幻想郷の一角にある屋敷、そのなかには今や見かけなくなった大型ブラウン管TVを分解する河童-河城にとり―、とそれを見守る私―八雲紫―。

「へへへー、これで修理完了です!」

そういってにとりは裏蓋をはめると電源ボタンを押した。暗い画面に光がともる。軽快な音楽と映像が私の目と耳を刺激してくれる。

「ありがとうね、持ってきたは良いけど直せるってわけじゃないから困っていたのよね」

先ほどまで煙を吹いていたTVは、今や見違えるように綺麗になったわ。
……………というよりも明らかに見てくれが違うわよね?ずいぶんと薄くなっているわ。それに映像もきれいだし音もクリア。何よりTVの後ろから生えている~、何あれ?触手?

「サービスで自己修復機能を搭載した触手をつけときました!万が一壊れたらこのドライバーがふたを開けて、このレンチが裏側の基盤をいじって、この半田コテが連結部分を~」

ああ、そういうやつね。うねうねと動く上にごちゃごちゃとついているから、大人のオモチャかと思ったわ。

「はいはい、そういう説明はいいわ。あとで式にでも伝えといて」

どうせ聞いてもわかんないし何より面倒くさい。それに、そろそろ止めないとこの娘自爆スイッチまで付けかねないわ。

「あ、自爆スイッチはこれですので間違えないでくださいね」

うん、とりあえず橙が来たときは要注意ね。というか電源ボタンの横に付けているわよね。寝起きでボーっとしたまま押したら最強の目覚ましになるわよこれ…。いや、永眠すると考えればむしろ眠ってしまう?

「ま、まあとりあえず画面がついてくれたらそれでいいわ。ありがt「お代は?」

ん?普通会話って相手の言葉を言い終わるまで待つものじゃないかしら?

「えっと、s「お代は?」

ああ、これが俗世間でよく言う「勇者がハイというまで懇願する王様現象」ってやつね?
さあお礼を乗せろと言わんばかりに手を突き出してくるわこの河童。

「わかったわ、それじゃあ「お代は?」

聞けよ!渡すわよ!そこまでケチじゃないわよ!今そういう意思見せたでしょ!順序守ってよ!………まあここで切れても大人げないし、冷静に冷静に。

「お礼として「お代は?」
「だから聞けよ!どれだけ飢えてるのよあなた!」
「こっちだって商売なんです!ロハで何でもすると思わないでください」

だんだん腹が立ってきたわね。払うって言ってるでしょうが。
……!
そうだ、良いこと思いついたわ!

「ねえ河童さん?あなたって外の世界の機会に興味があるのよねぇ?」
「!!!!!!」

よし、まずは食いついた。まさに興味津々って顔ね。

「まああなたも知っていると思うけど、私は境界をいじれる程度の能力を持っているわ。当然に外の世界にも通じることができる。ここまで言えばあとは分かるわよね?」
「そ、外に行っても良いってことですね!」
「ええそうよ。あなたの望む場所に連れて行ってあげる」
「じゃ、じゃあアレ!アレがあるところに行きたい!」

アレ?ああ、今ちょうどTVに映っているあの建物ね。名前なんだっけ?確か…そう!
スカイツリー、だったわね。

「良いわよ~、そこでイッパ~イ、見てくるといいわ」

フフ、万歳して喜んじゃって。まあせいぜい見てくると良いわ。もっとも、サイズが千分の一になっての世界だけれどもね。ウフフフフ。

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「はい、じゃあ行ってらっしゃい!」

そういって私をスキマから押し出したけどさあの紫ババア、何これ?
なーんで全部小さいのよ!
ここトウキョウって場所でしょ?天を突くような高層建造物が建っているあのトウキョウ。この私の指で潰せそうなのがビルってやつ?というかさっきから私の足裏でバキバキいってるけど踏んでる?まあこの大きさじゃ足の踏み場もないけどさぁ…。

「そっちの世界はどうかしら?」

この声はあの紫ババア!

「なーにがどうかしら?よ!こんなに小さいんじゃ研究できないじゃないですかー!」
「あらあらー、ちゃんと連れてきてあげたじゃない?」
「小さすぎるって言ってんのよ!年取りすぎてぼけちゃったのかなー?」
「良い?よく聞きなさい?」

けっ、弁解があるなら聞いてやるぞ婆さん。

「いきなり異世界からやってきた人が研究させてって言ってやらせてくれると思う?無理よ。考えても見なさい。あなたの家に急に誰かが来て、さあ君の工具を触らせてって言われてあなたは渡すの?」
「ま、まあそうかもね。変に触られて壊されたらいやだし」
「そうでしょ?だったら~、勝手にやるしかないじゃない?」
「う、うーんそうなる、のかなあ?」
「それにあなたが調べたいって言ったスカイツリー、とても大きいでしょ?いつものサイズじゃあ1か月あったって分解すらできないわよ?」
「た、確かに周りの建物よりデッカいし、時間かかりそう…」
「だからあなたを大きくしたのよー。サイズの境界をいじくってね。これであなたは邪魔ものを排除しつつ、大きな建物を調べ放題になるのよー?」
「なるほどー、そこまで考えてあったんですねー」
「そういうこと」

まあそう考えれば納得だね!それじゃあ調べますか!

「ねえ河童さん?さっそくお邪魔虫が来たみたいよ?」

ん~?なにあれ?空飛んでる銀色の物体、新種の虫かな?

「あれはこの世界の兵器よ。戦闘機っていうの」
「え、ということはあれも機械なんですね!」
「そうよ~。だから後でいくつか持ち帰っちゃいなさい。あれなら幻想郷に持ってきてもいいわよ~。あと地面にいる緑色のものは戦車といって、こっちも面白いと思うわよ~」

ヘヘ、機械が向こうからきてくれるなんて嬉しいな。でも今は制限時間があるからスカイツリーから調べて…。

ヒュー――…ドカーン

「わああああ!洋服が燃えたあああああ!」
「落ち着きなさいな。ちょーっと服が焦げただけでしょう?」
「な、なんなんですかこれ!」
「戦闘機の攻撃ね~。ミサイルっていうの?たぶんそれよ」
「小さいくせに生意気な。あぁ、ボタン焦げて緩くなっちゃった~」
「でも体は問題ないでしょ?一応結界を張っておいたから」
「まあ皮膚には何もないですね。でもこれ気に入ってるのに~」
「ショックを受けているところ悪いんだけど、あと2時間ほどで幻想郷に戻ってもらうわよ?そんなボタンにかまけていていいの?」
「ええ!あと2時間!じゃあ早くやらないと!」

あーもうボタンなんて外しちゃえ。胸なんて見られたって別にいいし!
そ・れ・じゃ・あ!分解開始―――――!