※はじめに
本作は、とある科学の超電磁砲(レールガン)の低質な2次創作です。
以下の駄文は、畏れながら、まだ漫画の第1巻しか読んだことのない、にわかファンによるものであります。
それと、長々とした前口上の後に、巨大娘による破壊シーンがございます。
原作ファンの方は、どうか生温かい目でご覧下さいませ。

7月1X日①

ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。シューッ。
「金芝~、かねしば~。特急『おみ』、学園都市発、金芝行き。終点でーす」
乗務員の鷹揚なアナウンスが響き渡る。無数の乗客に紛れ、2人の少女が金芝駅のホームに降り立った。
「ふう、信州って涼しいわね~。折角来たんだからそばを食べに行きましょ、黒子」
肩まで髪を伸ばした少女が、連れ立ったツインテールの少女に声をかける。
「行きましょう行きましょう! 私が、お姉様に信州そばを口移しでちゅるちゅると・・・・・・いえ、いっそこの場で」
黒子と呼ばれた少女はキスしようとして、ひらりとかわされる。
「もう、ワンパターンなんだから。特命があるんじゃなかったの?」
お姉様と呼ばれた少女が、迷惑そうに呻いた。
「そ、そうでしたわお姉様。今回は風紀委員(ジャッジメント)の特命が最優先事項です。
 おそばは、事件解決後にゆっくり食べましょう」
床に手をついた黒子が、真面目な表情になって答える。
「それにしても・・・・・・」
お姉様と呼ばれた少女が、空を仰ぐ。そこには、信州の山々を遮って、無数の超高層ビルがそびえ立っていた。
信濃県金芝市。
科学技術でこそ学園都市に劣るものの、国際的な新興経済都市としての成長が著しい街である。
未知の力を秘めた浮遊輝石『グランシャリオ』の鉱脈が発見され、金融や物流関係のオフィスが集中している。
噂では、金田財閥と呼ばれる企業結社が、浮遊輝石の権利を牛耳っていると聞く。
「ビルだらけで感心しないわね。折角の山並みが台無しじゃない」
少女はぼそりと呟いた。
「ここでは発言に気を付けた方がいいですよ、『超電磁砲(レールガン)』さん。
 至る所に、金田財閥謹製の盗聴器や監視カメラが仕掛けられていますからね」
不意に、女性の声が響き渡る。周囲の乗客は騒然となり、ドタドタとその場を離れていく。
彼女の話は、公然の秘密なのだろう。
「誰よ、あんた」
2つ名で呼ばれた少女は、敵意を剥き出しにして言い放つ。その先には、スーツに身を包んだ長身茶髪の女性の姿。
トラブルを避けようと逃げ出す大人たちの列に逆らって、コツコツとヒールの音を立てて歩いて来た。
「はじめまして、電撃使い(エレクトロマスター)の御坂美琴様に、瞬間移動能力者(テレポーター)の白井黒子様。
 お待ちしておりました。私、金芝市役所治安維持課(ゴルディオン)の羅楽と申します。ようこそ、金芝へ」
にっこりと微笑み、一礼する羅楽。『治安維持課』と書かれた黄金のプラカードが、たわわな胸に翻る。
2人はその乳房の揺れ具合に、思わずたじろいだ。
少し遅れて、黒子が言葉を搾り出す。
「あ、貴女が通達にあった現地責任者の羅楽さんですね。学園都市からの特命で参りました。
 風紀委員(ジャッジメント)ですの」
「よろしくお願いしますわ、可愛らしい風紀委員さん」
黒子の手を握る羅楽。
「か、可愛いだなんて、ちょっと照れますわ。でも、私にはお姉様という心に決めた方が・・・・・・」
黒子は顔をほんのり染め上げた。
対する美琴は、未だに警戒を解かず、羅楽を凝視していた。
「そんなにじろじろ見ないで下さいな。貴女の学園都市でのご勇名、聞き及んでおります。どうぞよろしく」
すっ、と手を伸ばす羅楽。
「・・・・・・」
その手を握り、超能力で軽い電流を流す美琴。この女は、何だか気に入らない。
パリッ!
常人なら、これで思わず手を離すだろう。だが。
「ふふ、随分と手荒な握手だこと」
羅楽は微笑んだまま握手を続けた。そのまま、万力の様な握力でギリギリと美琴の手を締め付ける。
「痛たたたっ! 何するのよ、このオバサン!」
「非礼には非礼を返したまでのことです」
素っ気なく喋る羅楽。その眼には狂気が躍っていた。
「離しなさいよ!」
美琴は怒って、電圧を上げる。
バリバリバリッ!
今度は、人間を気絶させるに等しい高圧電流。
学園都市の不良どもを地に這わせてきたその力は、羅楽のスーツを黒く焦がしていく。
だが、当人はそんな中でも平然と微笑んでいた。
「ふふふ、こそばゆい電撃ですこと」
「・・・・・・あんた、本当に人間なの? 普通なら、気絶している電圧よ」
あれだけ電気を流したのに、全く通じていない。
言い知れぬ恐怖に、美琴は羅楽の手を強引に振り解いた。
「さて、挨拶も済んだことですし、車までご案内しますわ。こちらへどうぞ」
炭になりかけのスーツをパンパンと払い、羅楽はホームの階段を昇り始めた。
一時遅れて、渋々と続く少女たち。
「あのオバサン、耐電タイツでも着込んでるのかしら? 私の電流が全く通じないなんて」
「ありえませんわ、ありえませんわ」
科学万能の学園都市で生活する2人にとって、羅楽は規格外だった。。

