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お読みいただく前に
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●当小説は百合(レズ)要素を含みます。っていうかほとんどそれです。そういうのが苦手な方は
ブラウザの戻るボタンでバック・トゥーザ・フューチャーしてください

●当小説は中二じゃないのに中二病臭さが漂っています。そういうのがダメな方は以下略

●巨大娘とある程度戦える、パワーオーバー気味の人間がたまに居ます。ひたすら圧倒的な巨大娘が好きな方には微妙かも

●エロに入るまで長いです

●読みやすくするために行間を1行分空けています。よって文量に対してスクロールバーがやたらと小さくなっています。

●誤字脱字パラダイス。推敲はしてるつもりなのになんでだろう(´・ω・`)

●用法と用量をまもって正しくお使いください

●多分これぐらいでおk あと文句とかあったらスレのほうにお願いします
















「もう一度確認する」

体中に、隙間なく書き込まれた魔方陣や、呪文の類。私はそれが何を意味するか理解できたし、前

もって知ってもいた。

「この魔方陣の導魔力路は、莫大な魔力を持つ龍の心臓につながれている……。この魔力路の広さ

は最初は2mだが、君にたどり着く時には僅か0.01m……つまり」

床に引かれた線が不気味な青白い燐光を放つ。光は蛇のようにうねり、曲がり、私の足元、すぐ傍ま

で忍び寄ってきていた。

「君にあの魔力が到達する段階では、その圧力は元の200倍にもなる……。それだけの魔力を体に

流し込まれれば、当然だが体は急激な拒絶反応を引き起こす。故に今まで成功例がたったの1例し

かない。被験者4千人に対してね」

私は目を上げ、話者を見た。深いフードを被り、顔は見えぬが声からして男性らしいことだけは判っ

た。

「知っています。そして覚悟もできています」

光が、足の指先に達した。

「良い返事だ。それではご武運を……ね」

フードの男はそう言い放って部屋を後にした。残されたのは私と、そして足から魔方陣を伝って段々

と私の体に上ってくる魔力流。

 いいんだ、これで。ここで死ななくっても私はいずれ死ぬんだから。いや、既に1度死んでいたかもし

れない命なのだ。

 私は死んだ母親の腹から取り出された。もちろんそんな記憶があるわけではないけど、母はいない

し、父も親族もいない。戦争で襲撃にあった村で、唯一生き残った少女なのだと、そう言われてきた。

そういうわけで、私は国に引き取られた。もちろん、国のほうは最初から私をこうするつもりで育てて

いたに違いない。拒否権がないわけではなかったが、きっといずれは何かの実験台にされるだろう

し、それに私は国に借りがある。それを返す意味でも、私は自ら、この実験に名乗りを上げた。

 それに、成功例が皆無ではないのだ……。

 そう考えていた、まさにその刹那、私は一瞬意識を手放しかけた。どうにかして持ちこたえると、そ

れに遅れて痛みともつかぬほどの強烈な苦しみが、私を襲った。全身の皮を剥ぎ取られるような、生

きたまま臓腑を食われるような、業火に身を焼かれるような、骨を砕かれるような、脊髄の中に針が

詰まっているかのような、いや、それら全てを遥かに超越した苦しみ。

 意識を手放してしまえば楽になる……。だがそれは死に直結することを意味していた。私はこんな

ところで死ねないのだ。

 心臓が脈打つたびに全身を流れる焼けた鉄。呼吸は侭ならず、欠乏する酸素が私の意識を削り

取っていく。もう……だめだ。心が折れそうになった、その時だった。



 それは不意に終わった。私は一瞬と言う名の永遠から、抜け出すことが出来た。痛みが、遠くなっ

ていく。成功したのだろうか。それとも、これが死ぬということなのだろうか。そんなことを考える間も

なく、考えさせる時間も与えず、私の体は地に伏した。





 無論、私は死んではいなかった。ここで、こうして喋っているのだから当たり前なのだけれど。



「いい加減に起きなさい」

ばっしゃぁっ! 顔に冷たいものを感じ、私は目を覚ました。

「ふぇ……あ、すみません……。私、どうなって……」

と、そこまで言ったところで、私は違和感を覚えた。なんだか空や周りの景色の見え方が違う。

「ふ〜。やっぱり眠っている人間にはメテオやら何やらより、ウォーターキャノンがよく効くと見えて」

私の遥か上空で、そんな台詞を言っているものがいた。まだはっきりしない意識でどうにかこうにか

焦点を合わせると、それはあのフードの男だった。

「なんでわざわざそんな遠くから、それも水大砲で狙い打つんですか……。冷たかったです」

私は手をつき、身を起した。すると景色は90度回転し、私はその男と向き合った。



 ……向き合った? 


