あれは、確か山の木々が緑色から茶色や赤色に変わっている時期に俺の家にある
老婆と少女が訪れたんだ。ちなみに、俺は山で1人暮らしをしている。


 コンコン
家の扉から音が聞こえ、俺は家の扉を開けてみるとそこには、1人の老婆がいた。
その老婆に孫と呼べる小さな女の子が老婆に隠れていた。老婆は俺の顔を見るなり
にこういった。
「私が帰ってくるまでこの子の面倒をみてくれないか」
俺は思わず困惑した。1人暮らしには慣れていたが、子供の面倒を見ながら生活を
過ごしたことはなかった。
「すみませんが、ワケを聞かせてもらいませんか?」
「実は、ワシは今追われているんですよ」
「追われているって・・・誰に?」
「それをいったら貴方様の命も危ない・・・」
老婆の顔はどんどん曇っていく。そうとう何者かに追われていて疲労が溜まって
いるようだ。しかも、子供1人を連れていながら、この子を守りながら逃げている。
俺は深くワケを聞かないことにした。俺は老婆からその少女を1人預かることに
した。老婆は最後に「よろしくお願いします」といい、去っていった。俺は老婆を
去っていくのを見届け終わるなりに少女に目をやった。その女の子は白くて綺麗な
髪の色をしていて、白の浴衣をきている。用は全身真っ白といってもいいぐらいだ。


 家に戻り、俺は少し気になっていることを聞いてみた。それは名前だ。お互いに
自分の名前がわからないんじゃ、仲良く暮らしていくのも大変なことだ
「え〜っと、君。名前はなんていうんだい?」
少女は目をパッチリ開いて、俺のほうをみた。こうしてみるとまだ小学生ぐらいに
見えた。
「ハイ、ユキと申します」
「そうか、ユキちゃんか。俺は奈留(ナル)っていうんだ。珍しい名前だろ?」
「あの・・・」
「ん?どうした?」
「失礼かと思いますが、その・・・ちゃん付けはやめていただけませんでしょうか?」
「あ、ごめんごめんじゃあ、ユキって呼べばいいんだね」
「ハイ。そっちの方がしっくりきます」
少女は小さいながらもしっかりしているような気がした。今日はもう遅いから寝よう
と思い俺はユキに扉の鍵(棒で扉を閉める)をしてきてくれと言って、ユキは玄関に
向かい1mぐらいある棒を持ち上げた。このとき、俺は見てしまった。棒の長さより
はもちろん大きいがほんのわずかしかない。ユキの身長は106cmぐらいだ。


 翌日からは、俺が薪割りに行くときも、山に野草を探しに行くときもユキは俺の
後ろについてきた。「危ないから家で待ってて」といっても、ユキは「1人じゃ寂しい」
っと涙目になった。確かに、この年頃で1人でお留守番なんてできないかっと俺は
思い、ユキに誤った。ただ、条件としては“必ず俺の後ろにいること”ということで、
ユキは了承した。そんな一日を過ごしていればあっという間に日は沈み、家に帰る
とき、ユキは俺の荷物を少しでも持つと言って持たせてあげた。ユキもユキなりに
手伝いたいなだなっと俺は思わず関心してしまった。


 季節はあっという間に過ぎるものだ。昨日までは、木に葉っぱがついているのかと
思うと葉っぱ達は色を変えて地面に舞い降りていた。山はすっかり寂しくなったが、
もうすぐすると寒い寒い冬が来る。一方、ユキの方もこっちの生活にも慣れて料理や
掃除など俺の仕事をユキがやるようになった。「別にいいよ」と言っても、ユキは
首を振り「一緒に暮らしてもらっているんです。お手伝いをしないのは
失礼なことです」っとユキは言った。気がつけばユキの身長が大きくなったかな?っと
思った。前までは1mの棒より少し大きかったぐらいだが、今ではその棒はユキの
肩しかない。肩しかない・・・おかしい感じがした。ユキが大きくなったとしたら、
ユキが着ている浴衣は小さくなるのが当たり前のハズだが、特に小さいっという感じは
しない。そう感じる日々が続くと料理をしているユキが俺のほうを見るなりユキは
聞いてきた。
「私に何かついてますか?」
「え?あ、いや、寒くなってきたのに・・・
その・・・まだ浴衣姿なんだなって思っていてさ」
「私、これしか着るものがなくて・・・」
「買ってあげようか?明日にでも街に行こうか?」
「いえ、結構です。街には行って見たいですが、
お洋服を買ってもらうわけにはいきません」
「でも、それじゃ冬になったときなんて、寒くて凍えてしまうよ」
「大丈夫です。私、寒いのには慣れてますから」
ユキはニコッと笑うなり、まな板をトントンっと音をたて、料理を続行した。
ユキは頑固者なんだろうかっとつくづく思った。ユキの後姿を眺める。前までは耳まで
伸びていた。髪の毛はいつの間にか肩まで伸びていた。
「不思議な子だ」
俺は思わず言ってしまった。毎日来ている浴衣は汚れてはいないし、しわ1つもついて
いない。
「何かいいましたか?」
「いや、言ってないよ」
「そうですか。夕飯はまもなく出来るのでもう少しお持ちください」
「あいよ」
夕飯を食べ終わり布団を敷き、明かりを消し、眠りについた。


 山からピューっと冷たい風が吹くようになった。外にでるなり体が少しブルッと
くるが後ろにはユキがついてくるからそんなかっこ悪いところは見せられない。
「ユキ。今日だけはお留守番できないかな?」
俺はユキにそういった。まぁ、今日することは少し危険なことだから女の子を危険な
目にあわせたくない。しかし、ユキは俺の言っている言葉がわからないかのように。
「どうして、そんなこというのです?」
「今日はユキにとってとても危険なところに行くんだ。コレを持ってね」
俺はそういうなりに火縄銃に似た鉄砲を取り出した。
「それで・・・何をなさるのです?」
「・・・狩りだよ」
「狩り・・・ですか」
「あぁ、だからユキを危険な目にあわせたくない」
「嫌です!」
ビクっと思わずした。ユキが大声で「嫌です!」なんて言ったことがない。
それよりも、大声を出したことすらなかった。俺は完全に参ってしまった。
「もしですよ。もし、ナルさんが獣に襲われて・・・
ケガをして帰ってこれなくなったらどうするんです」
「それは・・・」
「ケガですまなくて、もし、死んでしまったらどうするんですか!」
「死んだりしないよ。何年間この山に住んでると思っているんだよ!?」
思わず俺も怒鳴ってしまった。大きな声で怒鳴れば言うことを聞いてくれると
思ったが、ユキはまっすぐ俺を睨んでいる。
「絶対に嫌です!ナルさんが・・・ナルさんがもし、いなくなったら私、
私どうしたらいいんです・・・」
ユキは両手で手を隠しその場にしゃがみ込んでしまった。
ヒックヒックと泣いている。俺は頬を人差し指でポリポリとかいた。まったく困った
ものだ。俺はユキの元に近づいて膝を落としユキの肩をポンっと叩いた。
「あー、わかったわかった。もー、ついてきてもいいから泣かないで、な?」
目に涙を溜めたままユキは俺を見上げた顔が赤くなっており、真っ白のイメージに
赤色が混ざったような気がした。ユキは俺の言葉を聴いて嬉しかったのか「うん!」
と元気よく返事をした。私宅を済まし俺とユキは家を出るとユキはこういった。
「ナルさん」
「ん?忘れ物か?」
「いえ、忘れ物ではありません」
「じゃあ何?」
「これで、死ぬときはこれで一緒ですよ」
「え、縁起でもないこと言うなよ」
「ハイ。すみません。ですが、今日は雪が降りますから死にはしませんよ」
ユキはニコっと笑った。1つ気になるのが“今日は雪が降りますから”がどうも気に
なった。俺の方が長くこの山に住んでいるがまだ、この時期は雪は降っていない。
「ハハハ、ユキ。今日は雪降らないよ。降るとしたらあと4日ぐらいじゃないかな?」
「いえ、今日降りますよ。小さな雪がぱらぱらっと」
ユキは偉く地震満々に言った。