美琴と黒子を乗せ、『金芝市役所』と書かれた白のワゴン車が走る。
高層ビルの間を縫う様に車道を走り、バイパスに乗り換えて、ビルの少ない郊外へと入っていく。
「さて、そろそろ教えてもらおうかしら、特命の内容を。私、黒子からは何も聞かされていないから」
不機嫌そうに切り出す美琴。運転中の羅楽がうなずいた。
「良いでしょう。黒子さん、美琴さんに詳しい説明を」
「はい。もうお話ししてもいいんですね?」
黒子は緊張した面持ちで語り出した。
「今回の特命は、学園都市から逃げ出した超能力者(レベル1)を連れ戻すことですわ」
「レベル1? それなら、他の風紀委員(ジャッジメント)でも何とかなるじゃない」
ひらひらと手を振る美琴。だが、黒子の表情は硬い。
「その能力の内容が問題なのですわ。新たに発見された超能力・・・・・・その名も、妄想具現化(ワイルドファンシー)ですの」
「わ・・・・・・わいるど、ふぁんしぃ?」
何だか気の抜ける名前だったが、黒子が真剣なので、美琴は黙って続きを聞くことにした。
「相手は、半径100メートル内の人間を、思うがままに変身させる事ができるんですの。
 その原理はまだ解明されてませんけど、明らかに物理法則を捻じ曲げていますわ」
「はぁ、なるほど。科学万能がモットーの学園都市にとっては一大事ね」
黒子の説明に、美琴が頷く。
「勿論、学園都市は対象を隔離、極秘裏に解析を試みましたわ。
 でも一昨日、最新型警備システムと、風紀委員(ジャッジメント)24名が監視する中、対象は忽然と姿を消しましたの。
 学園都市側では、その後の足取りが全くつかめませんでした」
忌々しげに呻く黒子。羅楽が口を挟む。
「ところが、対象は昨日、偶然にも金芝市で発見されました。市の業者が管理する、旧式の防犯カメラに映っていたのです」
それを聞いて、美琴はきっぱりと言った。
「なら、風紀委員(ジャッジメント)が捕まえに行けばいいじゃない。どうしてわざわざ私を連れてきたの?」
黒子が苦しそうに答える。
「お姉様の電撃なら、100メートル離れていても対象を生け捕りにできる可能性が高いからですわ。
 それと・・・・・・最悪の場合、超電磁砲(レールガン)で射殺しても構わないという指示が下されていますの」
「射殺・・・・・・!? 私に人殺しをしろって言うの?」
憤然とする美琴。それを押し止める様に、羅楽が告げた。
「飽くまで、最悪のケースです。我々金芝市役所としても、危険な超能力者を野放しにはできません。
 さて、そろそろ対象が潜伏している場所に着きますよ」
美琴は納得がいかなかった。いかなかったが、覚悟だけはしておくことにした。

