雲ひとつない青空。そんな快晴だったのハズの空が急に暗闇にのまれた。暗闇、といっても巨大な何かの影が生まれた
という感じだ。人は空を見上げてみると空から女の子が降ってきているはないか。パラシュートとかそういった装置を身に
まとっていない。このままでは彼女は地面に体を強く叩きつけしまう。なんとかして彼女を助ける方法を見出さなければ
ならない。
 しかし、ここである事に人は気づいてしまう。何故、遥か遠くの空にいる女の子の姿が落ちてきているのがハッキリ
わかっているのか?瞬きするたびに少女の体が徐々に大きくなって近づいている様に見えるのだ。

 ズガァーン!

 豪快な音と地響きが街中を襲う。幸いにもケガにもおらず、落ちてきた女の子も無事だ。だが、女の子の落下地点は
大きく凹み、近隣の建物の壁には亀裂が走り、窓ガラスは連鎖爆発でもあったかのように一気にはじけ飛んだ。
 そして、女の子はしゃがんでいる姿勢から立ち上がり、ズシン、ズシンと足音を鳴らし、肩幅ぐらいまで足を広げて
周りを見渡した。
「うわっはー。ここが小人さんの住む世界なのかー」
 嬉しさ?からなのか、女の子は両手を左右にピンと伸ばした。キョロキョロと周りに並ぶ高層ビルに興味津々と眺め
ている姿はまるで、田舎からきた子供が初めて都会に来て、大きな建物を見上げては喜んでいる姿そのものだった。
そして女の子は、一つのガラス張りのビルを発見した。
「あっ!私が全部映っている!」
 ズシン、ズシンと足音を立て、足元のことなんてちっとも考えずにガラス張りのビルに近づく女の子。やがて目の鼻
の距離まで来ると少しがっかりしたかのような表情を浮かべた。
「でも、近づいてみたら私より小さいのかー・・・」
 膝を少し曲げて両手を膝に当てながら前屈みになると、ガラス張りのビルに再び女の子の姿が映り、満足したかのような
表情になる。
 そう、落ちてきた女の子は巨大な女の子だったのだ。見た感じの年齢も幼い印象だが、周り建つ高層ビルに匹敵する
ぐらい大きい女の子なのだ。ガラスに映る女の子は金髪のショートヘアー。その左側には大きなリボンをつけており、
先端には白色のラインの入っている真っ赤なリボン。服装は黒っぽい服に、踝まで伸びている黒っぽいロングスカートからは
ちょこんと黒っぽいストラップシューズが顔を出している。全身が黒っぽいが、肌は色白。まるで、闇の中を動きまわり
日の当たる生活は無縁なのではないかと思われる。
 しかし、そんな巨大な女の子は一体どうしてここへ現れたのかが謎である。道行く人達は困惑し、真っ先に女の子とは
真逆の方角へと逃げ出す者もいれば、手元にある携帯電話で写真をとりあえず撮ったりと様々な事をしている。一体、これ
から何が始まるのか?何の変哲もないただの日常が、巨大な女の子の出現により一変してしまった。次に女の子は何をする
のか?人々はガラス張りに映る自分の姿に満足している女の子が次にとる行動を見守ることしかできなかった。
「小人さんは器用なのかー」
 観察が済んだのか、女の子はそう言いながら立ち上がると、頭一個分ガラス張りのビルから顔を現した。そして、再び辺りを
キョロキョロと見渡すせば大なり小なり形様々な建物にも目を輝かせている。
「・・・んぅ?」
 ここで女の子は、ガラス張りのビルの屋上に数人の小人達を発見したのだ。巨大な女の子と目のあった小人達は真っ先に
階段のある方角へ逃げ出してしてしまった。
 この扉を開ければ、下の階に降りれる。無理かも知れないがこのままでは殺されるかもしれない。エレベーターも巨大な
女の子がこっちへ向かう際に電線も恐らく引き千切られて電気なんてないかもしれない。なら、階段で死に物狂いで駆け
下りるしかない。そんな意気込みで扉を開けようとした瞬間―――
 グシャア。という何かが潰された音がした。
「どこへ行くのかー?」
 女の子は不機嫌そうに小人達に言うと、今度はズボォという何かが引っこ抜かれた音が聞こえ、女の子は右手人差し指に
着いているゴミを左手でポンポンと払った。そう、女の子は人差し指で小人が逃げようとした通路を一瞬で粉砕させたのだ。
屋上にポッカリ空いた穴は3階分は突き破ったかと思える。どうすればいいんだ、どうやってここから脱出すればいいんだ。
どうやって逃げればいいのかと必死で思考回路を巡らせていると、女の子はにやっとイタズラっぽく微笑んだ。
「ちょっと~、無視しないでほしいな」
 すると、女の子はズギャギャバリバリと破壊の物音をたてながらガラス張りのビルにまるで食い込んで行くかの様に
直進し始めてたではないか。屋上に取り残された小人達は女の子の小ぶりな胸から逃げるように奥へ奥へと進んでいくと
ビルの半分ぐらいの所で動きを止めた。小人達はいっそのこと、ここから飛び降りてこの恐怖から解放されようかと考える
者もいた。
 しかし次の瞬間、女の子の巨大な右手が小人の1人を摘み上げられたのだ。摘み上げられた小人はただただじたばたと
抵抗するしかなかった。このまま摘み潰されるのか、それともゴクリと一飲みされてしまうのか、何をされるかわからない。
摘まれた小人を心配するかのように屋上に残された小人達は「山本ー!山本ー!!」と摘まみあげられた小人の名前を叫ぶ
ことしか出来ない。山本は、恐怖のあまり失禁寸前だった。
