『 サンタちゃん 』



「はぅ~! ダメですか~…!?」

悲痛な声で涙目で叫ぶサンタ。
トナカイが、自分の乗ったソリを引けなかったのである。

「うぅ…やっぱりゴロゴロしすぎてしまったせいでしょうか…。太ってしまったようです…」

しょんぼりとしながらサンタ服の上から脇腹の肉を摘まむ。
そーじゃねーだろ。トナカイはツっこみたかった。

サンタはトナカイの100倍の大きさであり、サンタが乗ろうとしたソリは、その場にペタンと座り込んだサンタのお尻によって押し潰され、地面にめり込んでしまっていた。
トナカイの引く綱が、軽く地面に沈み込んだM字開脚して座るサンタの公開されてしまった赤いミニスカートの内側に見える白と緑の縞パンの下に続いている。

「はぁ…。自分で歩いていくしかないですね…」

サンタは立ち上がるとプレゼントの入った白い袋を背負って地面をズシンズシンと踏み鳴らしながら歩き出した。
そんなサンタを見送ったトナカイの後ろには雨が降れば大きな池が出来そうな穴ができていた。


  *


「ひぃぃ! サンタだ! サンタが来たぞー!」

クリスマス気分真っ盛りだった街は突如として悲鳴と混乱に包まれた。
ズシン! ズシン! 重々しい音がビルの谷間に木霊する。

「え~っと、最初のお宅は…」

ビルの向こうからひょっこり顔を出したサンタはイヴの夜で人が溢れる大通りを歩いてきた。
脇に停められた車の中ではカップルがイチャついていたが人波を追いかけながら歩いてくるサンタの姿を認めると慌てて車から出てその人並みに加わって逃げ出した。そのあと車はサンタ娘の履く赤いブーツにズシンと踏み潰されアスファルトを粉砕し大きく沈みこんだ足跡の中でペチャンコになっていた。
人々の100倍、身長158mのサンタからすればただの車など全長5cmも無いおもちゃ。それこそプレゼントのひとつになってしまう。

そんなサンタは左手で肩に下げた白い袋を持ち右手にメモを持ちながらキョロキョロと見渡している。このサンタの担当はこの都心部のマンション住宅なのだが見渡せど周囲には彼女の身長ほどの高さのビルがいくつも建ち並び視界が悪い。サンタは頬を膨らませながら言った。

「も~! 邪魔なビルですね~」

ヨイショと白い袋を背負い直したとき袋が背後にあったビルにぶつかりビルをガラガラと倒壊させた。

また周囲を見回しながら歩き出したサンタ。
彼女はビルの谷間の大通りを歩いているのは先述の通り。メモを見ながら歩くサンタは足元の人々にまで注意がいっていない。人波に暗い影が落ちたかと思えば上空にはサンタの履く巨大ブーツの底が掲げられ人々が慌てて避けて出来た空間にブーツが踏み下される。全長24mの足を内包する真っ赤なブーツはアスファルトを踏み砕き道路に沈み込む。着地の衝撃で踏み砕かれたアスファルトと周囲の人々が吹っ飛ばされる。彼女の履くブーツは踵がやや高く、中にはサンタの踏み下したブーツのその爪先とヒールの織り成すアーチの下になって助かった人もいた。ギリギリの攻防だった。
道路は片道3車線。余裕をもって作られているがサンタが通るには少々狭い。1車線幅3mとして片側9m。両方で18m。中央と道脇の余裕を見ても25mも無い。そしてサンタの片足は8m幅。ブーツを履いているのでそれより多少大きくなりそれがもう片足分で幅は18mを超える。よってサンタが両足をそろえて立った時、道幅に残された余裕はサンタの片足分以下となる。
飽くまでそれは道幅の話。実際のビルとビルの谷間の幅は道路に左右の歩道の幅をプラスし、更にビルの大きさや幅によって変わってくる。が、どんなに広くとっても、結局サンタ一人がやっと通るスペースしかない。20階建てとかその程度のビルならサンタのミニスカから伸びる太ももの半分の高さにも満たない高さ。スカートが触れてビルを傷つける心配もないし最悪の場合跨いで通ることもできるので閉塞感も無い。しかし50階建てとかになるとその高さは150mにもおよび視界もさえぎられるし圧迫感もあるし何より邪魔である。このレベルのビルが道の両サイドに並んでいるとサンタにとっては自分一人がギリギリ通れる狭い通路になる。手やスカート、長い髪や白い袋がちょっと触れただけでビルには大きな傷が残ってしまう。
電柱をへし折り信号機を蹴飛ばし街路樹を蹴散らしながら歩くサンタ。メモを見て目的地を探しながらということで普通に歩くよりは遅い速度だがそれでも時速200~300km。ただの道を新幹線のような速度で動くのだから溜まったものではない。50mほどの歩幅で交互に残される全長25m超の足跡。足が踏み下された衝撃でマンホールの蓋が飛び上がり浸透した衝撃は水道管を破壊する。噴き出した水は逃げ惑う人に襲い掛かり、この季節全身びしょ濡れになれば凍えようというもの。