 山の奥に進んでいった。流石に休憩を入れたくなった。俺はその辺の岩に腰を下ろし
て水筒の水を口に運んだ。ユキは落ちている木の枝を手に取るなり杖みたいにクルクル
と回し、魔法でも唱えるかのように遊んでいた。俺が小さいころは木の枝ときたら、
友達と一緒にチャンバラをよくしたものだと懐かしく感じた。息を吐くと白い息がでる。
寒くなってきたなっと改めて実感したが、ユキを見るとなおさら寒く感じる。
「なぁ、ユキは寒くないのか?」
「私の心配は大丈夫です。前にも言ったかと思いますが、寒さには慣れてます」
「またまた、だって、鳥肌たって・・・」
いるじゃないかっと言おうとしたが、ユキの鳥肌すら立っていない。ユキは寒さを
感じないのかと思った。
「たって・・・なんですか?」
ユキは顔を傾けた。
「いや、なんでもない」
そういうと、岩から体を起こし奥に進んでいった。「まってよ〜」とユキが後を追い
かけてくる。
 しばらくすると、足場の悪い坂道に来た。昨日の夜に雨が降り地面がグチャグチャ
と安定していない。俺は別に問題じゃないがユキががんばって俺の後を追いかけて
きている。可愛いものだなと思った。
「ナルさん待ってください〜」
必死で俺の後を追いかけてくるユキ俺の靴は泥で汚くなっているが、ユキは草履を
はいているが汚れという汚れがない。不思議だなと思う。そういえば、ユキの不思議な
点はいくつもある。まず、汚れという汚れが一切無いところ。これはこれで、注意して
いるから汚れないのかと思うが、どう注意しても少しは汚れたりはするが、ユキの場合
それが一切ない。もう1つは寒いという感覚がまったくないことだ。俺はここまで
厚着という厚着をしているが、ユキは初めて出会ったときとまったく同じ浴衣のみ
着用している。「慣れています」というが、我慢をしているわけでもない。それは、
さっき見たときに鳥肌1つすら立っていないからだ。そして、もう1つは・・・
気のせいかもしれないが、寒くなるに比例してユキの身長が大きくなってきている
ような気がする。180cmある俺だが、今じゃユキは俺の胸ぐらいのところに
頭がある。初めて会ったときは俺の腹ぐらいしかなかった。まぁ、そういうと、
あの浴衣も不思議だな。まるで、自分の体に合うように出来ているようだ。
そんなことを考えているとユキが俺の近くにようやく来た。はぁ、はぁ、っと
息を吐き両手は膝についている。しばらく、そのままユキを休ませて歩き出そうと
した瞬間に、ユキは足を滑らせ後ろに倒れそうになった。
「危ない!」
俺は丁度ユキの隣にいたから体を後ろに回りこんでユキを抑えようとしたが、不注意
ながら俺も後ろに倒れてしまった。まったく恥ずかしい限りである。
「す、すみません。大丈夫でしょうか!?」
ユキが急いで俺の体から退くなり、俺の顔を覗き込んだ。ユキの顔は心配そう
だったが、ほっぺに泥が少しはねていた。
「大丈夫、大丈夫。ほら、ユキだって顔に泥ついてるぞ?
せっかくの顔が汚れちゃうよ?」
そういうとユキは自分の頬に手を当て泥を取った。俺は体を起こそうとした。
ズキン
「っうぐぅ」
なんともみっともない声を漏らしてしまった。右足が非常に痛い。右足を軽く
ひねったがゆっくりと体を起こせば痛みは感じない。が、歩くとなればそれは足を
引きずっていくしかない。
「ナルさん、足ひねりましたか?」
「あぁ、でも大丈夫だよ。軽くひねっただけだし」
俺の銃はユキを助ける際に下に落ちてしまったようだ。俺は銃を拾いに行こうとしたが、
足が痛くて倒れそうになった。
「ナルさんはここで待っていてください。私が取ってきます」
「え、でも・・・。結構あれ重いよ?」
「私の不注意でナルさんをケガさせてしまいました。拾いに行くぐらいできます」
「そうか?それじゃあお言葉に甘えて、取ってきてくれ」
そういうとユキは「ハイ」と返事をし、俺の銃を取りに行かせた。
 ジュワ
何か頬に触れた。頬に手を触れると雫が合った。雨でも降ってきたのかっと思ったが、
雨とは別の感覚。ふと上を見上げると白い綿みたいなのがぱらぱらっと
舞い降りてきた。
「雪か・・・」
俺は思わず空を見上げながらつぶやいた。下のほうからユキの声が聞こえる。
「ナルさーん。私の言ったとおりでしょ〜。今日は雪が降るんですよー」
ユキは楽しそうに大きな声で話した。まるで、私の勝ちですねと言ってるかの
ようだった。
「そうだな」
と俺は言ったが、ユキは少し顔色が悪い。
「ナルさん!後ろ!後ろ!」
「え?」
俺は後ろを振り向くと底には機嫌が悪そうな猪がいた。恐らく食べ物がなくて、
空腹に耐えて眠りにつこうとしたらこの騒ぎですっかり起こされたと見える。
猪は右足をガッカと地面を蹴って今にも突進しようとしていた。
「ユキ!銃を投げるんだー!」
俺は後ろにいるユキに話した。ユキは少しずつながら俺に近づいていたから距離的に
投げても届くぐらいの距離だった。ユキが銃を投げ、俺に銃が戻ってくると
猪はプギャー!っと叫び俺に突進してきた。突進するときに猪は足を滑らせ少し
減速はして、避けることは普通にできるが、右足の痛みが想像以上に酷くなってきている。
万が一避けることができたとしても、俺の後ろにいるユキが危ない。
俺は弾のリロードはしないで、両手で銃を持ち、盾代わりにした。
 ガキィン!
「————!!」
俺は何も言えずユキの後ろに吹っ飛ばされたが、ただ吹っ飛ばされるだけではない。
ちゃんと猪の起動を変えた。宙を舞う。人間は何かが起きているときは
何でもスローモーションに感じるんだなと思った。ユキを見るとユキの顔色は
真っ青になっていた。
 ドサァ!
「ナルさーん!」
ユキは急いで俺の元に駆け寄ってくる。タラリっと頭から血がでている感じがした。
ユキがぼやけて見える。
「ナルさん!ナルさん!しっかりしてください!」
ユキは必死で俺に呼びかけるが、体がうまく動かない。俺は銃を杖代わりに立ち
上がった。しかし、まだ安心はできない。猪が第二派の準備に取り掛かっていた。
ユキは俺の前に立ち小さい体だが、大きく仁王立ちをした。
「やめるんだ。ユキ・・・吹っ飛ばされるぞ」
「・・・大丈夫です」
ドドドドドっと猪は突進してくる。突進する際にユキはこういった。
「私はナルを守ります」
そういうと右手を前に出し、左手で右手首を押さえた。
「何をするんだ?」
「この体じゃ、本来の力は発揮できないんですけど、がんばってみます」
俺はそのときユキが何を言っているのかがわからなかった。ドドドドドっという
音はどんどん近づいてくる。ユキが何かをしようとしているのはわかるがこのままでは
吹っ飛ばされてしまう。
「危ない!」
ユキと猪がぶつかる寸前に俺は大声で叫んだ。叫んだとたん目の前が真っ白になり、
俺は思わず目を閉じた。
 サラサラサラ
頬に粉雪みたいなものが一気にかかってきた。恐る恐る目を開けてみると目の前には
突進寸前で大きな氷柱の中にいるではないか。ユキは体を少しふらつかせた。
「・・・ま、まさか、ユキがやったのか?」
俺はユキに聞いた。ユキは俺のほうを見るなり笑顔で振り返った。
「うん!守るって言ったでしょ?」
「ど、どうやったんだ?」
「それは、どうやったんだ?」
俺は一番気になっていることを言った。すると、ユキは顔をうつむいた。
「できれば、その事は聞かないでほしいな・・・」
「あ、悪いな。不思議に思ってさ」
わずかながら降ってきている雪が多くなってきた。このまま続行したら恐らく何も
見えなくなって帰ることができなくなるが、俺自身の身体が悪い。
「雲行きも怪しいから帰ろうか」
「うん。あ、でもこの猪どうする?」
ユキは目の前に冷凍された猪に指を指した。大きさは対して大きくはないが、持って
帰るのはなかなか至難の技である。
「ん〜、このままにして帰ろう。明日あたりにでも取りに戻ればいいしさ」
「むー、ユキが持っていってあげるよ?」
「ユキじゃ持っていけないよ。とりあえず、明日。明日取りに行こう」
「わかりました」
ユキはうなずいた。そこから俺とユキは家に帰った。足の痛みが寒さが増すたびに痛み、
猪の突進で少しゆがんだ銃を杖代わりにして家に急いだ。頭からでている血は頭にタオルを
巻いてとりあえずは止めた。前方が白くなりつつあり視野が悪い。
「ナルさん。大丈夫?」
ユキは心配しているようで何度も俺に聞いてくる。
「大丈夫、大丈夫。急がないと帰れなくなっちゃうからね」
「無茶しちゃイヤだよ?」
そういうとユキは俺の後ろをついてくる。雪の粒も次第に大きくなってきている。
このまま降り続ければ恐らく明日の朝には積もっているだろう。フラフラになり
ながらも俺とユキは急いで家に戻った。だが、俺はあと少しでというときに倒れ
こんでしまった。


