真っ暗な空間、どこなのかいつなのかもわからない狭間のよう
な曖昧なところに居たような気がする。意識も記憶も怪しいよう
で時間感覚すらおかしくなったのだろう。このままでは何も始ま
りもしないし終わりもしない。かといって何かが起こるわけでも
なく変わるわけでもなく、漂っているだけだったかもしれない。
 変化があったのはどれだけ経ってからか……もはや自分に関す
るあらゆる事象の因果関係すら意味を失う頃合いだったのだろう。
切り取られたかのようにそこに何かがあった。誰かがいた。よく
思い出せないが知っているような大事な人だった。

*それは少女のようだ*

「おぉ、勇者よ。死んでしまうとは情けない」

 金髪でどこか幼気な様子を感じさせる少女が開口一番でこう言
った。そうか自分は勇者だったのか……何かが間違っている気が
するがいまいち否定もできない。どう答えればいいかと悩んでも
声は出なかった。そうだ、この真っ暗な空間に自身が溶け込んで
いて一体化していたのだろう。つまり体がないのだから喋れない
のだ。

「大丈夫だよ。なんとなく勇者様の考えてることは伝わるから」

 考えていることと少女は言った。なんとなく考えるということ
を思い出した。体がない……死にたくない。何かを間違ったよう
な……やりなおしたい。目の前の可愛い少女が気になる……一緒
にいたい。意味もなく願ってしまった。3つも望んでしまった。
 女神でもあるまいししょうもないことだろう。叶うはずもない
と否定しかけたが、少女はどこからか杖を取り出し3度振った。

「さすれば祝福を与えましょう。さすれば呪いを与えましょう」

 唐突に神々しいような雰囲気を醸し出しながら真面目そうに少
女は語る。意識の中に蘇った願望が形を得るのだろうか。光に包
み込まれて世界が色を得始める。頭の中に自分の情報が急激に構
成されていくかのようだった。キャラシートという概念だったよ
うな何かだったか、実際に少女が契約書のような書面を作成して
いた。まるで意味がわからない、概念すら崩壊したらしい。

「設定はこうしよう。そうしてこうして勇者様とわたしが今度こ
そいちゃいちゃできるようにして、えへへ」

 少女は悦に浸って甘い声で呟いている。生殺与奪権を握られて
いると察した。自分からすると神格化されそうな相手でもあった
が、同時に何故か愛おしくも感じる。可愛いという考えが彫り込
まれてただけだろうか、もしくは運命の出会いのように一目惚れ
したか。捏造された運命かもしれないが病的な執着すら少女から
漂う。

「小さくて弱くて頼りなくて、わたしから一人で離れていけない
ようにしちゃおっかな?勇者様はわたしのもの、でも消滅しちゃ
ったらダメね。間をとって可愛らしい妖精さんにしてあげる」

 少女の甘い声を聞いているだけでも頭が溶けそうだ。あたま。
そうだ、気がついたら頭があった。体もちゃんと人型だ。でも少
女を足元から見上げるような身長差だ。これでは人形と変わらな
い。少女が白くて純潔そうなワンピースを着ていたと気づく。光
と色を得た世界で少女をより具体的に認識できるようになったら
しい。創造主にも等しい力で自分は今、生成されたようだった。

「飛ぶのも禁止、でもまったく飛べないと簡単に踏まれたり蹴ら
れたりしちゃうもんね。羽はちゃんとついてるけど飛行用じゃな
くて、あくまで移動の補助ということにしよう。鳥さんでも飛ぶ
のが苦手だったりする子がいるもんね」

 自分を生み出した少女が微笑みながらゆっくり歩いて近づいて
くる。足音がドシンドシンと感じた。ただ歩いているだけなのに
存在感がまるで違う。恐怖で身をすくめて動けなかった。眼の前
にブーツが落ちてきた。自分の体を簡単に跳ね飛ばせそうな重量
差、衝撃で尻餅をつく。

「一番ちっちゃい大きさにしてあげたよ。普通の人間の十分の一
ぐらい、10cmぐらいかな。わたしは160cmでちょっぴり
背が高い女の子。なのにブーツ以下だもんね、今のうちに少し特
訓をしないと死に続けちゃうかなぁ」

 少女は何か怖いことを言いながら片足を持ち上げる。足元で動
けない自分がいるのにだ。故意に何をしようとしているか明白だ
った。女神様と心の底から叫んだ。慈悲を情けをと懇願したが声
が震えていてよく聞こえなかったかもしれない。

「声が小さくても意識も感覚もわたしには全部わかるから大丈夫
だよ。でもね、これから戻る世界はとっても過酷なの。だから勇
者様にはハンデですら乗り越えれるくらいに鍛えてもらわないと
いけないの」

