オフロード冒険記2:
エンパイア・シリーズ
ゲイター 作
笛地静恵 訳



 すぐに彼は、自分が広大なコンクリートの平原にいることに気が付いていた。まるで砂漠のようだった。何マイルも、何マイルも、周囲に果てしがないようにして灰色の荒野が続いていた。だいたい、奇妙なことがある。彼は、どのようにして、このような場所まで、連れてこられたのだろうか?何の記憶もなかった。

                 *

 そんなことを思い悩んでいると、二隻の石油タンカーほどもある、二本の巨大な素足が、彼の方に接近してくるではないか!空は、彼の新しい女友達の姿で、いっぱいに占領されてしまっていた。彼女は大股で彼の方に、急速に接近してくるのだった。すぐに全世界が、悪夢のように揺れていた。地面そのものが波のように、上がったり下がったりを、繰り返すようになっていた。

                 *

 彼は、まるで雨に濡れた煙草の吸い殻のようにして、ハンドルにへばりついていた。無慈悲に、揺さ振られていた。頭部を車の天井に、何度もぶつけていた。命懸けで、ハンドルに両手でしがみついていた。シート=ベルトを安全に着用するまで、この拷問は続いていた。

                 *

 いきなり風防が、再度、開いてしまった。巨大な人間の手のような物体が、花の平原の表面に、彼を誘っていた。小さな街ほどの面積がある、ベッド・カヴァーの上だった。あの生地の柄に間違いなかった。

                 *

 クラッチを踏み込んでいた。四輪駆動のタイヤを回転させていった。いったい、いかなる異様な世界に、自分が連れてこられたのか分かったような気がした。

                 *

 「もし、あたしの声が聞こえたら。ヘッドライトを点滅させてちょうだい」 
 彼女の巨大な声が轟いた。周囲の空間を見回していた。後方を見ることが出来る車内のミラーに、二本の素肌の太ももが見えた。それも、核弾頭を発射できる、大陸間弾道弾のミサイルさえ収容できる、サイロぐらいの直径があった。ベッドの端から、頭上にどこまでも高く聳えていた。

                 *

 彼はスイッチを操作して、ライトを点灯させては消すという作業を、数回繰り返した。
「いいわ」
 彼女の答えはそれだけだった。

                 *

 壮大な脱衣を続けていた。全裸になるとすぐに、車ごと巨大な手で捕まれていた。超巨大な顔の正面に、持ち上げられていった。瞳の中心部分だけでも、四輪駆動の『ハム5号』のボンネットよりも広大な面積があった。彼女は爪だけでも、その一本一本が、サーフボードぐらいの面積があった。車の窓を、前後左右から取り囲んでいた。

                 *

「これでも、あなたは、まだ私のことが、お好きかしら?」

 彼女の瞳が、彼を正面から凝視していた。しかし、表情が読めるわけではなかった。彼の顔は、彼女の視力では、表情が判別できないほどに、小さくなっていたのだった。

「イエスならば、ライトを点滅させてちょうだい」

 そう要求していた。彼は実際に、まだ彼女のことが好きだったし、この状況で彼女を怒らすのは、どう考えても得策ではなかった。再びライトを点滅させていた。

                 *

 「いいわ」
 彼女は再び、そうとだけ答えていた。彼女の瞳の中に、自動車のライトの光が、星のようにまたたいていた。
「これが、あなたへの最初の贈り物よ」
 彼女は爪の上に乗った、宝石のようにちっぽけな物体を落とさないようにして、慎重に性器にまで下降させていった。

                 *

 大きなピンクの皺の寄った丘は、その姿を完全に顕わにして見せていた。つい最近、彼女が無駄毛を完全に処理していたからである。タイヤがその場所の表面に接地した瞬間から、ジョシュはブレーキを、全力で踏んでいなければならなかった。急傾斜の斜面を車体が滑落しそうになったからである。

                 *

 彼の乗った車の慌てぶりを眺めながら、ダイナは、ゆっくりとベッドの枕に背中を付けて身を横たえていった。お尻の下に枕を宛がっていた。高くなるようにしていた。彼女自身が、より快適に、彼の置かれた性器の場所の全景を、観察できるようにしたのである。

