***********************************

巨大美人島漂流記 3・ペットの島
笛地静恵
 少女たちは、白亜の神殿である南棟(サウス・ウィング)に生活していた。明らかに最
初から、彼女たちが二倍体のサイズで、楽々と生活ができるようにするという目的で設計
されていた。この点は、他の棟が、普通の人間のサイズを目的にして設計されていること
と、明白に異なっていた。連合軍兵士は、掃除などの目的で、南棟の内部に入り込んでい
った。部屋も、廊下も、天井も、すべてが巨人サイズの住居だった。ジョナサンは中に入
ると、自分の身長がぎゅっと縮んでいて、小人になっているような気がするのだった。

                 *

 原始の荒々しさを持ってはいるが、健康な生命力に満ちたヤフー島の自然の中でも、こ
の場所だけが、頽廃的なまでに高度な人間の文化で、汚染されているような気が、ジョナ
サンにはした。明らかに異質な空間だった。正面の入り口は、何本もの白亜の柱が立ち並
ぶ、壮大なギリシアのパルテノン神殿のようだった。それを作る素材である大理石は、こ
の島に算出するはずのないものだった。柱の一本一本は、すべてエロティックな姿態のヴ
ィーナスの像だった。男性の神ものは、一体も交じってなかった。明らかに背徳的な臭い
があた。この館は、その快楽的な、豪華な装飾過多の複雑さからいっても、他の棟の軍隊
施設の効率を旨とした禁欲的な簡潔さとは、対極にあった。

                 *

 唯一、異様だったのは、その屋上に設置された、最新鋭のものらしい巨大なスピーカー
だった。一度も音をだしたことはない。が、おそらく人間が潜りこめそうなラッパの部分
の直径からしても、島のどこにいても聞こえるような大出力のサイレンだろうと思えた。
命令を伝達したり、空襲を報せたりするような目的のための、帝国軍の通信装置なのだろ
うとジョナサンは、思っていた。不気味な沈黙を守っていた。ともあれ、この建物はシャ
ーロック大佐の命名で、仲間内では南棟と呼ぶよりは、『巨女館』と呼ばれていた。

                 *

 ジョナサンの想像では、ここは元々は戦争ための実験とは関係なく、血清の効果によっ
て巨大化させた少女たちと、何者かが変態的な悦楽の時間を楽しむための避暑地だった。
異常な嗜好を持っていた金持ちが、彼女たちとの快楽的な常夏の生活を楽しむために、建
てたのかもしれない。そんな施設なのではないだろうか。娼婦の館なのだ。内部に入ると、
その印象はさらに強まった。装飾は、すべてが巨大な女性と小さな男性との関係という主
題に限定されていた。少女たちは不愉快な絵の外せるものは外して、焚火にして処分した
という。それでも、壁のステンドグラスや柱代わりの大理石のはめ込みの像は、往時の面
影を偲ばせていた。

                 *

 『巨女館』のいちばん海に近い方の端に、南海の青い海の湾を一望に見下ろして、自由
に入浴できる場所があった。緑のジャングルが借景になっていた。すべてが大理石の造り
である。火山帯の島の、豊富な熱い地下水を使用した、垂れ流しの温泉だった。東西南北
の四体の巨大な大理石の女人像の股間から、湯は小便のようにして滾々と流れだしていた。
壁はない。四方は柱だけの、開放的な作りになっていた。浴槽というよりも、円形の巨大
なプールという印象があった。周囲は、三十センチメートルぐらいで浅い。だんだん深く
なる。中央部分は、水深が2メートル近くあった。巨大な少女でも、ゆったりと全身が浸
かれた。普通の人間の男では、足がつかない。水面に顔が出るのは、ビッグ・ベンぐらい
だろう。中央に、大理石の円形の島があった。その上で身体を冷まして、熱帯の風に吹か
れながら、巨大少女たちが雄大に寝そべることができた。その様子を、鑑賞することがで
きた。

