『化特隊』シリーズ・3
『化特隊』の一番長い日・2
笛地静恵
【注記】この作品は、完全なるフィクションです。登場する団体、職名、氏名その他にお
いて、万一符合するものがあっても、創作上の偶然であることを、お断わりしておきます。
(笛地静恵)

5・午後九時三十分 篠原精密機械工業本社 社長室

 泉明子が、行方不明になっていた。本社から、本人が運転するスクーターで、最寄りの
新幹線の富士山駅に向かった。そこで乗車したことは、複数の信頼できる社員の目撃証言
があるから間違いない。羽田発千歳行きの飛行機にも、定刻に乗っていた。しかし、実家
には、この時間になっても帰っていなかった。予定では、夕刻の六時にはついているはず
だった。

                 *

 今回は、ただの帰省ではなかった。一足先に、単身で帰らせたのは正月に正式に、嫁に
もらいたい旨の挨拶をするための準備だった。篠原明日馬も多忙な合間を縫って自家用ジ
ェット機で、北海道に出向く手筈になっていた。計画は二人だけで練っていた。外部には
誰も洩らしていない。むこうの両親も知らないことだった。

                 *

 篠原が、マークされていたのは知っていた。しかし。人目のある新幹線やJRで拉致さ
れるとは思っていなかった。護衛を付けることを、彼女が拒否したのだった。
「そんな。大げさだよ。明日馬。あたしなら、だいじょうぶだよ!」
 妻の(案外に古風な篠原の頭の中では、すでにこの呼称になっている。)明るい声が耳に
蘇る。明日馬のミスだった。もっと注意すべきだった。『化特隊』の優秀な隊員であった泉
でも、処理できない事態だったのだ。『ホルス133』も『フラッシュ・スプレー』も、護
身用として携帯させていた。

                 *

 奴らは、ついに実力行使に出て来たのだった。こうなると、飛行機に乗っているのかも
怪しかった。あいつらならば、替え玉ぐらいは簡単に用意できるだろう。

                 *

 『イシス』の完成までには、まだ数年が必要だ。『相対性巨体化理論』による『ホルス=
システム』の実用化には、難問が山積していた。膨大な開発費を注ぎ込んでいた。あれが
失敗すれば、篠原は二代目の彼の時代に倒産だった。彼らが自分を過大評価してくれたこ
とが、この誇り高い男には嬉しかった。しかし、奴らのねらいは、篠原だけなのだろうか?
伊井田キャップと、相談するべきだった。

6・ 午後十時 『化特隊』本部ビル 整備室

 深夜勤務の整備班全員に、蒲口は自分で焼いたせんべいを、クリスマスのプレゼントと
して、配布して回っていた。焼酎のお湯割りもあった。広大な整備室では、暖房も全く効
かなかった。サンタクロースのコスプレで給仕をしていた。けっこう好きだったりするの
だ。

7・ 午後十一時 『化特隊』本部ビル 司令室

 伊井田キャップからの入電が蒲口にあった。静岡の篠原精密機械工業社宅の藤の個室に
泊まるという。藤牧子はシャワーを浴びて、バスローブ一枚の危ない姿だそうだ。「そっち
はだいじょうぶ?」と質問された。異常なしと答えていた。

                 *

「こっちは、ちょっと危ない雰囲気なのよ〜ン」
 妙な鼻声だった。
 篠原明日馬社長からの、高級ワインのクリスマス・プレゼントを、すでに二人で四本も
開けたという。だいぶ出来上がった声だった。

                 *

 「巨女獣」の出現も、午後には全国で三件を数えるだけだった。第二小隊の全隊員が出
動していたが、すべて鎮圧した。警察の不法なオシリス薬を、日本に上陸させないという
水際作戦が、ある程度の成果を治めていた。

                 *

 蒲口は伊井田からの電話を、榊原整備班長につないだ。自分も、一年間のお礼の言葉を
掛けたいという。蒲口はこのままクリスマス・イブの夜が、静かに更けてくれることを祈
っていた。窓の外に、ちらほらと白いものが舞っていた。雪だった。紙テープがカタカタ
となっていた。解読する蒲口の顔が、青くなっていった。

8・ 同時刻 赤坂某高級料亭別室

「不法オシリス薬の流入は、テロリストの無作為攻撃だけではありません」
「意図的な国内の擾乱のためのものです」
「有力な海外からの情報もあります」
「今日、『化特隊』隊長の伊井田が、篠原明日馬に接触しました」
「われわれの睨んだ通りだな」
「画策しておるのだろう」
「間違いない」