 言っていることが滅茶苦茶だった。なら最初から最強で無敵で
誰にでも勝てるように作って欲しい。不満が勢いよく募ってくる
が、自分を見下ろす少女の顔はとても悲しそうでもあった。して
あげたいけどできないんだよ……と、どこか諦めのような泣きそ
うな表情。そんな顔を見られたくないのか、スカートの真下に勇
者様と呼んでいる存在を隠した。
 少女の綺麗な下着が天上に輝く。美しく長い肌色の柱が繋がり
をもち、勇者を粉砕しようとするブーツへと伸びている。自分は
生まれてすぐに死ぬのだろう。動けずに、ただ少女の中の空間に
収まり続ける。そのまま一体化でもしてしまいたかった。靴底が
無慈悲に降りる。何の抵抗もなく自分は踏み抜かれた。苦しまな
いように一思いに思いっきり足をおろしたのだろう。

*勇者は少女の足でミンチにされた*

「勇者様のざぁこ。女の子の足からも逃げられないなんて、そん
なにわたしに見惚れちゃたの?」

 少女は確かに勇者様を踏み殺したと思う。甘い声で煽られ続け
てどうしてかドキドキしてしまう。死んだはずなのに体がぺちゃ
んこになったはずなのに意識はまだある。ドシンドシンと歩き続
けているであろう音、上下への急激な浮遊感。足裏にミンチのま
ま張り付いているのだろうか。ぐしゃりぐしゃりと潰され続ける
感覚がいつまで続いたかも覚えていないが、ふと高所から落ちて
きて地面に落下したようなところで体が蘇生していたと理解した。

「転生特典その1、不死身にも近い超再生能力があるよ。何があ
っても死なないなら最強で無敵だから大丈夫。でも代わりに感情
とか突発的に体が不安定になっちゃうから、抑え込むのに元が小
さくなっちゃうのは仕方ないの」

 少女は無邪気に明るく振り舞っている。狂気的で事実を認識し
たくないかのようだ。勇者様を何度も無惨に踏み殺した後なの
に、大したことがない扱いである。恐怖というのは常軌を逸した
ら慣れるのだろうか。だんだんと自分もおかしくなってきた。可
愛らしく愛らしい少女の足でブーツで潰されて、殺され続けたと
いう事実を認識しなくなり記憶から消した。忘れるようになり誤
認するようになった。これは訓練だから仕方ない。
 久しぶりの新しい体の動きに慣れるように、少女との追いかけ
っこは続く。自分の種族は妖精らしい。人型で羽も生えているが
身体はお人形サイズで小さい、10cmぐらい。体が小さいぶん
体重も軽い、そのわりには動くための出力のような力のようなも
のはそこそこある。羽も移動の補助として加速装置や起動転換に
姿勢安定化と役立つらしい。結果として高速で機敏に動けるとい
うわけだ。長時間の飛行としては身体構造が出来ていないので、
勢いで飛び移るぐらいだろう。
 死なないというか死んでもいずれ肉体が蘇生するという都合上
か、わりと少女の自分への扱いは乱暴だったかもしれない。でも
この体に慣れるためには必要事項だったのだろう。足裏に張り付
いたまま行方不明も最悪あり得るのだから。

「がんばったね、勇者様えらいえらい」

 少女の動きが止まり訓練の終了が告げられる。今度は屈んでゆ
っくりとこちらに手を伸ばしてくるようだった。目の前に手のひ
らが置かれて乗ってほしそうに、少し照れくさそうに顔を赤らめ
ている。緩急の差が激しいなと面食らう。暴力の化身で横暴だと
思った矢先でこれだ。ギャップのようなものと、純粋そうな雰囲
気に飲まれてしまった。
 ぴょんと少女の手の上に飛び乗ると、大事そうに抱えられる。
小人から見ると視界の急転換に驚く限りだが、少女の見ている景
色がその目線がものすごく高く感じられた。胸の中の柔らかさと
暖かさと高なる鼓動に、子供にかえったかのようだ。自分は少女
に生み出された子供だろうか。それ以前にあったであろう存在や
意味は失って形骸化したのだから、少女の子供でいいじゃないか。

「わたしの子供になりたいの?勇者様ってば可愛いね、大好き」

 過去にどうであったかよりも、今の既成事実のほうが幸せかも
しれない。体を作り変えられたのか生み出されたのかも定かでは
ないが、不安定なのであれば何にでもなってもいいだろう。超再
生が能力なのか超変化が能力なのか、それは呪いにも等しく場合
により祝福にも変わる。