                 *

 ジョシュの方は、命懸けだった。ひとりの女の肉体という山の移動による大変動に挑んでいた。彼女の何トンも、何トンもの重量のある胴体の肉の重みが、静止するまでである。濡れたように艶かしく光っている、左右に聳えているピンクの襞襞を見上げていた。複雑な褶曲のある肉の崖だった。

                 *

 四輪駆動車で、彼女のクリトリスを弾丸のように走破して見せてやると、意気込んでいた。いきなり、彼は上空に、彼女のいわゆる「携帯カメラ」が登場するのを見たのである。

「それじゃ、あそびましょ!」

 彼女は、彼にもう一度、縮小光線を照射した。光から物理的な衝撃を受けて、四駆の車体は振動していた。彼は悲鳴を上げていた。いきなりだった。クリトリスは、スピード競技場の目印のような丸い土の隆起ではなかった。そうではなくて一個の威容を誇る丘のような、天然の地形のように見えていた。四輪駆動車であっても、2メートル半の高さのある丘に登るためには、相当な努力を必要とするだろう。そう判断していた。

                 *

 彼女の爪が、今では5メートルの幅を持つ物体に、変化していることにも、恐怖心を覚えていた。それは、彼の正面の上空に静止していた。巨大な重機のショベルのようだった。圧倒的な力を秘めて君臨していた。この頑丈な車も、その威力の前では、ひどくちっぽけな存在に過ぎなかった。

                 *

 しかも、いきなり、三度目の光線の照射を受けていた。まだやるのか!そう思った。絶叫していた。周囲の皮膚が、まったく整地もされてない荒野のような地形に、変化を遂げていたからである。剃られた後の毛根さえ、巨大な貯水塔のサイズを持って、あちらこちらに聳えていた。

                 *

 今では彼女の爪は、怪物のような幅を持っていた。18メートルはあるだろうか。そんな恐怖の存在になっていた。まるでビルディング一個が、彼とミニチュアの『ハム−V号』の頭上の空中に、浮遊しているような光景だった。

                 *

 彼は緊張のあまり、両手を小刻みにふるわせながらも、ハンドルを握り締めて、車を前方に発進させていた。進行を開始していた。彼女のクリトリスは、もはや丘でさえありえなかった。周囲に、いくつもの谷や尾根を刻み込んだ、一個の雄大な山に変身を遂げていた。その表面は、風雨にさらされた大自然そのもののような、荒々しい表情を見せていた。

                 *

 彼は、その上を運転していった。あちこちでタイヤは溝に埋まり、流れにスリップをしていった。車輪の下の地面は、どこもかしこも、悪路の連続だった。エンジンは、粘着質の液体に濡れた地面の上で、進行を続けるために、苛酷な闘争を継続して強いられていた。運転を続けていくにつれて、液体の粘着性が徐々に強まっていくようだった。

                 *


 彼がクリトリスの山の斜面を、滑りながら下りていく間にも、球形の液体が脇を通過していった。女の愛液が、雪崩のように殺到して来た。巻き込まれていた。大量の浸水によって、広大な運河が出来ていた。大陰唇に生じた裂け目に向かって、流れ下っていった。

                 *

 彼の両側に、次第に巨大な山脈の生み出す壁のように、陰唇が聳えていった。彼は侵攻を開始していた。もしプッシーのジュースの襲来によって、内部に滴り落ちてしまったとする。無抵抗に、このまま液体と同じ方向に侵攻するのであれば、おそらく彼女の尻の肛門の穴にまで、転落していく運命だろう。そして彼女の臀部の裂け目の間に、押し潰されてしまうことだろう。特に、彼女が彼のことを見失って、探そうとして身体を動かした場合に、その可能性が強かった。

                 *

 今では運命を伴にすることになった愛車とともに、冒険の旅路へと向かっていた。戦いを開始していた。四個のタイヤは、さらにスリップを繰り返すようになっていた。一マイルの長さを持つ、『プッシー峡谷』の、すべての走行可能な道路となるような場所を、探りつつ走行していった。いきなり、もっとも主要な大きな液体の流れる大きな谷川からは、脱出したことを悟っていた。

