通り魔

 昨晩の事です。ダイナミックな大地震があったそうですよ。その地震のおかげで俺の家が崩壊寸前となり、とりあえ
ず実家に向かうことになったのだ。その地震を起こした犯人が彼女、鬼島嬉姫である。どうやって大地震を起こしたか
と言えば、彼女は大きさを自由に操作できるのかは知らないが、巨大化して家ごと踏み潰そうとして大転倒したのだ。
 また、本人は曰く彼女は鬼らしい。しかし、鬼らしい一面もある。彼女は凄い怪力で凄い豆が苦手なところがあり、
こんな寒い時期でノースリーブで堂々と歩いているぐらい凄い人物である。見てるこっちが寒い。
「おい、貴様。さっきから何を見ている?」
 そして俺のことは“貴様”と呼び、護涙(まもる)とは決して言ってくれないのだ。じゃあ、こっちも名前で呼ば
ねぇよ!と思っても無駄な抵抗だったのだ。彼女には過去の記憶がないらしく、名前も俺が命名した。
 そんな中、電車を使って一気に地元に帰ろうかと思えば、大地震の影響のせいか電車が停止。まぁ、実家まで決し
て遠い距離ではないので、交通手段は徒歩で行くことになりそうです。


 駅まで無駄足に終わり、これから歩いて自宅に向かう際にとりあえず自販機の前に立つ俺とキキ。あぁ、“キキ”
というのは彼女、喜姫の事だがめんどくさいのでキキ、彼女もキキの方が気に入っているようですので、覚えといて
ください。俺は二刀流で彼女を呼びますので。
「貴様、この箱はなんだ?」
「あ~。自販機だよ。金を入れて飲み物が出てくるんだ」
 ほぉ、わからん。という感じの顔をしたのでとりあえず、小銭を入れてコーヒーを2本買う。ポチ、ガコンという
音に彼女はびくっとしていたようだ。あったか~いコーヒーを彼女に渡し、缶をよく振りプルタブで穴を開け、コー
ヒーを口に運ぶ。その光景を見てなるほどなという顔を彼女はした。そんなに珍しい物なのかな?とか思いながら彼
女の缶コーヒーの対応に目を配りながらコーヒーを飲む。
 そんな彼女は、俺が最初にした様に缶をよく振り始めた。まぁ、人によっては振らないよね。次に、人差し指を立
て、爪で缶の上の部分をくぃ~っと回し始めたのだ。回し始めて指が一周すると、カコっという音をたて、表面は缶
の中に入っていった。プルタブ涙目である。というか、さっきしたなるほどな顔はどうした!?理解してねぇじゃね
ぇか!。
「・・・こうか?」
 いいえ、違います。それは缶詰を開ける時にする運動に非常に似ていますが、違います。俺は無言のまま、缶の表
面を彼女の方に見せる。
「貴様、そんな小さな穴で飲めるのか?はは~ん、わかった。所詮人間の実力ではその程度が限界だということか」
 と、彼女は偉そうな事を言っていますが、盛大に間違っております。彼女はおばかさんなんですね。はいはい、そ
うですねと俺は適当に対応しながら残りの液体を一気に飲み干し、歩き出したのだ。
 その後、一定の距離を保ちながら彼女もしっかり後をつけながら缶コーヒーを飲んでいたようだが、時間が経つに
つれて俺と彼女の距離はどんどん遠ざかっていたのだ。どうしてわかるのかと言われれば後方で「うぉ!」「わぁ!」
だのと叫び声が聞こえで何となく距離感がわかる。後ろを振り返れば、彼女はおろおろとした足取りで坂道を下って
いてる。そういえば、彼女の靴は革靴であり路面は若干凍り付いているのだから相当滑るのであろう。見ているこっ
ちも危なっかしい。
「お、おい!なんで貴様は涼しい顔でぇーあ、歩けるぅーのだ」
「滑りながら喋るなよ」
 まぁ、俺も時折足を滑って危ない時もあるが革靴よりは全然マシだ。とりあえず、靴の裏を見せると彼女も納得し
たのだろう。悔しがっていた。すると、彼女はいきなり大声を出して飛び出してきた。
「ならば、こうするまでだー!」
 よく、滑る路面で高々とジャンプが出来るなとか思いながらもこっちにくんなというのが本音である。事実上彼女
の方が背丈は大きいし、鋭利な物もおでこに備えている。避けるわけにもいかないし、ただ彼女を受け止めるような
姿勢に無意識になっていた。

 ポン♪

 と、いう感じの音がした。「はい?」接触寸前で気の抜けるような音がしたためこちらも思わず驚いてしまう。し
て、彼女はどこへいったのかと思うと、胸元になんか紙くずか飛んできたかのような感触がした。俺は、それを両手
で受け止めるなり、胸元に視線をやるとそこにはやけに小さくなった彼女がいて、俺の手のひらの上に立っていた。
あたかも当然かのようなポーズだ。小さくなった彼女はだいたい15cmぐらいのフィギュアのようだ。
「歩きにくいから私の分まで貴様が歩け」
 と、手のひらに乗っているこのちっこいヤツは俺に指を付き出してきた。その前にどうしてこうなったかをちゃん
と説明してもらいたいものだ。まぁ、要約すると、彼女は大きさはだいたい自由に操作できるらしい。大中小の様に
変幻自在のようです。まぁ、家を数軒まとめて踏み潰すぐらい大きく慣れてちゃんと元に戻れるんだから大丈夫なん
だろう。制限時間もないようだ。彼女の気分、もしくはエネルギー切れ的な何か通常サイズ、つまり190cmぐらいの
身長が彼女の本来あるべき姿なのだろう。しかし、まぁ。なにこの可愛い生き物。 
「というわけで、安全そうな場所がないから貴様の肩にいさせてもらう」
 説明が終わるなりちっこい彼女は俺の手を蹴り、肩までジャンプした。でっかくてちっちゃくても運動神経が人間
外の動きをする方だ。ほら、手痛かったのに謝罪なし。俺の右肩に乗るなり手は俺の耳を掴んで引っ張ている状態に
なった。
「イテテテ、あまり引っ張るな」
「うるさい。黙れ」
 前言撤回。ちっちゃくても彼女は可愛くもなければ危険である。彼女が黙れと言い終わる頃に耳にかかる圧力が
若干強くなったような。なんというか、抓られているような感じ?痛いです。ハイ。


