春、まだ来ず
 


 日差しは強くても、吹く風の冷たさにその恩恵は受けられない季節。
服を着込まねば、まだまだ寒風に体力を削がれてしまう、そんなある日の朝。
俺は強制参加のゲームのプレイヤーとして、街の中心地の公園に立っていた。
この地方の17歳になる男子は、この逃れられない宿命を生き抜かねばならない。
何も殺されるという訳ではない、このゲームを心待ちにしている者もいる位だ。
このゲームを忌むべきか、受け入れられるかは、あくまでも主観の相違で片付けられがちだ。
俺にとっては、喜んで受け容れられる物ではない事は確かだった。

 この国は一度死んだ。
いろいろな事件事故、環境変化、自然災害、疫病、等々でこの国の人口は4分の1にまで減った。
中央は早々にスラム化し、地方の独立、運営によってこの国は分割され統治されてゆく。
それぞれがネットワークを保ちながら、巨大な壁に隔てられ人々の行き来は制限された。
地方の分割も一部において行われた、俺達の住む地域は関東から切り離されて東北の一部と組み合わされた。
終の日から60年、この地方が最も変化が激しく、他の地方も違った形で変化が進んでいる。
各地方は自治の元、独自のルールに従って運営されていた、そしてそれは素晴らしいほどに巧く行っている。
そしてそれが強者の理論に成り立っている上で、という事を知っておかねばならない。

 この街の公園は大きい。
町の中心部、5km四方のスクエアパークには、広い芝生公園と様々な木々の林、公共施設がある。
全体的に見渡しは良く、市民の憩いの場所だ、もう少し暖かくなれば桜なども咲きはじめる。
俺が無事に一人でいるならば、その時にやり遂げたい昔からの一つの想いがある。
それを実現する為にも、今日のこのゲームに負ける訳には行かないのだ。
年に一度のこのゲームも、20数回目になる、俺は小さい頃からこのゲームを見続けてきた。
このゲームには全く勝ち目がない訳ではない、実際に今迄でも逃げ切った者はいるのだ。

 公園の中心部には巨大モニターが設置されている。
そのモニターには、今現在の情報が完璧に映し出されている。
参加総数とこの場にいる参加者、3524/3357 167人足りないがそいつらは逃げたか動けないかだ。
捕獲者の人数は174人、各自20のタグを持ってフィールド外周にスタンバイ済みだ。
タグの総数から俺達を引けば44の残数が出る、今現在逃げ切れるであろう人数という事だ。
167から36が引かれた、こいつ等は病気か怪我で、本当に動けない人数だ、131の屑共は逃げた奴らだ。
どこに逃げようと、GPSで追跡されているのだ、捕まるのは時間の問題だった。
まあ、これも毎年の恒例行事で0なんて一回もなかった。

 開始30分前、巨大モニターにナンバーと共に131人の男が映った。
次の瞬間、捕獲者のナンバーがどんどんと男達の顔の上に浮かび上がる。
ものぐさな捕獲者は、逃亡者に投票で自分のタグを埋めて行く、これが済むまで次のシークエンスに進まない。
あっという間に男達の顔が消えて、2Dマップに切り替わる、今度はこの公園の外までを含む大きな範囲でだ。
街を飛び出して、郊外の部分にまで及んでいる、一辺がほぼ40kmの正方形、その外周に174の光点が輝いている。
この場所から20km以上の位置、俺達が必死で向かって何とか時間内に辿り着ける場所。
捕獲者から見て、たった20分で乗り込めるこの場所、でも奴らはそんな無粋なことはしない。

 奴らは心の底からこのゲームを楽しむ。
年に一度、一生に一度のこのゲームを心待ちにしていたのだ。
弱者である俺達は、捕獲者のルールに従って逃げ回るだけしか出来ない。
反撃も可能だし、倒せるなら倒してしまっても良い、但し、そんな事をすればそれ相応の結果が待っている。
事実を述べるなら、反撃して勝てる見込み等は無い、弄ばれる以前の問題なのだ。
このゲームの中に、アイテムと称される物が配置されている。
それは甘い罠なのだ、武器系と補助系、2種類あるがどちらも使いこなす事は難しい。

