「…以上で、今回の会議を終了する」

男の前には無数のモニター。
それぞれには威厳とも取れる雰囲気を醸し出す人々が映っていた。
当然である、皆が一国の主を務める者達なのだから。

そのモニターがプツプツと映像を遮断していく。
最後のモニターが消え、残されたのはそのモニターの前に座っていた初老の男のみ。
白に染まった髪、刻まれた皺などが、彼の年齢とこれまでの苦労を物語っていた。

議事堂。
本来なら世界の重鎮達が集まるこの場所も、今ではそれぞれの場所にモニターが設置され、電子機器越しの会議を行うのが通例となっていた。

残されていた男の背後で、ギィィ…と扉が開いた。

「大統領…」
「…なにかな? 将軍」

大統領と呼ばれた男は振り返りもせず、背中と椅子越しに声に答えた。
将軍は立ち尽くしたまま、声を震わせながら言う。

「やはり…やはりこんなのは酷すぎます! 我々が一体何をしたと言うのでしょうか!」
「落ち着きたまえ将軍。我々は戦争に負けたのだ」
「しかしだからって、こんな…こんなのは…」
「我々は生かされているのだぞ。もっと彼女に敬意を払いたまえ」

大統領の静かな声。
将軍はまだ何かを言おうとしたが、やがて肩を落とし、扉を閉めぬままとぼとぼ歩き去った。
今度こそ一人残された大統領は椅子にもたれかかり目を閉じた。

「そうだ…我々は生かされているのだ…」


  *


かつて、地球は侵略戦争に負けた。
…いや、それは戦争と呼べるものでは無かったかも知れない。
地球と、その大連合軍の前に現れたのは、たった一人の少女だった。
しかしその大きさ、実に地球人の10億倍という途方も無い大きさの。

地球の前に展開していた無数の宇宙戦艦から成る大艦隊は、彼女の太さ1万5千kmもの指先でスッ…と払いのけられてしまった。
戦争開始から終結まで、1秒とかからなかった。
彼女が付きつけてきた無条件降伏を、地球人は呑まざるを得なかった。

その後すぐに、地球は彼女の巨大な指によって解体された。
地球ほどの太さもある指が10本と動き、小さな地球をちまちま解体してゆく様は異様だっただろう。
大陸よりも広大な面積を持つ巨大な爪で地球を割り、削り、崩し、大陸を掬い取ってゆく。

やがて地球上の陸地は5つのグループに分けられ、彼女の右手の爪の上に接着された。
その上から薄いコーティングが施され、移された陸地は地球にあった頃と変わらぬ環境を維持されていた。
桜色に輝く巨大な爪の上に乗せられた、70億の地球人の暮らす大陸。
地球の全大陸は、少女の片手の爪を彩るネイルアートとなった。

自分の爪を見て満足そうに微笑んだ少女はその場を後にした。
あとには、彼女の指でいじくり回されバラバラになった 地表をむき出しにした地球だけが残された。