どこか遠い宇宙…そのどこかに地球に恐ろしくよく似た星があった。
その星のどこかの都市から少し離れた丘、その上にまたこじんまりとした家が建っている。
某黒男を思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。
その家の中でなにやら怪しい実験をしている人影があった。
髪はボサボサ、目には大きなクマが…あるわけではなく、なんというか、普通のおっさんとしか言い用のない、平凡な面な男だ。
服も白衣ではなく、上下ジャージ姿である。

「暇だな…何か面白れぇことでも起こんねーかな」

そんな事を呟きながら男は緑色をした液体と紫の液体の入ったフラスコに注ぎ込もうとした時。

ドゴォ

「たのもー!!」

ドアを蹴破る音と共に少女の声が聞こえてきた。
突然現れた少女はあたりを見渡し、男を見つけるや否や叫んだ。

「あなたが噂のマッドサイエンティストね! 早速だけど頼みが「おい」

男の低く、どす黒い声が少女の声を遮った。

「ちょっ「そこに座れ」

「はい」

男の少し怒気の混ざった声に少女はビビったのか、素直に座った。 床に。

「お前は常識という物を知らないのか?」

「一応知ってるつもりです、はい。」

「じゃぁ、お前の家では人の家にはドアを蹴破って入りなさいと教えるのか?」

「いや、そんなことは…」

「うんぬん」 

「かんぬん」



----30分後

「とりあえず説教はこれくらいにしておいてやろう」

「ありがとうございました」

ずいぶんと長い説教を終え、男は椅子に座りかかり、少女に手を払った。

「じゃぁさっさと帰れ、これからはドアを蹴破るんじゃねぇぞ」

「はい。 どうもすみませんでした」

そう言って少女は手をドアノブにかけて…

「…ってなんでじゃぁぁぁぁ!!」

そう叫んで男を睨みつけた。

「あたしはあなたに用があって来たのっ!」
 
「あん?」

男は怪訝そうな顔で少女に向き直る。 果てしなくめんどくさそうだ。

「用ってなんだ」 

「あたしを巨大化させて!」

そう言って少女は腰に手を当ててふんぞり返り、男のいかにも嫌そうな顔を見て眉をしかめた。

「何、もしかして出来ないの?」 

「馬鹿を言うな、俺を誰だと思っている。 ただ理由を教えてもらおうか」

「あたしをチビだと馬鹿にする奴らを踏んづけてやるの!」

そう言われてみれば、確かに少女の身長はお世辞にも高いとは言えず、
いうなればクラスの背の順で前から3、4番目ぐらいにいそうな感じの大きさだ。
男は頭をかきながら、いかにもダルそうな声で言った。