 意識が取り戻ったときは、そこは俺の家だった。体を起こすなり俺は布団に横に
なっていた。外からはピューピューと風が鳴っている。
「ユキ?いるのかユキ」
俺はとりあえずユキを読んでみた。するとユキは台所からおかゆを持ってきて俺の
もとによって来た。
「ナルさん体調の方大丈夫でしょうか?」
「あぁ、大丈夫。まぁ、頭が少々痛いのと足が痛いってところかな」
「ナルさんがあの後倒れてここまで運ぶの結構大変でしたよ〜。無茶は体に毒です。さ、
コレを食べて今日はお眠りください」
そういうと、ユキは俺におかゆを持ってきてくれた。俺はその後おかゆを食べ、全身の
疲労からすぐ寝ることができた。流石に、このときはずっと横になっていたからユキの
以上には気づいていなかった。


 ピューピューと風がなる真夜中。ユキはナルが眠るのを確認するなり、布団からナルの
足を出し、右手を当てた。ユキの右手から青白い光をだし、青くなっていたナルの右足が
黄色く戻ってきていた。
「ふぅ、さて、次は猪さんの出番ですね」
そういうとユキはナルの足を布団に戻し立ち上がった。天井にドンっと頭ぶつけ、
ナルが起きたかとヒヤッとしたが、ナルは何事もなかったかのように寝ていた。
忍び足で玄関まに向かい、扉を空ける前にユキはナルの方を見た。
「ナルさん・・・明日になったらびっくりするでしょうね。
待っててくださいナルさん。少々外出してきますので」
そういうとユキは外に出た。



 ドゴォン!
物凄い音がしたために俺は思わず目を覚ましてしまった。何かが近くで落ちたようだ。
雷とは別の音。隣にはユキの布団がそのまましいたままで置いてある。
「ユキ!どこだユキ!」
俺は立ち上がるなりにユキを探した。ふと外を見るとあたり一面にはユキが
積もっていた。そして、右足の痛みも不思議なことに痛くなくなっていた。
「昨晩であんなに雪が積もったのか・・・」
そうナルはつぶやいた。すると、外からユキの声が聞こえた。
「ナルさーん。私は外にいます。起こしてしまったのあればすみませんでしたー」
外から大きな声が聞こえてくる。ユキは1人で屋根に積もっている雪を地面に
おとしているのかと思い。
「ユキ余計なことはしなくていいから家に戻って来い」
「え?余計なお世話でしたか?」
「まだ、そんなに雪は積もるほどでもないんだ。いいから戻っておいで」
しばらくの沈黙。さっきより声は小さくなって帰ってきた。
「戻ることはできません。ですが、私はどこにもいきません」
「ユキ、何を言っているんだ?ユキが戻らないなら俺が連れ戻すぞ!」
俺はそういうと玄関の扉の目の前に立った。
「ナルさん」
「どうした?降りれなくなったか?」
「いえ、ただ・・・」
「ただ・・・、なんだよいってくれよ」
「私を見ても驚かないでくださいね。ウフフ」
最後にユキの楽しそうな笑い声が聞こえた。俺は玄関の扉を開けると一面は雪野原
になっていた。そうとう降ったらしい。風も冷たい。左右を見ても真っ白のはずだった。
俺から見て左側に昨日ユキが氷付けにした猪が置いてあった。俺はその猪を見ながら
ユキに向かって話した。
「ユキ、まさかお前があの猪を連れてきたのか?」
「えぇ、私が連れてきました。その、ナルさんが余計なお世話っていうのでしたら、
元の場所に戻しておきます」
「いや、そんな余計なお世話だなんて・・・」
「ですが、ナルさんはさっき余計なお世話だって・・・」
喋っているがやはり、ユキがどこにもいない。どこに隠れているかわからない。
どうも声は上のほうから聞こえる。空は晴天曇り1つないが、俺のところには影が
できている。
「いや、余計なお世話は俺の勘違いだ」
「そうですか。それはよかったです」
「ただ、ユキ。お前はいったいどこにいるんだ?」
「私はナルさんの真上にいますよ。あ、でも。上を見るときは注意してくださいね。
お尻が濡れちゃいますから」
俺はこのときは猪を持ってきたついでに日がでてきたからついでに雪かきもしようと
ユキは思ったんだろうと思い、あきれた感じで後ろを向き、上を見上げた。
「!?」
俺は見上げた瞬間思わず声が出なかった。ドサリっと俺は尻餅をついてしまった。
無理もない。俺が想像していたものとは別な形でユキがいたのだから。
「あ〜あ、ナルさん。だから言ったじゃないですか。お尻を濡らしますよって」
そういうと、ユキは両手を腰に乗せた。
「ユ、ユキ。お前・・・どうして」
「私ですか?私実は人間じゃないんです」
そういうとユキはニコっと笑った。俺は思わずそのまま倒れたくなった。
無理もないよ。だって、昨日まで猪とであるまで、俺より小さかったユキが俺の家
(3mの一戸建て)の家を堂々と跨いでいるのだから。
「人間じゃないってどういうことだよ・・・」
俺は若干震えながらユキに言った。山でいろいろと怖い目には会ったことがあったが
目も前にいるのは少なくとも俺の知っているユキではない。しかも、ユキは人間じゃ
ないともいった。
「どこから、説明すればいいでしょうか・・・」
ユキは少し困っているような顔をしていた。まったく状況がわからない。俺は
とりあえずこの身長差が怖くて仕方がなかった。
「ユキ・・・なんだよな?」
俺は恐る恐る目の前にいる大きくなったユキに聞いた。
「ハイ。ユキでございます」
ユキは俺がおかしいことを聞いているかのような顔をした。
「と、とりあえずさ、その・・・怖いんだ」
「怖い・・・ですか?」
「あぁ、なんか、ユキならしないと信じたいんだけどさ、
踏み潰されたらって考えると怖くて怖くて・・・」
「すみませんでした。今、お座りになりますから」
ユキはそういうと、俺の家の隣に移動し、ゆっくりと腰を下ろし
正座をした。ユキが正座をしたのを確認すると、俺はとりあえず安心した。
座っているユキを見ると昨晩の夜に、俺におかゆを持ってきたユキであることを
確認した。さらに、ユキは正座をしているが、屋根よりも大きい。座っていながら