 何はともあれとりあえず下り道は終わり、彼女は元通りの大きさに戻ったのであった。彼女は「ご苦労っ!」と言
いながらぴょんっとジャンプして目の前にはいつも通りの彼女が目の前にいた。考えて見れば、高校とかのワイシャ
ツの胸ポケットに乗っていたらドキドキもんだったんだろうな~とか思う。むしろ、逆でもいいよな!
 な~んて、思っていると目の前には彼女が俺の方を怪しいものを見ているかのような視線を贈っている。思わず、
ドキっときたが、額から何かが流れている感触がした。
「何考えてるんだ?貴様は」
「近い!顔が近い!あと、ちゃんと角で俺の額を刺さないでくださいな!」
 彼女の真正面は危険である。ちゃんと角でも攻撃してくるから注意が必要である。彼女の肩をゆっくり両手で押し
角を引っこ抜く。浅く刺さっていても痛いものは痛いからな。膝をかかんでこっちの目線に合わせて彼女はおっとと
と後退していく。
「はぁー、腹へったなぁ」
 とりあえず、流血を手で拭って一言吐く俺。下山が終える頃にはお昼を過ぎており、腹に入っていたものは缶コー
ヒーのみ。彼女は「もう腹が減ったのか?」と俺に問いてくるが最初の滑っている時以外お前は動いてないから楽だ
よな!俺はそのあと何回か滑って、抓られてと散々な目に合ってるんだよ!とは口には出さず心の中だけに留めてお
く。とりあえず、コンビニないかなと視線を彼女から外すと見覚えのある男がそこに立っていた。
「お?高坂やーん」
「寺門・・・?」
「誰じゃ?」
 眼鏡をかけた男、寺門優がそこにいた。彼女は寺門の事は当たり前のようにしらず思わず声に出してしまったのだ
ろう。寺門はやけにおっきい女の子がいるなぁと思っているんだろう。
「何してんだお前?」
「ははん、そう言うなて。ところでお前、昼食ったか?」
「いや、まだだよ」
「奇遇だな~俺もだ。んじゃ~モジャのとこいこうか~。あ、愛川は俺の方から呼んどくから先いっといてくれ」
「愛川?あいつこれんのか?」
「くんじゃね~かなー?愛川だし?ほんじゃ、モジャの所でな~」
 そういうなり、寺門はササッと何処かへ去っていった。地元に戻ってくるなりいきなりプチ同窓会になりそうだ。
というか、時間を明確に決めてもらいたいものだ。そして、さっきから空気化しそうだった彼女は俺にアイツは何な
んだと聞いていきたが、友達だと軽く流した。まぁ、詳しくは後で説明するとしてモジャの店に向かう事になった。


 ガラガラガラ。歩いて数分、寺門の言っていたモジャの店にたどり着くと、寺門達は既にカウンターで座っており、
俺を見つけ次第「ここだここ」と手を振って合図した。俺はその合図を見て寺門の隣に座ると、愛川も一緒にいたも
のだからびっくりである。ここに来るまで一応寄り道しないで真っ直ぐ来たわけなのだが、どうしてこうも集まりだ
けはいいのだろうかと疑問に思う。
「高坂君お久しぶりだね~」
 と寺門の後ろからひょこっと顔を出す女の子。彼女の名前は愛川藍といい俺の友達であり、貴重な女子枠だ。何故
彼女が俺達とつるんでいるのは、ただ単純に面白いからだそうだ。世の中、変わったヤツばかりで困るものだ。
「高坂君いらっしゃい」
 そして、カウンター越しに立っている鉢巻をしたおっさんに見えてしまうこの人は大山田鉄郎のこと、あだ名は
モジャ。何故モジャかと言うと、彼の顔のヒゲがソレを指しているのだ。高校卒業したときに酒を飲んだ時、アルコ
ール担当兼会場準備をしたことがある。ただ、会場準備というのは、ただ単に寺門がモジャの所で飲もうとなっただ
けのことである。
「―――で、高坂の後ろにいる不思議角っ子ちゃんは新しい高坂と愉快な仲間たちメンバーですかい?」
「なんだそのメンバーは・・・。この人はだな・・・」
 普通に鬼なんて言って信じてもらえるハズがない。てか、下手すると信じてしまう可能性もないかもしれないから
困る。とりあえず、説明。彼女もだんだん自分の立場に息苦しさをかんじているころであろう。
 まず、この角を付けている人は、鬼島嬉姫。節分の夜に俺の家に上がりこんで殺しにかかってきた女の子だ。そし
て、彼女は自分自身の大きさを自由自在に操作できるらしい。まぁ、この場ではただの知り合いという事にした。
「女か!?ついに高坂に女ができたのか!か~いいね。うらやましいね~こんなレアな子めったにいないぜ~」
 という眼鏡男の事、寺門優は頭がいいのか馬鹿なのかがよくわからないヤツだ。高卒から何故か公務員になれたの
だが、自ら辞退したという伝説もある。本人曰く、この職場では俺の能力が存分に発揮できないと豪快な発言をして
現在はフリーターらしい。一応働いているようだが、自由奔放なヤツだ。
「そっか~高坂君もやっと恋人ができたんだね。おめでと~」
 とあたかも自分には恋人はいるに限りなく近い発言をしたのが愛川藍。俺の知ってる中でこいつに彼氏は入るとい
う話は聞いたことがない。愛川は高卒後、専門大学に出たそうだ。喋り方はほんわかしている感じだが意外と俊敏で
授業とかよく抜け出すのが得意。幸いにも今日は休日だから抜けだして集まったということはないようだ。
「恋人?何故私がこんなヤツの恋人に見えるのか?そこのゴツイのは何だんまりこんどるのだ」
「え?俺」
 と、キキが恋人発言に思わず反発してその矛先が何故か大山田鉄郎の事、モジャの方に向いた。モジャは高卒後、
親父と一緒にくるくる廻らない寿司屋で働いている。口数は少ないのだからこの対応も困っている。しかし、それが
他のヤツからみると面白いからよくイジラれている。まったく、可哀想なヤツ。この面子では常識人担当が妥当なの
だろう。
 まぁ、そんなこんなでひと通り自己紹介みたいなものを済ませた俺達はモジャの店で昼飯を食ったのだった。で、
ここの注目人物はやっぱり彼女、鬼島嬉姫。記憶がなければ寿司という食文化も知らないわけであり、簡単に概要を
説明してあげると「人間はそんなものを食べるのか」とよく海外で寿司というのを知らない人ベスト10に言ってそう
な発言をしたのだった。
 となると、他の面子は寿司食ったことないの?外国の人?と、どうしたどうしたと注目してくる。本当に彼女の
説明は難しいと改めて思ったのだった。