                 *

 ジョナサンも、ミリカの部屋の夜伽(よとぎ)に呼ばれて、内部に入り込んでいった。
三日目の夜のことである。一階は、四部屋に別れている。大きな暗い玄関を入った。空気
には、雌の虎の巣のような、嫌な臭いが充満していた。血臭も交じっているような気がし
た。正面の、地下へ下る鋼鉄の黒い扉の内部に入ることは、厳禁されていた。最も、常時、
鍵がかかっていた。入ることは不可能だった。煙臭かった。肉の燻される空腹を刺激する
旨そうな匂いの煙だった。廊下に、幽霊のような紫色の半透明の雲となって、いつまでも
漂っていた。

                 *

 もう一方の赤いドアからは、地下へ螺旋階段を下りることができた。彼女たちの脚の長
さに合わせられていた。段差が高くて、昇降がたいへんだった。地下には扉の奥に深紅の
部屋があった。壁には、鞭や赤い蝋燭という怪しげな道具があった。この館の元の持ち主
の、嗜好が分かる場所だった。

                 *


 一階が、彼女たちの個室になっていた。部屋は左側から、マリア、ミリカ、ツツジ、ア
イコの順番になっていた。五つあったが、ひとつは無人になっていた。それぞれに、ドア
の色が異なる。マリアはレモン・イエロー。ミリカはウオーターカラー。ツツジがワイン
レッド。アイコがモスグリーンだった。無人の部屋は白いドアだった。どこも明るく華や
いでいた。いかにも少女たちの住まう場所だった。ジョナサンは、男子禁制の禁断の女子
寮にでも、入り込んだような気がした。

                 *

 ミリカの部屋の扉には、彼の頭部よりも大きなほら貝が、アクセサリーとして三個ぶら
さがっていた。それが、ドア・ベルの役割をしていた。聞かされていた通りに、ドアを三
階、大きくノックしていた。貝がチチリチと鳴っていた。ドアの縦も横も、通常の二倍の
サイズがあった。「お入りなさい」そんな意味の南洋諸島の言語だった。ドアを開けていた。

                 *

 少女たちは、ジョナサンが到着した時には、一階のホールという白亜の大広間で、雑談
に興じていた。彼の目には、アイスホッケーの試合も可能な、競技場のように広大だった。
自分たちの、ねぐらである『巨女の館』の中では、たいていが白い長いドレスを、素肌に
優雅にまとっていた。半分透けるような薄い生地である。彼女たちの美しい姿態を、霧の
ようにまとわりついていた。隠すよりもスタイルを顕わにする効果があった。黒い陰毛が、
黒い花のように蠢いていた。締め付けることがないので、みな気に入っているらしい。夢
幻の世界の女神達のようだった。マリアだけは、室内でも迷彩柄のビキニ姿だった。他の
三名は、胸元が締め付けられるようで窮屈だという理由で、これを嫌っていたのだ。

                 *

 四人ともに、胸が大きかった。スイカのような巨乳だった。謎の巨大化薬の副作用らし
かった。むくむくと育ってしまい、支給品の軍のビキニは、窮屈になっていた。そのため
に、戸外の活動でも上だけを外していることが多かった。重くて、仕方がないのだという。
全員がぼやいていた。それに、乳房の下が(垂れているように見えなかったが)汗疹にな
って痒いのだという。鋼鉄のように強靭な彼女たちの肉体にも、思わぬ弱点があることが、
ジョナサンには嬉しかった。彼らの頭上で八つの乳房が、重々しく揺れていた。

                 *

 彼女たちの言葉で主食の「太郎芋」を育てるのも、連合軍兵士の仕事だった。肥料は、
彼女たち自身が、排出する下肥である。『巨女館』の汲取便所から汲んでくる。重い桶に入
れて担いでくる。炎天下の中で、暑く匂い立つ濃厚な奴を、広大な畑の土にかけるのが日
課だった。肥料にも、豊富な栄養があるのだろう。短期間で、むくむくと育つ。一個が、
三百キログラムの固まりに育つのだった。ハロウィーンの時の、オバケ・カボチャぐらい
の大きさがあった。

