〜 兄と妹 〜


まずは物語の概要について説明しよう。
タイトルからも想像できる通りこれは兄と巨大な妹の物語だ。
だが兄妹による絡みを期待している人には申し訳ないが、基本的に妹が好き勝手暴れるだけだ。
兄は無敵の巨人である妹をコントロールできる唯一の存在、というやつだ。
この手のキャラクターがいると簡単に巨大娘をコントロールできるから、筆者としては大変ありがたい。
だが、巨大娘は何者にも従わない不可侵の存在である思ってる方には再び申し訳ない。
彼女たちはときたま筆者の手を離れ勝手に歩き回るときがあるからな。レベルの低い筆者には必要な存在だ。
というわけでこの物語は妹が起こす大災害を暖かく見守る類のものである。


次に登場人物について簡単に説明しよう。
まず兄。妹の兄だ。
次に妹。兄の妹だ。

…冗談だ。

兄。
学生(高校生か大学生。詳しくは未定)
年齢未定。身長は約170㎝。体重は約60㎏。
どこにでもいる平々凡々な学生だが、何事にも動じない肝っ玉と、極めて個性的な妹を持つ。
現在妹と二人暮らし。両親の生死は不明。

妹。
学生(高校生か中学生。詳しくは未定)
年齢未定。身長は「通常時」は約140㎝。体重は「通常時」は約40㎏。スリーサイズ未定。ブラのサイズはとりあえずC。
この世に二人といない奇奇怪怪な学生だが、子どもの様に純真で、極めて平凡な兄を持つ。
現在兄と二人暮らし。両親の生死は不明。
兄が大好きで兄第一主義。兄が白といえば黒いものも白くなる。
兄とH(エッチ)をすることを人生最大の目標としている。
さらに最大の特徴として身体の大きさを変えられるという能力を持っている。
いわゆる「可変型GTS」とか「拡縮自在娘」とか呼ばれるタイプである。呼んでるのは筆者だけだが。
倍率は10倍、100倍と、それぞれの桁の倍数の大きさに変化する。最大値は不明。
なお、厄介なことにこの大きさの変動を自分でコントロールできないと来ている。
基本的には1日1回、寝てるときに大きさが変わる。
だいたい100倍、1000倍の大きさでいることが多く、それ以下のサイズになることは稀である。


名前はない。なぜなら筆者こと十六夜は登場人物の名前が知人の名前とかぶるとテンションが落ちてしまう体質なのである。
故に自分以外にもそういう体質の方がいるのではと危惧して、あえて登場人物には名前をつけませんでした。
これが気に食わんと仰られる方は、がんばって脳内で名前をつけるか、文章を編集してくだされ。
似たような理由で髪型なども指定しておりません。おのおの自由に想像してください。でも個人的にはポニーテールが好きだ。

未定がやたら多いのは後々でも設定の変更が利くからである。
というより抽象的な方が使い易いのよね。描写とか色々誤魔化せるから。





    では本編


 第1話 〜 今日は100倍 〜


日本。
そのどこかの県のどこかの街のどこかの住宅街。のはずれ。
何千何万平方メートルとも知れぬ広大な敷地の中にちょこんと立っている家がある。
それが兄と妹の暮らす家である。
そしてその家の前に立っている男こそが通称:兄。その人である。

「遅いな。これ以上遅くなると遅刻するぞ」

腕時計に目を落としながら兄はポツリと呟いた。その時である。

    ずうぅ…ん………ずううぅ…ん………ずうううぅうん………ずうううううん………

強烈な縦揺れとともに、重々しい音が近付いてくる。

「お、来たか」

この地響きの中を涼しげな顔で立ったまま兄は言った。突然陽光が遮られる。

「おまたせ〜」

そこには百数十メートルの高みから兄を見下ろす巨大な妹の姿があった。ざっと100倍である。

「遅いぞ、何やってたんだ?」
「だって着替えるときに地面が沈んで転んじゃったから汚れをはたいてたんだもん」
「地下鉄でも踏み抜いたか? まぁいい。それよりもさっさと行くぞ。このままだと遅刻だ」
「うん、わかった」

ぬうっと巨大な指が降りてくる。
直径1メートル以上もある巨大な指は兄の身体を軽々と持ち上げると巨大な制服の胸ポケットにしまいこんだ。

「それじゃあ走るからしっかりつかまっててね」

妹はにこりと微笑んだ。
そして妹の25メートルはあるローファーが地面を蹴り、その巨体をぐんと前進させたのだ。

    ずどおおおおおん!! ずどおおおおおん!! すどおおおおおん!!

