俺の通う学校に不思議な女子生徒がいる。どの辺が不思議なのかというと、その女子生徒の名前は、シオン
といい、人間ではなく『雪女』らしい。これはシオンが入学して同じクラスになった時に自己紹介の時に
公言している。
 まぁ、自称『雪女』というなら「あっ、この子痛い子や!」っとなるが、容姿は人間とたいして変わりは
ない。ただ、人とは違いちょっと人間より小さい。目測でおよそ10~15cmぐらいで、ふよふよと空を飛べる所、
まるで妖精のような女の子である。妖精あったことないけど。
 だが、しかし。そんな事は俺にとってはどうでもいいことだった。相手が妖精の様に小さいだけで、俺とは
なんの繋がりももたなければ何も始まることもなかった。


 そんなある日の事だ。我が校で異変が起きたのだ。急に男子と女子との壁がなくなったかのように次々と
彼氏彼女の様な状況になっている。これも一種のブームでも起きているのだろうか。中には、周りが付き合い
だしたからその流れに乗って急いで付き合いだした者もいるだろう。
 俺はそんな好きでもないようなヤツと時代の流れに乗り遅れると焦って付き合ったりはしたくない。
そう、思って行たが日が立つに自分の今の環境に窮屈さを覚えてきた。藤森を始めとする男友達が次々と彼女を
つくり、くっちゃべって、いちゃいちゃしたりしていき、やがて俺はひとりぼっちになっていた。
 そんな時だった。昼休みの休憩時間、男友達は彼女の元へ向かい一緒に昼ごはんを食べている。今日も俺は
自分の席で一人飯だと、思っていた時に、ふとシオンの席に目をやってみると、シオンの席の周りには誰も
おらず、シオン一人が机にちょこんと座ってお昼ごはんを食べていた。
 気がつけば、このクラスでぼっちなのは俺とそのシオンという女の子だけになっていた。偶然なのか。
どことなく謎の運命のようなものを感じた俺はシオンの席に向かった。
「よぉ」
「ん?」
 シオンは俺の呼びかけに顔を上げた。
「あっ、西村くんじゃない。どうしたの?」
「一緒に、昼メシ食ってもいいか?」
「うん。いいよ」
 そういうと、シオンは机の真ん中から立ち上がり後ろに少し後退した。俺はシオンの席の前の椅子を引き、
そこに座り、コンビニで買ってきた焼きそばパンと牛乳を机に置いた。それを「おぉ~」というかの様な顔で
見ているシオン。まぁ、確かに自分と同じぐらいの大きさの焼きそばパンだの牛乳だの見せられたら驚くか。
一方、シオンの弁当というと手作り弁当のようだ。ミニチュアなプラスチック容器に綺麗にごはん、おかずを
詰めている。
「西村くんのなんかスゴイね」
「そうか?」
「うん。やっぱ、人間ってたくさん食べるんだね」
「少ない方だよ。出来ればカツカレーがよかったかな」
「どうしてカツカレーなの?」
「マイブーム」
「そぅ、なんだ」
「なぁ、シオン」
「ん?どうしたの」
「あ、タメ口でごめん」
「うぅん。気にしてないから大丈夫だよ」
「あ、そう?じゃあ、今更だけど聞いてもいいかな?」
「いいよ?」
「さっき『人間ってたくさん食べる』っていってたけど、やっぱりシオンは人間じゃない違う生き物だったりするの?」
「・・・・」
 突然の静寂が二人の空間を包み込む。
 あれ?
 ひょっとして、地雷踏んじゃった?
「もう、西村くんったら。一番初めの自己紹介で言ったじゃない!私は雪女だ~って」
「あれ本当だったの!?」
「本当だよ!現に、その後星野さんに触られて『ホントだーひんやりしてる―』って言われたもん」
「あぁ、そういえばそんなこともあったな」
「ひどい!」
「ごめんごめん」
 もっとも、空を飛べる時点で人間ではないよな。
「そういえば、西村くんも最近ひとりだねよね。どうしたの?」
「あ、それ聞いちゃう」
「うん。よく藤森くんと一緒にいたって感じがしたけど?」
「あぁ。アイツ、彼女できたから今そっちの方でいっぱいいっぱいなんだと思うよ」
「へぇ~そうなんだ」
「イン・ヘヴンだよ」
「なにそれ、おっかしー」
 クスクスと笑うシオン。あれ、俺意外とシオンとは話しやすい感じがする。普段、異性となんて
滅多にお喋りなんてしたことないから最悪沈黙昼ごはんも覚悟していたんだけど、意外と大丈夫だな。
「はー、私も友達欲しいなぁ」
「ん? いないの?」
「ぐぅ・・・。そういうこと、あんまり気安く言わないで欲しかったかも」
「あ、ごめん。雪女ってことで結構注目の的にでもなっているものだと思っていたけど?」
「それは、最初だけ。最初は、みんな物珍しそうに近づいてきたけど、段々、ね」
「ふーん」
「やっぱり、人間は人間同士じゃないとダメ、なのかな」
「そんなことないと思うよ」
「どうして?」
「人間は人間同士の友達じゃないとダメ。雪女は人間とはお友達にできない、と」
「でも、現にそっちの方がいいよぉ。お互い住む世界は同じだとしても、生きていく環境が違うもの
 無理して合わせてもらうのもなんだかなぁって思ったりするし」
「ばっか、お前・・・俺がついているだろ?」
「えっ?」
「俺で良かったら、友達になるよ」
「でも西村くんに迷惑かかるよ? 私、ひんやりしてるよ?」
「ひんやり? いいじゃねーか。むしろ今からの時期、クソ熱くなるんだ。
 ひんやりするんなら頭の上にずっと乗っていて貰いたいぐらいだ」
「でも・・・」
「むしろ俺は、面白いって言ったら失礼かもしれないけど、この人間同士の付き合いの他にも他の種との
 交流もあっていいと思うよ。人魚だったり、ドラゴンだったり、不死鳥だったり、雪女の他にいるのだったら
 是非ともお会いしてみたいね」
「・・・・ふふっ」
「何かおかしいところあった?」
「おっかしいよ~。フツーだったらないよ。私人間じゃなくても分かるよ。西村くん頭ちょっとおかしいんだね」
「失礼なやつだな」
「でも、私のせいで悲しませたくもないし、今まで通り一人ぼっちの方がいいのかもしれない」
「どうして?」
「だって、私が誕生したのも正直な話、つい最近の出来事みたいなものだし。クソ熱くなるっても
 西村くん言うし、私こおりの様に溶けて消えちゃうかもしれないよ?」
「そんときゃ、俺が時を超えてシオンを助けに行くよ」
「あっははは。時を超えるなんて、無理だよ~」
 どことなく良い感じの雰囲気になってきたと思い始めた頃だ。突然、扉が開いたのだ。
「コラー! ナニヤッテンダー!」
 ご乱心の先生が突然教室に入ってきた。教卓の上にある時計を見あげればとっくに昼休みは終了していた。
「それじゃ、ね」
「うん。ありがと、西村くん」


