こちらはグリムグリッターサポーターズ (グリムグリッター開発チーム)様の作品、
グリムグリッターの二次創作です。
内容としてはメインストーリークリア後の内容より作成してます。
本編クリア前の方は先にクリアしてからお楽しみいただければと思います。
たまにはエロなしのIF、なんてものも書きたくなりまして……
h-non
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―――これはきっと、彼の騎士が失敗した話。
姫の為の姫を、連れ出せなかったあり得ない話―――
かつての後悔を抱えながら、日々を生きている。
私が救えなかったたった一人の親友。
彼女が行方不明になってから、一ヶ月が経過した。
放課後や、休みの日を利用して、街全体、隣の県まで跨いで彼女を捜し回った。
だけど結果は全て空回り。
彼女の両親も必死になって探している。
今日も放課後に探し回り、結局無駄足だったと帰ってきて、ベッドに沈み込む。
「香……」
内気だけど可愛くて、いろんな事を知っていて、私の宝物をくれた、大切な友人。
「そういえば、お話好きだったっけ」
本棚に収めた童話を一つ手に取る。
不思議の国のアリス。
「そうそう、アリスが不思議な世界に迷い込んで、大きくなるケーキを食べて、小人達で遊ぶお話―――」
何か、違和感。ページをめくり、中身を読む。
”にしし、ここまで大きくなっちゃえば、お城も女王もこのお尻でぺったんこ!”
アリスはその大きな身体でお城に座り、お城もハートの女王も何もかもぺったんこに潰してしまう。
何かが、違う。でもその違う点が思い出せない。
別の童話を手に取る。
”浦島太郎は身長一寸ほどで、おばあさんが川で拾った桃から生まれました”
”裏山で熊と相撲をしたりして遊んでいると、竹藪のなかに、一本だけ光る竹が―――”
別の童話を手に取る。
”女船医であるレミュエル・ガリヴァーは、嵐によって船から投げ出され、気がつくとどこかの浜辺で小人によって拘束されていた”
おかしい、思い出せないけどおかしい。
それともおかしくなったのは私なのか、と頭に過ぎる。
頭を振って雑念を追い出し、お風呂に入ってから休む事にしよう。
そう思った瞬間だった。
「黒猫?」
家の中に、一匹の黒猫。
その黒猫は、我が物顔で廊下にたたずんでいる。
「どこから入ってきたのかな?」
そっと近寄り、捕まえようとして、逃げ出される。
「あ、ちょっと!」
逃げる猫を追いかけ、何故か開け放たれている玄関を抜けて、私はその光景を目の当たりにする。
「ふふふ、ごきげんよう? 矮小な街の皆様?」
黒いドレスを身に纏い、街に立つ巨大な少女。
その顔は、私がずっと探し続けていた顔であり―――
「かお、り?」
幼馴染みの、香だった。
思考が追い付かない。
今まで何処に行ってたのとか、なんでそんなに大きくなったの、とか、
言いたいことは山ほどあるはずなのに、その妖しい微笑みに、全て吸い込まれてしまう。
「今この時をもって、この世界は私の支配下に置かれるわ」
とても楽しそうに、笑う。
そして、その足が一歩を踏み出し、世界が揺れる。
「だから、皆潰れて頂戴?」
巨大な身体が動くたび、ビルが崩れ、アスファルトが割れる。
辺りで悲鳴や怒号が響き、どこかで火事が起きる。
無邪気にはしゃぎ回る子供の様に、氷の張った水たまりを踏み砕くように香が街を破壊する。
「あら、うるさい羽虫ね?」
どこからか戦闘機やヘリコプターが飛んできて、香の周囲を飛び回る。
それをなんてことないように、手で払い落とす。
落ちた飛行機は地面に叩き付けられて炎上し、更に被害を拡大させる。
「やめて……」
「ふふふ、こんなオモチャで私を傷つけられるとでも?」
戦闘機から放たれたミサイルが直撃するも無傷。
「やめて……!」
更に拡大する被害、そして、笑う香。
「やめてよ! かおりぃ!」
私の叫びに反応したのか、香の動きが止まる。
そして、顔がこちらを向く。
「あら、裏切り者の葵じゃない?」
「―――っ!」
その言葉に、私の身体がすくむ。
「今更どうしたの? 正義の味方の葵ちゃんだもの、是非とも私を止めて貰わないと」
そう言いながら、こちらに向かって歩いてくる。
五十倍、それだけのサイズ差がある物体が近づけば、相応に威圧感がある。
「じゃあ、早速だけど、私を愉しませて? 止めて見せてよ、葵ちゃん?」
私の真上に、ストッキングに包まれた足が掲げられる。
星空も月も、何もかもが遮られ、炎に照らされたストッキングの目地だけが見える。
「それじゃあ、私の足怪獣が、葵ちゃんを一口で食べちゃうわ」
足をグニグニと動かすと同時、周辺にビルやアスファルトの破片が落ちてくる。
「いただきます、良い声で鳴いてね?」
終わりが、天から降り注いだ。
そして目が覚めるとそこは真っ白な空間。
「遅かったですか」
声のした方を見る。そこには黒猫が一匹。
「今の、あなたが?」
「ええ、私です」
黒猫が、私の足下にやってくる。
「ここは、いったい?」
「ここは香が作った物語の世界と、現実の狭間、まあ、通路みたいなものです」
黒猫が、前足で私の後ろを指す。
そこには、燃え上がる私の住んでいた街の姿。
「正直、貴女しか頼れる人がいません。だから、お願いします。香を止めてください」
黒猫が頭を下げる。
「香によって歪められた物語、その世界の全てを巡り、協力者を集ってください。
そして、協力者と共に、香様をどうか、止めてください。それが私の望みです」
黒猫の姿が、透けて消えていく。
「ワンダーランドへ、そこに、貴女を待っている人がいます……」
声が消える。
黒猫のいた方向を見ると、遠くに、緑色に輝く世界が見える。
「行こう、あのままにしておけない」
一歩を踏み出す。
この一歩が、私が香を止める為の戦いの始まりだった。
「それで、これって?」
香の部屋で見せられたのは、それっぽい英語音声とノクターンの現実再現区画でのお遊びシーンなどを継ぎ接ぎした映像作品。
「名付けてグリムグリッターIFよ。エイプリルフールで流そうかと思ってね」
「いやいや、なんかハリウッド映画予告みたいになってるし」
あんまりに荒唐無稽な内容に、思わず突っ込んでしまう。
「ジョーク作品よ。流石に本当に作るつもりはないわ」
評判がよかったら考えるけど、と笑う香に、今日は向こう側で可愛い声をたくさん聞かせて貰おうと心に誓った。
なお、この映像を公開した後、かなり野反響があり、続編の映像を作ろうか悩んでいる香を見たのは、別のお話。