ザバーン

大海原に波の音が聞こえる。
しかし大海の大半を埋め尽くすは濃い霧、あの素晴らしい青い水面を臨む事はできなかった。
視界は利かない。
こんな悪天候時に船を出すのはよほどの愚か者では無いか。
だがその愚か者はいた。それも一人や二人ではなく数百数千。
黒塗りの大型船舶に乗り込んだ海の男達である。
彼等は全身にびっしょりと汗をかいていた。冷房を効かせているにも関わらずこの鋼鉄の船内は凄まじく蒸し暑かった。
それはこの海の海水が、とても暖かかったからだ。
温度は数十度はあるだろう。浸かっているだけで汗が出てくる。更にそれらは湯気となって立ち上り自分達の視界を遮るのだ。
そう、この視界を覆う霞は霧ではなく湯気。この熱い海面から立ち上った蒸気。
そんな暖かい霧の中を進んでいるのだ。数十の大艦隊の、それぞれ1000人が皆等しく汗で服を肌に張り付かせていた。

突然の突風で霧が晴れる。
そこには、水平線を埋め尽くすほど巨大な人間が現れていた。


ふうっ。
息を吹きつけるとそこにあった湯気は散り、水面に浮かぶ小さな点の様な戦艦達をあらわにした。

「ふふ、こんばんわ、おちびちゃん」

少女はにっこりと、しかし見下しながら笑った。
長い髪はタオルによって頭に束ねられ、胸板から突き出た乳房は湯船の波に打たれ揺ら揺らと揺れる。
広い、とは言えない風呂桶の中には折り曲げ組まれた脚が底に伸び、手はその膝の上に置かれていた。

「一人でお風呂に入るのも寂しかったの。さぁみなさん、遊びましょ」

言うと少女は胸を少しゆすった。
するとその胸が起こした波が艦隊を襲い、かたまっていた戦艦達はバラバラにされた。
数百mの大波だったのだ。巻き込むような鋭い高さは無かったもののその高低差は凄まじい揺れを引き起こし、その波を真横から受けた数隻の戦艦が沈没してしまった。

「あ、ちょっと波を起こしただけなのに。くく、ごめんね、あたしの胸が大きすぎたみたい」

少女は笑いを堪えながら先頭を行く船に手を伸ばしていった。
人差し指と親指を伸ばし、その船を摘もうとした。
少女の水の滴る細い指。だが戦艦に乗る男たちから見れば、それは太さ1000mを超える恐ろしく巨大な指なのだ。
大気も湯気も押しのけて迫ってくる超巨大な指。戦艦は、その巨大な指紋の幅二つ分の長さも無かった。
船内に1000の男の悲鳴が轟く中、巨大な指が空と海を埋め尽くした。
少女はそれを摘もうと指をギュッと閉じたが、砂粒ほどに小さな船は表面張力、流れ出す水に乗って指の脇へと落ちてしまった。
もう一度挑戦しようと思ったが、船はそのまま海中へ沈んでいってしまった。

「小さ過ぎて摘めないわ。他の方法を考えないと…」

次に少女は人差し指の腹を上に向け、戦艦の真下からゆっくりと持ち上げていった。
戦艦は透明な海水が肌色に書き換えられるほど巨大な指が真下に来ているのに気付いて逃走を図ったが、それはこの指の前では動いていないに等しかった。
海中から盛り上がってくる巨大な物体に水が押しのけられうねりを上げる。山のように盛り上がる海面の上で揺さぶられる船は流れ落ちないのではなく、流れ落とされないように制御されているのだった。指の腹の頂上に位置していた。
だが周囲にいた戦艦達は巻き起こされた波と渦に呑み込まれ海中へと消えて行った。その最中この暖かい海に放り出されたものはその激流によってズタズタに引き裂かれた。

慎重に、一隻の戦艦を指先に乗せた少女はそれを目の前まで持ってきて見下ろした。

「はぁいこびとさん、あなたたちはどこの国の人なのかしら。どんな大海原でも征する海の男達なんでしょ? でも女の子のお風呂にまで入ってくるなんていけない子ね」

冗談を交えながらクスクス笑う少女。
指先には一隻の戦艦が乗っている。全長は100mは優にあろう。それが自分の指の腹にちょこんと乗っているのだ。そしてこの中には男達が1000人と乗っているのだ。小さ過ぎてその姿は見えないだろうが。

