短小物語集
大日本女王帝国シリーズ
巨女組始末記・2
笛地静恵
 敵の手で毒を塗って、わざと落としてあるものも、あったんです。原則的に、私たちに
は、すべの生物兵器は無効です。たいしたことはないんですけど、敏感な肌がかぶれて、
痒くなったことがありました。その時にね、医療班が気が付いて、敏速に対応してくれた
んです。赤斑が出来ていることに、気が付いたんですね。日頃、足元から見上げているか
ら、当然なんですが。医療班の伍長が、「隊長」と話し掛けてきてくれたんです。「身体に
以上はありませんか?」

                 *

 そこで見せてくれたのが、さっきの写真です。自分たちに処置をさせてくれと、進言し
て来ました。私は場所が場所ですし、遠慮していたんです。軟膏をもらえれば、自分で付
けると言い張りました。しかし、彼らは、これが仕事なので、働かしてくれと主張して譲
りませんでした。「隊員の健康を管理するのが、私の仕事であります。」頑固な男でした。
「いいから」と断っても引き下がりません。それで、その時に、やらせてみたのです。も
し失礼なことをしたら、「ただじゃ、おかないからね」。内心では、そう思っていました。

                 *

 しかし、彼は化膿していた傷口を消毒し、薬を塗り、絆創膏を貼るという作業を、実に
手際よく実行してくれました。忘れてはもらいたくないのですが、身長十メートルの巨大
な少女の股間の上に、乗っているのです。それなのに平静で的確な作業でした。局部の違
和感と痛みが、引いていきました。「へえ〜」と感動していました。「餅は餅屋」という諺
は、本当だなと思っていました。

                 *

 彼らは職業意識のある、優れた軍人だったのですが、中には、こんな奴もいました。行
軍中の私の私生活のスナップを盗みどりして、ネットで画像を配信したのです。今にして
思えば、彼の私への好意が忍ばれる、可愛く映っているものが多かったのですが、とても
人様には見せられないものも、含まれていました。犯人が、必ず私の部隊の中にいること
は、明らかでした。しかし、長いこと正体が分かりませんでした。

                 *

 その後にも、いろいろとありまして、とうとうストレスのせいで、胃に穴があきそうに
なりました。

                 *

 訓練施設があった、不二山中の地下に帰還した時に、主治医の先生の診察を受けました。
胃のなかに潰瘍ができているというのです。手術が必要だということでした。先生は、特
別性の耐強酸スーツを着て、五十メートルに巨大化した、私の口から内部に入っていきま
した。食道の筋肉を弛緩させる注射のために、よだれを垂れ流しにしながら、生きている
男性を飲み込んでいくのは、たいへんな試練でした。先生にも重労働であったと思います。
それでも食道を下り、胃の中に潜って手術をしてくれました。先生が入っているあたりの
お腹が、ふくらんで、もこもこと動いています。動くと叱られます。先生には、洞窟の内
部で、大地震にあっているようなものでしょうから。言い付けられたままに横たわって、
じっとしていました。心配した痛みは、ありませんでした。お腹の中が、ちくちくした程
度で、済んでいました。先生を吐き出す方が、苦しかったのです。でも、仕方がありませ
ん。「嫌ならば、このままでもいいよ。待っていてくれれば、明日の朝、下の穴から出るよ」
そう無線で連絡して来たからです。それだけは、絶対に嫌でした。涙を流しながら、吐き
出しました。昨夜か・u桙轣A手術のために何
も食べていなかったので、黄色い胃液とともに先生が出てきました。鉄の床が、私の胃液
で溶かされて、腐食性の塩素ガスをブクブクと発生させていました。危険で苛酷な環境で、
作業してくれたのだと分かりました。「胃の粘膜まで、きれいだったよ」そう誉めてくれま
した。顔が赤くなっていました。

