10月31日。

 学校帰りにこれといって用があるわけでもないが、俺は商店街を歩いていた。すると、道行く人達が何かの仮装を
していた。仮装をしている人は笑顔で「トリック・オア・トリート」と言っているのを聞こえた気がした。そういえば、
今日はハロウィンか。周りの店をキョロキョロと見渡してみるとハロゥインぽい感じにデコレーションされている店ばかりだ。
そんな感じに店を眺めていたらトリック・オア・トリート。急に吸血鬼をイメージたかのような女性の方に
「トリック・オア・トリート。よかったら御覧ください」とチラシと飴玉1つもらった。はて?トリック・オア・トリートとは
一体何だったのか?そんな疑問を抱きながらチラシに目を向けてみると飴玉、チョコレートなどといったお菓子のチラシ。
なるほど、うまいな。などと思っても俺に子供がいるわけでもないのでチラシの意味はまるでない。やっぱり、ノルマとか
あるんだろうなと思いながら家に帰ろうとした。
 その時だった。俺の前方には黒いマントに金髪の子供を見かけた。その子供の両目は赤、カラコンでもしているのか?
そして、頭にはは大きなカボチャの帽子に大きめのバスケットを持っている。見る限り全力でハロウィンを楽しんでいる
子供を発見した。周りの物も仮装をしているが、なんだかこの子からは不思議な雰囲気を感じる様な気がする。
そんな風に子供を見ていると、向こうも気づいたようでバッチリ目があってしまった。サッと目を逸らしてみるものの、
その子は走って近づいてきてこういったのであった。
「“トリック・オア・トリート”って、なぁに?」
 いや、知らねぇのかよ!お前、何のために仮装しているんだよと思ったが、相手は子供だ。クールになれ。純粋な赤い瞳が
俺の顔を覗きこんでくる。無視するわけにはいかないよな。
「えーっと、だね。その意味は“イタズラされたくなかったらお菓子を寄越せ”って意味なんだよ」
 と、両膝を曲げて視線を落としてその子に優しく教えてあげた。すると、その子は、なるほどって感じの顔をした。
「おにぃちゃん、おにぃちゃん」
「ん?どうしたんだい?」
「トリック・オア・トリート!お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ~」
 ほらきたよ。
 やっぱりきたよ。
 すぐ言ってきたよ。
 なんとなくわかってたよ子供だもん。と、言われても俺には生憎お菓子なんて・・・ある、な。さっきのお菓子が。
「うわぁ~、お兄ちゃんイタズラされると困っちゃうから、飴ちゃんあげるね~」
「わぁい、ありがとうおにぃちゃん!」
 ほら、帰れよ。
 すぐ帰れよ。
 直ちに帰れよ。
 と、心の中で呟きながら笑顔でその子にもらったばかりに飴ちゃんをあげると、その子は嬉しそうに飴玉を見つめた。
内心子供に絡まれた時は面倒臭いのはイヤだと思っていたが、子供の喜んでいる顔を見るのは微笑ましい。
「他には?」
 ねぇよ。いいから帰れよ。おい、この子の保護者何しているんだよ。俺、めっちゃ困るんですけど。しかし、ないものは
ない。ここは適当な事を行ってさっさと帰ろう。
「ごめんね~。おにぃちゃん、もうお菓子持ってないんだよ~」
「えぇ~~~」
 頭の上からガビーンっという擬音でもでているかの様にがっかりしたような表情をしてきた。だが、逃げる。
「じゃあ、お兄ちゃん行くね?ほら、キミも帰らないと。お母さん心配しているかも知れないよ?」
「シャロのお母さんこの世界にはいないもん」
「あっ・・・」
 なんだか悪い事を言ってしまった気がする。ついでだけどこの子の名前は、シャロというのか。いやいや、そんな事じゃ
ないだろ。このシャロと名乗る子供にはお母さんは既に他界しているのか。しかし、それを知ってしまったからといっても
俺がその子のお母さんを蘇らせる事もできない。NGワードをうっかりしゃべってしまったのだ。
「じゃ、じゃあね。気をつけて家に帰るんだよ」
 このどことなく息苦しさ感じた俺は、その場から逃げるように小走り気味にその場を後にした。
 

  
 ピンポーン。