                 *

「『イシス』が起動すると、あまりにも巨大な軍事力が、民間の一企業と一警察組織に集中
することになります」
「危険だ」
「あまりにも危険だ」 
「そうなる前に、手を打つ必要があると思います」
「年端のいかない娘たちに、日本の防衛という重要な任務を、これ以上、任せておくこと
が、そもそも危険なのだ!」
「安全な銃後に立つべきだ!」
「『化特隊』は廃止だ!」
「オシリス薬の供給がなくなれば、しょせんは何もできん」
「小便臭い、小娘の集まりにすぎん」
「今の内に、叩き潰しておく必要があるな」
「あの生意気な伊井田では、話にならん」

                 *

「第一小隊には、休暇を発令しております」
「本部には、第二小隊しかおりません」
「すでに餌は、確保してあります」
「毒には毒を」
「オシリス薬を投与した隊員に、『化特隊』本部を襲わせます」
「未熟な蒲口と本部ビル、それに整備員を人質に取ります」
「あの小癪な伊井田でも、全面降伏をせざるを得ないでしょう」
「ご命令を、お待ちします」
「雌平(めすひら)警視総監。おぬしも悪よのう」

                 *

「いや、これは少女たちの、安全のためでもあるのです!」
「彼女たちには、少子化の日本のために、貢献してもらおうではありませんか」 
「みな若くて健康な肉体をしております」
「男に肌を触ってもらいたくて、ウズウズしておるようだ」
「胸や尻を、見せびらかしておるではないか」
「期待に、応えてやる必要があるな」
「雌平計画の発動を、許可するぞ」
「賛成だ!」
「わしは、藤牧子にするぞ!」
「さすが!」
「総理も、お目が高いですな!」
「うわっはははあっ!」

11・深夜零時 ノイエ・シブヤ 藤牧子足跡

 彼女は、夕方の七時からハチ公の銅像の前で、彼を待っていた。彼は来なかった。何度
呼んでも携帯に全く応答はなかった。もう何時間待ったのかも、分からなくなっていた。
涙も枯れはてていた。身も心も、冷えきっていた。頭の芯まで凍えていた。ふらふらと歩
いていた。

                 *

 雪に滑って、凹地に転がり落ちていた。新雪の積もった、藤牧子の足跡の中であること
にも、彼女は気が付いていなかった。はい上がろうとした。黒い服の男の黒革の手袋の手
が、力を貸してくれた。ガチャリ。弱った神経は、その音に飛び上がっていた。拳銃の激
鉄の音のように思えた。ホルス薬の猫のネックレスに指が動いていた。

                 *

 自動販売機の音だった。
「寒いだろう?飲み給え!」
 暖かい缶コーヒーだった。いつもは甘すぎて飲まない。ダイエットをしているからだ。
しかし、おいしかった。
「クリスマスだ。楽しもうじゃないか!」
 男が一粒の薬をくれた。罠かもしれないと思った。しかし、すべてが、もうどうでも良
かった。それも飲んだ。

                 *

 身体が熱かった。今夜こそは、身体を彼に与えるつもりでいた。新品の勝負用の下着が、
内部からの肉の圧迫によって、びりびりに避けていた。首のホルス薬を入れた、護身用の
猫のネックレスが、切れて弾け飛んでいた。

                 *

 やがて。
 ガオオオッ。
 咆哮していた。
 立ち上がっていた。藤牧子の足跡に彼女の足も、しっくりと嵌まるような大きさになっ
ていた。雪の下に、彼へのプレゼントの箱が踏み潰されていた。「巨女獣」の誕生だった。

                 *

 雪が、全身の熱く火照った肌に快感だった。彼のいるところは分かっている。九王子に
あるアンバー・マンション。そこにあの女といる。燃えつきようとする、理性の火の衰え
た闇の奥で、その思いだけが、ちろちろと執拗に燃えていた。
 
11・十二月二十五日 深夜零時五分 クランシー美夏の部屋

 美夏のベッドで、未来も軽いいきびをかいていた。結局、泊まってしまった。テーブル
の上には、クリスマスケーキの箱が四個と、無数の酒ビンがカラになって転がっていた。
ビールもウイスキーもワインも焼酎もあった。二人とも夜着のネグリジェの裾が、しどけ
なく寝乱れていた。ベッドで互いの美しい身体を、愛撫し会っていたのだ。