                 *


 この先生には、精神的にも、いろいろと励まされていました。短期間の入院で、前線に
復帰できました。なにかが、ふっきれたようでした。私には、自分の部下たちとも次第に
馴染んでいきました。スキンシップを、取るようにしたのです。先生との関係で、女とし
ての自信をつけたということが、大きな力になっていました。私は世間知らずの少女から、
自立したひとりの女になろうとしていました。膣は乳酸菌が発酵して、強酸性になってい
ます。それを中和する薬品を開発してくれました。


                 *

 戦闘そのものが、楽しくなってきました。敵のロボットには、歩兵以外にもさまざまな
形態があります。私が遭遇した最大の敵が、次のスライドです。組み写真になっています。
一枚目は、黄金の竜の形をしたロボットが、山にとぐろをまいています。火や毒液を吐い
て緑を枯らしていく憎い奴です。自然破壊の現況でした。こいつを相手にするときには、
私も本気になりました。最大の五十メートルに、変身することはめったにないのです。市
街地では、それによって被害を生じかねません。地下の水道やガス管まで、踏み抜くこと
はよくやります。荒っぽい私が、都市部には派遣されないのは、そのためです。しかし、
この時には、付近の住民の避難も、兵士たちの献身的な努力で無事に済んでいました。思
いっきり戦えました。黄金の身体に乳房を締め付けられながら両手で、竜の首を絞めてい
る私がいます。なかなか、かっこういいでしょう。ついでながら、今日のスライド写真の
ほとんどは、私の部隊の情報局の専属カメラマンが撮影してくれています。あのネットに、
私のファン・クラブのサイトを立ち上げた男です。

                 *

 二枚目は、ロボットが変形します。八個の首をのばして、同時に襲いかかってきました。
毒液や高熱の炎を吐いてきます。やりたいように、させていました。敵のへなちょこの炎
では、やけどもさせられません。八つの首を順番に、叩き潰したり、叩き落としたり、ね
じ切ったり、踏み潰したりして破壊していきました。とうとう竜の心臓部である原子炉を、
胸から掴み出してやりました。そのエネルギーを口から逆転させて、逆に竜を溶解してや
りました。

                 *

 これだけ手強い時間のかかるロボットは稀です。普通の機動歩兵は、私たちにとっては
ブリキの人形です。小人の兵隊さんとの、戦争ごっこのようなものです。ストレス解消の
場でした。思いっきり暴れてやりました。さきほどの南方島戦線の、敵の上陸作戦阻止の
記録映画でも、私たちは遊んでいるように見えたでしょ?今のところは、あんなものです。
圧倒的な力の差がありますから。最新型の二足歩行の機動歩兵ロボットといっても、ブリ
キのおもちゃのようなものです。私たちの力と速度に、まったくかないません。体長も、
五、六メートルです。もちろん、生身の兵士百人が、一度に惨殺されたという忌まわしい
過去が、軍歴にはあります。でも、今は、私たち巨女兵がいます。何も恐れることはあり
ません。私は、部下の前に立って身体で、ロボットの弾幕を防いでやっていました。その
まま体当たりして破壊してやります。もっと、楽しい倒し方もありました。

                 *

 ああ、この時は敵の手で、すでに砂漠化させられてしまった地帯でした。砂地に丸を描
いて、即席の土俵にしていますね。機械を相手に、私は良く相撲を取りました。もちろん、
もう少し大きくなって、足元にじゃれつく、悪い子犬を躾けるように、踏み潰してしまう
こともできます。それで、簡単に決着がつきます。私の股間から内腿にかけて、赤い血の
線状があるでしょう。これは、怪我しているのではなくてね。女の子の自然な反応です。
生理です。巨大化しても、妊娠しているわけではありませんので。毎月に一回の訪問者は、
きちんとやってきます。ナプキンはね、綿のお布団を使用します。戦闘中は外しちゃいま
す。生理前からね、妙に戦闘意欲が、向上しているんです。生理中は、それが最大になり
ます。ホルモンの関係なんだと思います。私は部下に、すべてを包み隠さずに見せること
にしていました。四六時中、一緒にいるのですから、隠すことが不可能なのです。他の巨
女兵士たちも、個人差はありますが、みんな私と同じような大同小異の苦労を経て、なん
とか部隊に溶け込んでいったようです。