爆音と地震を轟かせながら妹は走り出した。自動車など比べ物にならない速度だ。
ちなみに妹は兄のことで以外、足下、周囲に気を配る事はない。故に…。

    グシャァ!!  バキバキッ!!  ズドオオオン!!  ゴゴゴゴ…!!

足下は大惨事だ。
巨大なローファーは数棟の家を一緒に踏み潰し、車を道路にめり込ませ、バスを遠方へ蹴り飛ばし、
道を歩いている多くの人を蹴散らした。妹の走り抜けたあとは瓦礫の山が一本の線を引いているのだ。

「…」

兄もこれに対して何も言わない。言ったところでこのサイズの妹が何も踏み潰さずに街を歩くのは不可能だ。
それに踏み潰したところで俺の人生大して変わらんしな。

…肝っ玉がでかいというか、冷徹というか、本当に物事に動じない兄である。


無数の家と車と人を蹴散らして、正面には兄の通う学校が見えてきた。
だがその前にはやたら車線の多い道路が走っている。
妹は速度を上げ、その道路の一歩手前で勢いよく地面を蹴った。

「じゃ〜〜〜んぷ!!」

道路を飛び越える妹。そんな事をしなくてもちょっと歩幅を広くすれば簡単に跨げるのだが。
宙に浮く妹。妹が踏み切った地面の周辺は小さなクレーターの様になっている。
きっと道行く人からは妹のはく巨大なパンティが丸見えだったことだろう。
だが、それを眺められるほど周囲の人々に余裕はなかった。
巨大な妹が落ちてくる。あの巨体があの速度で落ちてくればものすごい衝撃を発生させるだろう。
人々は頭を抱えしゃがみこんだ。
そして…。

    ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!!!!

妹が着地した地点からまるで隕石が衝突したような衝撃が広がり、周囲の建物や人々を吹き飛ばしていった。
もうもうと立ち上っていた砂煙が収まったあと、そこには周辺のものを根こそぎ吹き飛ばして綺麗なクレーターが出来ていた。
数歩前進する妹。

「到着〜。なんとか間に合ったね」
「ああ、助かったよ」

胸ポケットから兄を取り出し、正門前に降ろす。
妹は立ち上がり兄を見下ろしながら、屈託のない笑顔で言った。

「じゃあお兄ちゃん、いってらっしゃい」
「ああ、お前もがんばれよ」
「うん!」

窓ガラスが吹き飛び、ボロボロになった校舎の中に兄が消えて行くのを見送った妹。

「さてと、あたしも学校行こ〜っと」

自分の学校の方を向いた妹は再び走り出した。また無数の家を踏み潰しながら。


    *****


    キーン コーン カーン コーン

なんとか授業には間に合った妹。
というか実際は間に合わなかったのだが、走ってきた勢いをとめられず、
閉じられた正門とその前に立っていた教師をうっかり踏み潰してしまったので遅刻によるお咎めがなくなったのだ。
もとより咎められる存在ではないが。
そして開始された授業。妹のクラスは最上階の4階だ。だがもちろん教室内に妹の姿はない。
100倍の大きさの妹が入れる教室など何処にもないのだ。
体育館でさえ足を入れるだけでいっぱいになってしまう。
なので妹は校庭に座って授業を受けるのだ。そしてもちろんその巨体は校庭にも入り切らない。
今妹はぺたんと地面に座りこむ格好なのだが(いわゆる女の子座りというやつ)、足首から先とお尻は校外に出てしまっている。
たくさんの住宅がその足とお尻の下で潰されているのだ。家の高さは横になっている妹の足幅よりも小さい。
家がローファーの影に隠れてしまっている。
気付いていないのか、妹はニコニコと笑って授業を受けていた。

「えー…、ではこの問題が分かる人」

先生が黒板に書いた問題を指しながら言った。

「はい」「はい」

次々と手を上げるクラスメイトたち。
そして妹も返事と共に手を上げた。

「はいっ!!」

爆音のような強烈な声量に、校庭側の窓ガラスがみんな吹き飛んでしまった。
生徒たちも耳を押さえてのた打ち回っている。だが妹は続けた。

「はいっ! はい先生! あたし分かります!!」

妹が声を発するたびに新たに何枚ものガラスが割れ、校舎にはヒビが入った。
学校だけではなく、周辺の住宅もガラスが吹き飛んだ。
木々が声の起こす振動に揺られざわめいている。
教師はすでに爆音に耳をやられ気を失っていた。