「あ。あれですね!」

ここからちょっと離れた場所に建つマンション。メモに書いてある通りの特徴があるようなないような。このまま大通りを通って進むと遠回りになりそうなのでサンタは途中のビルを跨いで直進する事にした。片足を持ち上げ、正面の20階建てほどのビルを跨ぎ、その向こうの道に足を下ろす。その道にいた人々はビルの向こうから突如巨大なブーツの底が落下してくるのを見て慌てて逃げ出した。ズシン。ブーツが地面を踏みしめたのを確認してもう片方の足もこちらの道に持ってくる。このとき、跨いだビルの屋上ではクリスマスパーティーが開かれていた。サンタがビルを跨いだ時、そこにいた人々は頭上の至近距離にミニスカの中の縞パンを見ることができた。柔らかくフィットした生地が股間の形をトレースし二つの穴からは二つの太ももがにょっきりと飛び出している。ビルを跨ぐために脚が動き、力が入って尻と太ももの肉がやや変形する。ビルを跨ぎ終えた直後はキュッとしまった尻を見る事ができた。
そのままサンタはビルを次々と跨いで行ってしまったが、そのビルの屋上にいた男性諸君は、今見た光景をサンタからのプレゼントとしてグラスを掲げ乾杯した。

いくつものビル列を跨いでショートカットしてようやく目的のマンションの前まで来ることができた。マンションは高さ50mほどだ。ヒールで高くなった膝よりも少し高いくらいの高さである。

「えっと、お子さんのいるお部屋はどれでしたっけ?」

サンタはしゃがみこみ低いマンションに目線を合わせようとする。が、このとき、サンタの立っている道路を挟んでマンションの向かい側に建っているビルが腰を落としてきたサンタの尻の直撃を受けることとなる。ビルの屋上にズムッと乗っかる巨大な尻。緑白の縞パンと、そこからはみ出る桃尻がビルの屋上にあった出入り口や鉄柵すべてを押し潰し屋上を占領した。サンタの尻は屋上の範囲よりも大きく、屋上の上は余すところなくサンタの尻の下敷きになった。尻が屋上の上に下されたとき尻の肉がむにっと変形したがそれも一瞬の事で、尻はまるでそこに何もないかのように降下し続け、ビルは上方からサンタの途方も無い体重を受けガラガラと押し砕かれていった。サンタが脚を折り曲げしっかりとしゃがみこんだ時には尻の下にはビルの瓦礫の山が出来上がっていた。縞パンとむっちりとした尻のほっぺには細かい瓦礫が付着していてそれはサンタが無意識に腰を動かし尻を揺らすとパラパラと地面に落ちる。

そんな自分の尻の起こしたビル解体など気づいていないかのようにサンタはさも当然と作業を続ける。
目の前のマンションのプレゼントを届ける部屋の位置を確認し方に背負っていた袋を地面にずしんと下ろしその中に手を突っ込んでサンタから見ればゴマ粒のようなプレゼント箱を摘み出しそれをマンションの部屋のベランダにそっと入れていく。

「これでよし。さー次のマンションは~」

サンタは立ち上がり袋を背負い直すと次のマンションを目指して歩き始めた。やはりその巨大なブーツが踏み下されるたび道路には大穴が開き周辺の建物は爆発でもしたかのようなダメージを受けたが。

こうしてサンタは町中を練り歩きいくつものマンションにプレゼントを届けて回った。その過程でいくつもの道路を粉砕し何十もの車を踏み潰した。時に家をブーツで踏み潰し瓦礫に変えたり駅に停車していた電車を蹴り飛ばしたりしたがそちらにはあまり関心がないようだ。サンタが一歩歩くたびに町を地震が襲い周囲のものが宙へと放り出され家々が倒壊する。サンタが通過した後は爆弾でも爆発したのかというような瓦礫の街並みが広がっていたが、プレゼントを届けるマンションだけは傷一つつかず無事だった。

子供は眠る夜、大人だけの時間にプレゼントを届けて回るサンタ。聞こえる悲鳴はすべて大人のもの。子供はとっくに夢の中である。明日の朝、目が覚めれば届けられたプレゼントに子供たちは喜ぶだろう。しかし大人たちは、この破壊され尽くした街並みに唖然とするだろう。
子供には希望を、大人には絶望を与えるのがサンタの仕事である。