                 *

 大の男である連合軍兵士でも、五、六人でかからないと運搬できない。彼女たちは、軽々
と両手でひょいと胸に抱え込んで、軽々と持ち歩いていった。本国では、家畜の資料用の
作物だった。「太郎芋」の方が甘さがあって、天然の食用に堪えた。自然状態でも、南洋諸
島に自生するタロイモが、彼女たちの身体に合うように、品種改良されているようだった。

                 *

 水は、基地となる宿舎の背後に、井戸があった。そこから手桶で汲み上げる。ジョナサ
ンは、これが彼女たちの弱点だと思えた。シャーロック大佐も同じことを考えていた。裏
庭で、偶然の立ち話を装って彼に相談してきた。この苦況から、脱走する方法を考えてい
る隊長の意志力に、驚嘆していた。とっくに諦めていたことだった。いくら巨大でも、毒
には弱いだろ?どうだ。ジョナサン。君は、医師だろう。どうにかならんか?もし、この
水に十分な量の毒を入れられれば、サカリのついた娘のオモチャになる境遇から、抜け出
られるかもしれんだろ?ジョナサンにも、そう思えた。熱帯の動物も植物も魚類も、毒を
持つものには、ことかかなかった。それを抽出できれば良いのだ。

                 *

 ミリカだけが、連合軍兵士の国の言葉を、流暢に話すことができた。彼女とジョナサン
が、自然に通訳のような役割を、担うようになっていた。ジョナサンの交渉の窓口は彼女
だった。話をしていると、南洋諸島のハラオ島の出身者であることがわかった。他の三名
と比較すれば、骨格も顔の形も四角ばって、がっしりとしていた。ジョナサンは、このミ
リカともっとも親しくなっていった。彼女たちは、原則として他の隊員の持ち物には、手
を出さないという不問律を守っていた。

                 *

 シャーロック大佐に指摘されてジョナサンも、ようやく気が付いたことがある。彼女た
ちの個室に、無造作に置かれている装身具の豪華さだった。高価な黄金などがあった。身
体のサイズのために、指輪などはしまっておくしかない。ネックレスは、腕輪にしか使え
なかった。それでも。華奢で壊してしまうので、彼女たちは、もっぱら大事にしまいこん
で観賞用にしていた。その出所が謎だった。『巨女の館』の持ち主ならば、彼女たちのサイ
ズに合わせた装身具を用意するだろう。そうではなかった。寝物語に、ミリカが語ってく
れることがあった。

                 *

 島の東南東二十キロ。深度二百メートル。その海底に、難破船が沈んでいる。素潜りし
て、良い漁場を探していたアイコが、偶然に発見したのだった。彼女たちの肺活量は普通
の人間には、とうてい不可能な長時間の潜水を可能にしていた。巨大な肉体は、ニ百メー
トルの水圧にも、びくともしなかった。それに抵抗して、深海での自由な活動が可能だっ
た。生体兵器としての優秀さを、証明していた。彼女たちは、交替で潜っては、海底の宝
を発見していた。潮流の変化が、激しい場所だった。遭難した船が、まだ何隻もあるよう
だ。海底でも激しい潮の流れの変化がある。腐った船は、彼女たちの手の中で、溶けるよ
うに崩れていった。海底の泥を採取してきて、海面で洗う、宝が入っていないか。探すの
だという。黄金は、きらりと光る。砂金を、泥の中から浚って、見付けだしたようだ。と
ても嬉しい。そう言っていた。ロマンのある話だった。ジョナサンは、ある夜の奮闘のお
礼に、ミリカから男性用の指輪を、一個もらっていた。ミリカがハッスルしすぎてしまっ
た。ジョナサンの鼻の骨を折っていた。その謝罪の意味だった。大事に隠して、しまって
おいた。


                 *

 四人の隊長は、やはりマリアだった。中では、一番、身体が小さかった。が、気難しい
性格だった。他のメンバーからも、一目、置かれていた。恐れられていた。彼女たちは、
自分たちを『モーニングズ』と名乗っていた。ミリカによれば、元の部隊の名前を、連合
軍兵士の言葉に訳しただけということだった。いい名前だと誉めた。妙に、恥ずかしそう
な顔をしていた。