 インターホンが鳴る。家の中には俺1人。あの出来事から数分で家に帰ってきたが、家には誰もおらず、外出中。
このまま居留守でもしてやろうかと様子を伺っていると玄関の方から「トリック・オア・トリート!」「トリック・オア・トリート!」
「扉を開けないとイタズラしちゃうぞ~」と、商店がで出会ったあの子の陽気な声が聞こえる。どうやらあの商店街から
ついてきてしまったようだ。ピンポーン、ドンドンドン、ピンポーンとリズミカルに鳴る。このままでは本当に、
イタズラ(物理)を玄関の扉にされてしまう。仕方がない、開けるか。
 ギィーっと、玄関の扉を開けると、扉の隙間からあの子供の顔が覗きこんでくる。
「おにぃちゃん、トリック・オア・トリートだよ?」
「トリック・オア・トリートは、合言葉じゃないよ」
「イタズラ・・・しちゃうぞ!」
 元気に言わんでもいい。しかし、このまま玄関で騒がれてはご近所様にご迷惑だ。俺は仕方なく、扉のチェーンを外すと
その子は玄関の中に入り込んできた。
「うふふ。おにぃちゃん、一緒に遊ぼ?」
 あーはいはい、わかったよ。とりあえずあがれよ。そんな笑顔で見上げられたら帰そうに帰せないだろ。閉めたら閉めたで
その場で泣き騒がれても困るのは俺なんだからな。
「あー・・・ちょっとだけだぞ?」
「わーい!やったー」
 目の前で大はしゃぎ。いったい問題どうしたものか・・・。
 とりあえず、小さなお客さんを茶の間に上がらせる。俺は適当に台所から何か持ってこようとしたらちゃんと
後ろについて来てしまった。
 あーわかったよ。じゃあ、台所でいいよ。
「おにぃちゃん!おにぃちゃん!」
「あーぃ、なんですか」
 適当に日本茶を入れている俺。てか、この子お茶飲めるのか?見た感じ日本人って感じはまるでしない。金髪だし。
「おにぃちゃんのお名前はなんていうの?あっ!私、シャーロスチっていうの!シャロって呼んでね!」
 言われてみればまだ名乗っていなかったな。俺はなんとなくこの子の名前を知っていたのだが、相手は教えていないのに
名前で呼ぶのもおかしい話だ。シャーロスチ、なんとも不思議な名前だ。
「俺はケンスケ。よろしくシャロ」
「ケンスケ・・・っていうんだね!うん、よろしくね。おにぃちゃん!」
 うん、まぁいいか。呼びたいように呼べばいいんじゃないかな?っと、こんなことしている間に適当に淹れた日本茶の
完成。シャロの前に置いてあげるとお茶に「おぉ!」と驚く。
「もしかして、おにぃちゃんも魔法使いだったりするの?」
「魔法使い?」
「違うの?」
 いや、俺は男子高校生だぞ。なぜゆえ魔法使いになったのだ。そりゃー、まだしたこともないからこのまま行けば
魔法使いになってしまうが・・・。確か、30か25だったかな。いやいやいや、それこそ違うだろ。何を言っているんだ俺は。
「人間デスガナ」
 何故かカタコトになって返事をしていまう俺。
「人間さんですかー。ふーん。この緑のお飲み物はなんていうの?」
「この緑色の飲み物は、日本茶っていうんだよ」
「ニホンジャ?」
 うん。若干違うな。なんか、ニンジャみたいになったな。まぁいいか。
「あ、そう言えばね。おにぃちゃんに大事なお話があるの」
「ん?大事なお話」
「うん。トリック・オア・トリート!お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ~」
 またそれかいっ!両手を顔の高さまで持ってくるなりグーパーグーパーと楽しそうにいいやがって。あいにく我が家の
お菓子というお菓子は切らしている。ここははっきりと言っておいたほうがいいだろう。
「お菓子は、ない!」
「エェーーーッ!!」
 ないものはない。オロオロとそんまま机の上に崩れ落ちるシャロ。余程、お菓子を期待していたのかすごく残念そうだ。
ここはちょっとだけ、からかってみるか。
「俺はお菓子はない。しかし、シャロはお菓子を持っているよね?」
「うん・・・。持っているよ?」
「じゃあ、お兄ちゃんも、トリック・オア・トリートだ!グヘヘ、お菓子をくれないとお兄ちゃんイタズラしちゃうぞ~」
 溢れ出る犯罪臭。悪ノリとは言えちょっと脅かし過ぎたかな?