 武器等は特に強力な物が多い。
日本刀、長巻、斧、薙刀、俺達にとって恐ろしく強いイメージのある物ばかりだ。
当然、中には武道の経験者もいる、それを持つ事で百人力を得る者も少なくは無い。
そしてそれが大きな罠なのだ、捕獲者の餌食になりに行く為の。
武器を手に入れたなら、そのまま何処かに姿を隠す方が無難なのだ、最後の1秒にその武器を使えば道があるかもしれない。
但しそこまで逃げ切れば、の話である。

 補助系のアイテムこそに、チャンスは隠されていると俺は考える。
強力とりもち弾、高輝度発光弾、光学迷彩布、範囲限定催涙弾、煙幕弾、暴徒鎮圧用ゴム銃。
どれも現行の自警団の装備だ、自治部達が自警団に装備させている装備をそのまま与えている。
要は装備の使用期限が終わった物の廃棄利用ということだ、その上で自治部に一揆を仕掛ける無駄さを教える為でもある。
捕獲者は未来の自治部の候補生でもあるから、今このゲームで敵わない物が自治部へ通用する訳が無いという事なのだ。
その驕りの中にこそ、道を切り開くチャンスを見出そうとしていた。

 開始まで後20分、08:40、そして終了まで後3時間20分。
たった3時間の間を逃げ切ればいい、それを遂げた奴らはこの20数年で48人もいるのだ。
ただ20万人近い捕獲者の中でという事も忘れてはいけない、昔は参加者も多くどんどんと減少している。
ここ10年では4000人を越える人数になった事は無い、そしてここ10年、逃げ切った者もいないのが事実だった。
俺はその10年の記録を打ち破ってやる、この後も続くであろうこのゲームに希望を与えてやる。
そして俺の悲願も同時に達成してやるつもりであった。

 人口の減少は大きな変革をもたらせる。
男女の比率も大きく変わった、およそ30:1、自分の好きな女は29人のライバルを倒して手に入れなければならない。
知能で、体力で、ライバル達に差をつけなくてはならないのだ。
今日のゲームを勝ち抜くことで俺が他の男達と違う所を認めさせたい、唯それだけなのだ、それは俺の自己満足でしかない。
彼女は俺を選んでくれる、それは間違いの無い事実、昨日も俺に約束をしてくれた。
彼女も、彼女の母親も俺を支持してくれている、俺はそれに甘んじることも出来る。
俺の小さな野望を叶える為にも、このゲームを生き残って見せる。

 開始まで15分、モニターにアイテムの位置が映し出される。
10個の武器と、8個の補助アイテム、それぞれの詳しい種類まではわからない、その場に辿り着いて手にするしかない。
左腕のウェアラブルモニターに同じ情報がある事を確認し、現在地からの経路を調べておく。
武器は無視して補助アイテムに絞って調べる、武器を手にしても使いこなせるとは思えない。
何しろ捕獲者との力量差を埋めるに値しないのだ、奴らにとって武装しようが獲物は獲物それ以上には成り得ない。
少しでもチャンスを増やすには、相手から逃げるのに役立つ物が欲しい。
俺の選択肢はそれ以外には無い。

 後10分、今度は捕獲者に与えられるアイテムの発表だ。
追加タグ169枚、範囲限定レーダー*3、個人特定レーダー*2、11:50~11:55限定全データ公開権*174、厳しい。
11:30以降にこの公園のこの場所で先着順に渡されるアイテムだ、範囲限定は100m四方、個人特定は全範囲だ。
11:50~11:55限定なのは、フィールドに残った獲物を虱潰しにする為であって、その前にほぼ終わっている前提なのだ。
捕獲者達は自分たちで決まり事の様な物を持っている、それはいつの間にか定着していた。
捕獲者が一気に俺達を狙って突っ込んできたなら、昼間でなんて持ちはしない。
奴等はゲームを楽しみ盛り上げる為に、自分達に枷を付ける様な物なのだ、そして俺はそこを付く。
残念ながら俺には奴らの油断を突くしか勝ち目はないのだ。