バイパスを降りたワゴン車は、電光看板で彩られた円筒形の建物の駐車場に入った。
ジャラジャラジャラ。ピロピロリーン。
店内からは、楽しそうな音が鳴り響いている。
「ここって・・・・・・ゲームセンターじゃない」
「はい、その通りです」
眼を輝かせる美琴。
「メダルゲームはあるかしら?」
「勿論。なかなかの業物が揃っていますから、後で遊んで行くと良いでしょう」
羅楽は優しく微笑んだ。しかし、次の瞬間には表情を引き締め、携帯電話を手に指示を下す。
「こちら輸送班。超能力者2人を輸送した。監視班、現状報告を」
羅楽の指示に、部下が答える。
「こちら監視班。対象は、2階左手の窓際に設置されたロボットアクションゲーム『B●RDAR BREAK』に夢中です。
 今ならヘッドショットが狙えます。ははっ、こいつ縦横に動くだけで、高速戦闘が何一つできちゃいない。いい的だ!」
「監視班? どうした、今は勤務中だぞ。監視班?」
「ヒャフーイ! 味方がAプラント奇襲に成功! 野郎共、コア凸して一気にポイントを稼ぐぞ! 修羅サイコー!」
「・・・・・・どうやら、監視班は既に対象の妄想に取り込まれてしまっている様です」
冷静に取り繕う羅楽。だが、その額には怒りの青筋マークが浮かんでいる。
「いい腕ですこと」
美琴は意地悪く笑った。黒子もニヤニヤしながら、まくし立てる。
「さて。対象がゲームに夢中だと言うなら、話は早いですわ。お姉様、電撃でビリビリーッとやっちゃって下さい!」
「分かったわ。2階のゲーム機は使い物にならなくなると思うけど、損害補填、よろしくね」
腕を構える美琴。だが、目標を見定めて、奇妙なことに気付いた。
「・・・・・・ところで、対象って2階の窓際にいるのよね」
「はい」
美琴の質問に、羅楽が答える。
「ここから見える?」
「はい。それが何か?」
羅楽が尋ね返す。美琴は、重々しく呟いた。
「・・・・・・さっきから、得体の知れない白い生き物がこっちを見てるわ。
 黒子、逃げ出した超能力者って、もしかして人間じゃ、ない?」
黒子が無言で頷く。
「それじゃ、最後の質問。
 窓際の台に、ゴマフアザラシの赤ちゃんみたいな怪生物が座ってるんだけど、あれがターゲット?」
「・・・・・・ハイ、ソウデス」
黒子の返答に、美琴は思わず気を失いそうになった。
どこの世の中に、アーケードゲームに興ずる海獣がいるのか。