屋根の高さよりユキの胸の方が上にある。すこし、腰を曲げれば屋根にユキの胸が
乗るだろう。あれ?ユキの胸が・・・。
「あれ?ユキの胸ってそんなに大きかったけ?」
さっきまで緊張していたのに一気に緊張が抜けた。しかも、思わず口に出して
しまった。頭の中で考えていようと思ったが、ついつい、口から漏らしてしまった。
「えぇ、時期も時期ですから。昨晩から胸の発育してきましたよ?」
「昨晩から発育?」
ユキが言っていることに何もわからなかった。『昨晩から発育していましたよ』
って・・・胸なんてあったか?思い出せ俺!
昨晩ユキが俺におかゆを持ってきたときを!!
俺は思い出そうとした。すると、ユキがフフフっと笑い。
「ナルさんって、見かけによらずHなんですね」
「ち、違う!そんなんじゃない!俺はだな前まで子供みたいに小さかったユキが
どうしていきなり・・・・発育なんてするんだよって思っただけだよ・・・」
だんだん自分の発言が恥ずかしくなってきた。しかし、キにするのはソコではない。
もっと重要な事だ。まぁ、俺も男として、女性の胸には・・・・。まぁ、いい。
「だいたい、たった1日でなんで巨人みたいに大きくなってるんだよ?」
「それはですね。私が人間じゃないからです」
またでた。“私が人間じゃない”と言う言葉。それを聞くと悲しくなる。いつも1人
で過ごしていたからユキが来たときは自分の妹・・・いや、娘だと思いながら一緒に
暮らしてきた。
「人間じゃないって・・・じゃあユキは何だって言うんだよ!?」
「そうですね・・・妖精であって妖精でもないんで・・・」
「じゃあ、精霊か?」
「まぁ、そんなところです」
「なるほど」
あっけなく会話は終わったが・・・これで、ユキは人間ではなく、精霊(?)である
ことがわかった。しかし、不思議なものだ。精霊ともあろう方がどうして俺と暮らそう
とするんだろうか。とりあえず、そのことは置いておこう。今はどうしてユキが
ここまで大きくなってしまったのかを聞こう。知らないって答えたらそれはそれでいい。
「ユキはどうして、そんなに大きくなったんだ?」
「あれ?ナルさん気づいていませんでしたか?
私、ここまで大きくなるまで少しづつですが、大きくなっていましたよ?」
「それは、気づいているよ。玄関の棒よりわずかながら小さかったのに、
日に日に棒より大きくなっていくのを見ていたさ」
「そうでしたか〜」とユキはそういいながら両手を胸の前に出していただきますを
するようなポーズを取った。
「私はですね。基本的には寒くなると本来のチカラが取り戻すんですよ。ほら、
ナルさんと初めて会ったときありましたよね?あの時はだんだん寒くなってきて
いましたが、まだ夏の気候がほんの少し残っていたので本調子じゃなかったのです。
だから、体は小さいんですよ」
「なるほどな。でも、そうすると俺の家に来たとき、ユキと一緒にいた
おばさんはユキのこと何も知らなかったのかよ」
そう考えるとあの老婆が可愛そうに感じてきた。しかし、その可愛そうという感情は
あっという間に消えた。
「あ、それなら大丈夫です。あれは私が見せた幻影です。
あれをしなければナルさんより少し小さいぐらいでしたよ。
老婆を見せるためにチカラをほとんど使い切って、
私自身が小さくなってしまったのです」
なるほどな。結構ユキも考えて俺と住みたかったのかもしれない。まぁ、
こんな山奥に『道に迷って・・・』と切り出せば別に俺は入れていたと思う。
「ユキ、一応確認したいんだけどいいかな?」
「なんでしょうか?」
「ユキは寒くなるとチカラを取り戻すけどさ、暖かくなってきたら
どうなっちゃうんだ?」
ユキは両手で手を組んで少し困ったかのような顔をした。
「暖かくなると、チカラを失います」
と少し元気なしに答えた。悪いことを聞いたんじゃないかと俺は少し悪いことを
したと思った。とりあえず、ユキはユキだ!っということはわかった。
しかし、問題はこれからだ。これからどうやってユキと暮らすのかと考えるとユキは
当然ながら家に入れないし・・・。そう考えているうちにユキは俺の考えが
わかったらしく。
「私のことだったら心配しないでください。外でお眠りします」
「なんか、悪いな」
「いえ、ばかりはしかたがないことです。
ナルさんと一緒に入れればそれでいいのです」
ドキンとした。ユキも少し照れているかのように見えた。ユキは両手で
自分の顔を隠した。そうとう恥ずかしかったらしい。
「あ、ナルさん?3日ぐらいは晴天が続いて今より少し暖かくなりますけど、
その次の日からは本格的に雪が降ると思います」
両手で顔を隠しながらユキは言った。
「ありがとう、ユキ」
「いえ、もしかすると3日ぐらい暖かくなれば小さくなると思いますから、
もしかすると一緒にまた寝れるかもしれませんね」
「そうか〜。じゃあ、晴れる事を願わないとね」
そういいながら、一日は終わった。寝る際に外を見るとユキが外で横になっていた。
ユキは早めに眠っていた。寝ているユキの顔でも俺の家よりも大きい。
ユキが寝相悪かったら潰されると思ったが、今までユキが寝ている間に俺と
接触したことはない。寝相はいいことは俺もしっているから、寝相の悪さで
潰されるという心配はない。ユキの寝顔を見てみる。ユキの寝顔は可愛らしい。
思わず寝ているユキの頭をなでたくなる。もしかすると、ユキの寝顔を見たのは
今日が初めてだったのかもしれない。


 それから、3日がたつと、ユキのいっていたとおり晴天が続き、日に日にユキが
小さくなってきた。そして、今日ついにユキは家に入っても天井に頭をぶつからない
ぐらいにまで小さくなった。まぁ、今はユキの方が大きい。身長はだいたい220cm
ぐらいだろうか。ユキは久しぶりに家に入るなり台所に向かい、食事の準備をしてくれた。
俺は「別に大丈夫だよ」と言ったが、「3日分お料理をご馳走していないので、
食事の準備は任せてください」といい、俺は茶の間に戻される。
しばらくすると、ユキは料理を持って茶の間に戻る。3日ぶりにユキと一緒に
食事ができる。ユキはここ3日間何も食べていない。俺は「何か食べたほうがいいんじゃないか?」
と心配をしたが、ユキは「私は食事は基本的にはしなくていいんですけど、
体が小さくなると生命維持のために栄養を取らないといけないんです」といった。
「ナルさん。ご飯できました。茶の間に持っていくので
お手伝いしてもらいたいのですが、いいでしょうか?」
台所から元気よくユキの声が聞こえる。久しぶりに料理をしたからそうとう
嬉しかったと思う。俺は「あいよ」というと台所へ向かい、茶の間にユキの
料理を持っていき、ユキと一緒に食事を取った。
「あ〜、ユキの飯が食えるって久しぶりだな」
「ありがとうございます。ナルさんのために私がんばったんですよ」
そういうと、ユキも楽しそうだった。食事が終わるなり、ユキと俺は茶の間にいた。
ふと、ユキが天井に指を指して、俺に聞いてきた。
「ナルさん、あの天井見てください」
俺はユキが指差している方に目をやると天井が少しへこんでいる。前までへこんで
なんかいなかった。すると、ユキは恥ずかしそうに喋った。
「あのへこみ・・・実は私がしちゃったんですよ」
「ユキが?どうして?」
「以前に、ナルさんが倒れた日に、雪が吹雪いたんですよ。そのときチカラが
どんどん戻ってくるのを感じまして、ナルさんの足を治療したあと、外に出ようと
したら、思っていたより大きくなっちゃいまして・・・天井にガーンっとぶつけ
ちゃったんです」
あぁ、だからか。と俺は思わず感心してしまった。

 
 ユキが“今日は雪が降ります”と予言をした日の夕食も済まし、
ふと外を見ると雪が降ってきていた。ユキの体にはまだ異常はおきていない。
「雪、降ってきましたね」
「そうだね」
そういうと、俺は自分でも今考えていることは馬鹿だと思っている。でも、
いましかないから俺はユキに言った。
「なぁ、ユキ。変なこと言うけどさ・・・」
「どうかしましたかナルさん?」
やっぱり恥ずかしい。恥ずかしいが言おう!ここは山奥いるとしたら、俺とユキだけ。
誰もいない。
「イヤならいいんだ。その・・・少しだけ、胸・・・触ってもいいかな・・・」
最後あたり気まずくてなかなか強く言えなかった。ユキはきょとんとした顔を
していた。やっぱり、ダメだよなっと諦めたとき俺は信じられない言葉を聴いた。
「ナルさんが触りたいというのでしたら、どうぞ触ってください」
ボンっと頭から湯気が出た気がした。
「浴衣脱ぎますか?」
「い、いや、そこまでしなくていい!ほんの一瞬だから!」
「そうですか?私ならかまいませんよ?」
そういうとユキは俺に近づいてくる。近づくとユキも恥ずかしそうだった。俺は
生唾を飲み、ユキの胸に手を乗せた。触れただけだが、ユキの胸を触った。手には
柔らかい雪を触っているかのようだった。俺は感触をつかむなり、手を引いた。
「もう終わりですか?」
「あぁ、もう十分だよ。ありがとう、変なこと言って・・・」
「いえ、ナルさんのためならいいんです」
そういうと、ユキの体は薄い光が包み込まれた。体は少しずつだが、大きくなって
きている。チカラが沸いてきているようだ。
「私、外にでますね。このままだとナルさんの大事なお家を壊しちゃいますから」
そういうと、ユキは家から出た。外はピューピューと強くなってきている。女の子を
1人に外にいさせてあげるのは可愛そうだ。俺もユキがでてしばらくしてから外に出た。
「ナルさん・・・どうしたんです?」
ユキは不思議そうに聞いてきた。
「いや、なんとなくだ。1人だけ外にいるのも寂しいだろうし、俺もいるよ」
「そ、そんなことしたら、ナルさん風邪をひきますよ」
「大丈夫、大丈夫。ずーっと山で暮らしてれば体も丈夫になるさ」
そういうと、ユキも少しは心配したらしく、「無理はしないでくださいね」といった。
雪がゴウゴウと強く降るに連れて、ユキも大きくなるのをみた。
あたりは一面真っ白。俺は吹雪が強くなってきて視野が悪くなってきていると思ったが、
それは身体にきているもので俺は知らないうちに意識が飛んでしまったらしい。


