キーンコーンカーンコーン・・・

授業終わりのチャイムが鳴る。教室の窓側に座っていた少女は筆入れや教科書をスクールバッグに投げ込み、すぐに教室を出ようとする。

「エミルー、今日このあと暇ー?暇なら買い物付き合ってくれない?」
「ごめんシィ、今日は用事があるんだ・・・また今度ね!」

友人のシィに声をかけられ、バツの悪そうな顔をして断るエミルはそそくさと教室から出て行く。そして誰にも話しかけられないように、いかにも急いでいる様子で玄関へと向かう。

学校の靴箱の前で今日一日履いた上履きを脱ぎ始める。
「今日のために1週間履き続けたんだもんね♪」
そう言うエミルのニーソックスは見ただけで臭いが漂ってきそうな黄色に染まっていた。彼女自身は自分の臭いにあまり執着しない様子で、上機嫌で靴箱からローファーを取り出し、そこへしなやかな足を運ぶ。

ローファーに履き替えるとエミルはかばんを手に持ち校門へ向かう。校門と言っても門の外には道路はなく、だだっ広い空き地があるだけである。彼女は校門の前で膝を曲げて思い切り地面を蹴りジャンプをした。すると体が重力から解き放たれ、ぐんぐんと地上から離れていく。青空が見えるのも最初のうちだけで周りは徐々に黒い空間へと姿を変える。

この黒くて何もない空間はおなじみ「宇宙」である。彼女たちは宇宙を自由に移動して各施設へと赴く。各施設はほぼ星と一体化されている。例えば、今までいた学校は星1つがまるごと学校施設になっていて、学校の敷地だけで構成されている。星1つにつき学校は6つあって、学校同士は大体5分くらい歩けば辿り着ける。つまり、15分も歩けば簡単に星を1周できてしまう。彼女たちに比べて星がとても小さいので、ジャンプしただけで宇宙へと簡単に出ることができるのだ。星にはいろいろな種類があり、他には住宅が集まる星、繁華街が存在する星、企業ビルが立ち並ぶ星などがある。

エミルは宇宙に飛び出した後、自分の家のある星とは違う方向へ移動する。それどころか、どの星にも目をくれることなくある方向に向けて突き進む。しばらく進むと青、白、緑、黄など数色に彩られた星が見えてきた。
「すごい・・・宝石みたい・・・」
つい感嘆を漏らす。大きさは彼女の顔と同じくらいだろうか。
「私の足すら収まらないなんて、なんてかわいい星・・・」

宇宙に存在する星には様々な生物が住んでいる。自然体系の保護目的もあり、いわゆる強い生命体が弱い生命体を絶滅させないために、他種族のいる星の周りには結界が張ってある。しかし、その結界も強い生命体なら容易にすり抜けられてしまう。そういうわけでエミルはただ突き進むだけで結界を軽々と越えてきたのであった。


エミルは顔を近づけて星を観察する。星は大きく陸と海に分かれており、目立った生物は陸地に生息しているようだ。彼女は陸に自分たちが住んでいる建物と同じ構造の建築物が無数に広がっていることに感動し、さらに顔を近づける。
「私たちが住んでる街とほとんど一緒・・・家とかビルとかも同じなのかな?」

しばらく観察していると、建物から小さなヒト型の生物が複数出てきてこちらを見上げた。この建築物を利用している生物は自分たちと同じ人型であり、相対的な大きさのみが異なるという事実にエミルはなんともいえない感情が湧き出てくる。彼女は焦る気持ちを抑え、人々に声をかける。

「こんにちは、小人の皆さん。私の名前はエミル。ふふっ、今日はこの星で遊ぼうと思って来たのよ♪まずは、私のご挨拶ね♡」

すうううううううううううぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

おもいっきり吸ったその息は、星に存在する空気だけではなく、地上に存在する建物、乗り物、動物、生物、もちろん小人まであらゆるものを一緒に彼女の口に引きつける。

人々は彼女のことを見上げながら急激に重力から解き放たれ、しまいには彼女の呼吸の凄まじい風圧によって空中で体が爆散してしまう。血肉と化したあとも呼吸に抗えるはずもなく、エミルのふくよかなピンク色の唇のルージュとして彩られるか、口内で唾液と一体化してしまうかの二択であった。

建物は最初こそ強烈な突風に耐えていたが、鉛直上向きの力に耐性がほとんどないビルや家は5秒と持たずに人々と同じ運命を辿った。空中で割れた窓から家具や書類、人々が全て投げ出され、風圧でズタズタにされてしまう。強力な耐震性を誇っているビルもたった一人の少女の呼吸によって、いともたやすく彼女へと引き寄せられ、肌や口内に衝突して崩れ落ちた。

深呼吸で吸った息は彼女の口内へと取り込まれる。しかし、すぐさま彼女は口を開き、次なる行動に出る。

ふううううううううううううううぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

すぼめた口から放たれた吐息が地上にたどり着くと、地面を穿ち一瞬にして深さ1000mものクレーターを生成する。その吐息は四方八方に広がり、規則正しく並んだ民家やビルをなぎ払いながら、人々を風に乗せて体を切り裂き、進んでいく。自然現象である竜巻や台風を遥かに超えた風力をもつそれは殺戮劇を引き起こした後、やがて収まる。