 飯も食い終わり、あとはお茶を飲みながら軽く雑談をしていると日が暮れていたのだった。本当に時間がたつのは
はやいものだ。そろそろおいたましようかと思い皆でワリカン(何故かモジャも出すという)で済ませた。
「あ~、そうだ。高坂はしばらくこっちにいることになるのか?」
「まぁ、そうなるのかな?」
「そうか・・・じゃあ、最近“通り魔”が出没しているって話は知らないよな?」
「そうだよ~高坂君。今月に入ってからかな~?毎晩起きてるから気をつけなよ?」
 と、寺門と愛川は久しぶりに地元に帰ってきた俺に忠告をする。というか、一番気を付けないといけないのは愛川
お前だろ。
「マジで?」
「マジのマジよ~。最近でったらめだ。突然屋敷ができたと思ったら通り魔で夜が危ないと思ったら昨日は謎の大
地震が起きるんだからな~」
「そ、そうッスね。」
 後半の大地震はもろ被害者だということと一番良く知っているということは黙っておこう。彼女に視線を向けると
彼女は深刻な顔で通り魔の話に興味がありそうな顔をしていた。やい、震源。ある意味地震に触れないでそっちにむ
けるのは違和感ないような感じはするけど、被害者の俺には何もなしかい?と問いつめたいものだ。
「そこの眼鏡」
「なんですかい?角ちゃん」
「なめているのか?」
「舐めていいのであれば喜んで舐めますよ?」
「あぁ!?」
「そ~んな怖い顔しなくてもいいじゃ~ん」
「オイ」
 この会話は若干危ない、思わずストップをかける。なんで寺門はこんな対応が出来るのかと逆に心配になる。彼女
もプッチン一歩前です。店内でのリアルファイトはご遠慮お願いします。その隣で静かに笑う愛川もとめに入れ馬鹿
野郎。
 まぁ、彼女が寺門から聞き出したかった事は通り魔の情報についてだった。何でも、被害者はほとんどが路上で倒
れており、病院に搬送されるとオチが貧血だったのが事の発展らしい。貧血だったら通り魔の仕業にはならないん
じゃないかと思うがその貧血事件が毎晩おきており、被害者は皆夜道に襲われており、小さな傷が残っているらしい。
 他の発言によると、一旦何処かに運ばれたような感じがしたりとか、周りのものが大きく見えたり、ふらふらした
りとの曖昧な証言がある。となると、何者かが強制献血でもしてるんじゃないかと俺は思った。だって、どっかに運
ばれるんだったら、献血車とかに運ばれんじゃね?とか思ったり、大きく見えるのは貧血起こして変な錯覚でそう見
えるだけなんじゃないかと俺は思う。
「ふーん」
「なるほどな。ありがとな寺門」
「いやいや。とりあえず、気をつけてお帰りな~」
 とりあえず、寺門の言うとおり気をつけて帰ろう。しかし、何故か気を付けなくても通り魔が襲ってきたら彼女が
仕留めるそうだから怖い。犯人の心配もしないといけなくなる。
 それから、モジャの店を出てから数分、俺は彼女と一緒に実家へ向かっていた。俺が住んでいたところと比べれば
大分明るい夜な感じだと思いながら帰っているとある建物を発見したのだった。俺が引っ越すまでは空き地だった所
に屋敷が建っていたのだ。人の記憶というのは曖昧なものだからもしかすると、俺が知らないだけで引っ越したすぐ
直後に屋敷を建てたのだろうか?屋敷は、以前からあったかのように古びている感じがしているものだから新しく
建てるとなると謎である。
「どうした?」
 屋敷をじっと見ていた俺に彼女は俺に声をかける。まぁ、俺は思ったことを彼女に言うと「そうか」という短い
解答でおわったのだった。え?終わりかい。とか思いながらも、ぐずぐずしていて通り魔と遭遇したくないから早々
に立ち去り、実家を目指した。
 