 朝の陽射しに俺は目が覚めた。目を開ければ青空が見えた。どうやら外で
倒れてしまったらしい。情けないと思いながら上半身起こした。体を起こして
あたりを見渡すもののあたり一面真っ白だ。息を吐けばもちろん息は白い。雪の上で
寝てしまったら、体中凍っていると思ったが、布団で寝たかのように寒くない。
雪の上に乗っていればだんだんお知りの方が冷たくなっていくが、まったく感じない。
「あ、ナルさん気づきましたか?」
上空からユキの声が聞こえる。
「あぁ、今起きたところだ」
「今起きたところじゃありませんよ。ナルさん途中で倒れちゃって、お家に戻して
あげたかったんですけど、小さくてナルさんを入れることができなくなっちゃって
困ったんですよ〜」
ユキはどうやら少し怒っているようだ。まぁ、無理をするなといわれていたのにも
かかわらず、寒さのために意識を失ってその場で倒れちゃったんだから無理もない。
「ごめん、ごめん。ところでユキはどこにいるんだい?俺の体に異常がないってことは
ユキがまた不思議な魔法みたいなもので俺を守ってくれたのか?俺はもう大丈夫だから
下に下ろしてくれないか?」
「そうですね。少しあたっているようであたっていませんね。
でも、ナルさんはしっかり守りましたよ」
ウフフフと上空から聞こえる。俺は上を見上げるとユキが俺を見下ろしていた。
あの時と同じぐらいの高さだ。しかし、ユキの顔が前より大きいことと位置的に
おかしいことに気づいた。近くにはユキの足がない。つまり、どうなっているんだ。
「ナルさん、膝枕って知ってますか?」
「膝枕?」
そういうと俺はあたりを見渡した後ろには大きな白い体、ユキの体がある。俺は思わず
ユキの体とは逆のほうに走ってみた。すると、しばらくすると、崖が見えた。崖からは
俺の家が見える。俺の屋根よりも高い位置にいる。家を見下ろしてからユキのほうを
見上げるとユキはニコニコしている。ここからはユキの顔と体、腕が見えるが、ユキの
足が見当たらない。ユキの腹だと思う位置からゆっくりと下にやるとだんだん見覚えの
シワのつき方を思い出してきた。
「ナルさん可愛いですね」
ユキは笑いながら言った。ユキの声を聞いて思い出した。
そして、ユキが言った“膝枕”の意味がわかった。俺はペタンと腰を下ろした。
「俺は雪の上にいるのかと思ったけど、“ゆき”違いだったとはね」
そう、俺は今ユキの膝の上に腰を下ろしている。ユキは正座をしているが、俺の家より
ユキの膝の厚さの方が大きいらしい。
「また、大きくなったね」
「そうですね。でも、冬はこれからですから、これからなんですよ」
ユキは笑いながら俺に言った。そう、この程度で驚いてはダメだなと改めて思った。
ユキはいったいどれだけ大きくなるんだろうと俺は思った。


 お昼が近づき、俺はユキの体から降りた。ユキを見上げると相当大きい。太陽の位置と
ユキが重なりまともに見ることもできない。俺は台所に行ってみると食べる物がなく
なっていた。あと、明日ぐらいは持つと思っていたが昨晩ユキと一緒に食事したから
一気になくなった。俺は困った。しかたなく、久しぶりに山から下りてなんか
買ってこよう。猪の毛皮は専門の店に寄れば売ってくれるだろう。俺はそう思い、
綺麗に剥いでおいた猪の毛皮を大きな袋に入れ外に出ると目の前には大きな壁があった。
それは正座をしているユキの膝であることはすぐにわかった。
「ナルさんお出かけですか?」
「あぁ、ちょっと村まで買出しだ。食料が底をついたからね」
「あぁ・・・どうもすみません。昨日のですよね。久しぶりの料理だったもので・・・
考えていませんでした」
ユキの顔は今は見にくいが、ユキの困っている顔が浮かんだ。食料については口に
出さなかったほうが良かったのかもしれない。
「まぁ、食ってりゃあいずれ無くなる物だ。
いい機会だし、食料以外にも買い物行ってくるよ」
「そうですか。なら、ユキもお供します」
「は?」
俺は思わず声を出してしまった。俺は自分の耳を疑った。が、あの口調は本気だろう。
前までは猪の時はユキを危険な場所に連れて行きたくないという一心であったが、
今回は違う。まさかまさかのついていきます宣言。
「ユキ、今の大きさだと色々と問題があるから・・・お留守番はダメかい?」
俺はだめもとで聞いてはみたが結果は見えていた。
「イヤです。何があっても一緒にいます!」
予想通りの結果。ここまできたら仕方がないだろう。しかし、今のユキなら俺の家ぐらい
簡単に踏み潰すことができるだろう。そんな状態でユキを村に連れて行ったら家という家は
瓦礫の山か、ただの平地になってしまうであろう。まぁ、村の入り口付近で
待ってればいいだろう。ただ、村人は不安で逃げ出すと思うが、ユキの
あの強い気持ちは変わらないだろう。
「わかったよ。でも、俺を踏み潰さないでくよ」
「ハイ。踏み潰すということは絶対ありませんから安心してください」
どこにその自信があるんであろうかと俺は思った。ユキはゆっくりと立ち上がると
俺はユキの草履ぐらいの大きさにしかない。本当に大丈夫であろうか。


 山を降りるなり雪は俺の後ろをついてくる。俺にとって数十歩がユキにとっては
たったの1歩。俺がもし、ユキの立場なら退屈するだろうが、ユキは何一つ文句を
言わない。むしろ楽しそうだった。
 村の入り口付近に近づくと俺は村人が逃げ出さないかが心配していた。
しかし、村の人達は逃げるしぐさをしない。むしろ気づいていないかのようだった。
「ユキ、ここでは流石にここで待っていてくれないかな?」
「イヤです!」
即答だった。なんとなくユキも俺が言いたいことがわかってきているのだろう。
「じゃあ、何も踏み潰さないと約束してくれ」
「ハイ。ナルさんのためならがんばります」
本当に大丈夫か俺はそのことばかり心配だった。それに、なんで村の人達はユキの
存在がまるでないかのようなしぐさをとっているんだ。
 村の中心部まで歩くとやはり、だれもユキの存在には気づかない。俺はここまで
くるとおかしいと思い、すれ違うざまに聞いてみた。
「すみません。俺の後ろに何かいませんか?上のほうとか」
「後ろ?あんたの後ろにはなにもありゃせんよ」
「へ?あ、ありがとうございます」
何故だ。俺は疑問で仕方がない。俺が後ろを見ればユキがいる。しかし、村人は平然と
している。
「ナルさん。私は精霊みたいなモノと前にもいいましたよね?
だから、ナルさんか霊感が強い人とか魔術師あたりしか私の姿は見えませんよ」
上空からユキの声。なるほどな。便利な物だ精霊みたいなモノってのは。俺はそれから
今まで悩んでいた悩みが消えてすっきりした。それから、俺は猪の毛皮等を売り、
必要な物は全て買った。村を出る際に季節はずれに植木を売っている一人の老人がいた。
「そこの若い人。どうだい?クリスマスも近いことだ。杉の木でも買わんかい?」
「いや、クリスマスといったら、杉の木じゃなくてモギの木じゃないんですか?」
「そんな、細かいことは気にするなて、ほれ、安くするよ」
ほぼ強引だ。だいたい、何で買わないといけなくなるんだ。俺は老人を無視して
村の入り口に脚を運ぼうとしたらユキの大きなからが道を塞いでいるではないか。
ユキは体を大きく曲げて老人が売っている杉の木を珍しそうに見ていた。
「ナルさん。杉の木買いませんか?」
「ユキ!何で買わないといけないんだ?いらない物を買ってどうする?」
「でも、ナルさん。この老人が可愛そうです」
俺は老人をチラと見ると老人は袋に杉の木を1つ入れいてた。俺はまだ買うなんて
言ってないぞ・・・。ユキの大きな顔が俺をじっと見る。俺はため息を吐いて。
「おじさん。買います」
俺は老人に杉の木の値段を渡すなり老人はペコリと頭を下げた。
「まいどあり。ありがとうよ、お嬢さん」
「え?」
本日2回目の聞き捨てならない言葉。この老人はユキが見えるのか?
ユキを見ると予想もしていなかったんだろう。微妙に困った顔をしている。
「あの、彼女が見えるんですか?」
「あぁ、見えるとも。この年で見えるとは思っていなかったがの。
そうじゃ、いい事を教えてやろう」
老人は軽く腰をポンポンっと叩いた。
「楽しい時間はあっという間じゃ。じゃが、遠い未来でまた彼女みたいな
存在が現れるだろう。あんちゃんも、今を楽しく生きるんじゃよ」
そういうと、老人はふぇ、ふぇ、ふぇーっと笑いながら売り物の整理をしていた。
いったいあの老人は何が言いたかったのだろう。