                 *


 彼は彼女の割れ目の、狭まる一方の端の部分にまで、到達していたのである。そこでは、膨らんだようなピンクの壁が、湿気の少ない快適な場所の運転を可能にさせていた。ピンクの壁の頂上の方向に、車の方向を向けていた。そこに辿り着けば、プッシー峡谷地帯の全体を、ぐるっと一周して走行したということになるだろう。確信していた。またクリトリスのある場所にまで、戻って再度、挑戦をするつもりになっていた。

                 *

 彼は、風防性能のある耐圧性の窓ガラスのワイパーを、全力で動かしていた。プッシーの生み出す濃厚な油のようなジュースが、ひっきりなしに車の左右の窓ガラスを流れ下っていた。小さなワイパーは、熱狂的な高音の悲鳴を上げながらも、その職務を忠実に果してくれていた。

                 *

 遥か遠方の土地では、そこまでは何マイルも、何マイルもあることであろうが、彼女の口に含まれた機械から発する振動音が、空気そのものに重低音の振動を発生させていた。そのことを、肌に感じ取ることができた。彼女は、それを舐めていた。唾液によって濡らしていた。挿入を容易にしようとしているのだった。ディルドだった。

                 *

 彼は、道の途中で恐怖のあまり、車を停止させていた。彼女が、それを使用しようとしていることに、恐怖心を覚えたのだった。彼の恐怖は、すべてがその最悪の予想のシナリオの通りに、形をなそうとしていた。

                 *


 彼女の指先が襲来していた。この土地に急速に下降してきた。『プッシー峡谷』の割れ目を、左右に押し開いていったのである。タイタン・ロケットの直径のサイズがあるヴァイヴレーターは、先端で肉の谷間を押し広げながら地下深くの洞窟の奥にまで、侵入しようとしているのだった。彼は、ギアをバックに入れていた。狂気に捉えられたように、運転していった。しかし、何もかもが遅すぎたのだ。

                 *

 女という肉に開いたクレーターが、巨大な球体の先端を持った機械を、その内部にまで、受け入れて貫通させていくにつれて、膣の筋肉は、精液を内部に飲み込もうとするような、吸引力を強めていった。

                 *

 彼は、車内の後方を見るためのミラーで、唾液に濡れて光り輝くような銀色の機体が、さらに自分に接近してくるのを観察していた。性器の周囲の陰唇の上を、可能なかぎりの速度で踏破しようとしていた。にも関わらず、飢えた猛獣が、獲物を飲み込もうとするような咆哮が轟いていた。周囲の世界の全方位から、粘り着く雨垂れのように濡れた液体が降り注いでいた。洞窟のように開いた膣の穴の内部に、滝のような壮大な瀑布の音を立てて流れこんでいく。流れに巻き込まれていた。穴の方向に流されていった。

                 *

 突然に世界が薄暗くなっていった。何かを飲み込む時のような、嫌らしい音を、性器が立てていた。ジョシュは、何トンもの何トンもの液体の流れに、防水の強化窓ガラスを打ち破られることを、ほとんど覚悟していた。

                 *

 彼は回転するタイヤが、地面をグリップする力に命運を掛けていた。シートに深く座り直していた。プッシー峡谷の内部には、さらに濃密な暗黒が支配していた。完全に光りのない世界だった。地上では、もっとも暗い夜も、これと比較すれば、明るい月夜のようなものだった。

                 *

 彼は、さらに、もう少しだけ闇を押し退けるようにして、内部に進んでいった。いきなり、四輪駆動車を振動させていたヴァイヴレーター本体の回転するような轟音が止んでいた。彼女は、彼のことを四輪駆動車とともに、カントの内部に埋葬してしまったのである。

                 *

 悪夢を見た後のような寝汗。不快な油汗が、大量に全身の肌にまといついている。車のエンジンが、まだ生きて動いているということを悟るまでに、しばらくの時間が必要だった。自分が整備した車体が、死を遠ざけていてくれるという事に、自信を抱き始めていた。