                 *

 非常呼集のベルに、ぱっと目を覚ましていた。
 都内に「巨女獣」が出現していた。しかも、一度に十二体もだった。
「ごめん。グランマ。仕事で帰れなくなったわ」
 美夏が、国際電話を掛けていた。

                 *

 未来は、戸外に走り出ていた。ドアの外の自動小銃を持った緑の服の男を、飛び膝の金
蹴りで悶絶させていた。任務の邪魔をするものは、容赦しなかった。遠くでサイレンが鳴
っていた。シブヤ方面の空が赤かった。火事が発生していた。
 雪がブリザードのように激しく降っていた。
 白い雪の空に「フラッシュ・スプレー」を高く掲げた。
「ジュワッ!」
 銀色の光が、聖火のように夜の闇を切り裂いて輝いた。ノイエ・シブヤまでは、巨人の
足で一分だった。オレンジの制服が、夜目に鮮やかだった。

12・同時刻 亞夷子の部屋

 オレンジの制服の胸の菊の花びら型の通信機が、非常呼集の赤いライトを点滅させてい
た。彼女は、久しぶりに田舎の実家に里帰りしていた。父母と弟と妹と楽しいクリスマス・
パーティをした。風呂に入って、あたたかい身体のままで久しぶりに自分の快適なベッド
に入った。

                 *

 その寝入り端を起こされていた。自動小銃の台尻で、美しい顔を殴るという手荒なやり
方だった。パジャマのままで、床に後ろ手で縛られていた。プロの縛り方だった。緑の服
の男達だった。革の黒いブーツの土足だった。部屋の畳を、踏み躙られていた。

                 *

「あなたたち、警察?それとも自衛隊?」
「もっと、恐いものさ」
 男はくわえ煙草の灰を、彼女の身体の上に落として嘯いていた。

                 *

 「フラッシュ・スプレー」は、取り上げられてしまっていた。他の『化特隊』のメンバ
ーとの連絡もつかなかった。隊長と連絡を取る必要がある。迂闊には動けなかった。階下
できょうだいの泣き声がした。亞夷子は、奥歯を噛み締めていた。

13・ 午前零時十五分 少名彦(すくなひこ)神社

 安寿田桂子(やすだけいこ)は、白と朱の巫女の姿で闇の底に座っていた。切れ長の鋭
い瞳が光っていた。しんしんと冷え込んでいた。庭が白く染まっていた。榊の緑だけが、
目にけざやかだった。

                 *

 祖父と父と兄の三人が、神棚の前の黒い板の間に座っていた。皆が、一尺以下の人形の
ような背丈である。ホルス薬の効果ではない。これが安寿田一族の、成人した時の男性の
平均的な身長だった。

                 *

 彼らの声は、小さかった。雪の夜の底に吸い込まれそうだった。だれがだれのものとも、
ほとんど区別ができぬ。しかし、ここから神の中の知恵者である少名彦の託宣を代々の安
寿田家の女は、巫女として聞き取ってきたのだった。

                 *

「東の国でスサノオが足を踏みならした」
「おお」
「おお」
「おお」
「多くの民が死んだ」
「おお」
「おお」
「おお」
「さらに多くの無辜の民が死ぬであろう」
「おお」
「おお」
「おお」
「イザナミが誓約を果たした」
「黄泉津」
「イザナギも誓約を果たすであろう」
「比良坂」
「ツクヨミも誓約を果たすであろう」
「血引き石」
「アマテラスが、よみがえる」
「光の女神が、よみがえる」
「光の国が、よみがえる」
「羅川亞門」
「押井律蔵」
「その名前の二つの魂」
「この時代に生まれるはずではなかった」
「まだはやい」
「はやかった」
「神があやまったのじゃ」
「あやまった」
「神が」

                 *

 闇が深かった。すでに何の言霊も聞こえてはこなかった。安寿田桂子は、その場を静か
に立ち去っていた。雪が降り続いている。

14・午前零時三十分 『化特隊』本部ビル 整備室

 シゲルは整備班員達とクリスマス返上で、せっかく解体した『ジェット・ビーグル』二
号機を組み立てようとしていた。三号機は、二人の隊員を乗せて緊急発進していった。初
號機は、篠原の工場に行ってしまっていた。「巨女獣」十二体が、一度に出現というのは、
かつて一度もありえなかった。非常事態だった。