 帰り道。俺は余計なものを買ってしまいただでさえ重い荷物がさらに重く感じた。
しだいに、息ははぁはぁからぜーぜーに変わっていた。家までまだまだ距離がある。
休みたい。でも、休めない。そんなことを考えていると俺の体は宙に浮いた。荷物も
俺についてくるかのようについてきた。
「ぬぁ」
「あ、ナルさん。すみません。余計なお世話でしょうか?」
俺の体はどんどん浮いていく。すると、ユキの肩までくるとゆっくり俺はユキの肩に
足がついた。下を見ると今にも気を失って倒れそうな高さだ。俺の荷物はユキの手に
すっぽり入っている。
「ユキ!びっくりさせるな!ユキに急に摘まれたかと思ったじゃないか!」
「すみません。ナルさん。辛そうにしていたので・・・手伝ってあげようと
思いまして・・・」
そうか、俺はそんなにユキに心配をかけることをしていたのか。急に俺は自分が
言ったことに悪い気がした。
「・・・ごめん。でも、助かるよ」
「そう言ってくださると嬉しいです。摘むと痛いと思ったので、魔力を少々使いました」
「そこまで、気を配って・・・。でもなユキ。手伝いたいときは一言かけるものだぞ」
俺はユキに自分の子のように教えた。ユキは「ハイ」といいながら小さくうなずいた。
しかし、ユキが手伝ってくれるとはありがたい。
「ユキ。家までお願いできないか?」
「ハイ。ナルさんの頼みなら了解しました」
ユキはニコっと笑った。大きくなってもユキはユキ。笑顔が可愛いユキだ。気がつけば
空から雪が小さく降ってきていた。


 家に無事つくなり、俺は荷物を家に運び、夕飯を食べ、外を見ると結構雪が
降ってきた。やはり、ユキを1人で外にいさせるのは可哀想だ。俺は外に出てみた。
玄関から外に出る。外と室内の温度差に一気に体が震えた。
「ユキー!どこだー?ユキー」
ビュゥゥウウと返事が返ってきた。ユキがいない。しかし、その心配はすぐに消えた。
「ナルさんどうかしましたか?」
上空からユキの声。俺は見上げるなりまた、ユキがでっかくなっているように見えた。
「ユキってどうやって寝るんだ?」
「そうですね。基本的には正座か、横になって寝ますね。それがどうかしましたか?」
「いや、こんな雪が降っている中そんな寝方じゃ可愛そうに思ってさ」
「ナルさんって優しいんですね。ですが、私のことは心配しなくていいですよ。
家に入れないぐらい大きくなった私のせいですし・・・」
暗くてユキの顔は見えないが確実に暗い顔をしているのはユキの口調からわかる。
別に、家に入れなくなったのは仕方がないことだ。なんとかしたくて、
なんともならない。あたりには雪野原。
「そうだユキ。お前家に入りたいか?」
「入りたいですけど、この体じゃどうすることもできません・・・」
「じゃあさ、この雪野原でかまくらを作ろう。そうすればユキの家ができる」
「かまくらですか。わかりました。私は平気ですが、
ナルさんに心配をかけたくはありません」
そういうと、ユキは目を閉じた。あたりに積もっている雪が青白く光、宙を舞い、
どんどん雪の塊が集まっていく。恐らく、この山に積もっている雪を全部集めたん
じゃないかというぐらいの勢いで俺の家の近くに雪山ができる。そこからどんどん
かまくららしい形になってきて、あっという間にかまくらが完成した。
「ナルさん、こんなものですか?」
「本当にユキはすごいな。うん。これだよこれ」
俺は思っていたより早くユキの家ができたことがびっくりした。俺の家より
数倍でかいかまくら。そこに、ユキが寝る。
「ユキ、チカラを使って疲れてないのか?」
「いえ、この程度ならぜんぜん問題ありません」
何もしてないかのようにユキは答えた。まったくすごいものだ。精霊みたいなモノは。
それから、一応俺はユキのかまくらに入ってみる。鎌倉は外と比べると温度の差が
はっきりとわかる。あの厳しい寒さが優しい寒さに変わっている。
ユキも自分の体を横にしても大丈夫そうだ。安心、安心。
しばらくすると俺は「自分の部屋で寝るよ」とユキに言うと、
俺の全身が青白い光に包まれた。体が動かない。
「ユキ、なんのつもりだ?」
俺はカチカチの体になりながらユキのほうに体を向けた。雪は横になっているが何か
甘えたそうな顔をしている。
「ナルさん。迷惑ならいいんです。私のわがまま聞いてもらえないでしょうか?」
ユキはちょっぴりはずかしそうだ。なにかもぞもぞしている。
「わかった、わかった。とりあえず、この金縛りみたいなヤツを解いてくれ」
「すみません。ナルさん」
そういうと俺にまとっていた青白い光は何事もなかったのかのようにスッと消えた。
俺はとりあえず体を軽く動かしユキに聞いた。
「・・・で。ユキは俺に何をしてもらいたいんだ?」
ユキの顔はどんどん赤くなっていく。
「あの、イヤならいいんです。その、今夜だけでもいいので私と
一緒に寝てくれませんか?」
ユキは真剣そうな顔だ。断れば泣いてしまいそうだ。別に断る気にはなれなかった。
俺も1人で寝るよりユキと一緒に寝たい。
「そんなことか、ユキ。お前は寂しがりやなんだな」
ユキは無言でうなずく。本当に寂しいんだなと思った。
「わかった。じゃあ、家から布団持ってくるから待っていてくれ」
俺はそういうとかまくらから出ようとするとまた俺の体には青白い光が身にまとった。
そして、俺の体フワフワと宙に浮くと後ろに飛んでいった。
「ちょ、ユキ!待て!今度はなんだ!」
「ナルさん。今夜私おかしいかもしれません」
「なんで?」
俺は後ろに飛びながらユキに聞いた。まぁ、向かっている先はユキの方だということは
目を瞑っていてもわかる。
「何故でしょうか。ナルさんをこのまま行かせたら帰ってこないような気がして、
怖くて。すみません。本当にすみません。今日はおかしいです」
微妙ながらユキは泣いているような気がした。
「でも、流石の俺でも何もなしにここで寝るのは体に毒だ。どこで寝るんだよ?」
俺は少し困りながらユキに聞いた。すると俺の足は空中からやっと陸地に足がついた。
ユキの肌のどこかに乗ったのだろう。乗ったと同時に青白い光は消えた。
左右には膨れたなにかがある。後ろを見ると雪の顔が下にある。どこだここ?
「ここなら大丈夫じゃないでしょうか?」
「いや、ここってどこ?なんで、ユキの方がでかいのに顔が俺より下の位置に
あるんだ?」
「ナルさんが今いるところは、その、ナルさんが・・・・」
ユキは最後まで言いきる前に自分の両手を顔に隠した。その振動で体が揺れる。
俺は後ろに倒れてしまったが後ろでクッションがあるかのように倒れても痛くない。
その大きなクッションは二つある。もしや、ここは・・・・
「胸か?」
「・・・はい」
俺も恥ずかしい。よりによってどうして胸なんだ。まあ、嬉しいと
言えば嬉しいが・・・。ユキはゆっくりと両手を顔からどかし、俺を見る。
「胸、なら、一番安全かと思いますし、暖かいと思います」
暖かい?俺はとりあえず、ユキの胸に挟まってみる。左右のおっぱいはやわらかい。
温度も丁度いい。
「そうだな。ユキの言うとおりだ。ここなら体を悪くしなくてもいい一番いい場所だな」
「そ、そうですか?そういわれると助かります」
ユキも恥ずかしそうだ。もちろん俺も恥ずかしい。まさか生きているうちに
女性のおっぱいで眠ることができるからだ。明かりを消すなり、かまくらの中は暗くなった。
「それでは、ナルさんおやすみなさい」
「あぁ、ユキ。おやすみ」
そういうと、俺は眠りについた。俺は今までずっと山で冬の時期は冷たい床で
寝ていたが、ここまで暖かいところで寝れるとは思っていなかった。俺はそんなことを
考えているうちに眠ってしまった。


 ドゴォン!
それはとてもすがすがしい音と共に俺は目が覚めた。俺はユキの首より下のところに
歩いてみた。そこにはユキの顔はない。それだけではない。両手両足が見る限りない。
ここのかまくらは出入り口は1個だけ。しかし、今は6個あるではないか。
上のほうから雪の塊がドサドサと落ちて、俺の頭は白くなっていた。
「ユキ。これは、どうゆうことだ?お前の寝相は悪くないはずだぞ?」
すると、かまくらの外のほうからユキの声が聞こえてきた。
「ち、違いますよ!決して寝相ではありません。また大きくなっちゃったんです。
見てみればわかります」
言われてみれば、天井が近くなっているような。だが、ただでさえ大きい
ユキを見てみればわかると言ってもどうやってみればいいんだ。
「ユキの状況がいまいち理解できないな」
「そうですか?それでは、軽く目を閉じてください。ちょっと、ビリってきますけど」
俺はユキの声に従い、ゆっくり目を閉じた。目を閉じると頭痛がズキンときた。すると
何も考えていなかった頭からまるで映画を見ているかのような大スクリーンで山の
景色が見えた。たぶん、外の景色をユキが見せているんだろう。空は灰色。上空から
はまだ雪がぱらぱらと降っている。アングルをどんどん下に回すとそこには俺の家、
隣にはユキがつくったかまくらがあった。かまくらをよ〜く見てみるとそこからは顔、
両手両足がかまくらからはみ出している恥ずかしそうな顔をしているユキがいた。
さらに注意深くみると、アングルはどんどんユキのほうに降りていく。ここで、ユキの
今の状況がわかった。まず、頭は首から上は外にある。両手は肘からは外。両足は膝から
下が外。上空から見るとかっこうが悪い。俺はゆっくり目を開けた。
「ユキ。また、大きくなったね。もう、俺の家なんて片手に入るんじゃないか?」
「私そこまで大きくなっちゃいましたか?」
「うん。そうとう大きくなっているよ」
話しているうちに俺の上空からボゴォ!と音をたて上空から雪の塊が俺に
のしかかってきた。ついに、胸の部分もユキが作ったかまくらの高さよりも
大きくなってしまったのだろう。たぶん、このかまくらと今のユキをたたせてみると
膝もないだろう。横になっているだけで、ユキの大きな膨らみがかまくらの天井を
突き破り、外の空が見えた。俺は悪い気はしたが、ユキの髪の毛をロープ代わりに使い、
地面に足がつくなり急いで出口に向かって走り出した。
このままでは生き埋めにされてしまう。俺はひたすら出口に走った。