「どうも、はじめまして。御坂美琴さんに白井黒子さん、信州へようこそ♪」
2人の脳内に、突如として謎の声が届く。
「・・・・・・!? 誰よ、あんた」
「私は、あざらしと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
窓際の怪生物は、ペコリと頭を下げた。
黒子はすかさず叫ぶ。
「被験体ナンバー0044番! 風紀委員(ジャッジメント)ですわ! お前を拘束します!」
「黒子さん、素敵ですねぇ。貴女のそういう真っ直ぐな所、大好きですよ」
あざらしは飄々と答えた。そして、思い出したかの様に呟く。
「あ、そうそう。学園都市の計算で、私の妄想のテリトリーは100メートルだと仰いましたね」
「そうよ。あんたと私たちとの距離は、300メートルはあるわ。観念しなさい!」
美琴が腕を構え、放電の姿勢を取る。ここは車内だが、正体不明の相手を前に、もはや構っていられない。
だが、あざらしは衝撃の事実を告げた。
「あれ、実は嘘なんです。本当は、私の妄想は目視できれば即座に発動できます」
「な・・・・・・なんですってー!? と、いうことは」
「はい。貴女方は既に私の射程圏内です。さぁ、私の妄想で踊って頂きましょう」
あざらしは、無表情だった。しかし美琴と黒子には、それがこの上もなく恐ろしく見えた。
一体、私たちはどんな妄想で取り殺されてしまうのか?

次の瞬間、金芝市役所のワゴン車がボカンと音を立てて四散した。そして、中から巨大な少女たちが姿を現す。
「うわ、うわわっ! 体が、体が大きくなっていく!」
「こっちもですわー! 助けてお姉様―!」
美琴と黒子が、制服のサイズはそのままに、瞬く間に巨大化していく。
10メートル、20メートル、30メートル、40メートル。50メートルになって、拡大は止まった。
駐車場にあった他の車が、拡大する2人の靴によってメキメキと押し潰される。
「きゃああぁあ! な、何よこれー!?」
「信じられませんわ。これは夢、夢に違いありませんの」
慌てふためく2人。

所変わって、金芝市中心市街地。
一際高いタワーの中央に、金芝市の全土を網羅する監視室があった。
オペレーターが甲高く告げる。
「金芝市郊外より映像、入ります! ゲームセンター付近に、巨大な少女を2体確認しました!
 金芝駅構内での監視カメラの画像と照合。
 相手は本日の『おみ』で到着した、学園都市の御坂美琴と白井黒子の模様です!」
「何だと!? 学園都市め、巨大化は非科学的だなどと言っておきながら、きっちりお約束を踏んで来たか。
 ふん、しかしまあ、ちょうどいい。奴らに金田財閥の力を見せ付ける絶好のチャンスだ。総員、第1種戦闘配備!」
指揮官が、勇ましく命令を下した。
金田財閥は、金芝を陰で支配する独占企業である。
その豊富な資金力と強引な経営手腕で、粉ミルクからイージス艦まで手広く売り捌いている。
彼らは秘密貿易により、秘密裏に、戦車やミサイルトレーラー、戦闘機、巨人爆撃機などを保有していた。
今、その戦力が、巨大化した美琴と黒子に向かって牙を剥こうとしていた。

40メートルになった美琴が、ゲームセンターに向かって手を伸ばす。
ズズン! 2階の窓が割れ、B●RDAR BREAKの台ごとあざらしをつかみ上げる。
「今すぐ、元に戻しなさい!」
「嫌です。貴女方には、金芝の街を破壊してもらいます」
「何をわけの分からないことを・・・・・・。このまま握り潰そうかしら?」
ギュウウウウウウッ! 美琴が掌に力を込める。
「や、やめ、やめて下さいませ。私を殺したら、貴女方は一生そのままですよ?」
あざらしは、苦しげにじたばたともがく。
美琴はその苦しげな様子が、とても愛らしく思えてきた。
「(な、何だろ、この感覚・・・・・・。)」
ふと眼をやれば、足下にはスクラップと化した車の群れがあった。
バイパスでは渋滞が起き、周囲には多くの野次馬が集まって来ている。
何故だろう。こいつらを無性に踏み荒らしてみたい。
「そうです、私の妄想に従うのです。ほら、考えるのをやめましょうよ」
「うぅ・・・・・・これは精神干渉!? 危なかったわ、もう少しで脳内を弄くられるされる所だった」
ハッと我に返る美琴。これが妄想具現化能力(ワイルドファンシー)の威力なのか。
「お姉様」
「黒子!精神を集中して! こいつに心を乗っ取られるわよ!? ・・・・・・黒子?」
振り向く美琴。しかしそこには、足元の野次馬を追い立てる黒子の姿があった。
「ふふっ、こいつら、何てちっぽけな存在なのでしょう?
 キャーキャー喚いて、とっても面白いですわー。
 お姉様、一緒にプチプチしましょうよぉー♪」
彼女の両目は、既に深い狂気に囚われていた。