                 *

 電気はなかった。夜になると椰子の実から取った油に、これも椰子の皮の繊維を編んで
作った、芯だけが便りだった。たいした光源ではない。本などを読むことはできない。戸
外の満天の星空と、月の光の方が、よほど明るかった。そのために、彼女たちの生活は、
日の入りとともに眠り、日の出ととともに起きるという健康的なものだった。短く寝苦し
い熱帯の夜を慰めることが、ジョナサンたちの役割だったのだ。

                 *

 ミリカは、地下の深紅の部屋を利用するのを好んだ。広大なベッドの上だった。手首と
足首は革のベルトで、ベッドに固定されていた。大の字になったジョナサンの顔面に、ゆ
っくりとミリカが騎乗してくる。しゃがみこんで来る。いや、ジョナサンの実感としては、
顔面だけではない。全身への騎乗だった。その巨大な臀部が、今夜も闇の中に浮かんでい
た。頭上の深紅の空の視界のすべてが、ミリカの巨女の肉体に占領されていた。他に見え
るものと言えば、ほとんど何もなかった。椰子油の蝋燭の光が揺れていた。ミリカの、さ
らに巨大になった影が踊っていた。

                 *

 かろうじて枕元の、ジョナサンの頭の上の方角には、パーティの大皿ぐらいある皿に、
椰子油の明かりが、ちらちらと燃えていた。そこからの光に巨大な肉体の筋肉が、複雑な
陰影を作っていた。股間の黒い茂みが、獰猛に繁茂する複雑な影を引いていた。臍の穴が
暗かった。上半身は下半身の影に隠れて、まったく見ることもできなかった。彼女は、乳
房も惑星のように、充実した肉の球体だった。そこも、充分に愛させた。片方に一人の捕
虜の兵士を配備していた。バストの間でファックしていた。いや、人間にとっては巨大な
重量を誇る、肉の袋に挟まれる拷問だった。

                 *

 ミリカとの関係で、ジョナサンは自分でも意識していなかった官能を、刺激されていっ
た。それは脚へのフェティシズムだった。彼女は、ジョナサンに脚のマッサージをさせる
ことを好んだ。片脚だけでも、ジョナサンよりも大きくて重い。血と肉と骨の構造物であ
る。その筋肉を揉み解していった。医師としての解剖学の知識が役に立った。人体の筋肉
の構造は一応、彼の頭に入っている。

                 *

 足の裏を揉み解す。足のサイズは、五十二センチである。幅も広い部分では、ジョナサ
ンの足の長さがある。片足の裏に、両足で乗れる。鉄のように固い。その場所で足踏みす
る。体重をかけて、足の裏のツボを刺激する。初日に、何がお前にはできるのかしらとい
う質問に答えて、医師としての職業と、この筋肉マッサージの技を披露したのだった。こ
れが、よほど少女のお気に召したらしい。その時以来、毎日マッサージの御呼びかかるよ
うになった。

                 *

 他の少女たちにも、お気にいりがいる。マリアはシャーロック。ツツジはジョニー。ア
イコはビッグ・ベンだった。彼らは、自分たちのことを自嘲をこめて、ペット四天王と呼
んでいた。ペットに一人や二人の加勢が、夜伽の席に参加するというのが恒例になってい
た。今夜はジョナサン一人切りだった。ミリカの巨大な体重を支えるために、踵骨腱、い
わゆるアキレス腱が、緊張して固くなっているのが分かる。鋼鉄の柱が、内蔵されている
ような感触がある。

                 *


 うつぶせになった、ミリカは腰に、南方諸島の女性がパレオと呼ぶ、一枚の布を巻いた
だけである。他に下着はない。眼前に、熱帯の濃厚な闇があった。その脚に跨がる。彼も
全裸である。睾丸もペニスも、足首の固いヒラメ筋に当たっている。腰を動かして摩擦し
ても、ミリカは何も気にしない。そこから腓腹筋(ひふくきん)を揉んでいく。ヒラメ筋
と腓腹筋を合わせて、下腿三頭筋(かたいさんとうきん)という。