 ・・・あ。ここで俺は重要な事を思い出した。溢れ出る犯罪臭?いや、下手すれば容疑かけられちまうよ!
最近ニュースで幼女をマンションに誘拐した的なやつを見たぞ。これ、だいたい似てるんじゃね?もし、シャロが警察とか
に『何も知らないであの人のお家に入ったらイタズラするって脅された』とか言われたらシャレにならないぞ。何よりこの
“イタズラ”という言葉が非常によろしくない!どうせアレだろ?性的イタズラとかに聞こえるんだろ!?やめてくれよ。
マジで。そんなつもりで言ったわけじゃないんだからよ。
「ヤダー!シャロ、イタズラされたくないー!!」
 その場で大声で叫ぶシャロ。だから、やめてくれって!!周りに聞こえたらどうするんだよ!!!
「あーーーっ!!!うそうそうそ、今の嘘!嘘であって、冗談だからねーーー!!イタズラなんてしてないからねー!!!」
 俺もその場で大声を出してしまう大惨事。
 あぁ、もう死にたい。何やってんだ俺は。
「ふぇ?うそなの?」
「うそです!!」
「あー、よかった。シャロびっくりしちゃった!」
「あははは・・・ごめんごめん」
 なんとかしのいだ。危機は去った。
「でも、おにぃちゃんの気が変わって襲ってくると悪いからシャロお手製の飴ちゃんあげるね!」
「あははは・・・ありがとう」
「どういたしましてっ!はい、どーぞ」
 うふふふ~っと上機嫌にシャロは俺に飴玉を手渡ししてくれた。でも、これって信用してないってことだよね。
なんというか魔除けみたいな感じに飴玉をもらった気分で、少々複雑な気分である。
「さっそく舐めてもいいよ?シャロはね、お出かけする時は飴ちゃんいっぱい持って行くからまだまだあるよ」
「へ、へぇ~。そうなんだ。じゃあ、さっそく舐めてみようかな」
 飴玉の入っている紙袋を左右に引っ張ると、赤い色の飴玉が姿を現した。シャロお手製というからに、自分で
飴玉を作ったのか。こんな小さな子が結構ちゃんとした飴玉を作れるとはすごいな。余程飴玉が好きなんだろうな。
そのまま、飴玉を口に入れ下で転がすとイチゴミルクの味がした。
「おいしい?」
「うん。おいしいよ」
「えへへ、ありがと」
 しかしまぁ、上品な飴玉だ。きっと、シャロは大きくなったらお菓子屋さん、いや、パティシエにでもなるのかな?