「転生特典その2、可愛い女の子を仲間にできるよ。精神をちょ
めちょめして契約とか繋がるみたいなので、意識と感覚とか伝わ
っちゃうけどある程度は許してね?」

 少女が可愛らしく不穏なことを言っていたが聞き流すことにす
る。つまり勇者様と自分を慕って暴力と慈愛で蹂躙してくる可愛
らしくも恐ろしいこの少女が仲間になりたそうにしているわけだ。
ちなみに拒否権はもちろんない。断ったらどうなるだろうと、う
っすら頭の中で思ってみる。少女の胸の中に抱かれている自分へ
の腕の力が強まる……やっぱり怖い。興奮している戦闘中は忘れ
るものの、不意打ちはやはりダメだ。

「えへへ、ほーらおっぱいだよ。なんちゃって?」

 少女が悪戯っぽく勇者様を抱き抱える腕を強めたり弱めたりで
グニグニと体を胸に押し付けてくる。小人視点ではおっきいぐら
いしかわからないのだが、少なくとも貧乳ではないと思われる。
普通の基準もわからないのでなんともいえないが。
 勇者様で遊んだりするのが悪戯するのが好きそうなお茶目な部
分もどこか愛らしかった。暴力とか理不尽も混ざりそうな気はす
るが、本気でイヤだと思ったら流石にやめてはくれるはず。

「転生特典その3、時空操作能力を得る。ただし暴発とか魂の消
耗とか制約はあるというか……うん、勇者様がこうなっちゃった
原因でもあるんだけど回復には時間がかかるよ?」

 力は制御できれば能力ともいえ祝福に満たされるだろう。しか
し扱いきれない場合ではその限りではない。要するに呪いにもな
るという裏表の関係かもしれない。
 転生特典とお茶目に言っている少女の言葉はどこまで本当なの
だろう。勇者様と呼ばれている自分の名も埋もれてしまったのだ
ろうか。これから戻る世界と言っていた意味は何なのだろう。そ
もそもどうしてこんな場所にまで少女がやってこれたのか謎ばか
りだが、考えることが面倒だからそういう設定と流したのか。

「転生と勇者って言葉は便利だよね、うん」

 腑に落ちないが細かいことを突っ込むと始まらないのである。
時空操作をリスクなしでやれるなら何でもありだろう。あるいは
人間が身の程を知らずに神の領域に挑んだ末路なのかもしれない。
 困った時はたくさんいる神々の祝福だとか権能だとか特権だと
か言っておけばそれっぽいだろう。速度が光を超えてオーバーフ
ロウする不具合や、世界のバグのようなエラーのような出来事だ
って起こらないとも限らないのだから。
 チートにも近いインチキのような能力の対価としては体が小さ
い程度は大したことがないような気もしてきた。ただ、どうやっ
てここから抜け出せばいいのだろう。

「んっ……私の体の一部になってくれたら、たぶん帰還とかの魔
法で?」

 モジモジしながら少女は言う。甘えたそうに切なそうにしてい
る様子だが直接求めるのには抵抗があるらしい。体の一部にな
る……少女に食べられる気配が漂ってきた。

「えっち……してもいいよね」

 少女は勇者様を抱きかかえていた体勢から鷲掴みするように片
手で握りしめる。自分がどれだけもがいてもびくともしない。速
ささえあれば結果的にそれなりの力を得られるとしても、初動を
潰されてがっちり動けないようにされれば無力なのだろう。
 犯される……可愛らしい愛おしいはずの少女にやられる。優し
そうな雰囲気なのにやってることはすごく恐ろしい。これが10
倍の体格差なんだろうか。やっぱり大きさとかによる力の差は重
さから何までマズイかもしれない。大したことなんてぜんぜんあ
る。

「勇者様が調子に乗って余裕ぶってるからいけないんだよ」

 数字では10倍なんてたいした差に感じないかもしれないが、
全身が女の子の可愛らしい綺麗な手で簡単に握りしめられている。
手だけで余裕でひねり潰せるんだ。足場がない浮いた感覚も、ひ
たすら揺れ動く視界も、至近距離になるほど壁と見紛う体の差も。
何もかもが数字以上の主観視点ではこんなに変わるんだという恐
怖だ。

「ねぇ、巨人さんはとぉーっても強くて怖いんだからね。勇者様
の足だって小枝みたいにこうやってポキってしちゃえるの」

 ほんとうにあっさりだった。少女はもう片方の手で勇者の足を
摘んだかと思うと指先を少し動かしただけでへし折った。あらぬ
方向に簡単に曲がった。激痛自体はさきほどミンチにされ過ぎた
ので慣れたのかもしれない。少女に体を滅茶苦茶にされることに
どうしてか興奮する。命の危機を性的欲求と勘違いしているのか。
死ぬ間際だから脳がそうさせるのか。単純に少女にイジメられた
り、おもちゃにされるのが好きなんだろうか。スキンシップなの
かすらわからなくなってくる。あぁ、これからどうされてしまう
んだろう。