「黒子さんのハート、確かに頂戴いたしました。さぁ、貴女もご一緒に」
「誰がするかーッ!」
ビリビリビリビリ! 高圧電流が掌に流される。
「あ゙わ゙わ゙わ゙わ゙わ゙わ゙っ」
痺れるあざらし。電光で明滅して、骨が透けて見える。
だが、電力がちょっと強過ぎた。
彼女の放電はゲームセンターを直撃し、アーケードゲームの基盤を瞬時に焼き切った。
行き場を失った電気の奔流が巻き起こり、付近のゲームセンターの電光看板が火花を散らす。
周囲の信号機が一斉に停止。街灯がパリーンと音を立てて破裂する。
「あ、やばっ!」
美琴が気が付いた時には、郊外が交通パニックに陥っていた。

「さぁ、これで貴女方は金芝市を襲う怪獣となりました。存分に暴れて下さいませ。それでは失礼」
あざらしは、美琴の掌からにゅるりと抜け出し、驚くべき素早さでゲームセンターの1階に降りて行った。
「こ、こら待てー! 私たちを元に戻しなさーい!」
1階に向かって手を伸ばそうとする美琴。だが、その指先がピタリと止まる。
「(まずい、1階にはメダルゲーム機がある!
 地方のゲーセンって、結構変わったラインナップだったりするのよね。
 危ない危ない、粉々にするところだったわ)」
胸元に手を置く美琴。気が付けば、傍らに黒子の姿がない。
「あははっ、もっと早く逃げられませんのー? それそれそれーぃ」
彼女は、バイパスに足を踏み入れていた。悲鳴を上げ、車を捨てて逃げ出す人々。
高架道路が粉砕され、軽自動車が、スポーツカーが、トラックが、次々に宙に舞う。
「・・・・・・まずは、黒子を止めなくちゃ」
美琴は駆け出した。ズシン、ズシンと地響きを立てながら。

