とある鎮守府ではキス島沖にて緊急事態が発生していた。敵艦隊に包囲され、一刻も早く北方海域キス島の
守備隊の収容を余儀なくされていた。そのうえ編成は駆逐艦のみ高速艦隊で行わなければならない。駆逐艦
以外ではどういうわけか目的の島まで辿り着く事は愚か、敵水雷戦隊、敵空母機動部隊等に見つかり戦闘に
なってしまう。結果、戦果も上げられず損傷だけ負って資源に打撃を与えてしまう。
 提督は駆逐艦の中でも優秀な艦を選別し、出撃させるものの目的地に辿り着くどころか大破撤退を余儀なく
される。うまく敵艦との戦闘を回避に成功するも突然の気候の変化に大時化にあったりと作戦は難航していた。
ローテーションを組ませてみるも、結果は同じ。皆、傷ついて帰ってくる。入渠ドックは常に満席。普段出撃
している主力艦隊は暇を持て余している歯痒い状況。遠征組もこの度再編成したが、日頃なれない遠征任務に
成果がなかなか得られず、資源は徐々に減っていく。
 いったい、どうしたらいいんだ。人手不足となり、提督自ら艦娘達の衣服の裁縫をしながら考える。皮肉な
事に裁縫だけは日に日に上達していった。このもどかしい時間の中、いつ敵艦隊がキス島にいる守備隊に攻撃
してくるかも分からない中、裁縫が上達して何になるというのか。提督は焦っていた。
 そんな中、秘書艦である雷は提督を励まそうとがんばっていた。キス島に出撃しては、入渠。次の出撃まで
時間がある時は一緒に提督と服の裁縫、書類の整理、作戦の見直しと提督に尽くした。提督はがんばる雷に
何もしてやれない自分に悔いた。提督が無能でみんなを苦しめている自分が嫌になっていた。


 気づけば提督は執務室で艦娘の裁縫の途中で眠っていた。早く仕立ててやらないとな、提督はため息を吐き、
裁縫の続きに取り掛かった。その時であった。

 ガタガタガタ

 微弱に震えた窓ガラス。突風でも吹いたのか? しかし、部屋の電灯も微弱ながらに揺れている。地震でも
あったのだろうか。すると再び、ガタガタガタっとさっきより強い揺れが起きたと思うと再び、さっきよりも
一層強くなった縦揺れが襲い掛かかり、地震の揺れは更にエスカレートしてゆく。本棚の本が倒れたと思えば、
本棚が倒れ、壁に立てかけていた掛け軸も左右に激しく揺れ、床に落ちる。提督も机にしがみつくかのように
して揺れに耐えていたが、これは敵艦が鎮守府を襲撃の揺れなのではないかと思い、窓ガラスから外を覗き
こむとそこには予想外の出来事が起きていた。入渠ドックが風船の様に膨れ上がっている様に見えるではないか。
そして、もう一度強い地震が鎮守府を襲う。
 
 ドカーンっと、風船の様に膨れ上がっていた入渠ドックがついに爆発音を出したのだ。敵の陽動か。提督は
次の指示を瞬時に出せるように受話器に手を取ろうとした時出会った、入渠ドックの壁の上段からニュッと伸びる
巨大な手、少し遅れて下段を破壊する巨大な足、そしてドックに出入りする入口全面を押し潰して現れる尻。
最後にドックの屋根を空中で分解しながら現れる巨大な茶髪の頭。提督は唖然とした。入渠ドックから突如現れた
巨大生物に提督は床に落ちた書類から入渠ドックリストを探す。今の時刻から見ると現在入渠入りしていた艦娘は―
「雷・・・?」
 提督は急いで窓から身を乗り出し、破壊された入渠ドックを見つめるとさっきまで全裸だった巨大な艦娘は、
どこにそんな規格外な大きさに会う服に着替えられたのか謎であったが装備を整え、こちらを見つめ目が会った。
「じゃーん! パワーアップしたわ。って、あわわ」
 間違いなく、雷の声だった。女の子座りしている雷であったが再び身体に異常が発生したのかもう一回り、身体が
大きくなった。跳び箱の第一弾から飛び出てきた感じの大きさからいつしか、その黒ニーソックスで挟み潰せるぐらい
巨大化した。巨大化が収まると雷は四つん這いで足元を気をつけながらこちらに近づいてきた。意識はしているようだが
当たるものには当たってしまう。振り下ろす手でアスファルトを砕いては、地面を擦り削りながら進む膝、そこに横引き
されている電線は糸でも切れたかのように何の抵抗もなく引きちぎれた。
「司令官、驚いた?」
「驚かないわけがない。どうしてこうなってしまったのか説明してもらいたい」
「私だってわからないわよ。ただ・・・」
「ただ?」
「日に日に元気がなくなる提督の力になりたいって、思っていただけよ」
「雷・・・」
 3階に位置する執務室に女の子座りで話しかけてくる雷。そうとう心配させてしまったようだ。
「でも、司令官。私が居るじゃない! パワーアップした私に頼ってもいいのよ?」
「じゃあ、雷。次の出撃は雷に任せて俺達は鎮守府修復に全力を尽くす。キス島の守備隊を助けてやってくれ」
「わかったわ。しれい、って、あっ!」
「どうした! って、おわっ!」
 ズゴーンっと、下から爆発音がしたと思ったが、再び雷が巨大化したみたいで、膝が鎮守府に直撃し、執務室の床が
抜けたその時だった。
「司令官!」
 巨大すぎる雷のの両手が崩れ落ちる執務室を襲う。雷の巨大な手に包まれ、無事圧死だけはならずに済んだ。床が
抜けても最悪雷の太股に乗るという一瞬揺らいだ思惑もあったが、屋根も崩れ落ちている中、流石に瓦礫が降り注いでは
助からない。これは雷に感謝しなきゃなと思った。
「司令官、巨大化が止まらないわ。どうしよう」
 流石の身体の変化に雷も動揺しているようだ。雷の両手に乗せられ、徐々に広がる手の広さに不安の色を隠せない雷の
表情。巨大化が収まるまでには今しばらく時間がかかった。