                 *

 大日本女王帝国古来の、神前相撲をロボットとすると燃えます。周囲を、味方の歩兵部
隊百人の観客に取り囲まれて、声援を受けている訳です。このスライドでは、私ものって
いますね。四股まで踏んでいます。大きく脚を上げると、男性兵士から歓声が沸き上がり
ます。分かりますよね。あの支給品の高価なビキニも履いていませんでしたから。彼らに、
私の身体をオカズにされても、仕方がありません。普段は、その分、ご迷惑をかけている
んです。日常生活のすべてを見られています。行軍中には、人間ですから、時には屁だっ
てします。五十メートルのサイズになっていると、それだけで大暴風です。兵士を数人、
空中に吹き飛ばしたこともあります。

                 *

 私の落とし物である黄金の山は、工兵の衛生部隊が、付近の住人の迷惑にならないよう
に、ショベル付きのブルドーザーで、穴を掘って始末します。軍の決まりになっていまし
た。これが、たいへんな作業なのです。はじめの頃は、できるだけ手間暇をかけないよう
に、自分の手で処理をしていました。が、だんだん、お任せするようになってきました。
私の排泄物は、化学兵器のような毒性があるのです。悪臭が、周囲数キロメートルまで急
速に拡散していくのです。足元の緑の木々が、チリチリと音を立てて茶色に枯れ死してい
く光景を見ていました。吸引すると、失神するぐらいの効力があります。まるで怪獣の落
とし物です。私たちの生理が、特別性なのですから仕方がありません。すぐに、特性の消
毒薬を散布する必要があります。鋼鉄製のショベルも大便の中に、なお残存する消化液に
よって、すぐにぼろぼろになってしまいます。彼らは防毒マスクをつけながら奮闘してい
ました。プロの駿足な仕事ぶりを見せてくれました。

                 *

 戦争ですから、時には部下の死にも立ち合います。何人もが、私の胸に抱かれて死んで
いきました。また産んで上げると誓っていました。希望者は、涙を流しながら、食べて上
げました。私の血と肉になって、生まれ変わることを願ったのです。彼らは、すべて私の
身体に生きています。その顔と声と名前を私は生涯忘れません。私が生きているかぎり、
彼らは私の内部にあって死なないのだと思っています。

                 *

 こうして全国を九人の巨女兵士たちは、歩兵部隊を従えながら、巡業していきました。
敵の機動歩兵ロボットを、すべて始末していきました。それに一年間を費やしました。今
では国内も、ずいぶんと平和になってきましたよね。その影に、私たちの努力があったこ
とを知ってもらいたいと思いました。

                 *

 百人の小人の子供を従えた、お母さんのような神妙な気分になっていました。一心同体
の気分になってくるんです。戦場で、さっきの校庭の遊園地ごっこも、思いついたのです。
兵士の慰安のためでした。好評でしたよ。土俵に敵の憎い機動歩兵を叩きつけて壊してや
ります。大歓声が沸き上がります。私は彼らの英雄になってきました。

                 *

 私のこうした態度を、神聖な戦争に対して不謹慎だと思われる方が、きっといると思う
んですね。でも、そうでもして楽しまないと、兵士なんてやっていられません。上官の命
令に、唯々諾々と従っているだけでは、面白くないではありませんか。みなさんだって、
学校の先生の言うことだけに素直に従っているだけでは、煮詰まってくるでしょう。戦場
に娯楽はありません。自分で作るしかないのです。何でも、楽しみに出来るような精神力
がないと、勤まりません。代表的なスライドを一枚です。