                 *

 そのために、さらに奥へ進んでみることを決意していた。エア・コンディションの装置のスイッチを付けていた。惑星サイズの女のプッシー峡谷の内部で、何トンもの何トンもの愛液の底で、窒息死するような運命を、黙ったままで、甘受するつもりはなかった。

                 *

 彼女が、彼の『ハムV号』を、数多くの照明器具によって強固に防備してくれていた意味を理解していた。ロード・ランプのスイッチを、ハンドルを握り締めていたために、しびれた手で引き出していた。点灯させていた。昼間のように明るい光で、透明な液体に浸された洞窟の内部の世界を、皓皓と照らしだしていた。ピンクの粘膜の壁が、てらてらと光っていた。この内部の世界は獰猛に生きていた。気味悪く脈動していた。

                 *

 プッシー峡谷の内部。大蛇のような長大な腹を見せた静脈と動脈が、うねうねと這っている。複雑な褶曲を持った、台地が造られていた。ひとつひとつが、彼にとっては洞窟の内部の、越えていかなければならない、巨大な障害物に匹敵する大きさがあった。巨大な山脈の無数の峠を、越えているようなものだ。難路に感じられていた。

                 *

 四輪駆動車は、いつでも左右に、かすかに揺れていた。かなりの濃度を持ったカントのジュースの上に、タイヤが沈まずに浮いているような状態になっているからだった。

                 *

 彼には、彼女が自分のことを、このまま内部に挿入したままにするつもりなのか、それとも、いつかは取り出そうといういう意志があるのかどうかも、分からなかった。しかし、どちらにせよ、彼はその内部の壁面のひとつにさえ、自分の手で直接に触れることもできていなかった。窓を開けることは死を意味した。酸素ボンベが、新鮮な空気を自然に車内に供給してくれていた。

                 *

 彼は銀色のタイタン・ロケットのようなヴァイヴレーターの湾曲した側面を、流れ落ちるているのは彼女の唾液だった。いくつもの泡を観察することができた。それ一個が、混合した液体の内部を下り落ちる、3メートル半以上の直径のある、ガラスのような強度のある透明な球体に見えていた。

                 *

 目的地のない球体の漂流も、車のライトが届く視界の果ての向こうに消えていった。、どこか前方の、ヴァイヴレーターの先端部分の膣の奥底の世界で、割れて爆発して終末を迎えていた。子宮孔は、見ることもできなかった。暗くこもった爆発音が、驚天動地の大異変の始まる合図のようだった。内部から、ジュースが洪水のように噴出してきたのだった。ヴァイヴレーターの本体によって、塞き止められていた大量の愛腋が、一挙に流出しようとしている。上流で、ダムが決壊したようなものだった。

                   *

 ジョシュは、命懸けでハンドルを握り締めていた。轟々と音を立てる急流。押し流されていく車体。運命を、ともにするつもりでいた。他にどうしようもなかった。気が付くと銀色のロケットの胴体が、頭上で急激に移動していた。リフトオフでロケットが発射されたような勢いだった。ダイナが、取り出そうとしているのだった。車は、深い襞と襞の間の谷底の迷路のような道を走っていた。偶然にも、押し潰されないで済んでいた。洪水の本体が津波のように襲来した。わけもわからずに、押し流されていった。

                 *

 柔軟性のある粘着性の液体が、転落の衝撃によって破壊されることから、車体と彼自身の肉体を、守ってくれていた。巨大な花柄のベッドのシーツが、茫々と広がっていた。外部に脱出できたのだった。巨大な繊維の糸が織り成した四角形の空間が、無数に存在していた。その間を、四駆でくぐり抜けていくのに、十分な余裕があった。

                   *

 しかし、動けなかった。液体の接着剤のような力が、出てきたままの場所に、彼の愛車を固定していた。ガスタンクぐらいの直径のある、愛液の玉の上部に浮かんでいる状態だった。表面張力の膜のせいだろう。沈みはしなかった。球体の下部は、一本の糸に癒着しているのが、ぼんやりと歪んで見えていた。
オフロード冒険記2・了