境界線となる山からしあがぬっと顔を出し、村を見下ろしている。
「おぅい。コノハ・・・?という者はおるか?」
 以前あったときよりは遥かにまた大きくなっている。すさまじい声の大きさが降りかかる。コ
ノハは急いでしあとテレパシーを送った。テレパシーをする際にちょっと頭痛が起こるハズなの
だがしあにはまったく何事もなかったこのようだった。
 ——はい。ボクはここにいます。
「おぉ、そうか」
 しあの表情に怒りなどはない。むしろ戸惑っている感じだ。
 ——どうか・・・なさいましたか?しあ様。
「お主が1人の時、この寂しさはどうやってのりきった?最近、夢の中で私のご先祖様がでてき
 たり、小さな子供を守ったり、色々な夢をみているのだが・・・何をいっているんだ私は?」
 ——いえいえ、聞いてきてそれはありませんよ。
「そうだな。う〜む・・・。じゃあ、どうやったら人間と仲良くなれるのだ?」
 ——それは難しい質問ですね。まずは・・・・・

 コノハは困ったしあにアドバイスをした。自分の長年生きた経験を含め。それらの話をし、
しあとコノハは仲がよくなった。一時的にコノハは嫌われる者になったが、しあが『コノハをい
じめるばか者はどこだ!』と騒いだりした。やがて、しあは人間に色々協力するようになった。
もちろん、嫌なものは嫌。そんなことをしているうち、しあはコノハに色々相談し、人間と仲良
くなるために努力した。
 そして、実った。しあはこのことをコノハに感謝した。コノハは『感謝するようなことはして
いません。むしろ追い込んでしまったのかもしれない・・・』と表情を曇らせ、あの事件の火種
は自分であることを説明した。しかし、しあはコノハを恨んだりはしなかった。
 逆に、あの事件があったからこそ、しあは人間を遠くから見守るのではなく、人間と友達にな
ることができたことを感謝していた。その言葉いコノハは泣き崩れ、しあは『誰だ!コノハを泣
かせた大ばか者は!』と怒った。その行為にコノハは泣きながら笑った。しあもよく分からなか
ったがコノハが笑ったことを喜んだ。

 その後、人間とドラゴンが共に暮らせる時代がやってきたのであった。