「大変、先生を保健室に連れて行かなくちゃ!」

言うと妹は教室に手を伸ばし、校舎の外壁を突き破って先生を摘みあげた。
この時その壁周辺にいた生徒たちが瓦礫の被害に遭っていたが先生に気を取られ妹には見えなかった。
妹の手が引き抜かれたあと、そこには教室の大きさとほぼ同じ大きさの穴が出来上がっていた。
妹は先生を摘んだまま手を保健室に突っ込んだ。

「保険の先生、先生が倒れちゃいました。見てあげてください」

摘んでいた先生を放すと妹は手を引き抜いた。
そこには妹が連れてきた先生とは別に、突然壁を突き破って入ってきた巨大な手に突き飛ばされ、
壁に叩きつけられて気絶している保険の先生の姿があった。

「これでよし」

それから妹のクラスは校庭側の壁が無くなり、妹も黒板がよく見えるようになったそうだ。


    *****


そして昼食の時間。妹は膝の上でお弁当を広げていた。
そこには色とりどりのおかずが詰め込まれた、まるで宝石箱(笑)のようなお弁当があった。
もっともサイズは桁違いであったが。
とその時、先ほど開いた教室の穴から声がかけられた。

「妹さーん、一緒にお弁当食べよー」

見れば数人の生徒が穴の傍でお弁当を持って立っていた。なんだかんだ言って妹は人気者なのである。

「うんいいよ〜。それじゃあおかずのとりかえっこしようよ」

妹は校舎の壁面に身体を寄せて、クラスメイトたちも穴の近くに座り込んだ。
わいわいと実に楽しげである。

「はい、あたしからはこれ、卵焼き。うちのお母さんのおいしいんだよ」
「じゃあ僕はこのウインナーをあげるよ。実家が農家でさ。いつも新鮮なウィンナーやバターを送ってくれるんだ」
「私はこのハンバーグをあげるわ。今朝自分で作ったのよ」
「俺からはこの人参の炒め物。俺が自分の庭園で長年苦労してやっと出来たやつなんだぜ」
「ぼくはこれ」
「あたしはこれ」
「…」
「…」

ワイワイ

そして妹の番になった。

「じゃああたしはこの魚のフライをあげるよ」

妹は巨大な銀紙で出来た皿を教室の中に敷くと、それをそこに置いた。

「…」
「…」

クラスメイトたちは呆然としてしまった。
そこには全長4メートル以上もある巨大な魚のフライが置かれたのだ。

「…」
「…ねえ妹さん、これは…?」
「本マグロのフライだよ。小さいし骨もかたくないから一口で食べられるの。最近お兄ちゃんに作り方を教えてもらったんだ」
「…」

この巨大な魚のフライを全部食えと…?

「ささ、遠慮しないで食べてね〜」
「…」

クラスメイトたちは自分の弁当のふたを閉め、目の前に鎮座する巨大なフライに向かっていった。
妹はみんなからもらったおかずを自分のご飯にのせて一口で食べてしまった。

「おいしい〜」

妹の幸せそうな声が響く。




そして暫く経ち、妹のお弁当の残りも少なくなってきた。
(クラスメイトたちのマグロのフライはまだ1/10ほどしか減っていなかったが)
屋上では昼食を取り終わった学生たちがバレーボールを始めようとしていた。

「もぐもぐ…」

お弁当を食べる妹。
しかし次のおかずを口に運ぶ途中に箸の間から落としてしまったのだ。

「あ! 危ない!!」

妹は落下するおかずに箸を伸ばした。その時に手が校舎の壁面に当たってしまった。

    ズドオオオオン!!