                 *

 砂丘の影で、人からは見えないつもりで、敵からぶんどった戦車の砲塔で、真剣にオナ
ニーに耽っている、はしたない子の映像です。ウフフ。両手を顔にあてても、指の間から
見ちゃうでしょ?私の希望で、特に入れておきました。彼女の使用許可も得ています。自
分のを、何か使用しようと思っていたのですが、私の部隊の専属情報局員が、そのような
場面は遠慮して、撮影していないんですね。プライヴァシーを守って頂いたことには、感
謝します。そういうところは、妙に義理堅いのでした。私は、女性としての欲望の解放に
は積極的です。感じてくると遠慮なく声も出すのです。どこで何をしているのかは、筒抜
けだったと思います。部下には、いつでも抱いてやると宣言していました。Cは恋人以外
に絶対にさせませんが、AとBは、自由にさせてやると公言していました。我慢できなく
なったら、来いということです。こんなに大きいのですから、少しぐらい使っても、身体
がすり減る心配はありません。

                 *

 実はね、この戦車の中には、無人ではなくて、まだ敵の乗員がいます。組み写真になっ
ているのです。次の一枚に移ってください。この股間の火は、膣の中に発射されているの
ね。そこで爆発する時の衝撃が、うふふ、けっこう来るのよ。熱さもあるでしょ。感じて
いる時の、女の子の表情って、無防備で可愛いと思いませんか。この唇のよだれが、チャ
ームポイントですね。でも、こんなに感じさせちゃっていいのかしら?彼らには責任を、
取ってもらわなくちゃなりませんよね。なにしろ女の子の膣の中で、発射してしまったん
ですから。彼女の特技は、悲鳴の超音波ですから、クライマックスには近くにいない方が、
良いと思います。耳栓は、部下の兵士には、必需品だったようです。敵の末路は、ご想像
にお任せします。きっと、みなさんの心に浮かんでいるものと、あんまり外れていないで
しょう。女の本能って同じですから。自分にないものを、あるもので、満たしたいでしょ。
そうよね?(笑)それに愛液も強酸性ですから、後の始末は簡単でした。それでも、柔ら
かいところは柔らかいのよ。私の部下が、知っていることです。みなさんも、校庭で熱い
血の流れる生身の身体で・u桙 ることは、体験し
てくれたと思います。

                 *

 これは、一転して九人の巨女兵士が、集合した時の食事の時間です。実に和やかな雰囲
気ですね。みんなも笑顔になっていて。食べているときは、人間は幸福な気分になれます。
夜食の風景。私は、右端で肉汁のスープを飲んでいますね。食料は、これはもう、有名に
なってしまっていますから、あえて白状しますけど、主に敵兵を食べていました。他に戦
場で、私たちの膨大な食欲を、満たしてくれるような大量の食料の供給って、可能だと思
いますか?銃後の市民の食生活も、いろいろと不足して窮乏していたと思います。育ち盛
りの皆さんは、お腹が減ってたいへんだったでしょう。兵隊さんの糧食なんて、私たちが
本気になったら、一日で、一人の兵士の一ヵ月分を喰い尽くしてしまうでしょう。背に腹
は変えられません。機械化帝国の兵士の身体の、相当な部分が機械化されて、サイボーグ
化されていることも、分かっていました。大脳さえもコンピュータが入っています。彼ら
は、本当に人間なのでしょうか?機械の部分は硬い骨のようでした。ぐちゃぐちゃに噛ん
でから飲み込めば、後は、私たちの特別性の胃液が消化して、吸収してくれます。鋼鉄の
細胞の栄養には、鋼鉄も必・u棊vな成分なのではな
いでしょうか?ぜいたくに、ぺっと吐き捨てている者もいました。旨い肉の部分だけを啜
っていました。