「かわいいお船ね。長さは1㎜くらいかしら? このお船はどんな荒れた海でも越えていけるんでしょうね。でもさっき何隻かの船が沈んじゃったけど、それは私とお風呂に入るのが荒れ狂う海を越えるよりも大変ってことなの?」

彼等を乗せた指を少し揺さぶる。
そこにいる1000人の男達の悲鳴が聞こえてくるようだった。

「くく、大丈夫、こびとさんは小さすぎるって分かってるから。私と一緒にお風呂に入るのが大冒険だって分かってるから。…でも、もっと凄い冒険があるの。案内してあげるね」

十万分の1の小人達の前で、数㎞ある巨大な口ががぱっと開けられた。
あの紅色の赤い唇は厚さだけでも数百mあるというのに。この船を停泊させることも1000人が降り立つことも出来る面積がある。
唇の中は赤くぬめりのある口内表面がてらてらと光り、真白い歯はそれぞれが山のように大きかった。
それらの山脈に守られる中央にはまるで平野のような広さを持った広大な舌があった。
びくんびくんと動き、得物を今か今かと待ち構えているように。
ーそう、得物とはこの戦艦。

  ポイッ

くいっと指が動き、その上に乗っていた戦艦は口の中に放り込まれた。
戦艦はやや前に出て来ていた舌の上に落ちた。
舌先に戦艦が触れたポツンという感触を感じた少女はパクンと口を閉じそして口の中のものを唾液とともにゴクンと呑みこんだ。

「ふふ、冒険にいってらっしゃい。明日の朝には会えるかしら」

少女は湯船の中で自分のお腹を撫でた。
そして再び残っている戦艦隊を見下ろしてみる。
彼等はまだそこで右往左往していた。離れようとすらしていなかった。何をしていいのか分からないのだ。

「待っててくれたの? ありがと。お礼にいっぱい遊んであげるから」

少女は人差し指を伸ばし、その指先だけが海面から飛び出るように高さを調節して手を湯船に沈めた。
そしてその手を、戦艦達が集まっているところへ動かしたのだ。
戦艦達は、太さ1000mの指という巨大な柱が自分達の方へ向かってくるのを見た。
凄まじい波を起こし、飛沫を上げながら迫ってきた。
逃げようと舵を切ろうとしたときには、すでに肌色の柱は目の前に来ていた。

指は何隻もの戦艦をなぎ払いながら艦隊の中央を割り、さらにはその周囲をぐりぐりとかき混ぜるように動いた。
そのかたまっていた戦艦達は一隻残らず沈められるか指に激突して砕け散った。

次の戦艦のかたまりを片手ですくい上げた。
おわん型にすぼめられた手の中には数隻の戦艦がちんまりと浮いていた。
それらがうろうろと手の中を動いている。逃げ道など、もうないのに。
少女はその手をゆっくりと傾けていった。
小さな戦艦達はやがて高さ数千mの滝を落下して海面に叩きつけられた。

少女がゆっくりと上体を起こした。
狭い湯船の中は全体が大揺れに見舞われすべての戦艦が航行をやめざるを得なかった。
海面からむき出しになった乳房はザバーっと大量の水を滴らせながら宙に浮かび上がり、そのせいで巻き起こされた波で数隻の戦艦が引き寄せられ少女の胸板にぶつかって砕けた。
上体を起こした少女は戦艦のたちの上に乳房が来るように調節していた。
真下の戦艦達からは、まるで島ほどの大きさが在る超巨大な乳房がゆらゆらと大気を震わせながら揺れているのが見えていた。
湯気が、乳房の動きに散らされている。
ゆっくりと降りてきた乳房は、その乳首や乳房の表面に戦艦達を捕らえたまま水中へと沈んでいった。