「黒子、ちょっと我慢するのよ」
美琴は橋を落とそうとしていた黒子を背後から羽交い絞めにし、高圧電流を見舞った。
ビリビリビリッ!
「あんっ、お姉様♪」
色っぽく喘ぐ黒子。普段から変態行為を仕掛けて電撃を受けていた彼女には、耐電能力が備わっていた様である。
とりあえず気絶させようという美琴の試みは失敗した。しかも、それどころか。
「愛してますわ、お姉様~!」
ガバッと抱きついてくる黒子。どうやら、変なスイッチが入ってしまったらしい。
「ちょ、やめ、やめなさい黒子! キャッ」
2人はもつれ合い、道路脇のさびれたホームセンターに向かって倒れる。
店内に普段から客がおらず、店員が様子を見る為に外に出ていたのは不幸中の幸いだった。
「お姉様ん! お姉様ん!」
ぐりぐりぐりっ。美琴の発展途上の胸に、顎を擦り付ける黒子。
その度に、ホームセンターは崩れていく。
「黒子、やめて。壊れちゃうわ」
「何がですかー。お姉様が? それとも、このちっぽけな建物が?」
黒子は悪戯っぽく笑って、ホームセンターに腕をバシバシと叩き付ける。
たちまち、瓦礫の山が出来上がった。
このままではまずい。美琴は空の駐車場にごろんと転がり、コンクリートを陥没させて立ち上がることに成功する。
対する黒子は、愛しのお姉様を困らせる為、もっと建物を破壊しようと考えた。
「黒子ー!」
彼女をもう一度捕らえようとする美琴。だが、その腕は空を切った。
「瞬間移動(テレポート)!? どこに行ったの、黒子!」
「うふふ、ここですわーお姉様♪」
黒子は、5階建てのデパートの上に瞬間移動していた。次の瞬間、重力に導かれて落下する黒子。
巨大な少女の脚が、デパートにドスリと突き刺さる。
「それそれそれぇ!」
黒子は脚を掻き回し、デパートを内側から砕き始めた。
美琴が駆けつけた時には、黒子の脚は壁面を突き破り、デパートを半壊させていた。
周囲から聞こえてくる、小さな悲鳴の数々。
「やめなさい!」
問答無用とばかりにビンタを見舞う美琴。だが、その軌跡は黒子に読まれていた。
更なる瞬間移動。空を切った美琴の掌は、辛うじて残っていた鉄柱を破壊、デパートを崩してしまう。
「あははははっ! これでお姉様も、私と同罪ですわね?」
おかしそうに笑いながら、黒子は付近の工場の上に着地した。
ぐりぐりと靴を動かし、製造ラインからボイラー室、社員食堂までも丁寧に押し潰す。
デパートの残骸を見下ろす美琴。あっけない。実にあっけなかった。
自分の守ろうとしていたものは、こんなにも脆かったのか。
しばし呆然とし・・・・・・我に返る美琴。
「(ダメダメ、こんな所で諦めたら一巻の終わりよ。
  あの能力がある限り、黒子は絶対に捕まえられないわ。ここは、戦法を変えないと!)」
美琴は屈み込み、ぽろぽろと涙を流し始めた。
「ううッ、ごめんなさい・・・・・・。壊しちゃって、ごめんなさいッ」
「あらま、今更良心に目覚めたんですかー? もう手遅れですよー」
ズンズンと足音を立て、黒子が近付いて来る。
「そんなことない! 私、変態でも風紀委員(ジャッジメント)としてスジを通していた黒子が好きだった!
 でも、今のアンタはただのケダモノよ! もう知らない!」
そう言うなり、駆け出す美琴。
「あ・・・・・・待って、お姉様! 誤解ですわ!」
瞬間移動で、黒子は美琴の背中に抱きついて来る。
「(かかった!)」
美琴はすかさず、10億ボルトの電流を放つ。
普段ならば相当集中しなければできない大技だが、今は思ったよりも簡単に出すことができた。
「ひゃぎいいいいいっ!?」
黒子がいくら耐電性能に優れていても、限界はある。このまましばらく寝ていてもらおう。
ドスンッ!
黒子の巨体が、フィットネスクラブの駐車場に倒れ込む。下にあった車の数々はぺちゃんこだろう。
「ん・・・・・・お姉様、行かないで、お姉様・・・・・・」
どうやら、まだ黒子にはまだ意識があるらしい。手足をじたばたさせている。
「(この娘って、黙ってれば結構カワイイのよね)」
美琴はそう言うと、黒子の頭を膝の上に乗せ、そのツインテールを軽く撫でた。
状況が落ち着くまで、しばらくこうしていよう。

「第1機甲部隊、展開完了しました。第2航空部隊も離陸し、上空で旋回に移っております。
 関係者の避難誘導、96%まで終了」
「うむ、ご苦労。で、金田財閥に逆らった愚民共は?」
「はっ。反逆分子は、第7特殊部隊が危険地域内に押し止めています。見せしめの為、威嚇射撃を行いました」
物騒な会話を交わすオペレーターと指揮官。彼らにとって、守るべきは金田財閥の権益であり、金芝市民ではない。
「危険地域内の資産回収率は?」
「現在、65%。現金・貴金属・金庫はあらかた回収済みですが、預金口座の暗証番号解析に手間取っている様です」
「遅いな。急がせろ」
火事場泥棒もお手の物だった。
「攻撃目標は膝枕で沈黙しています。ご命令を」
「包囲が完了し次第、殲滅せよ」
指揮官の眼が、鈍く光った。