 5分前、緊張感にブルっている。
こんな馬鹿げたゲームに残りの人生を、当然の様に賭けなくてはいけないのが口惜しい。
今更そんな事を考えても意味は無いのは十分承知しているが、大声で叫びだしたい気持ちに駆られる。
武道の心得のありそうな奴等が武器のアイコンに最も近い場所へとスタンバイしだす。
総勢で30名程か、この時点で競争率は3倍だ、誰も引こうとせずに各々が思う方向を睨みつけている。
武器がありそうな場所は、空き地や農園等、障害物はなく見通しのよさそうな場所ばかりだ。
対してアイテムは、住宅地や市街地、公共施設付近が多い、俺の狙いは市街地にある。
直線距離で8km、身を隠しながら1時間といった所か。

 左腕のウェアラブルモニターよりファンファーレが流れ出した。
ゲームは遂に開始された、モニターに目をやると捕獲者の光点がゆっくりと動きだした。
それはゆっくりと、174の光点が左に渦を描くように中心に少しずつ近寄ってくる。
武器のアイコンはアイテムより遠く10km地点に点在している、既に30数人が全力でそちらに真っ直ぐ向かっていた。
各アイテムを目指す3~4個の光点が、外側を大回りする光点と変わらぬ速度であるのに寒気を感じていた。
俺達の必死は奴等の遊び半分と比較するに丁度いい物でしかなかった。
ひょっとすれば奴等にとっては、本気になる部分など無いのかもしれない、障害物など関係なく等速で移動していた。

 ゲーム開始から45分、俺はまだ集合地点でモニターを見詰めていた。
捕獲者の光点はゆっくりと輪を閉じながら中心部へと迫ってきている、誰一人輪を崩さずにゆっくりと確実に。
30数人の猛者達は必死の思いで武器のアイコンを目指している、早い者はすぐ傍にまで近づいていた。
武器のアイコンを挟んで、俺達側と捕獲者側がじりじりと距離を詰める、武器に辿り着いた者とその周囲、光点が固まる。
外周30kmの光点の輪が武器の光点と重なり合った時、獲物の反撃と捕獲者の執行が行われる。
170m置きに並んだ光点は、一切のぶれや遅滞などを起こさずに武器のアイコンに重なり、アイコンを消失させる。
それは武器の破壊を意味し、その周辺の獲物の光点はオレンジからグリーンへと変わった。
鎧袖一触、全ては一瞬に決着していた、捕獲されればグリーンに表示されるのだ。

 捕獲者は10人程が30数枚のタグを使っただけだった。
武器は全て破壊され、アイコンの表示は消えてしまった、そろそろ俺の出発の時間が迫ってきた。
とある市街地、アイテムを目指してゆっくりと進む、ウェアラブルモニターには目標のアイテムのみが光っていた。
捕獲者の速度と自分の速度を計算し、雑木林にその接点を合わせる様に進んだ。
出発からほぼ35分で捕獲者の輪の上にかかる筈だ、捕獲者の間隔は100m程、開けた場所では即発見される。
アイテムの場所を決める上でも、この雑木林を利用する為に選んだのだ。
捕獲者は一定速度の決め事の他に、幾つかの縛りも持っている、俺はそれをも利用した。

 捕獲者は自分の前方60mまでを自由に動く、これは事が終わればすぐに戻る事になっている。
後一つ、自分の後方20mを越えると戻る事は出来ない、この二つの縛りが俺のこのルートを決めたのだ。
今この場所には、見つかっていても安全な20mの地帯がある、しかも雑木林の中視界は万全ではない。
ここを凌げれば、捕獲者は一旦中央の集合地点でアイテムを受け取るまでは外周には動かない、これが最後の縛りだった。
とにかく俺はこの場所を乗り切ってアイテムへと向かって行った。
アイテムは元あった位置から動いてはいたが、破壊は免れていたし残数もあるようだった。
これによって光学迷彩布ではない事が分かった、それならば接触時に破かれているだろうからだ。