 楽しい時間はあっという間に過ぎるものだ。あの時の昼休みがすごく短く感じるほど、授業が終わるまでが
すごく長く感じた。授業も終わったし、帰りにゲーセンにでもよって音ゲでもして帰ろうと思い、教室を出て、
昇降口に向かうと、俺の下足箱の前にシオンがふよふよと空に浮いていて、俺の姿を確認すると嬉しそうな顔で
こちらに近づいてきた。
「あっ! よしくんやっときた」
「どうしたシオン」
「一緒に帰ろ」
「・・・」
「だめ?」
「いや、俺寄りたい所あるんだけど、それでもいいならいいよ」
「ほんと! ぜんぜんいいよ」
 あっさり了承。てか、シオンゲーセンなんて言ったことあるのか?
 チョイスとしては最悪なんじゃないか、と思いながら昇降口を出て校門に向かう。
「そういえば、シオン」
「ん?」
「さっき『よしくん』って言ってたけど」
「あっ、ダメ・・・だった?」
「いや、よく名前覚えていたなーっと思って」
「みんなの名前ぐらいちゃんと覚えているよ」
「そりゃそうか。あと、ずっと空飛んでるのって疲れないの?」
「疲れないって言ったら嘘になるけど、これぐらい平気だよ。それとも、こうして欲しいの?」
「んぅ?」
 横を飛んでいたシオンが突然上昇し、頭の上にうつ伏せになるような形でのしかかって来た。
「おー、ひんやりする」
「でしょ?」
「これはこれでいいな」
「でしょでしょ」
「あ、でもあんまり髪の毛引っ張ったりしないでね」
「はーい。ところで、よしくん」
「ん?」
「どこよって帰るの?」
「・・・秘密かな」

 その後、ゲームセンターについたシオンは初めて耳にする大音量に頭をクラクラさせてしまい、
その日は1クレだけ遊んで帰ったとさ。

 めでたし、めでたし。