ぷすぷすぷす・・・・・・。電撃で焦げた黒子の制服を、美琴の手がなぞる。
何という静かな時間だろう。信州の青い山並みが、不思議な安らぎを与えてくれる。
巨大化しているとは言え、実に豊かなひと時だった。
「ご満悦ですな。そのまま、黒子さんにHなイタズラなどされてもよろしいでしょうに」
脳内に響く、微弱な声。気が付けば、あざらしが瓦礫の上を直立歩行していた。
「探す手間が省けたわね、エロあざらし。黒子は寝ているし、私はあんたの精神干渉になんて負けやしない。
 あんたの野望もここまでよ。さあ、とっとと元に戻しなさい」
「さぁ、それはどうでしょうか? 西の空を御覧なさい」
「空? ん~、あれはジェット機かしら。随分と数がいるわね」
美琴が観測する。あざらしはしれっと答えた。
「あれは、金田財閥の保有する第2航空部隊です。貴女方は、既に金田財閥のターゲットとなっております」
「何ですって? 自前の軍隊まで持ってるだなんて」
驚く美琴をよそに、あざらしの言葉は続く。
「連中は、金芝市を陰で支配する悪党どもです。
 金田財閥に従う住民の避難はほぼ完了していますが、従わない住民は銃で追い立てられ、まだこの近くに残されています。
 また、略奪専門の部隊がグループ外企業や住宅に押し入り、金品を集めている模様です」
「はぁ、何よそれ!?」
驚き、怒る美琴。この街の根底は、そんなに腐っていたのか。
「私の故郷は、金芝市です。これまでも、連中には何度も煮え湯を飲まされて来ました。
 金芝市に住む者として、謹んでお願い申し上げます。どうか、金田財閥を潰して下さい」
そう言って、あざらしは深々と頭を下げた。美琴は唸る。
「まぁ・・・・・・殺さない程度に痛めつけてやってもいいわ。
 その代わり、あんたの願いが叶ったら、私と黒子を元に戻してよね」
「承りました。さて、そろそろ戦車の大群が近付いて来ます。
貴女方は私の妄想で守られており、現代兵器には無敵です。
私は、逃げられないアンチ金田の人々を探しながら退避しますので、美琴さんは派手に暴れて気を引いて下さいませ」
あざらしはそう言うと、一礼してピューッと去っていった。
「派手に、ねぇ。私、怪獣じゃないんだけど」
美琴は、やれやれと言わんばかりに手を広げると、うわ言を呟く黒子を駐車場に寝かせ、立ち上がった。
彼女の視線の先には、道路を埋め尽くす戦車たちがいた。金田財閥の第1機甲部隊に所属する、第4分隊である。

「御坂美琴、立ち上がりました! そのまま第1次包囲網と接触します!」
オペレーターの報告に、指揮官が頷く。
「予想通りだな。これより、砲撃を開始する。だが、奴は超伝導で電磁バリアーくらい張って防御するだろう。
 直接の戦闘は避け、近付かれたら後退しろ」
「了解! それで、電撃への対処は?」
指揮官はニヤリと笑った。
「こんなこともあろうかと、第1次包囲網付近にはマーヤ博士謹製の特大避雷針を設置した。
 あれは、半径1キロの放電を全て吸収してくれる。問題ない」