 慌ててスタートした奴等はアイテムを手に捕獲されていた。
タグ付きの奴等が数人、中央の方へと連行されて行った、アイテムはすぐ傍にある、高輝度発光弾だ。
俺はそれを拾い上げてホルダーの中身を確認した、4発中3発が残っている、ビルの外壁を見渡せば7階の壁が焦げていた。
多分必死になって投げ付けたのだろう、軽く弾き上げられて効果も上げられないまま捕獲された姿が瞼に浮かんだ。
相手に投げ付ければかわされて終りか、弾かれてしまう、自分のすぐ後方、相手の届かぬ位置で発光させて光に紛れるしかない。
とは言え捕獲者を目前にして、そこまで冷静に慣れるか、ははなはだ疑問ではあった。

 11:30、残り30分だ俺は外周に向かって必死になって走り続けていた。
中心から15km地点辺り、もうこれ以上は走れない程に疲れていた、貧弱に思われるかもしれない。
平坦な真っ直ぐの道を走っていた訳じゃないとだけは言っておこう、捕獲者とはスペックが違うのだ。
奴等は今頃アイテムを受け取り、この後の方針をモニターを見て確認しているだろう。
俺たちの光点は既に映ってはいないが、中にはレーダー持ちもいる。
奴等が本気になれば範囲を20分で横断する、30分の残り時間は十分すぎるのだ。
俺にとっての30分は外周にも届かないのだが、奴等は俺を追い越した後、外周まで戻りその後に戻ってくる事も出来る。
174人が虱潰しに探せば、俺達に隠れる場所などありはしないという事なのだ。

 20分を掛けて外周に近い市街地へと俺は逃げ込んでいた。
ウェアラブルモニターには捕獲者の残数と、俺たちの残数が表わされている。
早々にタグを使い切った捕獲者はカウンターから消え、タグを付けられた者がぐんぐんと数を減らせて行く。
追加のタグのおかげで安全圏などは既に無い、全員が捕獲対象だ、俺の周囲には4人程が残っている。
各自は一定の距離にあり固まってはいない、もし固まっていれば一瞬で終わるからだ。
お互いの思いが交差し、等間隔に潜んでいた、その間にも数はどんどんと減ってゆく。
捕獲者側のデータ表示が変わった、もともとあったタグは全てが使い切られたのだ。
後は追加タグの分で、捕獲者の数もかなり減っていた。

 こうなると俺達は気が少し楽になる、捕獲者に余裕が生まれたからだ。
絶対に捕まえる必要の無い人数へと俺達は生き延びたという事だからだ。
とは言え、最後までは気が抜けない、時刻は11:55、後5分、モニターの権利も終了した。
後は範囲指定レーダーと、個人限定レーダーだ、この二つを使っているならば、既に捕獲も終了しているだろう。
いざとなれば高輝度発光弾を使ってでも逃げ切ればいい、残りは5分を切っているのだ。
ウェアラブルモニターの俺達の残数を見たときに俺は凍りついた、残り4人。
つまりこの場にいる俺達だけであった。

 じりじりと過ぎる時間、1秒が1時間にも感じる。
残り3分、周囲の物音一つ聞き逃す事はない、町は無音であった、通り抜ける風の音すらうるさい程に。
ザリ、その音に反応し俺は飛び出した、3つの路地の間、俺の動きに遅れて捕獲者の影が見えた。
路地の入り口近くに隠れていた男が慌ててこちらに走ってくる、俺はその男がこちらを向いた瞬間に発光弾を焚いていた。
男はまともに発光弾の光を見てその場にうずくまった、すまん、俺は心で詫びながら他の路地へと走りこむ。
捕獲者にそいつが捕まっているであろう事を想像し、違う男の方へと走って行った。