こんなに小さな子にこんなに美味しい飴玉を作れるんだから大したもんだ。心なしか、シャロが大きく見えてきた。
あー、それにしてもさっきの騒ぎが本当にバカバカしく感じてくる。
「ねぇ、おにぃちゃん?」
「ん?」
「どうしておにぃちゃんはちっちゃくなってきているの?」
「・・・は?」
 言われてみてあたりをキョロキョロ見渡してみると周りがどんどん大きくなってきているように見えている。
いや、これは俺が明らかに小さくなっている。一体どうして!?身体だけが小さくなるのではなく、俺が身に着けていた
物も一緒に小さくなってくれているのは不幸中の幸いか。
 しかし、そんな悠長な事を言っている場合ではない。俺の体ははみるみる縮んでいき椅子の上に
ぽつんと取り残されてしまった。これからどうすればいいんだ。
 
 
 
 ある程度時間が立つと、俺の縮小は収まったみたいだ。周りの物が本当に大きく見える。床に寝っ転がって天井を見る
あの視界とは似ているかもしれないが、感覚が全然違う。今までは、すぐそこにあるものは手を伸ばせば届くはずなのに
届かない。ソレを言ってしまったら高い所に登って地面を歩いている人間を摘めそうで摘めない。もし、そんなことが
出来るとしたら巨人しかいない、だいたいそんな感じ。
 あー。大分、頭がパニックっているな。そんなの当たり前のことだろって思う。でも、巨人ではなく小人にこうしてなって
しまっている以上現実を受け入れがたい。俺はこのまま一生、小人のまま生きて行かないと行けないのか?そんな事を
考えているとどこからか、ズゥン、ズゥンという重々しい音が聞こえると思うと地面も少々揺れ大きな影が覆いかぶさる。
次は一体何が起きているんだ!?
「おにぃちゃん!大丈夫!?」
「・・・!!」
 上空から聞こえるシャロの声に俺は頭をあげると、そこには山のように大きな巨人、シャロが心配そうに俺を見ている。
あ、いや。これはシャロが巨人になったのではなく、俺が小さくなったんだな。あー、どうも自分が小さくなっているという
感じがしないんだろうな。どこかでこの現実を嘘としたい自分がいるのだろう。
「おにぃちゃんってば!!」
「うおっ!?」
「あぅ、ごめんなさい」
 俺から反応がないものだから、シャロは椅子の前でしゃがみこんで両手を椅子に乗せていた。
ちょっと、揺れたが問題ない。
「ごめんなさい。おにぃちゃんこんな事になって・・・」
「あぁ、いや、シャロが謝る事じゃないよ」
「きっと、飴ちゃん作る時に調味料と間違えて違うのをいれちゃったんだね・・・。それで、おにぃちゃんがこんな姿に・・・」
「大丈夫だって、シャロ。ただ体がちょっとだけちっちゃくなっただけだよ」
「でもっ・・・でもっ・・・」
「だから大丈夫だって。心配するなって」
 今にも泣き出しそうなシャロ。まるで犬か猫の様に椅子を覗き込んでいる様に見ているが、すごい迫力だ。なんというか、
震え声っていうのは聞いたことあると思うが、震え声っていうのは息も震えているんだな。シャロが喋るたびに吐息が
吹いては体全身で俺は受け止めている。上手く表現できないが、息がぷるぷる震えているんだ。
 そして、度々鳴るスゥーと鼻を啜る音。目には溢れんばかりの涙がびっちりと溜まっており今にも溢れだしそう。
「えぇ~~~~ん、目がごろごろするよぉ~~~」
 ん?何だって?えっ、目?俺に対する心配とか、罪悪感とかそういうのじゃなくて・・・目!?
 なぜゆえ目がごろごろするんだっと思えば、シャロの両目は赤い瞳。アニメとか映画とかなら赤い瞳は普通にあるけど、
リアルではまずお目にかかることはないよな。目だけに。そんなことより、アレだ。多分シャロもパニックに
なっているんだろう。俺は小さくなるわ、目はゴロゴロするわでカラコンしているのを忘れているんだろう。一応聞いてみるか。
「あ~、シャル?お目々に色の付いた物つけているからゴロゴロするんじゃないのかな?」
 そう言うとシャロはハッとしてカラコンをしているのに気づいたみたいで、右目から赤いレンズを取り出し、赤い瞳から
青い瞳が姿を現した。そのまま、左のカラコンも外すのかと思いきや、左目はイジらずニッコリと笑顔を見せた。
「ありがと、おにぃちゃん」
「いや、左目がまだ赤いぞシャロ」
「ううん。これでいいんだよおにぃちゃん」
 いやいやいや。え?これでいいってどういうこと?いや、カラコンしたことないからよくわからないけど赤のカラコン
つければ多少は視界が赤く見えるのだろ?それを片方だけつけっぱなしだったら目に毒なんじゃないのか?