大地震に見舞われる学校。校舎内の生徒たちは立っていることが出来なかった。
そしてなんと屋上でバレーボールをしていた人の一人がその揺れで屋上から落ちてしまったのだ。

「うわああああああああ!!」

ボムッ

思っていたよりも早く訪れた地面の感触はまるでマットの上に落ちたように柔らかかった。
そこは妹のお弁当の中だった。まだ残っていたおかずがクッション代わりになったのだ。
そのころ妹は落下中のおかずを箸で見事にキャッチしていた。

「ふぅ、危なかった」

    パクン

口におかずを放り込む妹。そしてその後、箸はお弁当の中に向けられたのだ。
自分の方に向かって箸が降りてくることに気付いた生徒は横にあった巨大なおかずの影に身を隠した。
それは何で出来ているのかは知らないが巨大なミートボールのようだった。
ピッタリとくっつき姿を隠した。
ところがその所為でミートボールの表面に接着してしまい身動きが取れなくなった。
さらに彼は突然身体が上昇する感覚を覚えた。まさかこのミートボールを食べようとしているのか。

「待って! 食べないでくれ!! 俺がここにいるんだ!!」

叫んだものの口に運ばれる速度は変わらない。

「あーん」

彼は巨大な口が開かれてゆく様を見た。
その大きさは自分の2倍以上の大きさのこのミートボールくらい一口で食べてしまえるだろう。
そこにへばりついた自分も一緒に…。
彼は友人たちが屋上から自分のことを見上げていることに気づいた。
そして。

    パクン

食べられた。

妹は口に入れたミートボールをよく噛んだ。

「モグモグ…」

    パキッ ボキッ

すると今までのミートボールとは違う感触がした。味も何処と無くしょっぱいような気がした。

「でもおいしい〜」

    ゴクリ

飲み込んだ。
妹は満足そうな笑みを浮かべて笑った。



だが、それを見上げていたバレーボールをしていた生徒たちは複雑な気持ちだった。
さっきまで一緒にバレーをしていた友人が目の前で食べられたのだ。
先ほど聞こえた音は彼の骨が噛み砕かれた音なのだろう。
一緒にバレーをしていた女生徒の一人が耐え切れずに叫び声を上げた。

「いや…いやああああああああああああああああ!!!」

するとその声が聞こえたのか妹の巨大な顔がぐるんとこちらを向いた。
その顔はとてもにこやかに微笑んでいる。たった今自分たちの友人を飲み込んだのに。

「どうしたの?」

遙か高みから妹が声をかけてくる。
生徒達は恐怖に声を出すことが出来ない。

「ねえ、どうしたの?」

妹が顔を近付けてきた。空が彼女の顔で埋め尽くされる。
彼女が喋るたびに巨大な口が開かれ、内壁が差し込んできた光に照らされキラキラと光る。
たった友人を食べた口がそこにあるのだ。
その口が開閉するたびにまるで彼がそこから出てくるのではないかという幻覚に襲われる。
口はピンク色の唇に縁取られ、その中には1メートルほどもある巨大な白い歯が並んでいる。友人を噛み砕いた歯だ。
中はぬらぬらと妖しく光っており、巨大な舌がまるで生き物のように蠢いている。
生徒たちは、この口が次は自分に襲い掛かってくるのでないかという恐怖にかられ、悲鳴を上げながら階段に向かって逃げ出した。

だが、

    ずうううんん……!!

階段への入り口は巨大な手によって屋上にめり込まされた。
その後すぐに巨大な手は生徒たちの方へと向かってきた。
巨大な指がまるで獲物を狙う獰猛な動物の様に襲い掛かってきたのだ。
指は最初に叫んだ女生徒を摘みあげると、妹の巨大な顔の前に連れ去った。

「どうしたの? あたしでよければ力になるよ?」

自分で食べておいてよくもこんな……。
女生徒は大声でそう言ってやりたかったが、なんとか思いとどまった。
今自分はこの巨人の指先に捕らわれているのだ。きっと重さも感じていないことだろう。
この手はさっきあっさりと下へ降りる階段を潰したのだ。
そして今自分に語りかけているこの口は友人をあっという間に飲み込んでしまったのだ。
彼女が抗議したところで、こんな巨人に敵うはずがない。
例え敵ったところでどうしようもないのだ。
いかに強大な力を持ったこの巨人でも食べた人間を元通りに戻すことなんて出来るはずがない。
彼はもう…戻ってこないのだ。

「…」

女生徒は沸きあがる嗚咽をこらえた。
妹は巨大な瞳でその顔を覗き込んで言った。

「いったい何があったの?」

怖い。
でも、伝えてやりたい。
悔い改めてとは言えない。
でも、後悔はして欲しい。
彼に、謝って欲しい。
女生徒は意を決したようにポツリポツリと喋りだした。

「あなたは……あなたはさっき……私の友人を…食べてしまったの……」
「ええ〜、あたし人間は食べないよ〜」
「違う…あなたはさっき…私の友達を口に運んだじゃない……」
「あれはミートボールだよ。あなたのお友達じゃないよ」