                 *

 戦争は、きれいごとではありません。醜くて、汚いものです。今日は、そのすべてを、
みなさんに包み隠さずに、知ってもらおうと思っています。

                 *

 『巨女組』にマキという子がいました。父が、フランス料理のレストランのシェフだと
いうことでした。彼女は、肉料理は得意でした。鉄板焼きは絶品でした。塩と胡椒ぐらい
しか、調味料はなかったんですけど。私たちみんなが、毎日、飽きる事無く、食べていた
んですからね。おいしいのだと思います。私は大好きでした。そうだなあ鳥肉のささみの
味に似ているかしら。

                 *
 
 一回に一人で数人分は、頂いていましたね。死体は喰いませんでした。生きている場合
だけです。毒を飲んでいる場合も、あったようです。自爆するようなものですが、私たち
を倒すための、最後の手段だったのでしょう。私も、一度だけ、ひどい下痢になったこと
があります。でも。「征郎丸」という薬を飲むと、ぴたりと止まりました。さっきも、いい
ましたけど、巨女兵はBC兵器に、抵抗力があるんです。なんでなのかというとことは、
巨大化の原理と関係する軍事機密なんで、ここでも、みなさんにお話することはできませ
ん。

                 *

 彼女の肉料理は、主に和風な味付けだったかしら。残酷だとは、思いません。戦争は、
原理的に食うか喰われるかの、行為ですから。まさに弱肉強食の世界です。それを素直に
実行しただけです。

                 *

 戦闘って、こんなものだという一面を、知ってもらいたいと思いました。単体でのロボ
ットの敵を、恐れる必要はもう何もありません。私たちが退治します。恐いのは、機械化
帝国の兵器の工業生産力です。物量作戦です。たとえば、わが国の機動ロボット歩兵の生
産力は、明らかに敵国よりも、十年遅れています。そのために、止むを得ない戦力差を解
消するために、巨女兵が誕生したのだと言ってもいいでしょう。

                 *

 私の現在の身長は、この体育館の天井に、ようやく頭の髪の毛が触れそうなぐらいです。
みなさんの三倍のサイズから、最大、五十倍まで巨大化できます。ためしに、コンクリー
トの三階建ての校舎よりも、大きくなってみました。最大サイズは、さっき直線距離で縦
に百メートル走のコースが取れるという校庭に横になって、お見せした通りです。私の身
体の上に乗って、三百名の全校生徒のみなさんに、自由に遊んでもらいました。どうでし
たか。凄かったでしょ?山登りも、谷間の探険も、落し穴も、尾根下りもできました。遊
園地みたいだったでしょ?サイズを実体験してもらいたいので、どこの学校でもやってい
ます。男子校でやると、もっと評判がいいようです。(拍手と口笛。)

                 *

 どういうわけか、三倍の背丈以下に、小さくなることはできせん。まだ、その理由も、
解明されていません。当然に、薬もできていません。でも、わが国の優秀な医学陣の研究
と努力によって、いつかは私たちが、普通の平和な市民生活をおくれるようなサイズに、
戻してくれることを信じています。

                 *

 恋ですか?ついに、来ましたね。聞かれると思っていました。(笑)。いまでもしていま
す。恋人もいます。戦争という非常時であろうとも、女の子から恋を取り上げることは、
だれにもできないと思います。お相手は、私の巨大化の処理をしていただき、胃のなかの
粘膜の色まで知っている、主治医の先生です。彼とは時間が合うときに、デートもします。
プロポーズもされました。元のサイズに戻ったら、結婚する約束をしています。(拍手と歓
声)。ありがとうございます。うれしいです。

                 *

 ついでに言っておくと、SEXもします。二人の関係は、とても旨く行っています。で
きるのかと、疑っている人も、いるようですね。笑い声も聞こえますから。そういう人は、
SEXをペニスとヴァギナの肉体の結合という、とても狭い範囲の方法で、考えているの
です。女性は、男性の手でも指でも足でも、口でも喜びを得られるということを、忘れて
いるんです。どうしても、膣の中にペニスを入れて、射精してもらわなくちゃと考えてい
る女性は、勘違いをしていると思います。それは、生殖のためには絶対に必要なことです
が、愛のためには、二次的な条件でしかありません。

