『 兄の部屋に 』



  コンコンコン

「お兄ちゃーん、入るよ」

ガチャリ。ドアを開ける妹。
すると兄の部屋の床には1万分の1サイズのミニチュアがビッシリと敷き詰められていた。

「うっわ…また変なことしてるなー」

妹は目の上に縦線を入れながらため息を着いた。

兄は個人の科学研究者である。
しかも超がつくほどの大天才で、世界中から様々な分野での研究を手伝って欲しいと言われているが、本人はそれらをすべて断りこの我が家の自室で気ままに研究を続けている。
ただ性格的にはずぼらで、家の鍵を掛け忘れたり食事に気を使わなかったりと言ったこともしょっちゅうだ。
大方 今もコンビニにお弁当でも買いに行っているのだろう。部屋にはいなかった。
だったら研究中の装置ぐらい止めていけばいいものを。

「これって、この間 見せてくれたホログラフ(立体映像)投影装置って機械で作ってるのかな。まるで航空写真でも眺めてるみたい…」

妹は足元に広がる極小の大地を見渡しながら言った。
小さな森や山や川。それに町などがそこにあった。

「って、こんなことしてる場合じゃない、参考書借りに来たんだった。でもこれじゃ部屋に入れない…。そう言えばホログラフはただの映像だから触れないって言ってたし、入っても大丈夫かな…?」

妹は意を決し、ミニチュアの敷き詰められた兄の部屋にそーっと足を踏み入れた。
黒いニーソックスに包まれたつま先が1万分の1サイズの町に影を落とす。高層ビルなどがいくつも建っている部分だ。
そのまま妹はつま先を町の上に下ろした。するとつま先の下で何かがクシャッと潰れる感触がした。

「えっ!? さ、触れちゃった!?」

慌てて足を引っ込めると、つま先が触れた部分の建物は潰れて壊れていた。

「だ、大丈夫かな…!? 怒られたらどうしよう…」

妹はオロオロしながらミニチュアの壊してしまった部分を見ていたが、

「って 考えたらただの映像なんだから壊しちゃっても大丈夫だよね。お兄ちゃん 立体映像に触れるように改造したのかな? まったく人騒がせなんだから」

はぁ、とため息をついて 今度は躊躇せず兄の部屋に踏み込んだ。

 サクッ サクッ

足がミニチュアの町を踏むたびに、靴下に包まれた足の裏に小さな町が壊れるサクサクという感触がしてちょっとくすぐったい。
やわらかい霜柱を踏んでるみたいな気分だった。

「えっと、参考書のある本棚は…」

妹は部屋の中にいくつかある本棚を見渡して、テキトーな奴に近づいていく。

「この本棚だったかな…?」

んーと…、と本棚の中に収納された書物のタイトルを読んでいく。
だが、目的の参考書らしき本はどこにも見当たらない。

「ないなー…。こっちだったっけ…」

そのまま隣の本棚まで移動し中を検めてみる。
が、やはり目的の参考書は無い。

「あーもう! 本棚の中くらい整理してよ! ほんとずぼらなんだから!」

もう! と憤慨する妹。
そして更に二つの本棚を探すことでようやく参考書を見つけた。

「まったく…」

と、妹は参考書を手に取って部屋の入り口に向かおうと振り返る。
そこで部屋の床のミニチュアに視線が落ちる。
本棚を見るため妹が歩き回ったせいでミニチュアの上にはたくさんの足跡が残っていた。
小さな小さなミニチュアの町の上に、大きくはっきりと残る自分の足跡。
それを見てふと立ち止まる妹。

「…」

妹は足元のミニチュアの町をジッと見下ろしていた。
まるで航空写真のように鮮明な町並みがそこにある。
とてもリアルだ。今気づいたが、まるで綿のように小さな雲が自分の足首くらいの高さを浮かんでいた。

良く見れば、自分が部屋の中にいくつも残した足跡の周囲の建物は軒並み崩れ落ちている。
まるで大地震にでも見舞われたように崩れて瓦礫の山になっていた。
自分が参考書を探すため部屋の中を歩き回ったときには気づきもしなかった。

ふと自分の足元に視線を落とせば、自分の黒い二ーソックスを穿いた両足はミニチュアの町の上にあった。
足を下ろしている周囲の建物はみんな崩れ落ちている。自分が普通に足を下ろしているだけで周囲の建物は壊滅的な被害を被っていた。

「…」

妹は、右足を少し持ち上げ、町のまだ被害の出ていないところにそっと下ろしてみた。
すると妹の足が着地した瞬間、足の周辺の建物がまるで砂の城が崩れるようにガラガラと崩れ落ちるのを見た。
特に壊そうと思ったわけでもなく、ただ足を置いただけで、である。

「…」

その様子をジッと見ていた妹はにやりと笑った。

「これってちょっと楽しいかも…」

今度は左足を持ち上げ町のまだ無事だった部分に下ろしてみる。ただし今度はさっきより強くだ。
ズン! と勢い良く踏み下ろしてみた。
すると足の落下した周囲は、まるで隕石で落ちてきたかのように粉々に粉砕され吹き飛ばされてしまった。
あとには大きなクレーターが残された。

