第4話 〜 今日は1000倍 (ショートギャグ) 〜


「お兄ちゃんお兄ちゃん! 見て見て!」


1000倍の妹が見下ろしてくる。
周りの建物はすでに大半が妹の起こす地震で倒壊している。俺? 俺は兄だから問題ない。
妹が膝を着いてこちらに手を突き出してきた。いや、それでも俺にとってはかなりの高所なんだけどな。
妹の手はまるでおにぎりを握るかのように丸く閉じられている。

「なんだ? 何を見つけたんだ?」
「うん! さっきね、さっきね! そこから打ち上がってきたのを捕まえちゃったの」

打ち上がってきたの? 飛行機か何かか?

「ほら見て」

妹はそれを指でつまんで見せた。

「スペースシャトル」
「わお」

そこには妹の巨大な指に挟まれた小さな虫のように哀れなスペースシャトルの姿があった。
船体が妹の指の間でギシギシと悲鳴を上げている。宇宙に上がる前に天に昇ってしまいそうだ。

「ねぇねぇ、コレ飼っていい?」

完全に虫扱いだよ。ってか飼う? 育てるの?

「飼うのはかまわんがエサとかどうするんだ?」

我ながらピントのずれた会話だ。

「え? そこら辺の飛行場から取(盗)ってくればいいんじゃないの?」
「あのな妹よ。スペースシャトルってのは燃料とかも特別なものを使っててな。一般人が育てるのは難しいんだよ」

まぁ例えプロ?でもスペースシャトルを育てたりは出来ないと思うがな。

「そっかぁ…。残念…」

しょんぼりする妹。

「まぁそういうわけだからさ、そのスペースシャトルは放してあげなさい」
「はぁい…」

妹は立ち上がり頬に人差し指を当てて考え始めた。

「えーと…宇宙に飛んでいく予定だったんだから、宇宙に放してあげるのがいいよね」

言うと妹はスペースシャトルを持った手を思いっきり振りかぶって…

「えいっ」

投げた。

音速を遙かに超える速度で投げられたシャトルはクルクルと回転し、赤い尾を引きながら大気圏を突破していった。

「さよ〜なら〜」

妹はのんきに手を振っている。

「大気圏突入ではなく突破するときに尾を引くとは…もうあのスペースシャトルが地球に戻ってくることもないだろう…」

俺は空へと消えて行った哀れなスペースシャトルに静かに手を合わせた。



数日後、月に新しく巨大なクレーターが出来ていることが発見された。
クレーターの中心にはかわそうなスペースシャトルが突き刺さっていたという。