再び上体を元に戻し湯船に浸かりなおした少女はその体勢のまま身体を前へと進めた。
先ほどは真上から迫ってきた胸が今度は横から迫ってくるのだ。
先頭の乳首で海を割りながらザブザブと進んでくる乳房は戦艦達に激突し次々と転覆させながら巻き起こす大波に呑みこませ沈めていった。
その時少女は、乳首の先に一隻の戦艦がくっついているのに気づいた。
やや乳房を持ち上げ、乳首が湯船から上がるように調節してみたが、表面張力に捕らわれた戦艦は乳首にくっついたままだった。
自分の乳首に小さな小さな黒い戦艦がちんまりとくっついている様を見て笑った。

「やだぁかわいい。まるで乳首のゴミみたいよ」

笑いながら少女は指でその戦艦を乳首にこすりつけた。
指をどけてみると戦艦だったものはどこにも見つけられなかった。

遠方へと逃げていた戦艦達がいた。
数十㎞の航行を経てあの巨人の姿が霞の向こうに見えなくなるほどにまで離れたのだ。
生き延びたい一心で弄ばれる仲間達を置き去りにして逃げてきていた。
だが突然、何かが海中から現れた。
凄まじい水柱とともに現れたそれは、巨大な足指であった。
五本の足指が、戦艦達の前を遮った。

「逃げられると思ってたのかしら。ごめんね、狭いお風呂で。この中ならどこでも足が届いちゃうの」

霧の中に轟く声。
姿は見えないが、巨人は自分達の事を知っていた。
目の前の巨大な足の指は、指だけが海面から出ているにもかかわらず、それだけで雲を貫くほどの大きさだった。
幅は8000mはある。とても、すぐに迂回できる幅ではなかった。
数隻の戦艦は少女の片方の足の指だけで進路をふさがれてしまった。
その指が動き出した。
ぐにぐにと暴れだしたのだ。
指が起こした波だけで逃亡を図っていた戦艦達は皆沈められてしまった。

残りの戦艦も少なくなってきた。
彼等は今、少女の立てられた膝の間にいた。それはつまり脚の間にいることを意味していた。
海全体が盛り上がり始めた。
少女が、身体を持ち上げたのだ。
少女の動作に大海がうねりを上げる中、戦艦達は大波にまかれながら転覆しまいと踏ん張っていた。
すると突然、海中から黒い何かが現れ始めた。
次々と、次々と。気付けば海中はあの肌色ではなく黒色に染まっていた。
無数に現れ続けるそれに戦艦達は絡め取られていった。
気付けるものはいなかった。
その太さ8mはある巨大な黒いものが少女の一本の陰毛であり、そこが少女の股間であるなど。
さらに上昇を続ける少女の身体は股間に数隻の戦艦を絡ませたまま連れ去った。

わずかに数隻残された戦艦の前には少女の巨大な秘所。
下は海中に没しているが、水上に見えている部分だけでも高さ数千mの割れ目。女性を表す陰唇であった。
ここは少女の脚の間、股間の下、陰唇の目の前なのだ。
あの巨大な左右の手が現れ、雲にも届く高さの陰唇の左右の肉へと指を押し付けた。

「あなたたちが最後。だから特別に私の中に招待してあげる。…来て」

指が、陰唇をぐいと開いた。
がばっと開かれた巨大な陰唇の向こうは赤黒く煌くぬらぬらした空間。生々しい鍾乳洞の様にも、見ることができたかもしれない。
周囲の海水は突然出来た空間に落ちるようにして流れ込んで行った。
その波の上には残っていた数隻の戦艦の姿があった。
戦艦が内側に入ったのを確認した少女は指を離した。
すると陰唇はぱっと閉じられ、内部のものを逃がさない究極の扉と化した。

少女は立ち上がり湯船から上がった。

「ふふ、今あたしのあそこには数千人の男がいる。もしかしたら数万人? くくく、ひょっとしたら赤ちゃんできちゃうかも」

少女は、自分の陰唇の向こうに居るであろう男達が自分の膣内を必死に泳ぎまわっている様を想像して笑った。
ありえないのは分かってる。
たかが1㎜2㎜の戦艦など、襞にでも絡め取られれば終わりだ。膣の奥になど辿り着けるはずが無い。

少女はバスルームを後にした。
股間の陰毛の森の中に十数の戦艦を絡めたまま。