「ふふっ、私は呼吸をしただけなのに・・・♪国家が少女の息で滅びるなんて恥ずかしくないのかしら。まぁ、これはまだ挨拶代わりなんだけど♡」

彼女はスクールバッグを放り投げ、人々がいる星を左右から両手でがっしりと掴む。星の3分の1を覆い隠した巨大な手は表面に存在するあらゆるものを押しつぶした。左手に潰されてしまった地方は高度な文明を持つ国家であり、地上だけでなく地下市街も発展していたが、一瞬にして地下2000mにまで到達した巨大な壁に何もかも押しつぶされ、その歴史は幕を閉じた。

星を固定したエミルは、次の「遊び場」がないか探す。彼女が目をつけたのはこの星でもっとも大きな湖だった。大きいと言ってもエミルの指の爪ほどの大きさである。有名な観光地になっているらしく、湖の付近にはホテルや企業ビルが立ち並び、少し離れたところに中核都市が見える。彼女はにやっと笑うと湖に自らの口を近づける。

「小人の皆さん、洪水警報よ♪これからこの湖が私の唾液で決壊しちゃうから溺れたくなかったら今すぐ逃げなさい♪」

彼女は官能的な表情をしながら口から唾液をゆっくりと垂らす。唾液は湖のかさを急激に上げ、数秒もせずに流れだし、秒速100kmというありえない速度で放射状に広がっていく。液体でありながら触れただけで建築物や生物、山岳地帯をたやすく崩壊させる暴力性。それが一介の少女の唾液という事実に人々が気づく前に、彼らは赤の塊と化していた。

湖から程よい距離に栄えていた中核都市も、暴力的な速さで流れてくる唾液になすすべもなく削られていく。都市内で最も高い観光ビルも唾液の高さには到底叶わず、触れただけで根本から折れ、そのまま流されていく。郊外にある飛行場から飛び立とうとしていた旅客機も滑走中に後ろからとてつもない速度で襲ってくる唾液に飲み込まれ、機内にいた数100人は酸素を取り入れることができずに窒息死してしまう。数秒もしないうちに、国内有数の一都市が粘り気のある液体の海に変わってしまった。

「くすくす♪唾液だけでこの地域は更地ね。せっかく私が忠告してあげたのに、すぐに逃げない小人さんたちが悪いのよ・・・♪」

数十万人を殺害したエミルは残虐的な笑みをこぼした。


星をくるくると回しながら面白そうな地域を探す。次はどこで小人さんたちと遊ぼうかな。そう考えるエミルはなるべく人々が多くいそうな場所を模索する。しばらく探した後に見つけ出したのは広大な軍事基地であった。その特性上、周辺に街は見当たらないが、戦車や戦闘機、砲台やミサイル台等、人類の叡智の結晶が詰まった兵器が目に入る。

「面白そうな遊び道具じゃない♪」

地上にいた兵隊は、突然空が暗くなって正体不明の肌色の壁が表れたことに驚きを示し、即座に攻撃の準備をする。訓練された兵隊は、非常に素早い動きで配置につく。

「小人にしては高度な技術を使った兵器ね。でも・・・それで私の攻撃に耐えられる?」

エミルのその言葉を合図に人々は謎の壁に向かって攻撃を行う。空一面に広がる強大な固体に不安を覚えながら砲弾やミサイルを一斉に解き放つ。この星に住むあらゆる生物なら数秒も持つはずのない攻撃。激しい煙に包まれた少女の顔。しかし、煙が晴れるとそこにあったのは傷どころか汚れすらついていない少女のきれいな肌だった。

エミルにとって見れば、小人が必死に攻撃している姿は確認できるが、弾やミサイルが肌に当たった感触は全く感じられず、本当に全力を出しているのかと疑っていた。

「あまりに私が地表から遠いから、攻撃が弱まってるのかな」

彼女は自分から攻撃を当たりにいくように地上に顔をぐいっと近づけた。ただでさえ暗かった空が、少女の顔だけで完全に埋まってしまう。

「チャンスをあげる。こんな目の前にか弱い女の子の顔があるんだから、さすがの小人さんも傷くらいはつけられるわよね?」

近い。約1000m上空にその壊すべき壁は存在した。兵士たちは先ほどと同じように全力を尽くして砲弾やミサイルを撃ち放つ。少女の顔が近いので、なるべく急所となるべく目を狙っていく。兵士たちは自分たちがこの怪物を倒すと信じ、目の前の敵に向かって弾を撃ち込む。

「ふふ、全然ダメね♡」

人間の弱点である目は、目の前に存在するとてつもなく巨大な少女にとっては全く通用していなかった。すべての攻撃は角膜に弾き飛ばされ、致命の一撃に至ることは一切なかった。