「あはっ! すごい! 私がちょっと足を下ろしただけで町が滅茶苦茶になってる!」

妹はまた右足を持ち上げると同じように無事な部分に踏み下ろした。
左足を持ち上げるとまた無事な部分に踏み下ろした。
ズン! ズン! それを何回か繰り返しただけで妹の足元にあったミニチュアの町は消し飛び無くなってしまった。

「うわ~、もしかして私って神様?」

妹は手に持っていた参考書を兄の机の上に置くと、部屋の中を歩き始めた。
部屋の中にあった、別のミニチュアの町へと近寄っていくと そこに足をズンと踏み下ろした。
足の周囲の建物がガラガラと崩れ落ちる。
そして踏み下ろした足を、かかとを軸にして横にぐりっと動かす。するとそこにあった建物たちがみな足に巻き込まれ寄せられて、瓦礫の山へと変えられてしまった。
今度はつま先だけを下ろし、手前に引っ張ってみる。引きずられる足の下でたくさんの建物がすり潰される感触がした。

「うわ…なんかすごいゾクゾクする…。…き…気持ちいい…」

妹は両足で町をズシンズシン踏み潰しながら左手で胸を、右手をスカートの中に忍び込ませていた。
小さな町を圧倒的な力で蹂躙する優越感に体が反応していた。
スカートに忍ばせた右手の指は、くちゅりと濡れた音を立てていた。

 ズズン!

妹はミニチュアの町の上に腰を下ろした。
流石にスカートとパンツ越しでは小さな建物の潰れる感触は感じられない。
町の上に座り込んだ妹は、そのまま胸と秘所を激しくいじり始めた。

 くちゅり くちゅっ

卑猥な音が自分の耳にも聞こえてくる。
気分は町の上で自慰に浸る大巨人だ。自分の巨大な体でたくさんの建物を押し潰しながらオナニーをする。
凄い優越感だった。
そのまま一気に絶頂へと向かった。

「ん…! んん…ッ!」

プシュゥ!
溢れた愛液が妹の股の間にあった町に降り注いだ。

「はぁ…気持ちよかった………って何やってんのよ私! これどうすんのよ!」

見れば自分の股間の前にあった町は、今しがた自分が吹き出した愛液で水没していた。
小さな小さな建物の間を、自分の愛液が川のように流れている。
これは流石に恥ずかしい。妹は顔を真っ赤にしていた。

「と、とととにかく片付けないと! お兄ちゃんにバレたら大変!」

とりあえず立ち上がる妹。パンツとスカートもぐしょぐしょだが、そんなことは後回しである。
立体映像の上とは言え、兄の部屋でオナニーしてしまったのだ。早く片付けなくては。

えーとえーと! と慌てる妹は、兄の机の上にこの立体映像を発生させていると思わしき機械を見つけ、それの電源を切った。
すると部屋の床に広がっていたミニチュアはフッと消え失せた。
ついでに自分の愛液もだ。

「あ、ら、ラッキー! と、とりあえず着替えないと!」

妹は慌てて部屋を出て行った。
ちゃっかり、参考書を持ち出すのは忘れなかった。


  *
  *
  *


勉強を終えた妹はリビングでテレビを見ていた。
すると

「ただいまー」

そこに兄が帰ってきてリビングへやってくる。

「あ、お帰りお兄ちゃん。参考書借りたけど」
「ああ 別にいいぞ」
「ありがと。あ! お兄ちゃん、出かけるときは機械のスイッチ切っていってよ! 立体映像投影装置…だっけ? あれのせいでビックリしたよ」

「ん? あれは立体映像投影装置じゃないぞ。あれは空間転移装置だ」
「ふぇ?

妹は食べかけのアイスを咥えたままキョトンとした。

「つまりワープ装置だな。指定したエリア内と別の空間を繋げる。今回は俺の部屋をエリアに指定してたから、お前は俺の部屋にいながら別の場所に行っていたわけだ」
「別の場所?」
「地球上のどこか別の場所だ。まだ試作段階で距離とか倍率は未設定なんだが、俺の部屋に入ったんなら、お前は実際にこの世界のどこかに行ってきたわけだな」
「じ、実際に…?」
「そ。実際に。何か見たり触ったりしたなら、それは立体映像じゃなくて本物だよ」
「ほ、本物……」

妹の口から食べかけのアイスがポトリと落ちた。

そのときである。

『そ、速報です! たった今 某国に、きょ、巨大な人間が現れたとのことです!』

点けていたテレビが速報を告げた。
兄の方を向き、テレビに背を向けていた妹はビシッと音を立てて固まった。
更にキャスターは続ける。

『その巨人は周辺の町を壊滅させ、某国は甚大な被害を被ったとの事です! えー、こ、こちらがその時の映像です!』

キャスターがそう告げたあと、妹は真っ青な顔でおそるおそるテレビを振り返った。

するとそのテレビの画面には、町の上に座り込みオナニーをするとてつもなく巨大な自分の姿が映っていた。



【おわり】

※妹視点がメインなので短めです。妹が町を壊すことを楽しみ始めてから破壊描写が入ったので少なめです。
でもコビト視点だったら。
妹が気づいていなくても、妹が兄の部屋に訪れた時点ですでに破壊は始まっているわけで。
となると、妹が兄の部屋を歩き回り始めてから意図的に破壊を始めるまでにもすでに破壊は起きているわけで。
でもその辺の内容はみなさんの脳内補完にお任せします。

つまり何が言いたいかと言うと、黒ニーソで踏まれたい。