「ねぇ、小人さん。ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
「・・・!?は、はい!」
 高まる鼓動の中、山本には最初の意味がよくわからなかったが、巨大な女の子のお願いだ。回答次第では見逃して
もらえるかも知れない。山本は反射的に返事を返すと、女の子は嬉しそうに微笑んだ。
「ほんと!?んとね、ちょっとだけ小人さんの街で遊びたいから、皆に『早くここから逃げろー』って伝えてもらいたい
 んだけど、いいかな?」
「わ、わかりました。ど、どこまでできるかわかりませんが、がんばってみます」
「『がんばってみます』じゃだーめ。なんとかするのー」
「そ、そう言われまして・・・」
 一部的に自主的に逃げ出しているものもいるようだが、興味本位で近づいて写真を撮り始めている連中もいる。山本1人
の力だけでは限界がある。見た感じSF映画に出てくる怪獣の様に殺戮とか破壊行動をとるわけではなく、女の子は
『小人さんの街で遊びたい』という点から迫力にも欠ける。『遊びたい』という意味にどういった意味があるかは不明だが、
何らかの狂気を与えない限り人間は本気で逃げ出したりしないんじゃないか?と、山本はそう考える。
「そ、それでしたら、私にちょっとした考えがあります」
「なんなのだ?」
「えーっと、ですね・・・」
 女の子は山本を耳元に近寄らせて話を聞く。
「それで、上手くいくのかー?」
「行きます。絶対上手くいきます」
「そーなのか?」
「し、信じられないなら実際に試してください。あ、屋上に残されている人達もちゃんと安全を確保してから
 やってくださいね」
「わかったのだー」
 そう言うと、女の子は山本を左手に乗せると、半壊状態のビルにも左手を差し伸ばす。
「さ、皆さん急いで左手に乗り移ってください」
 山本は屋上の社員に左手に乗るように促す。本当に信用していいのかと半信半疑だが、女の子の手のひらには山本が
乗っている。信じていいのだろうか?しかし、このままではビルの耐久もそろそろ限界に近づいているかもしれない。
一つの賭けとして、社員達はぞろぞろと女の子の手のひらに乗り始めた。
「山本くん、本当に彼女を信じていいのかね?」
「小松部長、信じるも何も、まずはこちら側彼女を信じてあげなければ、彼女だって我々の事を信じてくれませんよ」
「~~~ッ!この一件は、気に任せるとする。頼んだぞ」
「ま、任せてください」
 山本は全員乗り移った所で、巨大な女の子に合図を出す。その合図に女の子は頷き、ビルから体を離すと綺麗なビルの
断面図が姿を現した。
「それでは、よろしくお願いします」
「わかったのだー」
 すると、女の子の右手は大きく後ろに振り上げると、勢い良くビルの上層部分ビンタをくらわせるかのより振り抜いた
のだ。何の抵抗もなく、女の子の右手は一気に半分の広さになったビルを覆い尽くし、高さ5階分は一瞬にして姿形を
残さず粉砕したのだ。破壊はそれだけでは終わらない。今度は右手を天高くまで振り上げ、ぎゅっと握りこぶしを作ると
一気に女の子の太ももの高さまで叩きつける。
 たった二振りで、女の子の胸の高さまであったガラス張りのビルは一気に、太ももぐらいまでの高さしか残す、続けて
トドメをさすかの様に今度は黒いストラップシューズが残りの残骸を踏み潰したのであった。ものの数秒で、かつて
100mはあったガラス張りのビルは姿を消したのだ。
 それから、数歩歩けば、路上に捨てられた車を踏み潰し、膝ぐらいの建物に足を乗せ、ぐっと力をちょっといれれば
建物は一気に踏み抜かれ破壊すれば今度は、女の子と同じぐらいのビルが現れた。
「道の邪魔なのだ―」
 と、不敵な笑みを浮かべながら右手をビルの角に当てると、ぐっぐっと力を入れると、なんと目の前にあったビルは
横に倒されたのだ。当然横に並んでいた小さな建物も次々とビルの下敷きになった。
 そして、倒されたビルの先にはちょっとした大広場があり、そこには小人達がその姿をまじまじと見ていた。
「早く私から逃げないとみんなこうなるのかー」
 と、女の子がそう呟くと前方に大広場では、奇声に近い叫び声に包まれ、女の子から逃げるように拡散していく姿を
見て女の子は嬉しそうに手のひらに乗る山本をみつめた。
「本当にみんな逃げていったのだ―」
「で、でしょ?これで多分安心して遊べると、思うよ?」
「でも、この声はいらなかったのだー・・・」
「ご、ごめん。でも、コレ以外に方法が浮かばなくて・・・」
「まっ、いいのだ。ありがと小人さん」
 そう言うと女の子はしゃがみ、手のひらの小人達を解放した。
 山本は、女の子には悪いが、一旦怪獣になってもらわなければ皆を女の子から逃がすというのは無理だと判断し、この
ような行動を取らせた。他にもっといい方法があったのかもしれないが、逃げ出さない連中は、こんな可愛い子が
こんな事するなんてことは思わなかったのではないかと考えた。
 なら、こうでもさせないと命の危機は感じられない。本気で女の子から逃げるには破壊活動もする女の子から命からがら
逃げさせるようにしか方法はないと思ったのだ。
 結果的には、小人達は逃げていったが、これから小人達が女の子に何をするかはわからない。当然、軍隊も動くであろう。
女の子には悪いが、山本たちもすみやかに女の子から離れていったのであった。