 *

 雷の巨大化が収まった頃には鎮守府はもはや機能しないものと化していた。仮に存在したとしても、雷が座れば
全て、雷の尻の下に消えてしまう。雷はそのぐらい大きくなってしまった。幸い、提督は雷のソナーに反応し提督を
不慮の事故で亡くすという事はなかった。他の艦娘達は自力で逃げてなんとかなった。問題はこの始末を上にどう報告
すればいいのか。
 しかし、そこをなんとかするのが提督の勤めだ。雷は単身でキス島に向かってもらう事にした。護衛艦を何人かつけて
やりたかったが、雷の着水による津波で立っていられる駆逐艦は誰一人おらず、無理に連れて行っても雷の邪魔になって
しまうだけだった。
 我々は雷に破壊された鎮守府で雷の戦いぶりを見守ることしかできなかった。艦載機の入電で近況報告を受けるが、
内容は酷いものだった。敵艦の存在に気づくこともなく、海の底へと踏み潰し、攻撃を受けているのは多少なかれ気づい
ているようで時折「あっ! どこから!?」と敵艦を探す仕草を見せるものの、その場で足をジタバタしているだけで
敵艦はおいそれと轟沈していった。
 途中、スコールに襲われるハプニングもあったように思えたが、雷の股下よりなため、膝を少し曲げて手を洗う余裕
すら目に見えた。地平線の彼方でも雷の姿が確認できるあたり、よほど巨大化したのであろう。動く山脈のようなもの、
か。あれだけ巨大だと小さな孤島ももしかしたら海の底へと沈めてしまっているのかもしれない。
 やがてキス島を包囲していた敵艦隊を雷は探すものの、既に轟沈している相手を探すのは不可能極まりないことであり、
これ以上無駄な動きをしてキス島に駐留している守備隊に津波攻めすることになるため、索敵を中断。無事、守備隊を
船ごと持ち運び無事雷は帰投したのであった。

 *

「司令官!」
「ふぇ!?」
 ビクッと目を覚ますと底はいつもと何変わらぬ執務室とボロボロになった雷の姿がいた。
「ど、どうしたんだ雷」
「司令官にとびっきりのプレゼントがあるわよ」
 頭の整理がつかぬまま雷は作戦報告書を見せると、中身はキス島の守備隊の収容に成功したという報告書だった。
「あれは、夢?」
 いや、夢でよかったのかもしれない。全てを失った鎮守府に巨大過ぎる雷、恐らく一万倍ぐらいはあるのではないだろうか。
あれから先の事を考えるとゾッとする。しかし、雷と共に国を裏切り世界を支配するっというのも悪くなかったのかも
知れない。
 いやいや、よろしくないことは考えるな。流石に疲れているな。こうして未だに艦娘の制服を大事に持って裁縫している
ぐらい大変だったんだ。
「ありがとう、雷」
「いいのよそんな事。司令官の元気な姿が見れて頑張ったかいがあったわ」
 手に持っていた制服を机に置き、涙を払う。
「ほんと、本当にありがとう雷」
「司令官、私が居るじゃない! 今更何言っているのよ。これから、もっともーっと私に頼って良いのよ」

 と、キス島の任務から開放された提督は今しばらく雷の胸元に泣きながら頭を撫でられている姿がありましたとさ。