 ドサ!
俺は鎌倉から外に出ると膝から崩れ落ちた。ひとまず安心。
「ナルさんでてきちゃったんですか?」
すぐ横にはユキの大きな顔がある。俺は彼女にとっては今砂風呂に入っている感覚
なんだろうなと思った。こっちとしては、大きな家が崩れ落ちるというスリリングな
時間を過ごさせてもらった。
「ユキ!大きくなってると感じたら知らせろよ!俺を殺したいのか!?」
「こ、殺すだなんて・・・。私だって、知りませんよ。最初は体全身を伸ばしていても
良かったんですけど、だんだん体を丸くしないといけなくなっちゃって・・・。
窮屈だから体を伸ばしたら、こんなことになっちゃいました」
大きなかまくらの壁が中心部から上が浮き上がった。とうとうユキは寝ている状態で
昨日作ったかまくらよりも大きくなってしまった。だいたいユキは昨日と比べると
2倍以上大きくなっている。
「まぁ、今回はしかたがないか。俺も変な提案しちゃったしな」
「いえ、ナルさんの気持ち。とっても嬉しかったですよ」
そういうとユキは今までにないぐらいの笑顔を俺に見せた。ユキの体に乗っている雪も
急に青白い光に包まれ、昨日あった場所に雪をかえっていった。
それから、俺とユキは共に山全体を使って生活した。ユキにとって今じゃ、山全体が
家といってもいいだろう。日に日に冬の寒さが強くなるに比例してユキの身体も大きく
なっていた。ユキから見て俺は果たして見えるのだろうか?俺は最近それしか考えて
いない。無理もないと思う。ユキにとって俺の家は親指よりも小さい。
プチっと潰せそうだ。俺の敷地である広い土地も今じゃユキの大きい身体を
ぎゅうぎゅう詰めになっている状態だ。わずかながら、木々が斜めっているところも
ある。一体何mあるのだろうか?俺はユキの大きさに興味があった。山よりは
小さいだろうが、この寒さが続けばいずれはユキはこの山よりも大きくなるだろう。
明日で、年が変わる。初夢は一体何だろうな。ユキも夢は見るのかな?


 元旦。
俺は太陽が昇る時間と同時に目が覚めた。外を見ればユキの体でいっぱいだ。俺は
ユキに頼んで、今のユキの大きさを俺の頭に送ってくれた。
 ずきん。
まぁ、脳内に映るからには少々頭が痛い。ユキは横になっているが小さく丸まっている。
小さい茶色の点は恐らく俺の家だろう。こうしてみると現実複雑にも見える。ユキは
体育座りをしている状態で横に倒れている状態で、両手は両膝に添えている。その中心に
茶色い点、つまり、俺の家がある。この広い平地がまもなくユキの大きな体からはみ
出てしまうのであろう。ちなみに、俺の家はこの平地の中心部。半径50mぐらいは
あると思う。こうなると話もろくにできない。
『・・・ますか?・・・さん、・・・・』
遠くから聞こえる声。俺は今ユキを脳内で見ている中、もう片方から小さな声が聞こえる。
俺に問いかけてるのはわかる。急に聞こえるがドキっとしたが、まだ小さく声が聞こえる。
『・・・ルさん、・・・・えますか?・・・・ナルさん、私で・・・』
だんだん声は聞こえてきている。俺の名前を呼んでいる。この喋り方、声、俺は
どっかで聞いたことはある。しかし、考えてもすぐに頭にでてきたのはユキという
女の子が浮かんだ。彼女ならやりかねないだろう。
「・・・ユキなのか?」
『・・・イ。・・・でございます』
微妙な返答。ユキだということは確かである。しかし、音声はだんだん良くなってきている。
俺は内心ユキが何かをしようと必死になっているところを想像した。がんばっているのに
うまくいかなくて困っているユキが目に浮かぶ。
『ナルさ——ん!!』
「うあぁあ」
急に聞こえた大きな声。俺の想像も一瞬で流された。たとえるなら、蛇口をひねったが
なかなか水がでなくて、覗き込んだらドパーっと水が大量にでて、全身がずぶ濡れになる
ような気分だ。ただ、これは水ではなく、声だということだ。
「ユ、ユキ!お、脅かすな!」
『あ、すみません』
「まぁ、いいけどさ。これってテレパシーみたいなものだろ?」
『ハイ。そうですね。私、テレパシーを使うのは初めてだったので・・・その、
急にやってすみません』
「でも、なんで急にテレパシーなんて?」
『それはですね、流石にここまで大きくなってしまうとナルさんの声が小さく、
外で頼んだのも正直言って何を言っているのかわからなかったのです』
よく、俺の頼みが聞こえたものだなと俺は思った。それほど、俺はユキに簡単に心を
読まれてしまうのだろうか。まぁ、精霊だし。人間とは違うんだなと思った。


月日は、流れた。ユキがテレパシーが使えるようになって、色々と便利になった。
ユキはそれからというものどんどん大きくなっていった。最終的には俺の家のある
大きな平地はユキの大きな山2つでいっぱいになっている。そして、俺は今ユキの
肩に乗っている。そして、ユキも座っている。遠くから見るとユキは俺の住んでいる山に
座っているように見えるだろう。足を開いて俺の家は潰さないようにしっかりと地面に
お尻が着いている。ユキは今この山よりは確実に大きい。今日はじめて、ユキは俺の
平地に腰を下ろした。だから、俺はこうして、ユキの肩に乗っている。ユキの肩から
見える景色は絶景だ。まぁ、下を見れば怖い。落ちたら即死、だろう。
だが、谷間に入れば助かるかなっと俺は思った。しかし、俺にはここまで大きくなった
ユキのことについて1つだけ疑問に思ったことがある。注意するにもほどはあると思うが、
ここまで何一つ壊さないとなると何か秘訣でもあるのだろうか?
「ユキって、よくモノとか踏み潰さないよな?」
俺はここまで大きくなったユキを見てきて、事故が1個もない不思議でたまらなかった。
唐突できにユキに聞いてみた。すると、ユキは。
『それは、ナルさん。私、溜まりに溜まったチカラを使っていますから、
事故という事故は絶対起こさない自身があったのですよ』
なるほど、だからあの時、ユキは自信満々だったんだな。大きな岩に躓いて転びそうに
なっても転ぶ寸前で体を浮かせて地面にはつかない、か。俺はユキのすごさに感心した。
ユキの肩から町を見ると、山とは違い、雪が溶けている。ほとんど、白色は見えない。
「もうじき、春だな」
俺は呟いた。ユキにもこの何気ない言葉は耳に入った。
「そうですね・・・」
ユキはそういうと、俺のいないほうに顔を向けた。
「いまさらだけどさ。世の中いろんなことがあるんだな」
俺はユキの肩に横になった。空は晴天。太陽の光が普段よりまぶしい。
「いきなりどうしたんです?ナルさん?」
「いや、こんな山奥に住んでいた俺だけど、何も起きない平和な時間が退屈だったんだ。
でも、ユキとあえて、退屈が楽しいに変わったんだ」
ユキは何も言わずに聞いている。顔がコクンと動けば
聞いているか聞いていないかはわかる。
「で、正直何かが起きて欲しかった。そんなことを考えていたら、
ユキお前が現れたんだよ」
「私・・・、ですか?」
急にユキのことをいってユキもびっくりしたらしい。体が少し揺れたから
びっくりしたかもわかる。
「ユキと過ごして、一人の食事も明るくなったし、猪の件はユキがいなかったら俺は
どうなっていたかわからなかったな。俺はユキに助けられっぱなしだな」
「そ、そんな。私は、居候させていただいたからには当然のことをしたまでです」
頬が赤くなっている。ユキ、照れてるんだな。
「でも、ユキ。お前はどうして俺の家に着たんだ?」
「そ、それは・・・どうしても言わなければなりませんか?」
俺はユキが曇った声で返事するのは予想外だった。明るく「それはですね〜」
と返ってくると思っていたが・・・。
「言いたくないなら無理にいわなくていいよ」
「・・・すみません」
「いや、いいよ」
「質問に答えれなかったお詫びに私に何かできないでしょうか?」
急なユキからの提案。まぁ、ユキの性格上。イヤでも、何かしてやらないといけない。
「それじゃあさ、今後のこの世界に不思議な現象を巻き起こしてくれ」
「不思議な現象・・・ですか」
「そう、ユキみたいに不思議な出来事が今後この世界に不思議な現象を起こして欲しい」
俺は考えなしに言ってみた。流石のユキでもこれは無理だろと思った刹那。
「わかりました。それでは、不思議な現象はどのぐらいがいいでしょうか?」
「へ?で、できるの?」
「ハイ。今の内ならできます」
「今の内ってなんか気になるけど・・・、じゃあ、七不思議ってのがあるから7個で」
「結構多いですね〜。わかりました。それでは、ナルさん。一旦地面に戻しますね」
 ビュン!
そういうと俺の視界は真っ白になった。
「まさか、テレポートもできるとはな」
俺は消えいく意識の中でボソリと話して意識を失った。