 確か彼は私の遥か上空にいたはず。身を起しただけで何故それと向き合うことが出来るのか

……。



「おめでとう。君は成功例第2号だ。実に素晴らしい」

彼が言って、私はようやく理解できた。どうやら私は、例の魔術に耐え、そして成功を収めたらしい。

「……本当に……本当に大きくなってる……」

私は、辺りを見回して改めて驚いた。一面に広がるモミの森は私から見れば草むらに過ぎず、遠くそ

びえる山脈ですら小高い丘のように見えた。

「今の君の身長は実に147m。ある程度の巨大化、縮小は任意で行えるだろうが、とりあえず初期値

である100倍だな」

彼は空中を歩いてきて私の肩に乗った。

「暫らくは俺が君の傍でサポーターを勤めることになる。名前は柳田 賢。よろしく頼む」

私はなんだか色々と違和感があった。まぁ当たり前と言えば当たり前なのだが。特に人間が自分の

肩に乗っているというのは。

「あ……私はアカリです。名乗るほどの姓はありません。よろしくお願いします」

なんだろう。いざ兵器になってみると、それらしい立ち振る舞いと言うのは全く持って出来なかった。

あれこれとスピーチ内容を考えておきながら、演壇に立つと全く喋れなくなるあれと同じ原理なのだ

ろう。

「あの……あとそれから……」

私はある事実に気がつき、そしてそれを解消するべく口を開いた。

「何か着るものはありませんか……?」







「そうだったな。服の手配をしよう。まぁ、君の先輩にあたる娘のお下がりでいいだろう」

そういって彼は姿を消した。きっとどこかにテレポートしたのだろう。しかしどうやって持ってくるつもり

だろうか。物体の巨大化や縮小には相当な技術とエネルギーが必要になるのに。

「ただいま」

数秒もしないうちに、彼は私の頭の上に戻ってきた。

「それで……どんなのがもらえるんですか?」

私は頭上の彼を捕まえて、顔の高さまで持ってきた。

「今来るからちょっと待ちなさい」

彼は私の手からするりと抜け出た。

「来る……? 宅急便ですか?」

「まさか。でもまぁ届けてもらうと言う意味では……大体合ってる」

彼がそういったその数瞬後だ。私はなんとなく彼の言葉の意味を理解した。

 遠くの山に、一つの人影が現れた。それは段々とこちらに近づいてくる。もちろん、人間ではない。

おそらく私と同じ大きさのもの。

 近づくにつれて、地響きや、足元の木々が踏みしだかれる音が聞こえてきた。両腕一杯に、洋服ら

しき布が抱えられているのも視認できる。ただ、まだいまいちどんな服なのかはよく見えない。

「私、大きくなって目が悪くなったかもしれません……」

私は賢に言った。

「んや、それでいいんだ。空気中の湿度や塵のせいだよ。距離は実際に100倍になってるわけだから
ね」

なるほど、私は100倍になったけど、空気の透明度は100倍にはならないから、実質私にとって100分

の1の透明度となってるわけか。

「こんにちはぁ〜。この子がその子ですね?」

そうこうしているうちに、彼女は私の目の前まで来ていた。彼女が身につけていたのは国家魔法師

団の使う下着と、袖。袖と下着の間に入る筈の衣が無い。それから黒いミニスカート。そしてちょっと

おしゃれな青いサンダル。かなりの軽装だが、寒くないのだろうか。脇が出てるし。

「あ、はい……」

私はしっかり座り直して彼女の顔を見上げた。まず視界に入ったのは、流れる大滝のような、青く艶

やかな髪であった。首、肩、背中……そして腰にまで至るそれはこの世のどんな滝よりも美しく、そし

て優雅であった。陽光をつかまえてキラキラと輝く彼女の髪は、水の流れ落ちるだけの滝とは比べ物

にならない。高空を吹き抜ける風に優雅に散るその様は、髪とは思えないほどの美しさ。喩えるのな

らサファイアの大河。いや、それですら見劣るほど。

 均衡の取れた顔立ちに、ルビーよりも澄んだ、紅い目が二つ。健康的な赤みのさした頬とともに、

私に微笑みかけていた。

「可愛い子! 何を着ても似合っちゃいそう!」

突然、彼女は両手に抱えた洋服を投げ出して私に抱きついた。私はあまりに突然の事で、対応する

ことが出来ず、そのまま後ろに倒れこんだ。それも、座っていたため、柔軟体操のような妙な格好で。

 盛大な地響きと木々の断末魔がほぼ同時に響き渡り、それに少し遅れて突風と砂煙が巻き起こっ

た。その風で更に周囲の木々が面白いように薙ぎ倒されていく。中には根こそぎ飛んでいってしまっ

たものまであったようだ。

「あわわわわわ……なななな、何するんですか!」

私はどうにかして彼女を押し戻そうとしたが、手が動かない……いや、体の自由が利かない。不動金

縛りだ……。

「そうね〜。あれよ、新入りへの洗礼!」

彼女の顔が近づいてくる。少々荒い息づかいが間近に感じられるどに彼女の顔が迫ってきたその瞬

間だった。

「はい、そこまで〜!」

ヒュルルルルル……ガッ!