 久しぶりの実家は何の変化もしていなかった。ただ、俺だけの時とはちょっと違った一面で歓迎されたのだ。一応
帰ってくるという連絡は入れていたのだから、前みたいに「ただいま~」と言えば「おかえり」と母さんの声が帰っ
てきた。トテトテトテと奥から足音が聞こえ、母さんが玄関の前に現れた。
「え?どちら様で?」
「は?何いってんだよ母さん」
「あ、いーや!おと~~~~~~さん!護涙が、護涙が女の子つれてきたわよ~~~~~!!」
「んな!?」
 そうだ。今回は俺の他に鬼がついてきていたんだ。あ、だからどちら様ですかなんて聞いてきたのか、なるほどな
なーるほど。彼女もどん引きだ。
 すると、茶の間から「ぬぁああああにぃぃぃぃい」と明らかに親父の声が聞こえてくる。間違いなくこちらに進撃
してくるであろう。
「・・・いつもこんな調子なのか?貴様の家族は」
「いや、たまたまだと思いますよ。キキさん」
 それから、親父も玄関に現れ上がれ上がれと家の中に入れられたのだった。久しぶりの我が家は少々慌しいようで
す。まぁ、誘導されるなり、茶の間に座る俺と彼女。正面には俺の両親も何故か緊張しているかのように座っている。
「えーっと、お名前は?」
 どこのお見合いだこれ?とか、お見合いとかしたことないけど思わずそんな言葉がでてきた。
「わ、私か?」
 何故お前まで緊張してんだよ。あ~また説明しないといけないのか。
「背がお高いのですね~」
 と、母も会話の種をまきだす。まぁ、俺の頭一個分ぐらいはあるからな。
「えーっと、彼女はですねー、ちょっとした知り合いでしてー、たまたま今日出会ったのものでー」
「なんだ?護涙、もっと真面目に答えたらどうなんだ」
「そうよ?そんな適当な態度な子は通り魔に殺られちゃんだから」
「そー、その通り魔が最近流行ってるとー、寺門からも聞いたのでー、俺んちとまらないーってなってでしてー」
「あ~なるほど」
 と、最後は母さん達は声を合わせて言った。だから、急に彼女がきたのか~と談笑している親達。
「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」
 ガタッ。何故そんな言葉を出すのですかキキさんと言いたくなるような事を彼女は言ってしまった。そして、何故
か両手を畳に付けて深々とお辞儀をしたものだから、親と一緒に俺まで立っちまったよ。この辺、親子だよね。俺は
そういう態度をとるのを見たことのない動揺から立ち上がった物でも親達は違う意味でとらえてしまったのじゃない
かと心配になる。


 とまぁ、こんな感じのドタバタ劇場を過ごしましたとさ。その後はちょっと豪華な夕飯、風呂、そして、や~と
安心して寝れる環境に立った。だって、昨日からろくに寝てないのよ?鬼は来て、家は壊され、寒いから抱き枕役に
されてドキドキとかミリミリとか体の負荷が偉いかかった夜を過ごした後は、片方の肩だけ肩こりになりそうな環境
で下山して帰ってきたと思ったら、寿司屋で友達に彼女の自己紹介等々色々とかしてさ。口も結構疲れたのよ?
 だから俺は安らかに寝る!風呂もシャワーでササッと済ませて彼女に速やかにお風呂を明け渡して部屋にこもって
寝るんだ。そー思って部屋に入ると、スタッフさんは準備がいいんですね。お布団一つに枕が二つあるんですからね。
「護涙、後は思う存分やっていいからな」
「黙れクソ親父。さっさともう一枚持ってこい!」
 歯磨き大好きの親父は白い歯をニッと見せて親指まで立てて俺の隣にいたけど、安心して寝れるハズがない。親父
は残念そうな顔をして去っていった。布団持ってくるんだろうな?
 結局、俺が布団を持ってくるハメになりましたよと。布団を取りに去ったのかと思ったらそのまま自分の部屋で寝
やがったクソ親父、仕方がないから母さんに頼んで布団を出してもらうことにしたが、母さんも残念そうな顔をして
いるし、駄目だこの家。布団持って帰ると、彼女も部屋に戻ってきており、両手足ツンツンの俺の高校時代のジャー
ジをパジャマがわりに着ていた。提供したのか、ウチの親は。もう、胸元とか盛り上がってるからおへそがチラリ。
ッハ、いや。俺は寝るんだ。そう、安らかな眠りを求めて!
「電気消すぞ―」
 パチンと明かりを消すと、彼女は「うおっ」と声を上げた。もう、ここからはガン無視で寝るぞと決意し、布団に
入り目を閉じる。まぁ、しばらくすると彼女は俺に「おい」と聞いてきた。とりあえず「んー」とだけ答える。
「貴様は通り魔の事をどうおもう?」
「すごくこわいよのなかになったとおもいますのでおやすみー」
「無抵抗な人間が襲われているのだぞ?その通り魔とか言うやつに」
「わるいこはとおりまにやられるとおもうのでぼくはねたいとおもいますおやすみー」
「・・・通り魔やっつけない?」
「いっているいみがわかりませんのでぼくはねます」
「私は眠くない。むしろ冴え過ぎてて怖い。朝からず~っとだぞ?」
「・・・・」
「ねぇ?」
「・・・・」
「起きろ貴様!!」
「さっきからうるせぇんだよ!バカ!寝てぇんだよ俺は!冴えてるとか知らねぇよ!俺は寝てねんだよ!」
 思わず両者上半身を起して向かえあう。暗闇の中でも互いの顔が何となく認識しているのは目が慣れているからな
のだろう。だいたい彼女はなんで通り魔をやっつけたいんだよ?むしろ人間同士の争いを小馬鹿にして笑っていれば
いいんじゃねぇのかよ?
「なんで、鬼であるお前が人間の問題に首を突っ込まないといけないんだよ」
「それは私にもわからん」
 ここで何いってんだコイツはと呆れてくる。
「だいたい、私は夜道を襲うという卑怯なやり方が気に入らないし、許せない」
「お前は堂々としすぎたんだよ。顔がわれたら警察にパクられるわ」
「あ~~~もぅ!とにかく、通り魔殺るぞ!違う、捕まえるぞ」
「なんか、お前の方があぶねぇよ!それに簡単に捕まえられるもんでもないだろ」
「やるといったらやるの!」
「あ~~、自信はあるのかよ・・・・」
 諦めながらも聞いてみた。解答はもちろんYESだった。