「ふふふ。おにぃちゃん不思議そうな顔しているね」
「そりゃ、目の前でおかしな事してればそうなるわ」
「私の目はね、こういう色なの!その・・・魔法使いだから!」
「魔法使い?」
 また、魔法使いという言葉がでてきた。そういえば、さっきも俺の事を魔法使いとか言っていたような。
「うん。私、魔法使いなんだよ!っと、言ってもなりそこないなんだけどね・・・えへへ」
「はぁ・・・なりそこないと、いいますと?」
「失敗しちゃったの」
「失敗?」
「そのぉ・・・こっちの世界では存在しないみたいなんだと思うけどね。私の世界には魔法はあるの。その魔法を使って
 みたくて、魔法使いになろうとしてね。そのぉ・・・魔法使いになる儀式で、失敗しちゃって、ね。半分人間、
 半分魔法使いになっちゃったの。その代償がこの目の色なの。完全に魔法使いになれなかったからこんな感じになっちゃ
 ったの」
「へ、へぇ~」
「うん。これ以上喋っちゃうとクロネコさんに怒られちゃうから何も言えないけど、こういう目なの」
「なるほど・・・」
 まるで意味がわからんぞ。もしかして、シャロはアッチ系の人なのかな?魔法使いがどうのこうのって言っていると
思ったあら今度はクロネコさんに怒られるとか、宅配便の方にですかね?
 でも、ちょっと信じられない話ではあるけど、それなりにわからんでもない内容でもあるが、じゃあどうしてシャロは
こっちに来ているんだ?シャロはこの世界の人間じゃないとすると、世界は1つではなく複数存在するってことなのか?
「む、おにぃちゃんあんまり信じてくれてなさそう」
「そ、そんなことないぞ!信じてるぞ!」
「うそ。おにぃちゃん、ぜったいシャロの事、どっかとんでいる変な人みたいな感じに見ているんでしょ」
「いや、そんなこと思ってなんて、あっ、ちょっ、やめ・・・ぐぇっ」
 どうやらシャロは俺の今一つ信じていないっていうのを表情から見てわかってしまったようだ。それが面白くなかった
のか、大きな右手が俺に迫ってくるなりデコピンの形をして軽くピンとはじかれてしまう。感覚的に胸元にタックルを
されてしまった感じ。少し、後ろに飛ばされた後に人差し指でトントンと胸から腹の間をチョンチョンと突いているんだと
思うのだろうけど、俺からしたら結構連続シンドイ。連続的に丸太が俺を襲いかかってきているみたいなものだから力加減を
誤ると一瞬でグチャとされてしまう。
「シャロが一生懸命説明したのに、おにぃちゃんのばか!」
「わ、ちょ、死ぬ・・・やめて!信じるから!シャロの言ってたこと信じるから!」
「ほんとに?」
「ほ、ほんとだって。現に、その、よくわからないけど、俺、ちっちゃくなってるし、実際じゃ、ありえないことだし。
 で、でも、シャロのいる世界では、その、ありえるんだろ?それが、その、起きているんだから、な!」
 後半自分でも何を言っているのかわからない。もはや勢いでしゃべっているけど、仕方がないだろ。どつかれてこっちは
シンドイんだから。その訴えも実ったのかシャロ慌ててボロボロの俺を突くのをやめてくれた。
「ご、ごめんなさい・・・おにぃちゃん。でも、信じてくれないおにぃちゃんも悪いんだからね!」
「はぁ・・・はぁ・・・。あぁ、それは、俺も、悪かった」
 嵐は去った。そんな気がした。何もしないで呼吸するのはこんなに素晴らしいものなんだと感動すら覚える。
 だが、そんな感動に浸っている場合ではない。 
「で、俺は元に戻るのか?」
「戻るよ?」
「どうやって」
「私がいっぱい突けば」
「やめて!」
 いや、マジで。これ以上突かれ続けたら俺、逝っちゃう。あ、でも、このまま小人のままっていうのも嫌だな。 
「冗談だよおにぃちゃん。多分、時間が解決してくれるよ」
「そんな折衝な!」
 困ったときは時間が解決してくれますよ的な?いや、それはダメだろ。時間が解決してくれるって、長いかも
しれないし、短いかもしれない。しかし、俺には明日学校は当然あるわけで、これから家族も帰ってくるわけだ。
1分1秒でも早く元の姿に戻らないと日常生活に支障がでかねない!