 気がつけば俺は玄関の前で座っていた。目の前にはユキがいた。
しかし、あの巨体なユキはいない。大きさは初めてユキが俺の家を跨いでいた時と
同じぐらいの大きさだった。そして、ユキの体の回りには青白い球体がフワフワと
浮いている。しかし、その球体には大きさは全て均等ではなく、小さいものから
大きいものまである。
「ナルさん。気がつきましたか」
ユキはニコっと笑った。
「あ、ああ。しかし、ユキ。お前の周りにいるその球体はなんだ?」
俺は球体に指を指した。すると、ユキは
「七不思議のタネです」
「七不思議のタネですって・・・じゃあ、なんでユキは小さくなっているんだよ?」
「たぶん、チカラの消費が大きいのと、別なところから来てますね。
ナルさん時間がありません。この七不思議のタネをどのようにしますか?」
「えっと・・・」
俺は悩んだ。ただ、今の何にもない日常に何か不思議なことが
あればいいと思っていった。
しかし、いざ七不思議のタネをどうするかを聞かれたらどうすればいいか迷った。
不思議な出来事、不思議な出会い、不思議な物事。があればいいと思った。
それらのうちの1つがユキとの出会いだと俺は思う。ユキをちらっとみると
球体を維持するのに辛そうに見えた。
「ナル・・・さん。は、早く・・・」
「わかったよ。じゃあ、その七不思議を全国にばら撒いてくれ。内容はユキに任せる!」
「わ・・・わかりました。では!」
 ビューンと球体が各自分別した。しかし、すぐに一番でかい球体が落ちてきた。
「ユ、ユキ大丈夫か?」
「す、すみません。ナルさん・・・。がんばっては見ましたが、
日本内での七不思議になりそうです・・・」
「いや、いいよ。それよりユキ大丈夫か!?顔色悪いぞ!」
「私の、ことなら大丈夫で・・・」
「す」と言い切る前にユキはフラっと横に倒れた。
 ドシーン
俺は急いでユキのもとへ走った。ユキの顔に向かうとユキはぐったりしていた。
「ユキ!大丈夫か!」
「すみません、ちょっとしたことで倒れてしまいました」
ユキは言った。ユキは体を少しだけ起こし右手で球体に戻っておいでと
いっているかのように手をふった。ユキのもとにその球体がくるとユキは
球体に片手を乗せ、少しづつ球体を大きくした。
「何をしているんだユキ!」
「このままでは、七不思議が六不思議になってしまいます・・・」
額に汗を浮かべるユキ。俺はこれまでユキが弱っているところを一度も
見たことがなかったが、ユキは今にも死にそうだ。
「ナルさん・・・。すみません。この球体をナルさんの体に
入れ込めていいでしょうか?」
球体はどんどん大きくなっている。NOと答えれば恐らくまだまだチカラを注ぐ
であろう。これ以上は危険だ。
「わかった。俺に入れていい。だから、もうやめてくれ。ユキ!」
「ハイ。それではいきますよ」
ユキはヨロヨロと立ち上がり、両手でその球体を俺に押した。その球体は俺の体よりも
大きい。俺とその球体が触れた瞬間バシュン!と大きな音をたて俺の体に入っていった。
その音を聞いて安心したのかユキは倒れてた。俺は倒れ行く小さくなったといえ、
大きなユキを両腕で受け止めようとした。


 潰れてもかまわなかった。しかし、ユキは俺の両腕に背中が納まった。
倒れ行く際に普通の人間サイズにまで小さくなったのだろう。
「ユキ!大丈夫か!ユキ!」
「ハイ・・・。大丈夫です。間に合いました・・・」
ユキはそういうと微笑んだ。さっきからユキは俺に何が言いたいのかわからなかった。
それに、ユキが急に小さくなっているのも気になる。ユキは人間じゃない、俺は
その言葉が頭から離れなかった。そして、恐ろしい言葉までもが浮かんだ。
「・・・時間切れです」
急にユキから聞こえた言葉。
「ユキ?まさかとは、思うが・・・」
「恐らく、ナルさんもわかるかと思います・・・。私、消えちゃいます」
その時、俺がもっとも恐れていた言葉がユキの口からでた。
「な、何言ってるんだよ!どうして、時間切れなんだよ?」
「前にも言ったかと思います。私は寒くなるとチカラを取り戻します。
しかし、暖かくなるとチカラは失います」
どうして、あの時に気づかなかったのだろう。暖かくなれば、ユキが消える。
なら、もっと充実した日にできたかもしれない。俺はとんでもない後悔をした。
もちろん、ユキが言わなかったのは、俺に気を使わないで欲しかったのだと思う。
ユキは俺の腕から離れ、俺と向かいあうように立った。
「ナルさん。最後に私のわがままを聞いてくれませんか?」
「・・・・なんだよ」
「あの老人から買った杉の木。あれをこの平地とは逆方向に埋めてください。
ナルさんが気を失っている間に私が大きな氷柱を刺しておいたのでそこに
埋めてください」
「わかった。じゃあ、ユキ俺もお前に1つだけ言いたいことがある」
その時、ユキの姿がうっすらと透けてきた。
「今まで、ありがとう・・・。ユキのわがままちゃんと聞くからな」
「ハイ。ありがとうございます。ナルさん————」
そういうとユキは俺の目の前から姿を消した。
信じられなかった。ついさっきまで、ユキはいたのに、今はいない。
俺はその場で崩れ落ちた。短い間のユキとの出会い。あっという間だった楽しい日々。
それが今、終わってしまった。


 俺はそのあと、あの老人から買った。杉の木を背負って家とは逆方向へ歩いた。
しばらくすると、大きな氷柱が地面に刺さっていた。恐らく、ユキはここに
埋めてくれっといっているのだろう。俺は、その場を携帯スコップで掘った。
地面を掘っているうちに俺はどうして、ユキが俺の家に訪れたのかなんとなく
わかったような気がした。俺は、幼い頃から両親を失い。一人で生まれた山で
生活を送り、人との関係があまりない。そして、毎日の繰り返し。俺はそんな
一方的に楽しみのない日々を過ごしてきたからユキみたいな子が現れたんじゃないかと
考え、杉の木を植えた。植えたと同時に耳元からひんやりとした氷柱の冷気から
「ありがとうございます」
とユキの声が聞こえた気がした。俺は杉の木を見て、
「じゃあな、ユキ。今まで楽しかったよ。そして、
これから起こるユキの七不思議を楽しみにしてるよ」
俺はそう言い、その場を去った。


 家に帰ると俺の家には来客がいた。女性の方だ。その女性は腰まである
長い水色の髪であった。
「すみませんが、どうかしましたか?」
俺はその女性に声をかけると女性が振り向いた。
「すみませんが、道に迷ってしまってどうやったら村に戻れるか教えて
もらえないでしょうか?」
俺は思わず、両目から涙がでてきた。その女性はユキに非常に似ているからだ。
髪を肩まで切って髪の色を白にすればユキそっくりなのだから。俺は思わず口から
「ユキ?」
と言ってしまった。しかし、女性は少々困り気味で
「私は、ユキではないですよ。雪江といいます」
「あ、どうもすみません。昔の好きだった女性に似ていたもので、
勘違いをしてしましました」
世界には似た人物が2、3人いると聞いたことがあるが、
まさか、それと今ばったり会うとは・・・ひょっとするとコレがユキが俺に
送ってくれた俺への七不思議の1つじゃないかと思った。