                 *

  徐々に身体を尻の方に移動していく。膝を越えて大腿二頭筋(だいたいにとうきん)
から、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)と移動していく。大木のような太腿の上である。
その雄大な肉の柱を、ジョナサンは抱擁している。思うさまに全身で愛撫する。愛する恋
人を抱いているように。

                 *

 彼は戦友が、ミリカの再三の警告を無視して、言うことを聞かずに抵抗したために、こ
の足に踏み潰された現場にいた。
 ミリカは、怒っていた。まなじりを決した表情は、口元に笑みを湛えた、いつもの優し
い顔とは、別人のようだった。
「チビの虫けらのくせに、あたしに逆らうなんて!」
 徹底的に機嫌をそこねていた。彼の胸に、片足を乗せていた。
 陸に上がった魚のように、手足をばたばたとさせていた。
「虫けらは無理螻蛄のように始末してあげるわ!」
 どかすことは不可能だった。
 「あなたは、十五歳の女の子の足の下で、ごきぶりのように死ぬのよ?」
 この結果は、あの砂浜の劇で、分かっているはずのことではないか。ジョナサンも反抗
は不可能だと、再三再四、警告していたのだった。彼も男の誇りにかけて、小便臭い小娘
のSEXのオモチャになることは嫌だと、意地を張っていたのだ。自業自得だった。本望
な最期のはずではないか。結果は見えていたのだ。

                 *

「どうか、助けてください。何でもします。命だけは助けてください!」
 彼は必死に命乞いをしていた。ジョナサンも忠実に通訳をしていた。
「もう遅いわ」
 ミリカはジョナサンを見下ろしていた。悲しそうな表情だった。
 目を閉じていた。
「えいっ!」
 彼の腹部を、ミリカの足が簡単に突き破っていた。風船を破るような容易さだった。内
臓が、辺りに飛び散っていた。腸が、彼女の足の小指に赤い紐のように絡んでいた。破れ
た消火器から、排泄物が滲み出て流れていた。背骨の折れる鈍い嫌な音がした。下半身が
痙攣していた。彼は吐血していた。

                 *

 死体の始末は、ジョナサンたちがした。薫製室に運びこんだのだ。ジョナサンは、自分
の命を一瞬で奪うことができるミリカの脚に、信仰者が聖像に示すような賛仰の気持ちを
抱くようになっていた。日頃から崇拝の思いで接していた。陽光の下で躍動する彼女の素
脚に、手を合わせたい気持ちになるのだった。深夜の個室に限らない少女たちが、笑いさ
ざめきながら追い駆けっこをして、凄い速度で走り回っている時に、白い砂浜で遠泳のあ
との冷えた身体を甲羅干しにして暖めている時にも、ジョナサンの普段は、ぼんやりとし
て生気のない瞳は、そのときだけは妙にギラギラとした光を宿して、ミリカの脚に視線を
注ぐののだった。ミリカも笑っているだけで、彼の愛を拒むことはない。戸外でも脚を抱
かせて汚れた爪先にキスをさせてくれる。少しでも汚れていると、彼の口でなめさせて、
きれいにするのだった。

                 *

 ジョナサンだけではない。連合軍の兵士のだれもが、ペットとしての地位に飼育されて
馴致されていくことで、奇妙な退行の現象を示していた。あの厳格なジョニーは、やたら
にツツジの乳首を吸いたがった。飢えた赤子のようだった。屈強の闘士のビッグ・ベンは
アイコの尻の臭いを、背後に吸い付くように歩きながら、クンクンと嗅いで回っていた。
聡明な頭脳と、複雑な心を抱えたシャーロック大佐でさえ、チャンスがあればマリアの黒
い頭髪に顔を埋めて、うっとりと手で梳るようにしていた。大の男である隊員の飼育に、
彼女たちは見事に成功していたのだった。ジョナサンも周囲の痴態に安心していた。くん
くん。犬がじゃれつくように、ミリカの脚に甘えていた。