                 *

 彼は、私を満足させてくれます。別に、男子学生のみなさんが夢想するような、夢のよ
うな巨根の持ち主ではありません。それから、バイブレーターなどの道具に、頼っている
のでもありません。このままの肉体の結合です。SEXは、お互いの愛情でするものです。
本当に愛し合えるパートナーと出会える時がくれば、私が何を言っているのかが、分かる
と思います。

                 *

 証拠のスライドをお見せします。衝撃的な一枚です。有名なものなので、見た方は大勢
いるでしょう。偵察衛星の高度から撮影されているものです。敵の前線基地が作られてい
た、大日本海の、大日本帝国固有の領土である「サドが島」を、奪還した作戦の時のもの
です。大日本海の制海権を取り戻さないことには、島国の大日本女王帝国は、その長い海
岸線のどこからでも、機動歩兵のロボットを送り込まれてしまいます。ゴキブリの巣を叩
く必要がありました。それが、「サドが島」だったのです。そこに、機械歩兵の工場を作ら
れていました。九人の巨女兵士が、一ヶ所に集結したのは、南方島戦線から、一年ぶりの
ことでした。凄いですね。それぐらいに大事な作戦でした。

                 *

 私が立っているのは、海中のサンゴ礁の島ではありません。敵の一万人の部隊が集結し、
過去三年間に渡って生活していた島です。私の身長が、千八百メートルという山のような
ものになっているので、尺度の感覚が、おかしくなっているでしょ?この膝の辺りに、漂
っているのが、キノコ雲なんですよ。

                 *

 私たちは、敵の死に者狂いといいたい、局地的な限定核攻撃を受けました。敵兵も一万
人が犠牲になっているのです。信じられますか。味方を見殺しにしたのですよ。私たちを
倒すために。これが戦争なのです。脳髄を機械に支配された狂った独裁者の国を、このま
まにしておいて良いと思えるでしょうか?

                 *

 核爆弾によって、九名しかいない巨女兵士の内の、貴重な戦力である、生涯の戦友二名
を失いました。残りは私が核エネルギーを、自分の巨大化のエネルギーに転換させること
によって、奇跡的に生き残れたのです。これは、愛する彼の腕の中に帰りたいという思い
が、強くあったからだと思っています。生理的な反応が、超人間になっているからだけで
は絶対にありません。私の中に生きている部下のためにも、死ぬわけにはまいりません。

                 *

 しかし、この時には、私も能力の限界を越えてしまっていました。通常の最大値の五十
倍体を越えて、千倍体にまで変身してしまったのでした。元の身体に戻るために、長時間
を費やしてしまいました。体内に蓄積されたエネルギーを放出するために、長時間を費や
しました。夜間でも青白く光っていたので、大日本海側の沿岸地方に生活していた人は、
水平線に立ち上がる青い雷雲のような私のシルエットを、目撃した人がいるかもしれませ
ん。

                 *

 その間に、私は海峡を徒歩で横断していました。二人の仇を取ろうということで、残り
の七人の意見が一致していました。本当に頭に来ていました。怒り心頭です。私たち七人
は、対岸の敵の重要な軍港と主力艦隊を、殲滅しました。私の家族を殺した、黒い蝙蝠型
の爆撃機も、すべて踏み潰して来ました。しばらくは、牙を抜かれた獣でしょう。最後の
一枚のスライドです。この口から放射能の炎を吐いて、暴れているのが、身長千メートル
の私です。毛髪から青白い稲光が放電しています。足元には、何発もの落雷があったよう
です。もう、まるっきり怪獣ですね。