上空から何かが落っこちてきて彼女の頭に直撃した。

「はうっ! ……いった〜い!」

彼女は身を起こし、自分の頭をさすった。同時に私の体の自由も戻ったらしく、それに少し遅れて私

も起き上がる。

「はい、あなたは今日何をしに来たんですか?」

賢の声だ。一連のやり取りのなかで潰してしまったかと思ったが、そんなに鈍くはなかったようであ

る。

「え〜ん! だからって頭にメテオはないですよぅ!」

メテオ……。指定した地点に隕石を召喚する。数ある魔法の中でも、強力な部類に分類される攻撃

魔法だ。習得自体がそもそも困難な上、使用にはライセンスが必要なほどの魔法である。

 相手は死n(ry

 それがまさか、ツッコミに使われるとは。

「そうしないとお前止まらないだろ。いいからこの子……アカリに服を分けてあげてくれ」

そうだ、自己紹介を忘れていた。

「わ……私はアカリと申します。出身は国立中央孤児院です……よろしくお願いします」

私は軽く礼をした。

「私は渚! 出身はルナシティ孤児院。よろしくね!」

彼女は私の手をとった。はじける様な笑顔。……やっぱり綺麗だ。いや、可愛いって感じに近いか

も。

 って……何を考えてるの私は! 私は女の子なの! そういうのはダメっ……。

 と、自分を一喝する。

「それで、どんな服が好き?」

と訊かれて、はっと我に返る。

「えっと……贅沢は言わないので……適当なものを」

 私はすぐにこの一言を後悔することとなった。理由は簡単。この後数刻に渡って、私は渚さんの着

せ替え人形状態となったのだから。

 もっとも、身長160メートル近い着せ替え人形なんて、この世のどこを探しても見つからないだろうけ

ど。


「はい、それじゃぁ次はこの組み合わせで……」

夕暮れ時。太陽は遥か彼方の尾根に沈み、その残光の片鱗が空を鮮やかな紫色に染め上げる。

「あの……そろそろ暗くなってきましたし……」

私はちょっと遠慮気味に言った。折角服を分けてもらえるというのだから、強い言い方は出来ないの

だ。

「そうだね……それじゃ、これで一旦停戦にしようか」

「あ……私これでいいです」

私は慌てて言った。明日もこれとか、気が滅入るからもう止めて……。

「そう……? もうちょっと考えてみてもいいんじゃ……。うん、でも確かに似合ってるよ」

何故気が滅入るのか。それは単純な話……。

「サイズが合わない……」

主に胸元。渚さんのほうが私より一回り大きい。嫉ましい嫉ましい死ぬほど嫉ましい……ってほどで

もないけど。なんか悔しい。

「大丈夫! すぐ大きくなるって!」

渚さんの一言がさくっと刺さる。

「……標準だもん」

なんだか悲しくなってきた。もうかえりたい帰るところないけど。




 とりあえず、私は白のシャツに赤と黒のチェックの入ったスカートを貰った。胸元が開いているのは

仕様……ってことにしておく。


「でさ。今日は日も暮れちゃったし、私ここで寝ることにする」

渚さんはそういって私の隣に座り込んだ。なぎ倒された木々が丁度いいクッションのようになってい

る。

「え……? あ、はいっ!」

私はさっきのこともあって、不安でならなかったのだけれど。

「どうぞ! どうぞ……ゆっくりしていってね!」

断ることは出来なかった。基本的に、Noと言えない性質なのである。と、その時であった。

「アカリ、聞こえるか……?」

耳元で賢の声がした。

「あ、はい」

私が答えると。

「返事はいい。ただちょっと情報を与えておきたいだけだ」

彼は私の耳たぶに腰掛けているらしい。

「あの渚って子は、今から2年前に巨大化に成功してる。あんたと同じ戦災孤児だ。ただ、彼女が居

