【訳者まえがき】
 『クラッシュ!』は「喰い」系の小説です。不快になる方は、作者の注意にあるように、
読まれないほうが賢明でしょう。

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 「スター・トレック」の「ネクスト・ジェネレーション」編のサイド・ストーリーにな
っています。
 ディアナとビヴァリーという、二つの大輪の名花のような美しい熟女たちが、主役にな
っています。
 まさに「大々的」に登場します。

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 特に笛地は、ドクター・ビヴァリー・クラッシャーの大ファンなのです。ディアナと比
較すると、肩幅の広い大女に見えます。
 西洋人の成熟した大人の女性の、チーズのように発酵した、大人の色気が匂います。

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 巨乳でも、胸板が広いのです。間が開いているので、乳房自体は小さく見えます。
 欧米には、よくそんな体型をしている方がいます。
 小柄な日本人であれば、胸元に顔を寄せるだけで、彼女の身体で視野が占有されること
でしょう。抱擁されると、全身で抱まれている感覚があると思います。実にエロティック
な体験です。
 相撲取りで言えば、かつての横綱、輪島のようです。懐の深い体格なのです。

 日本人の女性には、ほとんどいないタイプでしょう。プレイボーイのスウィム・スーツ
のカレンダーには、そうしたスタイルの美女のビキニの写真が、つねに飾られていますが。
 笛地には、ビヴァリーの付けているだろう年上の女性の好む、ある種の香水の薫りの銘
柄までが、想像できる気がするのです。

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 新『スター・トレック』シリーズは、ケーブル・テレビで、たまに見ていただけです。
長い話の全体像が、つながっていません。
 翻訳に、誤りがあるかもしれません。特に訳語の選択に、全く自信がありません。詳し
いファンの方に、訂正していただけたら嬉しいです。

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 作者のポイゾン・ペン氏は、作品の数は少ないのですが、スコット・グリルドリグとは
異なった意味で、このジャンルの最高の作家のひとりだと思います。
 作品数が少ないのです。しかし、残された作品は、傑作ぞろいだと思います。

 人間の狂気を、重厚に描写します。
 ご覧のように「喰い」を書くことを恐れませんでした。
 この時代には、孤立無援。大変に勇気のいる行為だったと思います。興味本位ではなく
て、人間性の暗黒の深淵を描いているという、強い自負があるからなのでしょう。

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「激越なファンタジーを、心に秘めて表出しないでいると、それは力を強めてしまう。強
迫観念にまで成長し、個人の精神を押し潰してしまう。」

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 心理学者ディアナの意見は、笛地の創作の根本にある動機と同じです。

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 ペンネームからしても、インクではなくて、毒薬(ポワゾン)で小説を書いているとい
うことでしょう。
 恐ろしい人なのです。
 象徴的で、哲学的な、深い側面が作品にはあるのでしょう。笛地には、その詳しい分析
はとてもできません。
 ただ「喰い」のテーマの追求において、世界最高のGTS作家の一人だと思うだけです。
スコット・グリルドリグでさえ比肩できないでしょう。
 しかも、ひとつひとつはパロディを多用した、軽妙な設定になっています。深刻な内容
を扱いつつ、小説として読んで楽しい点は、高く評価するべきだと思います。

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 『クラッシュ!』は、緊密に構成された、SF短篇の名作でもあるでしょう。贅言は、
不要だと思います。
 一度読み終えてから、自分が一市民となって、この事件を体験したとしたら……。
 廃墟の青い空に君臨する、巨大なディアナとビヴァリーの姿。
 それを、小人の視点から想像すると……。
 どうぞお楽しみください。
 笛地静恵。