生徒会長である私は、始業の1時間半前に登校し、校門にて他の生徒を出迎える。
寝起きのだるさに頭を悩ませながらも、恙無く公務をこなした。
1時間後、遅刻した生徒を生活指導員の先生に引き渡し、教室に向かう。


 1時限目は体育。クラスメイトは既に着替えを済ませ、校庭に集合している。
誰もいない教室着いて気を抜いてしまった。気怠さに飲み込まれる。
仕方がない、「背伸び」に頼ろう。例え一時と言えど、私に至福の時間を与えてくれるのだ。


「んー。なかなか珍しい日になりそうね」

 学校の門先に立っていた時も、担当の先生に指摘されてしまった。
気怠さと闘う私の姿は、どうも落ち着いたものではなかったらしい。
私にとっても初の経験だったから、それはそれは珍しく見えただろう。


 時間には余裕があるので、いつもよりゆったりと準備をする。
いつも通りハーフパンツを穿いて、半袖の体操着を着る、のだが……。

「あれ、丈が足りない」

 この学校では、体操着の強制購入の機会は1年の最初だけ。
高校生になって体操着の買い替えが必要なのは、成長期真っ盛りの男子と一部の女生徒だけである。
問題は、私がその一部の女生徒であるということ。


 数週間前、始業式に向けて衣服の整理をしていた時の事だ。
ふと思い立って体操着を着てみると、胸周りがきつい。
成長することは喜ばしいのだが、それが故に出費がかさむのは勘弁してほしいものだ。
ちょうど買い替え時でもあったので、今後の事も見据えてワンサイズ大きめの体操着を新調したばかりだったのだ。
それが、新年度始まって2度目の体育で限界を迎えるとは思いもよらなかった。


 今朝から続くだるさにつき、急に増えた胸といい、不可解なことが沢山だ。
17年間完璧超人であるツケが回ってきたのか、今日は不幸のバーゲンセールになりそうだ。
恥ずかしながらも、きつくなった体操着をへそ前でひらひらさせながら、校庭に出た。


 結果、私はもてはやされた。
テニスの授業中、敵味方どころか、コートという垣根を越えて盛大に。主に乳が。

「うっわぁ、また一段と大きくなったねぇ。母乳でも出るんじゃない?」

 人望が厚いというのはよろしいことだが、人望にも種類というものがあるわけで、これはちょっと遠慮したい。
普段意識せずに触っている胸が、他人に揉むために揉まれているというのは対応に困る。
振りほどこうにも後ろからホールドされていては難しい。無理やりにでもすれば怪我をさせてしまうかもしれない。
何もせず、じっとしているのもあれなので、今朝からの疑問をぶつけてみた。

「私、本当に大きくなっているのかな」
「なってるなってる。500gくらい増えてるって」
「そうかなぁ」
「絶対なってるって。毎日揉んでる私が言うんだから違いないわ」

 発言の真偽を確かめるように、私の胸を揉んでいた両手はより激しく動いた。
500gか……。そういえば、近頃体重は計っていなかった。思わぬ収穫だ。
普段通りの生活をしていれば、贅肉が付いて体重が増えるなどあり得ないこと。
体重を測れば今回の件はきれいさっぱり解決するかもしれない。

「ありがとう、気が楽になったよ」
「あ、そう?じゃあもっと揉んでやろうか、このいやしんぼめ」
「い、いや、そういう意味ではなくて……」

 放課後にでも保健室に行ってみようか。
体育終了のチャイムを聞きながら、私は胸を揉まれていた。