 それからお互いに私服に着替え戦闘態勢に入る俺と彼女は突然立った屋敷の目の前に立っていたのだった。
「眠いです。キキさん。帰りましょうよ?」
「貴様は感じ無いのか?」
「眠気と脱力しか感じません」
「この屋敷から人間以外の気配を感じるんだ」
「・・・はい?」
 彼女はやけに興味をそそるような話し方をしてくる。まぁ、俺は寝たいんだけどね。彼女曰く、人間とは違う雰囲
気というか気配、まぁ異種の彼女ならわかるというわけだ。ただ、その問題になぜ俺も参加しないといけないのかは
わからない。早く寝たい。それから、俺と彼女は古びた門を潜り屋敷の中へと侵入した。もちろん、玄関からである。
 屋敷の中は、まぁお化け屋敷みたいな感じで、薄暗くてなんで懐中電灯の一つや二つ持ってこなかったのだろうと
後悔しかない。床はギシギシと軋んだ音をだし、下手すれば折れるんじゃないかという不安もある。当てずっぽうに
次の扉、次の扉と開けては進んでいく。聞こえてくるのは俺と彼女の足音のみ。心霊スポットを彼氏彼女達と行く時
はさ、もっと「怖いよ」とか「帰ろうよ」とか「やべえぜ」とかあってもいいのに無言進撃。誰か進展をください。
こうなれば自分から動くしかないい。
「キキさん帰って寝ましょうよ?」
 と振り返って彼女を説得しようとした矢先、彼女の姿はそこにはいなかったのだ。ハメられた?だよな。うん。お
かしいとは思っていたさ。こんな怖いところで、灯りなし会話なしって何の縛りプレーだよ?ったくやってらねぇぜ。
俺は帰っておねんねするぜ。
 ではなぜ、足音が二つ聞こえたのだろうか?何故?灯りもなしに次々と進んでいけたのは後ろに彼女が入ると思っ
ていたから行けたことで今はいない。いつから?知らんがな。
 自分で自問自答してもしかたがない。外からの隙間風の影響もあるのだろうか、やけに悪寒がする。額には汗。
緊張からそれとも眠いのをがんばって起きているからでているあぶら汗なのかはわからない。
「お~い、キキ」
 言葉をだすが返事はあらず。てか、アイツは怖くないのかよ?あー、気持ち悪い。まず、ここではぐれてしまった
事に彼女は怒るのであろう。多分「き・さ・ま~」とか言って近寄りそうだ。こんな視界の悪いところで殺されるぐ
らいだったら自宅で安らかに殺された方がいいような気がするし、無事帰れるかというのも心配だ。結局死亡フラグ
じゃね?
 帰ろう。逃げよう。おやすみなさい。この3つの言葉が脳内をぐるぐると回る。すまん、キキ。俺は帰って寝る。
情けないと思いながらもきた道を戻ろうとするとやはり足音は2つ聞こえる。後ろを振り返ればだれもいない。この
場合振り返らず一気に走り去った方がいいのだろう。テレビとかのこういう状況は大抵そうだ。皆逃げて生き延びて
るんだ。そう、経験者が俺に教えてくれたのは振り返らず全力で逃げること。
 しかし、仲間を置き去りにして走り去ったという話は聞かない。なら、どうする?自分の安全を取るか、今ここで
決めて走り去れば俺は助かる気がする。しかし、それはどうだ?男として?異種としてもキキは女。女の子をこんな
薄気味悪い所において帰れるわけが―――

 ガタッ!

 考えていることが一気に停止する物音。恐る恐る音がした方向を振り向くと、奥へと続く扉が半開き。額からは冷
たい汗が流れ顎の位置までに垂れ流れてきた。緊張から喉はカラカラだが、生唾を飲む。迷い、それは好奇心からな
のかはわからない。ただ、俺はその扉の奥がどうなっているのかが無性に気になったのだ。もしかすると彼女がいる
場合もなくもない。なかったらどうする?
「ふっ」
 鼻で笑いながら顔は全力苦笑い。自分でも馬鹿だと思う。考えてもわからねぇんだったら、この扉をあければわか
ることよ!と思い、勢い良く扉を開く。

 ッカ!