 ボォン!

 そんな事を思っていたら時間さんが見事解決してくれました。はい。謎の爆発音とともに元に戻れました。
元の姿に戻れた俺の姿をシャロが見上げて安心したかのようにニコッと笑った。
「ね?」
「あぁ。信じられないぐらいあっさり時間が解決してくれましたな」
「うふふ。じゃ、おにぃちゃん。そろそろ帰るね」
「帰るって、その、シャロのいる世界にか?」
「うん。そうだよー。帰りが遅いとクロネコさんに怒られちゃうからね~」
 またでてきたよ。クロネコさん。一体何者なんだと思っていると、シャロはポケットから白のチョークなような物を
取り出し、床に落書きを始めたのであった。
「ちょ、ちょっと、シャロさん。勝手に床に落書きしないでくださいね~」
「落書きじゃないよ~魔法陣だよ~」
 はぁ。魔法陣ですか。確かに丸描いてお星様描いてなんかよくわからない文字が描かれているな。そんなの俺にだって
出来る落書きだぜっとおもいきや、シャロがぶつぶつ何かを唱え始めれば魔法陣と思われる落書きは青白い光を発し
はじめたのであった。
「こういうのはなるべく外の人には見せちゃいけないんだってさ」
「お、おぅ・・・」
「でも、おにぃちゃんは特別に見せてあげちゃった」
「なんともファンタジーですね」
「でしょ~。あ、これ結構長く持たないんだった。じゃ、おにぃちゃん遊んでくれてありがとう。楽しかったよ」
「あ?あー、あぁ。俺も、その、楽しかったぞ?色々と凄い経験もしちまったし」
「えへへ。よかった。また遊びに来てもいいかな?」
「おう、いつでも遊びに来いよ」
「うん!ありがとう、おにぃちゃん!じゃあね、ばいばーい」
 魔法陣の中で片手でばいばいするシャロに俺も手を振ると、最後に強烈な光が辺りを照らし、シャロはその場から
消え去ってしまい、残っいるのは床に描かれた魔法陣。これ、消えるのかなと辺りを見渡せば、机に見覚えのある飴玉が
1つ置いてある。シャロお手製の飴玉だ。どうやら1つだけ忘れて帰ってしまったようだが・・・。今、舐めたらまた
小さくなっちゃうのだろうか?それとも逆に大きくなるとかあるのか?舐めるのは、やめておこう。と、言っても、
これがここにあってはいけないだろ。誰かが舐めてしまったら誰かがまたファンタジーな体験の犠牲者になってしまう。
 これは、俺が責任をもって保管しておこう。
 で、シャロがまた遊びに来たら聞いてみればいいか。
 
 あー、疲れた。 
 今日は何日だ?10月31日、あぁ、今日はハロウィンか。
 まったく、とんだイタズラをされちまったな。
 これからは、ハロウィンはちゃんとお菓子を用意しょう。  
 また、お菓子をあげれなくて小さくされるのはごめんだからな。

 トリック・オア・トリート

 
 
 - Fin -