た孤児院は男女別学……」

私はなんとなく状況が飲み込めてきた。

「つまり、彼女は生まれてこの方、ずっと女だけの中で暮らしてきた……。寝食、勉学、その他諸々。

何が言いたいか……わかるな?」

寝食、勉学……エトセトラ。そのエトセトラの部分に『恋愛』が含まれていると、彼はそう言いたい訳

か。

「まぁ、戦闘に支障がないようにな」

彼はそれだけ言い残してどこかに飛び去ってしまった。

「賢から忠告を受けてたね?」

渚さんはそれを見逃しはしなかったようである。

「え……いやぁ、その、忠告ってほどあれなもんじゃないです……」

私がしどろもどろ答えると、彼女は意味深な笑みを浮かべた。

「なるほど……それで彼はなんて?」

なんと答えればいいか……。2秒ほど、脳みそをフル回転させたが……嘘の苦手な私には無理な話

だった。正直者じゃぁないよ、嘘をついてもすぐばれるだけで……。

 私はいよいよ回答に困り。

「その……戦闘に支障がないようにと」

と、その部分だけ答えたが。

「なるほどね……。彼は私に忠告しなかった。そういうことをさせたくなければ私に釘を刺すのが一番

なのに……」

あ、これフラグだ。私は観念した。

「つまり彼は、黙認した!」

ここで、何を!? とか聞いてしまうほど私も馬鹿ではない。

「……とりあえず、寝ることにしませんか?」

私は彼女の発言には答えず、適当に切り出した。

「うぅん、寝るのはまだ早いかな」

彼女は私の手をつかんだ。

 当然、私はビクッとしてその手を引こうとしたのだが。

「ちょっと話したいから、座って」

彼女の言葉を信頼して、座ることにした。

 木って言うのは、枝葉があるものだから思いのほか柔らかく、座り心地はなかなかのものだ。東の

空をふと見上げると、夜の帳が空を覆っていくところだった。

「さっきはびっくりさせてゴメンね……」

渚さんが口を開いた。

「……びっくりしましたよ、本当に」

私は率直な感想を漏らした。

「私さ、おっきくなってから、ずっと一人だったんだ……」

彼女は私の腕を抱いた。温かい胸が私の腕をそっと包み込む。

「……寂しかったんですね」

私は、さっき彼女に手を握られた時、反射的に引っ込めようとした自分を後悔した。賢の忠告は、彼

女の境遇を考えてやれと、そういう意味だったのかもしれない。

「うん、それで飛びついたりして……ごめん。私は普通じゃないから」

普通ではない。それは彼女の恋愛対象のことを示しているのだと、それは分かった。でも、なんと声

をかけていいのかが、分からない……。

「あなたのせいじゃないですよ……」

私はとりあえず、そう言った。

「貴女が普通で、私が普通じゃないことを承知で……言うけどさ」

彼女はそこで言葉を切った。何が来るか、見え透いたようなものだったけれど。

「うぅん、やっぱりなんでもない」

彼女はそういって下を向いてしまった。その横顔が、どうにも切なくて、寂しそうで。私はどうにかして

彼女を励ましたいと、そう思った。

 2年もの間。孤独に耐え忍んできた。ようやっと、自分と同じ大きさの人間に会えた。そんな彼女の

心境を、踏みにじる気には、なれなかったのである。

「言ってください……。傍にいるのに、壁があっては意味がありません」

勿論、私が何を言ったか、自分でも分かっている。でも、なんだろう。情に流されちゃったっていうの

かな。

「……ありがとう。でも」

「いいんです。このままじゃ、私も一人だ……」

そう、ここで彼女を受け入れなければ、きっと私も孤独に苦しむことになるのだ。

「それじゃぁ……。あのさ、その……私と付き合ってくれないかな」








——魔導戦争——
プロローグ 了