 しかし俺の想像は軽く裏切られて行った。
男を飛び越して捕獲者が俺の後を走って来る、足音でそれが分かる、そしてどんどんと間が詰まってくる。
俺の走る遥か前方に、別の男が姿を現した、捕獲者の姿を確認したのか驚きに顔が引きつっている。
俺は2発目の発光弾に点火して、その男のギリ傍で発光弾を焚いてやった、光が俺たちを飲み込む。
男は目が眩み、よろよろと路地を抜けんとよろめき逃げてゆく、俺は踵を返し捕獲者の足元を抜け反対側に走り抜ける。
捕獲者の目にはどう映っただろうか? 俺の姿が男にすり変わる様に巧くいっただろうか。
捕獲者は俺を見失い、よろめく男の後を確かに追った、しかし次の瞬間手元を見ると、俺の方へと振り返ったのだ。

 残り時間も2分とない、捕獲者の目も2度の閃光に若干の疲れがある様だ俺を追いかける姿に最初の精彩はない。
後1発、後一人のダミー、巧く使えば逃げ切れる可能性が高くなった。
俺は最後の男が隠れる方へと必死で走っていた、捕獲者は俺の後を追いつつもよろけている。
少し可哀相にも感じたが、俺の人生がかかっているのだ是が非でも逃げ切りたい、その気持ちが俺を非情にする。
俺は男のすぐ傍にまで走り、最後の発光弾を焚いた、そして俺は男の手を引っ張って捕獲者に向けて突き飛ばした。
俺はそのままその路地を駆け抜けて街の中に走り出した。

 捕獲者はきっちりと俺の押し出した男を捕まえた。
だが、次の瞬間、その男を後ろに投げ捨てて俺の方に全速で突っ込んでくる。
眩い光の中で瞬時に俺と男の違いを読み取り、躊躇無く俺の後を追い終了20秒前に俺にタグを掛けていた。
ウェアラブルモニターに俺達の残数は無かった、さっきの3人も確実にタグを掛けられていたのだ。
そんな余裕がある様には見えなかったのだが、それこそが捕獲者とのスペックの違いといってよかった。
俺を掴み上げる腕のウェアラブルモニターからファンファーレが鳴り響く。
そして俺の腕のウェアラブルモニターからは終了を知らせるサイレンが鳴っていた。

 「もう、明君逃げすぎ、もうちょっとで逃げ切られる所だったよ」
絵里美が少しふくれっつらで俺に語りかける、俺は逃げ切る気満々だったのだ。
「目がチカチカするよ、こんなに苦労したの多分あたしだけだよ」
それは少し誇らしげな表情でもあった。
「俺としては逃げ切った上で…」
「あー、あたしに恥じかかせる気だったんだね、酷いんだ明君」
「逃げ切った上でお前に交際を申し込みたかったんだ!」
「無理だよぅ、そんなの、他の子に捕まってないか、はらはらしたんだからね」

 ヴァレンタインイベント、女子が男を捕まえる事で自分のステディとするのが慣わしになっていた。
身長で4倍、体力で10倍以上の差がある女子は本命以外にも20人近いペットを捕まえるのだ。
人気のある男は多くの女子の的になり、それこそ命がけで逃げ回る。
下手に不興を買う男はペット以下の存在として、無残な余生を過ごす。
俺は元々絵里美との仲を約束はされていたが、他の女子に捕まればそれも無駄となる。
そして俺としては男の威厳を保ちたいと、このゲームを逃げ切りたかったのだ。
絵里美がまさか個人特定レーダーまで使ってくるとは考えてはいなかった。

 「俺はお前に自慢の男と思って貰いたかったんだがな…」
俺は絵里美の腕に抱きしめられながらポソリと言った。
「そんな事思ってたんだ、でも明君十分凄いよ、反則紛いのアイテム無ければ捕まえられなかったんだよ」
それは本当に嬉しそうに、本当に尊敬する様に言っていた。
「それでも… 捕まっちまったんだよな… 実にあっさりと」
「うふふ、そうだね、明君はあたしの物、今日からず~っと一緒だよ」
「ところで、あの場に何で4人居るとわかってタグを残してたんだ?」
「倫子と愛美が一緒に来てたんだよ、愛美、範囲指定レーダー持ってたし、タグも追加分が3つあったしね」
「そうか、完全に絵里美の手の平の上での事だったのか…」
絵里美は大きな手で俺の頭を撫でながらニコニコと笑っていた。