 一瞬目の前が真っ白になる。光、かは定かではないが思わず両手で顔を隠してしまう。
「人間の方から来てくれるなんて珍しいじゃない?」
「誰だ!?」
 条件反射で思わず発した言葉、彼女の声とは違う声がした。とじていた目を開ければそこは屋敷の部屋の一部では
なく、何故か住宅地に俺はいたのだった。
 いや、まったく意味がわからん。どゆこと?ここどこ?屋敷の中が住宅地とかどゆこと?あた真ん中パニックだぜ
ヒャッハーっと、眠気とか色々なものを超越したかのようなテンションが俺にやってくる。

 ズゥン、ズゥン、ズゥン

 何処からともなく聞こえる音は大きくなるに連れて揺れも激しくなる。こんな経験を僕は近日した気がする。表現
がおかしいかもしれないが、暗い中でもっと暗くなるっていうのか暗さが更に暗くなったというのかなんというのや
らよくわからんが、暗さのレベルが上がった。上を見上げればそこには暗闇から見える女の姿、暗闇から見える金色
の瞳が俺の先程のテンションを下げてくれる。
「あぁ、俺は限界なんだな。だからこんな幻覚が見ちまうんだ」
「あら?さっきまで楽しそうにしてたのにアテが外れてがっかりしちゃったかな?」
 いや、もう僕疲れました。力なく床?コンクリートに両膝から落ちる。あー、もう夢の中なのかなココ。わかんね。
上を見上がれば謎の巨大少女。2階建ての家より数倍大きい。少女の容姿、表現がおかしいか?まぁ、巨大少女の小
さな手は俺を軽々と捕獲できるであろう。例えるなら、携帯のストラップぐらいの大きさなのかな?
「ねぇ貴方、私と遊びましょ?」
 何を言っているんだこの娘は。どうしてこんな所に俺がいるのかが最初に知りたいところなのにこんな巨大な娘と
何をして遊ぶというのだ?
「ルールは鬼ごっこでいいかな?鬼は私、別に私が吸血鬼だから~ってことじゃないわ」
 いや、どうでもいいわ。何話しを進めてるんだ?参加しねぇぞ。今の俺は精神的にも肉体的にも体力ねえぜ?しか
し、対応次第では停戦協定を結べるかもしれない。そうだ、俺には仲間がいる。どっかにいった鬼がな。もしかする
と助けにくるかもしれねぇし、捕まってっかもしれねぇし。
「えーっとだな一つ聞きたいことがあるんだがいいかな?」
「あら?やっと答えてきたわね。いいわよ、何かしら」
 よし、あの“鬼”より話はわかりそうだ。
「遊ぶって言ってたけど、いつもは誰と遊んでいたのでしょうか?ほら、鬼ごっこは大勢でやった方がたのしいじゃ
ないですか?」
「ふふ、貴方は面白い事を言うのね」
「遊ぶ時は全力で遊ぶのが礼儀だと思っております」
「まぁ、いいわ。最初に言っとくけど参加者は貴方だけ。いつもは、私から誘ってるの?この屋敷に招いてね」
 誘う、という表現に何か刺さる感じがする。そして、俺がいるのはどこかわからない住宅地なのにどうやらここは
屋敷の部屋の一部らしい。
「なるほど。では、鬼に捕まったらこちらが鬼になるのが鬼ごっこのルールだと思うんですけど、体格差を考えても
勝負にならないような気がするんですけど?」
「あらぁ?捕まったら最後よ。私が貴方の血を吸ってあげるの。鬼は一人でいいわ」
 え?俺の知ってる鬼ごっこではない。何この生きるか死ぬかの遊び。血を吸う?マテマテマテ、体格的に吸うより
食い殺される。いや、踏み潰されそうな感じがするのだがこれ如何に!?
「それじゃあ、はじめましょうか?鬼ごっこ」
 そういうなり、彼女の足は高らかに上がり俺の横にわざと外して家を一気に踏み砕く。ったく、よくわかんねぇド
レスみたいな服きやがって。靴はパンプスのヒールのないやつ?いや、人形が履いてるような感じの赤い靴?あーと
りあえず、逃げよう。ゲームは始まっているようだ。
「楽しみましょう?小人さん」
 今度こそ振り返らない。楽しそうな声だが、振り返れば巨大な少女が俺を踏み潰しに来るんだからな。


「ほ~ら、早く逃げなさい」
 ズゥン!とまた大きな音と揺れに襲われ、そのたびにどっかに飛ばされる。赤い靴は建物を何十軒も踏み潰し新た
な獲物目がけて降下してくる。こちらはもちろん全力で逃げているが巨大少女は完全に遊んでいるのがわかる。ワザ
と標的を外し、住宅地を破壊しながら俺の吹き飛ぶ姿を楽しんでいるようだ。全く趣味が悪い。なら、逃げないで踏
まれてみるか?死ぬよなそりゃ。しかし、俺を踏み潰してしまったら血を吸う楽しみがなくなってしまう。つまり、
彼女は明らかに俺を踏み潰す気はない。だったら、とる行動はこれしかない。
「あら?物陰に隠れちゃった。可愛いな~。でも、隠れるのは鬼が見てない時に隠れないと意味がないのよ?」
 いいえ、違います。コレは悪魔で命がけの考えです。家と家との間にある隙間、普通なら塀があると思うんだが、
何故かないから楽々入ることができた。
「んぅ~。困ったな~」
 困っているようです。ということは、巨大少女は俺を踏むつもりはサラサラなかったようです。ここでかくまる
か?