                 *

 この日々のジョナサンは、もしミリカに遊び半分で「崖から飛んでご覧!」と命令され
ていたら、それに従っていただろう。ミリカがそういうのならば、カモメのように空中を
飛翔できるような気がした。右を向けといえば右を向き、左を向けと言われれば左を向い
ていた。理性は失われていた。それなのに、ミリカの言葉は、彼の濁った心に巫女の託宣
のように、明晰に響いていた。理解されていた。

                 *


 ジョナサンが、全身の筋肉に力を入れて清掃をしていても、ミリカの脚にはいつでもち
ょうどよい刺激のようだった。今もパレオの上から、尻の大腿骨筋と大臀筋を、両手で入
念に刺激している。その内には、ミリカも激しく匂うまでに高まっている。彼女はジョナ
サンを乗せたままで、馬のように巨大な尻を持ち上げている。自分の深くて黒い茂みに、
下から手を回して指をズブリと入れる。人差し指と中指の二本のことが多かった。薬指一
本でも、ジョナサンの勃起したペニスぐらいのサイズがある。彼女はベッドの上で、両膝
をさらに大きく開いてくる。ミリカは暴れ馬に変身していく。ジョナサンは暴れ馬を乗り
熟せない、哀れなカウボーイのようだ。時にはベッドの下にまで、跳ねとばされて転落し
ている。

                 *

 ミリカがうつぶせになる。ジョナサンは、もう一度、足の指からマッサージを始める。
一本ずつ口に含んで舐める。足の指の間まで、きれいにする。垢があれば食ってやる。ミ
リカは体質のためなのか、毎日のように垢を貯めるのだった。ジョナサンの唾で、柔らか
く溶けた黒い虫のようなものを食っていく。

                 *

 下肢の前脛骨筋(ぜんけいこつきん)から、膝を越えて太腿の大腿四頭筋までの長い道
程を孤独に戦っている。汗だくになる。ミリカは、パレオを脱いでいる。割れ目に、指を
入れている。彼の目の前で激しいオナニーをしている。ジョナサンの存在は、何も気にし
ていない。自由奔放で魅惑的な、美少女のオナニー・ショーが、かぶりつきで繰り広げら
れる。今夜の観客はジョナサン一人だ。ジョナサンも前後に激しく腰を動かしている。ミ
リカの足の筋肉が、彼のペニスに抵抗している。二人の汗で滑っている。射精している。
ミリカの大量な少女の汗に交じって足を流れる。光っている。彼女は気が付いてもいない。
自分の行為に夢中になっている。ジョナサンも、孤独な第二ラウンドを開始する。

                 *

 今は、ミリカは上半身では自分の両手で、椰子の実のような乳房を揉み解している。乳
首を指で長くひっぱっていた。苦痛が、快感になるような光景だった。眉間に皺を寄せて、
美しい顔をしかめている。歯を噛み締めていた。唇が歪んでいる。健康な前歯が、頼りな
い椰子油の光源でも、白く光っていた。そのたびに、臀部の筋肉が左右に、ゆさゆさと揺
れていた。陰毛の先端から熱い雫が玉になって、ジョナサンの口腔にぼたぼたと滴ってき
た。「さあ、舐めてちょうだい」命令してくる。ジョナサンは、舌を出して待っている。濡
れそぼった股間の割れ目の口が、ジョナサンの顔を、がぼりと飲み込む。呼吸をするため
の空気を求めて、孤独な戦いが開始される。

                 *

 少女の左右の陰唇の分厚い襞を、両手で開くようにする。その貝の内部の真珠のような、
ミリカのクリトリスを舐めてやる。彼女は、ジョナサンのこの技巧が、お気にいりだった。
そのために、生きていられるのだった。割れ目に手を入れて、膣の入り口のすぐ上の、敏
感な部分を手のひらで愛撫してやる。ざらざらとした感触があった。膣が動いて、吸引の
運動をはじめる。手が吸い込まれていく。

                 *

 臀部だけで、数百キログラムの肉の量があった。ミリカの恥骨の形を、顔面に感じてい
た。左右の大陰唇に、顔面を飲み込まれている。耳元まで覆われている。鋼鉄のような陰
毛の森が、じゃりじゃりと擦り合わされる音が、するだけだ。外の音も聞こえない。大量
の愛液が、雨のように顔面に降り注いでいる。とろとろと口に鼻に耳に流れこんでくる。
粘性のある酸性の液体が、目にしみる。