                 *

 出動した隊員は、六名だけだった。一人が「巨女獣」二体に対応しなければならない。
普通は二人一組で、『モンロー』か「巨女獣一体に当たる。他は連絡も取れないか、取れて
も移動に時間がかかり過ぎた。現在、『化特隊』ビルにいるのは、蒲口キャプテンだけだっ
た。確かに、非常時だったが、差当って彼に今出来ることは、整備だけだった。オヤッサ
ンは、伊井田キャプテンの電話から姿が見えなかった。「シゲル、あとは頼むぞ!」そう言
い残していった。整備室の窓からは、横殴りの雪しか見えなかった。

15・午前零時四十五分 『化特隊』本部ビル 司令室

 蒲口は司令室で、「巨女獣」捕縛の報告を未来を筆頭にして、六体目まで受けていた。あ
と半分だった。さすがに仕事が早かった。後六体は、北海道から沖縄にまで分散していた。
移動に時間がかかるだろう。しかし、活動できる『ジェット・ビーグル』号が、二機ある
というのは幸運だった。しかも、一機は、あの伊井田キャプテンの操縦だった。彼女は、
日頃のうっぷんを晴らすかのように、もう一人で二体を処理していた。沖縄に飛ぶという
入電があった。

                 *

 ずし〜ん。ずしーん。巨人の移動する振動を伴う、独特の重低音の腹の底に響くような
足音がしていた。蒲口には、その足音だけで誰なのか、ほぼ見当がつくようになっていた。
しかし、これは、現役の隊員のだれでもない。本部周辺には、誰もいないはずだ。強いて
いえば……。

                 *

 雪混じりの闇の底に、オレンジ色の巨人がぼんやりと立っていた。そうだった。泉明子
隊員のものだった。彼女は、『化特隊』の白いヘルメットまで被った正装をしていた。整備
のために、明るく照明を灯した整備室兼『ジェット・ビーグル』号の格納庫の向こうに、
聳え立っていた。屋根は、彼女の太腿の半分までしか達していなかった。

                 *

 瞳は半眼で虚ろだった。操られているのだった。通信機にピロロロロオン、ピロロロロ
オンという異音が混信していた。泉元隊員を、操縦する電波なのかもしれない。オレンジ
色のブーツが持ち上がった。格納庫の屋根を、特撮映画のセットでもあるかのように、踏
み潰していた。蒲口は息を飲んでいた。あの下には、シゲルさんたち整備員が何人もいる
のだった。

                 *

 しかし。間一髪のところだった。泉元隊員の左から、篠原精密機械工業の『モンロー』
初號機が飛び出してきた。警察学校に展示されていた、記念すべき第一号機。それに整備
の神様、榊原が手を入れて命を蘇らせたのである。彼は自分が最後に機体を整備したこと
に、自信を抱いていた。かならず動くと言っていた。その言葉に嘘はなかった。
「イズミ〜!」
 操縦は、篠原明日馬その人だった。しかし、泉は『化特隊』の精鋭だった。旧式『モン
ロー』を、雪の上に一本背負いにしていた。だが、それは囮だった。

                 *

 銀色の光が爆発していた。
「ジュワッハハハハハッ!」
 隙をついていた。長い黒髪の伊井田キャプテンが、すぐ近くで変身していたのだった。
スピードにまさる泉を、伊井田の長い手足から繰り出される華麗な連続技で、押さえ付け
ていた。敵を欺くには、まず味方からだった。泉に縄を掛けた伊井田は、菊の花の送信機
に叫んだ。「ロイヤル・ストレート・フラッシュ!」各自、自由に行動せよ。『化特隊』隊
員だけの暗号だった。

16・同時刻 亞夷子の部屋

 壁に掛けたオレンジの制服の信号機が、白く光った。「ロイヤル・ストレート・フラッシ
ュ」。各自、自由に行動せよ。隊長の許可が下りた。亞夷子は、奥歯に埋め込んだ「オシリ
ス薬」のカプセルを噛み砕いた。普通は皮膚から吸収される。消化管からのオシリス薬の
効果は、爆発的に早い。野球のボールをぶつけられるようだった、自動小銃の至近距離か
らの発射の衝撃が、すぐにピンポン玉程度になり、砂粒のようになり、小雪のように感じ
られなくなっていた。亞夷子は、緑の服の男を鷲掴みにしていた。その身体の下に、家族
の安全を確保していた。各地の隊員も同じように問題を処理していた。人的な被害は、『化
特隊』の方には一人も出なかった。