「さて、と・・・」

くちゅくちゅ・・・

エミルは口の中をもぐもぐと動かし始め、唾液を溜める。

「じゃあ、次は私の攻撃ね♪上手に防げると良いわね」

彼女は少し地上から顔を遠ざけると、口をすぼめて

ペッ

軍事基地に向けてツバを吐き出した。少女が吐いたツバは径500kmの弾として地上へ襲いかかる。発射されてから2,3秒も経たないうちに地上にたどり着いた少女の唾液は基地を中心に深さ3000mほどのクレーターを作った。人々と兵器は地面と少女の唾液に強力な力で押しつぶされ、それぞれミンチとスクラップと化し、そのまま地下まで押し込まれた。つい5分前まで軍事基地だった場所は一瞬で少女の成分だけの湖になってしまった。

「女の子のツバで全滅だなんて、悔しくないの?・・・ってもう全員死んじゃったか♪」

エミルは笑いながらそう言うと、その周辺の目立つ都市にペッペッと追加の3発のツバを撃ち込み、次々と滅ぼして行った。巨大な少女と目があった人々は、にやりとした不気味な笑顔を見て咄嗟にその視界から離れようとしたが、直後に放たれた透明な巨大砲弾に圧縮され、骨まで粉々になってしまった。



「さて、これから小人の皆さんにはエミルの特製サウナへご招待♡」

エミルは顔を星から離してそう言うと、右足の先に手を伸ばし自分のローファーを脱いだ。彼女の黄色のニーソックスが姿を現し、まるでニーソックスの先から黄色の毒ガスが噴出しているかのように耐え難い汚臭が放たれていた。彼女はためらいもなく自分の靴下の口をぐわっと開き、その星を飲み込むように近づけた。

「女の子が1週間履いたニーソックスに住んでる星ごと包み込まれるなんて、幸せな小人さんね...♡」

しゅるしゅるとソックスに容易に入って行くその星は、表面がソックスの内側に触れるたびに地面が削れ、全生物の生息地が少しずつ着実に奪われて行く。一番臭いの濃いニーソックスの最奥地に星が到達した頃にはすでに人々の総人口は実に20%にまで減っていた。

エミルが1週間履き続けたソックスはエミルが思っていたより強烈な香りを漂わせていた。少女が毎日分泌する汗をメインに、ローファー内のホコリやゴミの混ざった悪臭が漂う。むわむわと蒸れた空気を生み出す少女の靴下は星全体の湿度と温度を上昇させる。たった一人の少女の靴下の中で、多くの人々はあまりの悪臭に肺や脳が麻痺し、気絶や絶命する者が後をたたなかった。しかし、かろうじて形を保っている建物や密閉された地下にいた者はほとんど影響を受けないでいた。建築物の壁や床、天井が臭いを遮断してくれていたからだ。

「くすくす...私の香りはどう?とってもいい臭いでしょ?これからもっともーっと良い香りを嗅がせてあげるからね...♡」

そういうとエミルは自分が履いているパンツに両手をかけ、下に降ろし秘部をあらわにする。宇宙のど真ん中でパンツを下ろすなんて露出狂のようでドキドキしてくる。彼女は頰を紅潮させながら、ソックスの入り口を自分のお尻の穴にみっちりとくっつける。

「女の子のフェロモンたっぷりの香り、堪能して♡」

しゅうううううううううううううぅぅぅぅうぅぅっぅっぅっぅぅっっっぅっぅっっっぅう...........................

エミルのお尻から放たれたのは、非常に濃い毒ガスであった。その大量に放たれた毒ガスは、星独自の空気を追い出してその星を完全に支配してしまう。その香りはニーソックスに染み付いていた香りの何千倍も濃く、直接嗅いだ人々を即死させただけならず、地上に存在する植物も呼吸による酸素取り込みの代わりに彼女の毒ガスを取り込み、一瞬で枯らしてしまう。

あまりに濃いその毒ガスは建物の外側から床や壁に侵食し、どろっどろに溶かす。人々を悪臭から守っていた建物も、少女の1発の特濃すかしっぺによりすべて溶解し、中にいる人々を悪臭で包み込む。都市地帯に存在する道路のコンクリートも容易に溶かし、人々が生成した建築物は地球上から消失した。少女のあまりに強い毒性のガスで即死した人々も、そのガスの溶解作用で自然に還る者までいた。

「ふぅ...♡おもいっきりすかすの気持ちよかったぁ...♡もうみんな私のおならで死んじゃったかなぁ♪」

自分がスッキリするためだけに生命の豊かな一つの星を滅ぼしたという背徳的な事実に興奮してしまう。

「じゃ、最後にお掃除しないとね」

エミルは生命が完全に滅んだ星をソックスに入れたまま、右足を靴下に差し込む。足指が星に着地した後、ソックスを手前にぎゅっと引っ張ると靴下の底と足から強烈な圧力がかかり、一瞬で粉々に砕けてしまう。その後、再度右足を引き抜き、靴下を裏返すと粉状になった星がどっかへ吹き飛んでいってしまった。

「遊べて楽しかったよ♪ありがとね」

そういうと汚れてしまった右靴下をその場に置いて、エミルは帰路につくのだった。