 ドスゥゥン、ベキべキベキベキ

 歩く時とは違う地震と物が破壊される音が起きる。俺はとりあえず、揺れに耐えられず地面にふせることしかでき
なかった。
「で~て~こ~い~」
 声のする方を見ると底には家と家との間から俺を見る大きな金色の瞳。謎のプレッシャーが俺の全身に危険信号を
送る。巨大少女はしゃがみこんだんだな。どうする?逃げる?いや、逃げちゃだめだ。ガマンだ。と、穴熊作戦をし
ようとしたが、俺を守ってくれる家が急にぐらぐらと揺れ出す。上を見上げれば、彼女の人差し指が家の屋根をぐり
ぐりとして俺をここからだそうとしている。
 時間がたつにつれてキシッ、ベキッと家の軋む音。家の方も限界なのだろう。
「ん~どっちがいいかな~?」
 まだ俺を追い込む策を巨大少女は持っているようだ。とりあえず、顔に逃げるよりは後ろに逃げたほうがいいよな。
「このさいだからふぅ~しちゃおっか?」
 あっ、と思わずなる俺。そうだよな、踏む気がなくても彼女は俺を飛ばしていた。こんな体格差でふぅ~なんてさ
れたら埃を吹き飛ばす感覚だよな。チェックメイト、諦めるしか無い。
「でも、加減がわからないからなぁ」
 どうやら、ふぅ~は相手にもリスクがあるようです。なんだ、助かりそうだ。家から指も外れているということは、
巨大少女もこれ以上は家が持たない、危ない。俺が瓦礫の下敷きになるかもしれないという配慮もあるのだろう。
「ん~、ちょっとはやいけど捕まえちゃおっか」
 ズン、ズンと前には親指、後ろには人差し指が逃げ道を遮断する。これまた、あっと俺はなった。そうですよね。
ふぅ~しなくても道は一本しかないんだよね。じゃあ、後は摘むだけでもアリだよね?結局チェックメイトか・・・。
「大丈夫、心配しないで?今まで誰も潰したことがないぐらい私は器用だから、ね?」
 ズズズズ、と肌色の壁家の角々を破壊しながら俺に迫ってくる。潰したことがないっといってもたまたま今日潰し
ちゃった。ごめんね。なんてあったらたまったもんじゃない。何か、武器はないか?抵抗すれば巨大少女も楽しんで
くれるんじゃないか?時間がないぞ俺!急げ俺!てか、武器なんかねぇよ!、ポケットは!?あるな。
「何かをポーン!!」
 突っ込んだポケットに玉々何かが入っていたから勢いで僕は投げました。投げた時はあれ?携帯電話じゃね?とか
思いましたが、投げたものは非常に細々としているもので相手はなにも感じ無いでしょう。残念、俺。諦めて血を吸
われましょう。
「いったーーーい!」
 ドスゥンと巨大少女は尻餅をついたようだ。え?俺画鋲でも投げた?親指目がけて何投げた?ハイ、豆投げました。
何故豆?あぁ、護身用の豆か。
 ここで、改めて豆のありがたみを感謝する。てか、豆万能過ぎんだろ。一家に一台豆持参だなこりゃ。鬼の彼女か
ら身を護るための豆が役に立つとはな・・・。あれ?正体はわからないけど自称吸血鬼、お前は豆が苦手ではなくて
にんにくとか十字架が苦手なんじゃないのか?でも、一応吸血鬼で鬼という文字があるからな。俺はもう知らん。
「うぅ、鬼から逃げる者が抵抗するんじゃないわよっ!」
「残念ながら鬼ごっこは終わりだ吸血鬼。ここから反撃させてもらうぜ」
「私の知ってる鬼ごっこは抵抗しないのー!」
 なら、俺の知ってる鬼ごっことはなんなのだろうか?国民的なルールだと思うんだが、吸血鬼の鬼ごっことはなん
なのかと寺門達と是非とも討論したいものだ。
「もぉ、怒ったんだから」
 そう言うと巨大少女は立ち上がり圧倒的な大きさを俺に見せつける。しかし、この時。俺はコイツから恐怖心とい
うものをかんじなくなっていた。なんでだろうね?俺の気のせいじゃなかったらこのわずかにする揺れが安心感を俺
に与えてくれるんだ。
「ふん。何をしたかはわからないけど、鬼ごっこはおしまい。私に反抗できる能力者の血を吸ったら私が貴方に殺さ
れそうだから私は貴方から身を守るために貴方を殺るわ」
「で、何をしているんだ?貴様らは?」
 安心した。としか俺は思えなかった。だって、巨大少女の後ろにはそれより大きな彼女がそこにいてくれたのだから。