「動けなくなっちゃったら、少し大きいだけの虫さんみたい。勇
者様は本当は強いけど、でも虫さんみたいに弱いんだよ。そんな
ところも大好きだから、いっぱい遊んでもいいよね」

 少女は大事そうに足を潰されて動けなくなった勇者様を床に置
く。その真上に立ちスカートの中に収めるように、まるで自らの
巨大さを誇示するかのように酔いしれている様子だった。

「くすくす、天上の下着。天上の下着だなんておパンツが遥か彼
方で物足りないかな。おしりとかおまたとか、男の子だったらや
っぱり好きだもんね。うん、勇者様にたっぷり食らわせてあげる」

 よいしょと可愛らしい声で女の子座りをするようだった。腰を
わざとらしくゆっくりと降ろしていく。女性特有の丸みを帯びた
膨らみだ。虫けらにはもったいないぐらいの圧巻する光景だった。
肉付きの良さそうな柔らかくて健康そうな太ももの裏、下から見
るお尻の巨大さ。同じぐらいの大きさだったのなら何気ないあざ
とい仕草だったろうに。それが床にいる自分を敷き潰すんだ。

「ん……よっこいしょ。ぺったんぺったん、ずりずり。好きな女
の子の大好きな部分でミンチにされて蘇生してまたミンチにされ
て。勇者様ってばえっちでいけないんだー」

 潰れる時は簡単に潰れる。こんなにも脆い体か。こんな虫けら
みたいに小さい自分をミンチにして少女は楽しんでいるのか。喘
ぎ声を我慢しながらもまるで手応えのない勇者の体の上の腰を激
しく上下しているのだ。これじゃ自分だけのご褒美のような気す
らしてきた。頭も理性も女の子の体でふにゃふにゃにされてしま
った。
 少女は乗ってきたのか、今度はうつ伏せになって勇者がいる場
所に股間を叩きつける。すでに液状化して原型も留めていないの
にだ。すり鉢にかけられたよりも酷い有様で骨すら残さない勢い
でお尻で全部粉々にしたのにまだ足りないらしい。

「液体になってもまだ足りないの。そのままわたしの中に染み込
んで一緒になって滅茶苦茶になって食べてしまいたい。ねっ、お
いでよ。勇者様の帰る場所はここだよ」

 濡れていた。体じゃなく精神で感じていた。こんな液体になっ
てしまった血溜まりにすぎない勇者だ。それでも少女は愛しい人
を蹂躙する背徳感に酔い痴れているのだろうか。もはや肉体を超
えて精神で性的行為をしているのか、自慰に過ぎないのか判別で
きない。
 股で擦るように、下着で全部拭き取るように勇者を吸収してい
く。転変地位のようにえっちな部分を叩きつけられ、愛液の濁流
に飲み込まれ、存在を取り込まれ食べられていく。

「潰れちゃえ潰れちゃえ、もっと小さくなって潰れちゃえ」

 下着の中に巨大な穴のような門が暗くブラックホールのように
時空を歪めている。蘇生途中で不完成なせいか、より小さな分子
のようになった自分は引力に逆らえなかった。膣に呑み込まれる。
 暖かく溶ける、自分が溶けていく。指が入ってくる全部かき混
ぜられる。地震のように揺れ続ける、ときおり物凄い高圧でプレ
スされ深くへと押し込まれていく。潰れると引き裂かれると溶け
ると分解されると自分は滅茶苦茶にされた。少女の快楽の巻き添
えになるだけで、巨人の行為を直に受けるだけでこうなる。なん
て弱くて儚いのだろう。何度も少女の膣の中で死に続け生き続け
奥へと進んでいく。
 魂の消耗という意味がわかったかもしれない。能力というのは
都合よく無尽蔵ではないのだ。蘇生するごとに何かの力を消費し
ていき、だんだんと存在すら食らわれていき小さくなっていくと
したらどうか。最小単位まで勇者様を小さくして分解しなければ、
元の世界へと持って帰れなかったのだろう。

「元の世界に戻ったらわたしが産み直してあげるから、おやすみ」

 おっきくてまるい何かが自分に腕を伸ばして向かってきた。抵
抗せずに受け入れる。中へと優しく包み込んでくれた。あぁ、暖
かい安心して眠くなっていく。再び暗闇が世界を覆う。
 次に目覚める世界まで、次の冒険までの一休みを……