「なんで俺がお前のくだらん復讐につきあわにゃあならんのだ、帰れ」

「お金ならあるよ」

そういって少女は手に持っていたアタッシュケースを机に置いた。
どうやら中身満杯に札束が入っているらしい。

「百万円入ってる。 これでも協力してくれないの?」 

「少々お待ち下さいませ」

男はそう聞くなり、急に手のひらを裏返した。
そして先ほど混ぜて、なんとも言えない色になった液体の入ったフラスコを手にとった。

「お前は実に運がいいな。 つい先程、生物を巨大化させる薬が完成したんだよ」

そういっていかにも怪しげな感じでフラスコを振る。
少女はその薬をまじまじと見つめ、少し顔をしかめた。

「すごい不味そうだけど…これを飲めば大きくなれるの?」

「ああ、大体人間が飲むとウルト○マンぐらいになるな」

男はそんな危ないことを口走りながら、少女にフラスコを手渡した。
少女は臭いを嗅いで嗚咽を上げながらフラスコを見つめている。

「それをやるからあとは好きにしろ…これだけの金があれば更なる研究に踏み出せる」

そう言って、男がケースを開けようとした時…

ゴキュゴキュ

なにやら後ろから随分と気持ちのいい音が聞こえてきた。
男がまさかと思って後ろを振り返ると、案の定少女の持っているフラスコがカラになっているのが見えた。

「ぷっはぁ! すごい味がするね、コレ」

「おい、何やってんだ」

「おじさんには悪いけど、どうせ巨大化するならやっぱり家の中からじゃないと!」

そう言う少女の体は、既に膨張を始めていた。
膨らむ体に耐え切れず、服が裂けていく。

「えっ! 服ごとおっきくならないの!?」 

「そりゃあ、光線的なものならともかく、薬じゃ無理だ」

そう言っている間に、服が引き裂かれ少女の肌が晒された。
白く、実に健康的な色をしている。

「きゃーー!!」

少女が悲鳴を上げ、そして男は…







「さて後始末の用意と」

少女に一瞥すらくれず、棚をゴソゴソと漁っていた。

「…こういう時ってこっち見ながら頬を赤らめたりするんじゃないの?」
 
「ガキの裸に興味なぞない」

どうやらロリコンではないらしい。

「それより、随分と落ち着いてない? 家が壊されそうになってるのに」

素朴な疑問を口にする少女。
確かに、男は取り乱したり、罵声を浴びせたりしてこない。
棚を漁っている姿にも、声にも焦っている様子はない。
というより、何か別のことを考えているように見える。
そう考えていると、頭が天井にあたった。

「ふふ、そろそろこの部屋を突き破るね」 「そうだな、そろそろ覚悟しとけ」 「え、何を?」

そう少女聞いたが直後、少女の頭が天井を突き破った…ことはなく、首が曲がった。

「あれ?」

どんどん少女の体が大きくなる…が、一向に天井を突き破る気配はない。
そして少女の首がメキメキと音を立て始めた。

「いたたたた!! 折れる折れる!」

そういって少女は両手を床につけ、四つん這いの格好をとった。
一安心かとおもいきや、更に体が大きくなっていき、だんだんと窮屈になっていく。

「うっ、動けない…」

もはや少女の体は部屋の大半を占め、身動きが取れない状態になっていた。
そして、壁に追いやられた机やらが少女にめり込み始めた。

「痛い痛い!」

そう言ってる最中にもどんどん巨大化は進行し、ついに少女は部屋ギチギチにまでになった。
そしてあぁ! 少女の首に、あらぬ方向に力が入り出した!!
しかし悲しき哉、天井も体もピクリとも動きません。
無慈悲にも彼女の体はどんどん大きくなります。

「ちょ、このままだとホントにおr」






ゴキャ











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「…うーん」 「起きたか」

男の声に少女は眼を覚ました。

「はっ、ここは天国!?」 「俺の家だ」

少女は首をさすり、変な方向に曲がってないことを確認した。
そしてあたりを見渡したが、部屋は始めに来た時と変わらない風景が広がっていた。
机なども部屋の端に追いやられてはいない。

「もしかして…今までのは夢?」 「違う、お前が薬を飲む前に戻っただけだ」

「そんなこと出来るの!?」 「ご都合主義ってやつさ」

そんな身も蓋もない言い方をして、男は机においてあったコーヒーを飲んだ。
が、苦かったのか角砂糖を3つ放り込んだ…かっこつけが台無しである。

「それにしても、なんで天井を突き破れなかったんだろう…」 「そんなこともわからないのか」

そう言って男はコーヒを机に置く。

「よく考えてみろ。 箱の中に入れた風船を、膨らませて箱を突き破れるか?」

「そりゃあ、無理なんじゃ」

「だろう? それと同じ事だ。 お前は押し出す力だけで天井を壊そうとしてたんだよ。
 確かにいつかは圧力に負けて天井が壊れるかもしれんが、そん時にはお前はとっくに肉塊だ。」

説明を受けて少女は少し腑に落ちない様子で呟いた。

「アニメだと突き破ってたのに…」 「アニメの見過ぎだアホ」

「うー…おぼえてろよ!!」

そう言って少女は飛び出していった。

「何しに来たんだか一体…まぁいい。 早速この金で新たな研究を始めることにしよう」

男はケースを開き、入っていた札束を手に取り、まじまじと見つめ、そして呟いた。












「…百万円て書いてる、これ」