==========
“The 40m”
==========

いつからだろう。私はずっとここに座っている。

膝を抱えて、頬を膝にのせて背中を丸めている。
目は瞑っているが時たま開けたりすることができる。瞼の動きは私自身じゃコントロールできない。

目を開けられたときには一面は緑草が広がっていた。私自身じゃ身体は動かせないからわずかに開けた瞳を斜めに見下ろした光景がそうだっただけなのだが。
獣皮を着た人たちが藁で出来た家で集落を作っていた。
どうやら私の体は彼らよりもずっと大きかった。きっと私のくるぶしぐらいの高さしかない小人さんたちは私の周りで暮らすことが安全だと考えているらしかった。私はずっと裸だったからどんなものでも服を着ている小人さんが少し羨ましいな。

あれから瞳を閉じてしばらく経った。
どうやら時代はすっかり変わったらしい。

私の視界には、何重にも布を重ねた人たちが私の傍を歩いているのが見えた。石で敷き詰められた道は歩くとザッザッと音を立てていた。
私の正面に立つと、私に向かって手を合わせて頭を下げていた。
そう言えば私にも彼らと同じような一枚布が肩からかけられていた。
「おだいぶつさま……」と良く分からない言葉をかけられていたけど、服を着せてくれて気分が良かった。
身体を動かすことはできないけれど、この時ばかりはいつもより微笑んでいた気がする。

あれからまた瞳を閉じてしばらく経った。
またもや時代は変わったらしい。

私の膣は入れたものを全て吸収してしまう仕組みになっていることに気づいた。
浮気をしたという女性が私の前に連れ出されたときは辛かったな。
男が3人で女性を抱えて私の膣の中に挿入した。

大きな悲鳴を上げて「私は悪くない、男が勝手に好きになったんだ」と叫んでいた。
片足でも飲み込んでしまうと、私の意志に関係なくキュッと筋肉が収縮して離さない。
彼女は首から下が捕らえられても最後まで抵抗していたが、私は心の中で「ごめんね」とつぶやきながらこの女性が取り込まれる瞬間、私の顔は赤らんだ。

時代によって私の扱われ方は異なった。

後に「てんかびと」と呼ばれた男が、私サイズの鬼の兜と鎧をかぶせたことがあった。
鬼神伝説として敵が恐れをなしたとかなんだとかいう話になっているらしい。
本当を言うと私の体は大きすぎて小人さんたちは力を合わせても私を動かすことができなかったし、私サイズの鉄の鎧を作ってみたものの重すぎて彼らでは持ち上げられなかったから、結局ぜんぶ木でできたハリボテだったんだけどね。

また瞳を閉じて、あれからいくつもの時代が過ぎ去ったと思う。

私よりも背の高い建物が私の周りに出来上がったらしい、目を開くと私以外の大きな影が見えることがあった。
いま私は街中にいる女性のような服を着ている。実際は私の座ったままの姿勢は小人さんたちでは動かせないから季節が変わるごとに服を縫い替えてくれるのだ。
髪の毛も月に一度洗ってくれるようになり、これまた街中を行き交う女性たちのようにサラサラだ。

私のことをスマホでカシャカシャと撮っては「かわいいー」「お人形さんみたいー」と明るい女の子の声が聞こえてくる。嬉しい。
ただ、衣替えのときにだけ私のことを「かくれきょにゅー」と呼ぶおじさんが立派な一眼レフを持って大挙する。なんか複雑だ。

そんなこんなで観光名所として私には「The 40m」という名前がつけられた。
私が立ち上がったら40mという高さになるから、というのが理由らしい。
40mより、もっと人らしい名前が良かったな。
それでも、こんな時代がずっと続けばいいなと考えながら街の人たちを見下ろしている。