ばすんっ! ばすんばすんばすんっ!
戦車たちが次々と榴弾砲を発射し、美琴に弾丸の雨を降り注がせる。
だが、もうもうとした砲煙が晴れた時、巨大な超能力者は全くの無傷で現れた。
「ふうん、あいつの妄想って結構立派なのね。超伝導で防御する必要もなかったわ」
ズシンズシンズシン。道路に足跡を刻みながら、美琴は前に進む。
戦車たちは、こぞって後退を始めた。
「逃がしは・・・・・・しないわ!」
電撃を放つ美琴。だが、その奔流はあらぬ方向へ飛んで行った。
見ると、800メートルくらい先に、郊外には不釣合いなほど長い避雷針が建っている。
「アレのせいね。それにしても、よく出来た避雷針だわ。これで電撃は使えない、か」
再び、砲弾が飛んで来る。今度は腹や頭を直撃されたが、美琴はちっとも痛く感じなかった。
「よーし、それじゃあ電撃以外でもてなしてあげようじゃない。おいでおいで~」
美琴は手招きをした。

「御坂美琴に磁場が発生! 周囲の金属類が、彼女に引き寄せられていきます!」
「何だと!? しまった、奴は卓越した電撃使い(エレクトロマスター)だ。その手があったか!」
タワーの監視室で絶叫するオペレーターと指揮官。

美琴は磁力を操り、戦車たちをふわりと宙に浮かせて、自分の掌に集めていく。
周囲にあった自動車や鉄骨も、次々に引き寄せられていく。
「おっと、やり過ぎたかしら」
彼女が磁力を切ると、ドサドサドサッと集められた金属類が足下に転がった。
「さて、お仕置きタイムよ。踏み潰されたくなかったら、とっとと逃げることね。10秒だけ待つわ」
腕を組み、仁王立ちで戦車たちを見下ろす美琴。サディスティックに笑って見せる。
「いーち」
誰も出て来ない。
「にー」
何やら、怒声が聞こえる。
「さーん」
戦車の蓋が、次々に開けられた。
「しー」
中から、小さな兵士たちが這い出てくる。
「ごー」
兵士の1人が、私に銃を撃って抵抗する。効きゃしないっての。
「ろーく」
他の兵士が彼をぶん殴り、肩に抱えて連れて行く。
「なーな」
戦車は全車とも空っぽになった。もういいだろう。
美琴は、50トンを超える戦車をいとも簡単に摘み上げた。
「こうして見ると、食玩のおまけミニチュアみたいねー」
そのまま、ギュッと掌を握る。戦車はくしゃりと潰れ、鉄屑となった。
「あは、潰れちゃった。ミニチュアの方がよっぽど硬いわね」
残骸をポイッと投げ捨て、次の戦車を手に取る美琴。
「・・・・・・そう言えば、お腹が空いたわね。信州に着いてから、何も食べてないわ」
美琴は迷わず、戦車を噛んだ。対戦車ミサイルにも耐え得る重装甲が、無惨にも噛み千切られる。
途端、美琴の口の中に何とも形容しがたい甘くて芳醇な味が広がる。
「何これ? おいしいわ。高級レストランで食べる謎のデザートみたい」
多分、あざらしが味覚まで調整して行ったのだろう。本来ならば鉄と油の味がして、食べられたものではない筈である。
残った戦車を、美琴はパクパクと食べ始めた。
最後の車体を口に含み、舌で転がし、歯で擂り潰す。最後に、残骸を喉の奥へと誘う。
「ふう、腹八分目ってところかしら。・・・・・・やばいわね、これじゃ本当に怪獣だわ」
美琴は再び歩き出す。その先には、金芝市の市街地が広がっていた。

「第1次包囲網、突破されました! 第1機甲部隊第4分隊、全滅です! 12.8mm砲による砲撃、効果なし!
 なお、搭乗員は皆、脱出に成功した模様です」
「馬鹿者! 死ぬまで戦わんか!」
オペレーターからの苦々しい報告に、憤る指揮官。
仮に兵士たちが生き延びたところで、金田財閥は彼らを許さない。一人残らず粛清されるだろう。
そして、式をしていた自分も、恐らくただでは済まない。
「おのれー、学園都市の化け物め! 今に見ていろよ!」
指揮官は呻いた。
監視室の画面には、毅然として市街地に向かって歩く、美琴の姿が映し出していた。

<続く>