「な、仲間!?」
「気づいていなかったのかお前、偉く揺れてたぞ?」
「揺れ!?」
 もう一つの揺れ。それは彼女がこちらに近付いているものだと俺は信じていた。しかし、同時に俺に感じる揺れは
巨大少女は感じていなかった。じゃあ、何故気づかなかっただろうか?
「や、やい。そこのデカイの!わ、私の眼をみろ!」
「ん?」
「かかったな!ほ~ら小さくなれ!」 
 しかし、彼女は巨大少女の言葉通りに小さくならなかった。
「な、なんで小さくならないの!?」
「オイ貴様、なんでそんなに小さくなっているのだ?」
「わ、私を無視しないでよ!こ、答えなさいよ!!」
 彼女が来てから戦況は一気に変わった。それは、巨大少女の動揺からよくわかることである。揺れは確かにあった。
しかもそれは結構大きかったし、近づくごとに大きくなっていた。
 そして、彼女と対面してから巨大少女の動揺。「眼を見ろ」「何故小さくならない」と聞くとこの娘はアホの娘な
のかなと思う。
 多分、彼女の能力で俺はどこかで彼女の眼をみたから小さくされたのだろう。考えれば、扉を開けた時だろう。
半開きで、こっちの眼の高さに合わせ、俺が開けたと同時に能力を発動して小さくされたと。なら、俺に感じる揺れ
は巨大少女には感じないと。さらに、被害者の発言で大きく見えるというのは、小さくされて周りのものが大きく見
えたのだろう。なるほどな。そして、彼女に能力が効かないのは彼女自信が大きさを自由に操られるからコレと決め
たら大きさは変化しないのだろう。
 そしてこの状況、俺の目の前には保護者と子供のような身長差の巨大少女と彼女がいるわけだ。
「そこのちっこいの」
「私じゃないよね!あっちの小人の方ちいさいもん!」
「人間を襲ったのはお前か?」
「むーっ、だったらどうするの?」
「成敗ッ!」
 ゴンっと成敗発言と同時に巨大少女にげんこつをする彼女。キキさん、ちょっとはやいです。げんこつをもらった
巨大少女はその場に両手で頭を押さえて座り込む。そういえば、彼女は凄い怪力だからげんこつなんてくらったら
普通の人間だったら頭潰れんじゃね?え、何これ怖い。てか、鬼の名をもつヤツ頑丈だなー。
「痛じゃない!」
「元に戻せ」
「ヤダ!まだ遊ぶからヤダ!」
 ゴンッ!二発目入りました。彼女容赦ありません。
「ぐぬぬ、ヤダもん!」
「なら、もう一発」
「わあああ~。痛いのもっとヤダ~~~!」

 パチン

 巨大少女は三発目を回避するために、指パッチンをするとボンと俺は元に戻った。足元をみると、無駄にハイクオ
リティな模型がある。俺はここで遊ばれていたのだろう。しかし、手先が器用というのは本当なのかもしれない。
「ありがとうな、キキ」
 元に戻れた事を正直に感謝する俺。その声に彼女はちょっとビクっときたようだ。
「べ、別に貴様の為にしたわけではない。ここで住む人間のためだ」
「もういいよね?もうぶたないよね?」
「ちっこいの、名前はなんという?」
「リリアン・・・。誇り高き吸血鬼のリリアン・ソケットよ!だからもぅぶへぇええ」
「・・・成敗ッ!」
 そう彼女はキリっとした顔で俺の方を見た。対するリリアン・ソケットさんは痛みから逃れるために必死に抵抗を
みせたものの成敗モードのキキさんはリリアン・ソケットを最後のげんこつをくらわせたのだった。というか、どこ
で成敗なんて覚えた?そういえば、モジャ屋で流れていたテレビが時代劇やってて無双状態のあのシーンで覚えたの
か?まぁ、いいや。
「お、おい――――――っ」


 パチ、と。目を覚ませば俺は自宅で寝ていた。最後の記憶があやふやだ。いや、夢か?上半身を起こし隣をみると
なぜか、真ん中にリリアン、その隣に彼女が寝ていた。なぜ、連れてきた?というかどうやって帰ってきた?記憶が
ない。えぇ?詳細求む。とりあえず、リリアンどうした!?
「ぬ?貴様、起きたてたのか?」
「あ、悪い。起こしたか?」
「いや、いい。結局寝てないからな?どういう訳かやっと眠たくなってきたところだ」
「そうか。なんか、ありがとうな」
「・・・別に私が貴様に振ったのだ。私が悪い、感謝される覚えはない」
 もぞもぞっと布団で顔を隠す彼女。
「いやでも、助かったよ。てか、俺達どうやって帰ってきたんだ?」   
「貴様が途中で気を失ったから、私が二人を担いできた」
「どこの軍人さんですか?」
 何故連れてきた。と、聞きたいところだがまぁ、いいや。とりあえず、彼女が入る限りリリアンはヘタに行動でき
ないであろう。布団で顔を隠した彼女はすぐに寝息を立てていた。しかし、何故彼女は冴えていたのだろうか?鬼は
夜行性なのか?よくわからないけど、吸血鬼みたいに?まぁ、いいや。
「ありがとう、キキ」
 そう言うと、下の方から足音が聞こえてくる。なんか、小さくされたりハードな経験ばっかり短期でしたから音と
揺れには敏感になりそうだ。多分、母だろう。
「護涙ちゃ~んとキキちゃ~ん、朝御飯は卵と納豆どっちがいいかな~~~ぁああ!?」
「なんだよ母さん。朝っぱらから大声だして」
 朝御飯を聞きに来た母さんの様子が急変した。朝から騒がしい。口が空回りしてますよ。
「わ、と、お父さーーーん!護涙とキキちゃんの子供が一晩で出来たわーーーーー!」
「はぁ?あぁぁぁあん!?」
 何いってんだよ母さん。子供!?バッと横を見なおせば布団は2枚、それはよし。配置確認、俺、リリアン、キキ
は仲良く川の字で寝てましたと。いやいやいや、母さん子供は急にこんなに成長しないよ!?140cmぐらいだけど
さ!?それは違うとわかってよ、母さん!するとやっぱり「ぬぁああああにぃぃぃぃい」と台所から聞こえる親父の
声が聞こえ、こちらにむかってきているのがわかる。
「あぁぁああ!?キキ、起きろ!状況を説明するんだ!!」
「ぐー、ぐー」
「ぐー、じゃねぇよ!起きろキキ!」
「護涙ッ!よくやった!」
「うるせえよ親父!早く出勤しろめんどくせーな!!」


 と、言う感じに今日も高坂家の一日が始まりましたとさ。めでたし、めでたし。





 おしまい