                 *

 彼女は、本気でジョナサンの顔面に騎乗していない。もし、そんなことをされたら、推
定四百キログラムのミリカという少女の肉の下で、ジョナサンは薄い肉の煎餅のようなも
のになって、悶絶しているだろう。今、生きていられるのは、ひとえにミリカの慈悲のお
かげだった。感謝していた。

                 *

 マリアなどは、自分のあそこの下で、ひしゃげる人間の頭蓋骨の感触が、好きだと公言
していた。遠慮なく座っていた。恐怖の捕虜収容所だと、味方の兵士にも恐れられる理由
が、ここにあった。マリアの分になった、七名の内の四名がすでに、この世のものではな
かった。

                 *

 年ごろの少女たちだ。SEXの要求も、その肉体のサイズに合わせて、苛酷なものだっ
た。欲望も肥大化していた。もちろん、連合軍兵士のサイズでは、彼女たちを、そのペニ
スだけによって満足させるような逸物の持ち主は、誰もいなかった。あの選択の興奮は、
冗談でしかなかったのだ。ペニスではなくて、腕や足を使われた。膣の筋肉の巨大な締め
付けに、手足が使いものにならなくなる不幸な者もいた。ジョナサンは、ミリカの大事な
お気にいりだった。彼女の好きな体位は、その巨体にものを言わせた、壮大なものだった。
けれども、その愛着のおかげで、なんとか生き延びることができたのだった。

                 *

 島に来て一ヵ月で、十二名の戦友が、少女との肉弾戦によって名誉の戦士を遂げていた。
マリアに四名。ツツジとアイコに三名。ミリカに二名が、犠牲になっていた。少女たちの、
夜伽の酷使に耐えられなかったのだ。使用済みになった捕虜の身体は、けして無駄にはな
らない。使い捨てにはならないのだ。『巨女館』の黒い扉の地下室は、薫製を作る部屋にな
っていた。人間のミイラがぶらさがっていた。

                 *

 戦死者があると、翌日の朝食には、生の血の滴るような肉が出る。肉入りのスープもあ
る。島の食事は、メインが魚ばかりだ。どうしても動物の肉が不足する。島での生活では、
貴重な肉の味だった。ジョナサンたちにも、お裾分けがあった。毎回、豪華な晩餐となっ
た。彼女たちは、独占するということはしなかった。

                 *

 残った分は、薫製室に送られた。熱い島の環境で腐敗しないように、保存のために薫製
にされた。平等が、この島での大原則だった。黒い鍋で煮込まれる仲間のスープに、ジョ
ナサンも舌鼓を打っていた。万事に多彩なシャーロック大佐は、料理人としての卓越した
才能も発揮していた。限られた食材で、多彩な味覚を提供していた。少女たちにも、大好
評だった。そのために、生き延びていた。マリアの肩に、いつもオウムのように泊まって
いた。彼女の黒い髪を、彼の器用な指で撫でていた。ジョナサンにもカニバリズムが、別
に悪いことだとは思えなくなっていた。道徳の感覚は、麻痺していた。明日は、我が身な
のだ。順番の問題に過ぎない。

                 *

 ミリカが、興奮のあまりに、両方の太腿にかける力を、あとわずかでも強めれば。ある
いは顔面騎乗の時に、あと少しでも巫山戯半分でジョナサンの頭蓋骨に体重をかければ。
それだけで、この世の終わりだった。頭蓋骨の皹割れる音を、ジョニーは聞いたことがあ
った。顔面に激痛が走った。失神していた。翌朝になると、鼻が曲がっていた。鼻骨が折
れたのだった。ビッグ・ベンと同じ顔になっていた。せめて生きている間に、おいしいも
のぐらいは堪能したかった。ペットは、主人の与えてくれる餌を、それが何であろうとも
安心して、がつがつと貪る生き物だった。
巨大美人島漂流記 3・ペットの島 了