17・同時刻 沖縄 米軍基地  

 沖縄の「巨女獣」は、銀色の巨人『イシス』が処理していた。しかし、まだ試作機の段
階である。エネルギーの消耗が激しかった。地上では三分間しか活動できなかった。静岡
から沖縄まで飛行するだけで、一分間が経過していた。戦う時間は、二分間しかなかった。

                 *

 胸の『ホルス・システム』は、エネルギーの残量があと一分間になると、赤く点滅を開
始する。カラーのタイマーになっている。
「敵に、弱点を教える必要はない!!どこに、そんな馬鹿がいるか!?」
 篠原明日馬は、強硬に反対していた。

                 *

 しかし、デザインに全面的に参加していた藤牧子は、伊井田キャプテンの忠実な教え子
だった。その趣味を主張した。自分の身体のサイズを『イシス』に模写することとともに、
最後まで譲らなかった。押し通したのである。だいたい『イシス』を操縦できる、シンク
ロ率の高いパイロットは、彼女しかいなかった。篠原は、そのことを秘密にするために、
わざわざAVビデオにまで出演してもらって、世をしのぶアイドルの仮面を被ってもらっ
たのである。富士の樹海で撮影されたあのビデオが、大ヒットしたことだけが誤算だった。

                 *

 『イシス』の力は、「巨女獣」を赤子のように扱った。問題にしなかった。足だけで、的
確に海岸線に追い詰めていった。安全に捕獲していた。

                 *

 こうして『イシス』は、沖縄に駐留していた米軍に、その圧倒的な能力を見せつけたの
である。これが、その後の日米関係に、大きな影響を与えることになるのだった。何しろ
その性能は、逆に言えば静岡・沖縄間の飛行に、一分間しかかからないものなのである。
脅威の新型兵器になりえた。

                 *

 動かなくなった『イシス』の背中から飛び出した、汗まみれの藤牧子は、そんなことも
知らぬげに、米軍基地の近辺の十二月の海で、ゆっくりと泳いでいた。火照った汗まみれ
の肉体を冷やしていた。身長五十五メートルの美少女は、水色のビキニ姿で、悠然と冬の
朝の海で海水浴を楽しんでいたのだった。珊瑚礁を破壊しないように、細心の配慮をして
いた。

18 翌年一月十五日 マスコミ各紙

 雌平警視総監の辞任が、閣議で了承された。理由は、「オシリス薬」の日本上陸を阻止す
る計画を全土で指揮しながら、結果的に、クリスマスの日の「巨女獣」十二体という大量
発生が示すように、上陸を食い止められなかったためである。その責任を取らされる形に
なった。

                 *

 『化特隊』隊員は、逆にその日の多大な功績を讃えられて、総理大臣賞を受賞している。
握手の時に、伊井田キャプテンの握力が強すぎて、高齢の首相が右手を骨折するというア
クシデントがあった。その点は若さに免じて、今回は大目に見られたということである。

                 *

 同日の新聞には、篠原精密機械工業の社長・篠原明日馬氏(36歳)と、元『化特隊』
隊員・現在同社秘書室長の泉明子さん(26歳)の、突然の婚約発表の記事と写真が、大
きく掲載されていた。新鋭機『イシス』の沖縄での実験については、なぜか小さな記事に
止まっていた。
『化特隊』シリーズ・3
『化特隊』の一番長い日・2 了
『化特隊』シリーズ 完

【作者後記】
 今回は、笛地静恵の願望充足小説です。めいっぱい遊ばせてもらいました。
 第一に篠原明日馬を、結婚させてやりたかったのです。

 第二に、彼の言葉で明白にした『カラータイマー』への疑問です。

 第三には『ウルトラマン』のメフィラス星人の回への疑問です。あんなに美しいお姉さ
んを巨大化してくれるならば、笛地はこんな惑星一個ぐらい宇宙人に簡単にくれてやるで
しょう。


 本当は長い長い物語です。『ホルス・サーガ』などを完成させる、試行錯誤の一部である
ことは、昔からの読者の方には、お分りになったと思います。

 新作のように見えるのは、藤牧子隊員の部分を書き足したためです。

 お楽しみくだされば嬉しいです。

 ご希望があればまた書きます。
(笛地静恵)