屈託のない笑顔で返す妹。
女生徒は表情が抜けてしまった。
この少女は…、この巨人は…、人間を食べたことに気付いてない……。
人ひとりを殺してしまったのに…、なんとも思ってない……。
女生徒は目を開いたまま涙を流した。

屋上に降ろされた女生徒は放心してしまいピクリとも動かなかった。
駆け寄った生徒たちに支えられよろよろと屋上を後にした。
(3階への階段の入り口は妹が人差し指で貫通させた)

その姿を見ながら妹はクスリと笑った。

「ミートボールが友達だなんて変わった人だね〜」
「…」

一部始終を見ていたクラスメイト達は何も言えなかった。


    *****


午後の授業である。
ちなみに数名のクラスメイトが食べすぎで腹を壊して保健室に運ばれている。

科目は物理。
ひたすらに話を聞く授業であることと、食後ということもあって、
居眠りをする生徒があとを立たなかった。
妹もその一人である。
さきほどまではコックリコックリ船を漕いでいたのだが、とうとう耐え切れなくなって校舎に身を預けてしまったのだ。
普通の生徒が机にうつぶせるように、屋上に腕を置いてその上に顔を乗せて眠ってしまった。
妹がもたれかかった屋上のすぐ下の教室が胸を押し付けられて崩壊した。

「……ぅ…ん……」

なんか妙に色っぽい寝息を立てて眠る妹。
この声を聞いた全校の数百人の男子生徒が股間を押さえたまま授業をエスケープ。

その後、なにやらツヤツヤした顔で男子生徒が帰ってきて授業は再開された。
そして暫くの時間が経った。

    ミシ……ミシリ……

なにやら奇怪な音が聞こえる。
それと同時にパラパラと砂のようなものが天上から降ってくる。
これは…。
いち早く状況を理解した妹のクラスメイトたちは、あわてて教室を出て転がるように階段を下りていった。
他のクラスの生徒から向けられる奇異の視線を振り払いながら全速力で校舎から逃げ出していったのだ。
中には非常時に使うあの痛い滑り台を使って降りてくる者もいる。防災訓練は偉大だ。
そしてクラスメイト全員が校庭に脱出したあと、他の生徒が事態の深刻さに気付いた直後、それは起こった。

    ミシ……ミシミシ……ミシミシミシミシ!!

校舎が、もたれかかる妹の重量に耐え切れなくなったのだ。
別のクラスの生徒が昇降口に現れた…その時だ。

    ゴゴゴゴ……ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンン……!!

妹は校舎を押し潰す様に倒れこんだ。
昇降口まで来ていた生徒も瓦礫の雨に飲み込まれていった。
もうもうと砂煙が巻き上がる。
そして…。

「いった〜い…」

瓦礫の山から妹がのそりと身体を起こした。
パラパラと周囲に校舎の破片が降ってくる。
起き上がった妹の頭の上には瓦礫が雪の様に降り積もっていた。
妹は寝ぼけ眼をこすりながら言った。

「…あれぇ? お兄ちゃんは…? 今まで一緒にエッチしてたのに…」

…。

寝ぼけてた。

数百人の生徒と教師が瓦礫の下に埋もれてしまった。
無事に脱出できたのは妹のクラスの生徒のみ。保健室にいた生徒も無事である。
これも普段から妹に接していて養われた勘のお陰だろうか。
彼等は無言で校舎の向こうに沈み行く夕日を見つめていた。

「お兄ちゃ〜ん…、続きやろうよ〜…」
「…」


    *****


授業を終えて、学校の正門の前で待っている兄。
暫くすると規則的な、それでいて強烈な振動が周囲を襲った。

「お兄ちゃ〜ん」

見れば妹が、今朝妹に破壊されやっと修復作業が開始された場所を再び踏みにじりながら走ってくる。

「お兄ちゃん、お待たせ」
「おう。すっかり暗くなっちまったな。とっとと帰って飯にしようぜ」
「うん!」

兄を胸ポケットにしまいこむと、妹はうちに向かって歩き始めた。
今朝踏み荒らしたところを、再び踏み荒らしながら。


 〜 END 〜