突然、空を突き破って現れた超巨大な足。
全長22km幅7km。地上の街の上空を埋め尽くす大きさである。
指もそれぞれ直径1km、長さも2kmほどはあるだろうか。
超高層ビルの10倍もの大きさの足の指が5本もそこに連なっている。
どことなく、幼さが見て取れる。

そんな足が街の上に降ろされた。
足はまるで絨毯の上に降ろされるように優しく沈み込む。
しかし実態はひとつの街を丸々踏み潰してしまったという事だ。
地に着いたにも関わらず、僅かに直撃を免れた高層ビルは眼前に鎮座する超巨大なビルの10分の1にも満たない高さだった。
ビルを足の指が見下ろしている。
この足の下で街が一つ消滅した。という事は、そこに暮らす数万の人々も踏み潰されたという事である。
何万もの人々を、この足はさも当然のように消し去った。彼らの人生は突然現れた巨大な足によって理由無く終わりを迎えたのだ。
もし理由があるとすれば、歩くための一歩を踏み出した、程度の理由しかないだろう。

生き残った人々は車を駆り脚を駆り逃げ惑い始めたが、その巨大な足は一帯を更地にするように今しがた踏みしめた場所の周囲を踏み均し始めた。
街どころではない。国の一角が、巨大な足によってぐしゃぐしゃに踏み尽くされた。
足の長さだけの距離を移動して降ろされている足だが、その1秒にも満たない時間に数万もの人々が移動できるはずも無く、逃げる彼らを足は容易く踏み潰していった。

別の区画に、もうひとつあの超巨大な足が出現した。
最初の足の位置とは離れている。これらの足は一人のものではないのか。
だがそうであろうとなかろうと、人々に害である事に変わりは無かった。

次なる巨大な足はその巨大な指をズズンと地面に突き立てた。
5本の肌色の柱だ。たかが足の指だが、その一本一本が世界最大の建築物よりも遥かに巨大なのだ。
指を突き立てた足は、そのまま後方に下がり始めた。
結果、その巨大な指は地面をガリガリと削ってゆく。ビルさえも砂粒のように磨り潰され、街ひとつがそのまま削り取られた。
巨大な指が引っ掻き集める超高層ビルなど街の瓦礫は、そこに暮らす人々を容易く呑み込んでゆく。
指は深さ1kmほども沈み込みながらそれを成した。足が通り過ぎた後、そこには5つの溝が重なり合い深い深い谷間と穴が残される。
人々の悲鳴とその体は、すべてその巨大な足が作り出す轟音と瓦礫の津波の中に呑み込まれていった。

とある一角に現れた二つの巨大な足は大暴れだった。
山さえもペタペタと踏み固めたかと思えば、ドン! と踵を振りおろしクレーターへと変えてしまう。
高さ数百mほどの山々は指の下敷きになり捻り潰されたが、2000mほどの多少大きな山はそのつま先の中で握り潰された。
運河も遠方からゴリゴリと集められた砂であっという間に埋め立てられ、飛行機で空に逃げる事に成功した人々も、運悪くそこに向かって移動してきた足に激突して爆発した。
飛行機などこの巨大な足と比べれば砂粒以下の大きさだ。足を人間の大きさに例えれば、飛行機はおよそ0.7㎜。あの巨大な爪と指に間に挟まっても、気づかれもしないだろう。現に今、いくつかのビルが奇跡的に形を保ったままそこに挟まれているのだ。そこに生き残っている人がいるかどうかはわからないが。

その巨大な足達がお互いの指を絡ませ始めた。
戯れているのだろうか。しかし太さも長さも数千mもある指同士が絡み合う光景は凄まじいかった。
相手の指を挟んだり、足の甲をペタペタと踏みつけたり。二つの足は楽しそうに絡み合っている。
しかし周辺ではとばっちりを受けた街が次々と壊滅していた。
足が軽くペタンと踏み下ろされただけで街は吹き飛んでしまうのだ。
そんな足が二つも激しく動き回れば周辺は大災害になる。雲さえも蹴り散らして遊ぶ巨大な足達なのだ。

やがてそんな足達にもう一対が現れた。
左右の足。それが二つ。
位置から見るに、今まで片足だったところが両足になったのか。
恐ろしい。一つでも壊滅的だった足が二つに増え、それだけでも凄まじかったのに今度はその倍の4本である。
あの足はひとつだけで街を一つ二つ下敷きにできる大きさがあり、それが今四つも地面を踏みしめている。
足がそこにあるだけで、いったいどれだけの街が被害に遭っているのか。

そんな足が動き始めた。地面を踏み均し始めた。
これまで踏んでいなかったところを、徹底的に踏み潰していった。
その場所に、奇跡的に生き残っていた人々も、その巨大な足の裏が自分たちの上空に現れた事にすべてを諦めた。
2対の足はまるで足踏みをするように周辺を踏み固めていった。

やがてそこは、家一軒残らぬほど完全に踏み鳴らされ、茶色い地面をむき出しにした広大な荒野が広がっていた。
そこに立つ四本の足。天に聳えるその先はどうなっているかわからない。
その足は次の一歩を踏み出したとき、その向こうに消えた。
まるで何かの範囲から出たように。

  *

「おもしろかったねー」
「うんうん、でもなんだったんだろうね、コレ」

二人の少女。年もまだ10にならないような幼い少女たち。
そんな少女たちは、入った部屋の中の床にあった奇妙な模様の上で遊んでいた。

「はじめはいっぱいもようがあったけど、なくなっちゃった」
「うん。…あれ? あしがよごれてるよ!」
「あっ! ほんとーだー!」

二人は自分の足の裏を見て驚いた。
まるで土の上を歩き回ったように砂で汚れているのだ。
更にそのまま部屋の中を歩き回ったせいで床のカーペットに足跡が残ってしまっている。

「お、おこられちゃう…」
「に、にげちゃお!」

二人は慌てて部屋から出て行った。

  *

「ったくお母さんも忙しいのわかるけど、親戚の子だからって好き勝手させるのやめてよ。私の部屋ん中滅茶苦茶じゃない。片付ける身にもなって。あーはいはい、その変わり今月のお小遣いちゃんとサービスしてよ」

母親との報酬の約束をこじつけた百合(ゆり)は部屋へと戻ってきた。
すでに綺麗に片付けられており、あの足跡も残っていない。あの、10万分の1の街も。

「今晩のおかず用に丁度いいのとっておいたんだけど、ま、他の街でもいっか」

言いながら百合は来ていたTシャツと短パンと下着を脱ぎ捨てた。
黒く長い髪がバサリと翻り、一糸纏わぬ肌が蛍光灯の光に輝く。
大きな乳房がぶるんと揺れ、まるで自身を抑え込むものが無くなったことに喚起しているようだ。

前方の床には新たに呼び出した10万分の1の比率でリンクされたどこかの街。今夜のお供である。

「じゃ、愉しませてもらおうかしら」

くすっと笑った百合はその街に向かって歩いて行った。
その街は、今 自分に向かって地響きを立てながら歩いてくる身長160km超の全裸の少女の存在に、まだ気づいていない。