                 *

 ここからは、真剣に話すので、正座させて頂きます。この働きで、十八歳の一少女にす
ぎない私が、救国の英雄と崇められています。二階級特進もさせて頂きました。それで、
ここにいる訳です。偉そうに話しています。武勲の原因は、巨大化にともなう超能力の発
現にありました。しかし、私自身にとっては、生き残れた理由は明白なのです。愛が、私
を救ってくれたのだと思うのです。

                 *

 みなさん。私たちの大日本女王帝国は、女性が不老長寿の神秘の国です。身体も生涯に
渡って、大きくなっていきます。私たちは、その能力を極限まで引き出しているだけです。
その謎を求めて、全世界から狙われています。十六歳になる女子高生のみなさんは、『巨女
組』に志願できます。私たちは、若い力を必要としています。今日こうして、長々と赤裸々
なまでに、私の戦争の喜びと苦しみの体験を、お話したのも、新しい力の参加を、心から
求めているからです。今回の大戦には、圧倒的に勝利できました。が、次回は、敵も『巨
女組』に対抗する、新しい兵器を開発してくるかもしれません。さらに巨大なロボット兵
器の投入は、容易に考えられます。油断はできません。地球の半分を支配する機械化帝国
の、物質的な科学力と兵器の生産力は、私たちよりも進化しているのですから。

                 *

 未知の脅威に対抗するためには、万全の準備をしておく必要があります。それに備える
ためには、まだまだ『巨女組』の絶対数が不足しています。

                 *

 祖国を守るために、戦い続けましょう。敵のプロパガンダにあるように、大日本女王帝
国は、世界征服を求めている悪の帝国ではありません。過去に、国境を越えて軍を派遣し
たことは、歴史上有名な神風戦争以外には、私が止むを得ず実行した一度しかありません。
あれも、核兵器を使用されたための、正当防衛だと思っています。隣国に核ミサイル発射
基地の存在を、許容することはできません。破壊する必要がありました。世界連合の国際
法廷で審議中です。
                 *

 惑星地球の大気が、核兵器によって汚染されない、恒久的な平和を築くために、戦って
いるのです。私は、機械化帝国と大日本女王帝国の戦争を、機械と人間の戦いと理解して
います。彼らは、自分たちの遺伝子によっては手の届かない不老長寿を、機械によって叶
えようとしているのだと思います。人間の身体が、機械によって完全に代替された世界に、
人間の愛が存在すると思いますか?私たちの愛のための戦いという使命に賛同される方は、
これから本校で実施される予定の、『巨女組入隊試験』への参加を、強く希望しておきます。
一次試験は簡単な知能テストと身体検査です。ともに戦いましょう。ご清聴を、ありがと
うございました。(万雷の拍手)
巨女組始末記・2 了
(終わり)
【作者後記】ある日、古い馴染みの護持寺阿修羅(ごじでらあしゅら)女史が、心の中で
演説を始めてしまった。それを文章にして、発表してくれという。この忙しいのに、嫌だ
と断ったのだが、やめてくれない。仕方がないので、こうして公開することにした。

 軍人である護持寺女史と笛地とは、戦争と平和に対する理解を、異にすることは明記し
ておく。

 護持寺阿修羅は、『巨大女子高生地球征服記録』と同時期に書いていた、ユーモアGTS
小説『三大ビキニ女子高生 南海の大決闘』(未発表)の脇役の一人だったのだ。ある南の
島で、巨大化した三人のビキニの女子高生が、島の観光客と人々を奴隷にして、支配する
という話である。しかも、彼女たちは、ある一人の男子高校生を間にして、四角関係にな
っていた。島を三分割して統治するように、事態を紛糾させていく。

 笛地の心の中には、何人かのキャラクターがいる。千鶴子も、麗子も、誰かれも、それ
ぞれの人生の時間を生きている。実人生で出会った何人かの女性たちよりも、よほど詳し
い消息を知っている。物を書くというのは、不思議なことである。

 その内に、彼女たちについても、報告する時が来るのかもしれない。

(笛地静恵)