部屋でお菓子を食べながらテレビを見ていた男。
ポテトチップスあたりはよくこぼれる。
そしてふと気付く。なんと部屋の中を数匹の蟻が歩いているではないか。
潰すのもなんか躊躇われたので男は殺虫剤を吹き付けた。その瞬間、目の前が真っ白になった。

頭の中に声が響く。


「これで貴様の一族は通算1億匹の罪無き蟻を殺めた。彼等の恨みを身を持って味わうがいい」


ややあって意識を取り戻した男。頭を振って意識をはっきりさせて気付いた。なんだここは?
部屋。家具。横には食べかけのポテチの入った袋。いずれも先ほどまでの自分の部屋のそれだが、その大きさがバカだ。どいつもこいつも山の様にでかくなっている。転がっているポテチのかけらですら自分より大きいのだ。いったい何が起きているのか…と、視界を何か黒いものが横切っていった。嘘だ。それは蟻だった。自分と同じくらいの大きさの蟻である。化け物だった。思わず悲鳴を上げていた。するとその巨大蟻がこちらを向いた。そして。

「何を叫んでるんだ?」

は、話し掛けてきやがった。蟻が、俺に!? 慌てながら唖然とする不思議な状態の俺に蟻は続ける。

「おかしな奴だな。ほれ、遊んでないでとっとと運ぼうぜ」

その蟻はポテチのかけらを顎で持ち上げ歩き出した。俺は勇気を持ってその蟻に話しかけた。

「な、なぁ…」
「なんだ?」
「お前って…蟻だよな?」
「当たり前だろう。頭でもおかしくなったか?」
「なんてこった…蟻に頭の心配をされてしまった…」
「蟻蟻って、お前も蟻だろう」
「なに?」

手を見る。黒い節足。
身体を見る。黒い団子w。
全身どこを見ても黒い。良く見れば視界には触覚らしきものが…。

…。

「俺、蟻!?」
「お前やっぱり頭おかしくなってるだろ」

ひとり慌てふためく蟻になった俺。
目の前の蟻あの黒い頭を捻り「大丈夫か?」と声をかけてくる。
夢か?

その時、

「こらぁ!! 何をさぼっとるか!!」

突然の怒声。振り返ってみるとそこには巨大な蟻がいた。自分の倍はありそうだ。その威圧感は凄まじい。

「あ、隊長。こいつ、どうも頭打ったらしくて混乱してるんスよ」
「む? 見ない顔だな」

隊長と呼ばれた大蟻はズイと俺を見下ろしてきた。俺の身体がその影の下に入ってしまう。怖い。
恐らく今の自分の体長は3㎜、隊長は8㎜ってところか。
その隊長が腕(前足?)を組んで言う。

「頭を打とうとと混乱しようとそんなもの関係ない、我々の仕事は食料を運ぶことだ。わかったらとっとと行け」
「い、いや…俺、蟻じゃないし…」
「まだそんな事を言ってるのか!!」

  ゴツン!

殴られた。蟻に。親父にも打たれた事無いのに。
拳を振りかぶった隊長は倒れた俺を見下ろして言った。

「覚えておけ新入り、『働かざるもの生きるべからず』だ! 貴様一人の勝手のせいで隊の全員が死ぬ!」
「す、すいません。そんなつもりは…」
「ふん! ほら、あれが貴様のノルマだ。行け」

そしてのっしのっしと隊長は行ってしまった。
俺の目の前には5m(5㎜)ほどのポテチの欠片。自分の倍近い大きさのそれだったが、顎を使うと思ったよりも楽に運べた。

「へぇ、蟻ってホント力持ちなんだなぁ」

蟻が自分の数倍もの大きさの虫を引きずっているのを見たことがあるが、それを体感してみるとその力の凄まじさがわかる。俺はポテチの欠片を持って他の蟻達の後を付いていった。だが自分の部屋がこうも汚れていたかと思うとちょっと反省させられるものがあるなぁ。そんなことを考えつつ部屋の入口であるドアの下の隙間へと向かって行く。


そして突然、通信が入った。
触覚が電波をキャッチした。
頭に声が響く。

『こ、こちらアルファ! 奴だ…奴が来た!!』
「こちらブラボー! どうした! 何があった!?」

隊長がその通信に返信する。がアルファの反応は要領を得ない。

『隊は全滅…! 作戦続行は不可能……あ! 逃げろ! 逃げろぉぉおおおおおおおおおおおおお!!! プツッ─ザザザ…』

通信は途切れノイズが走った。
隊長は舌打ちをしていた。

「くそ! いったい…」
「た、隊長!!」

隊の先頭を歩いていた蟻がドアの隙間から隊長を呼んだ。急ぎ駆けて行く隊長。ついでに着いて行く俺。
そしてドアの隙間からその向こう、廊下を覗き込んだ。そこには…。

「もう、なんでこんなところに蟻がいるかなー」

妹がいた。制服を着て手に鞄を持っているところを見ると学校から帰ってきたところだろうか。片足を持ち上げ、その白いソックスを履いた足の裏を見ている。
だが、驚くべきはその大きさだ。山よりも大きな身体。ビルなどそのソックスの切れ目にも及ばない。これが…これが蟻から見上げた人間なのか…。
妹は足を降ろすと歩き出した。

  ズシイイイイイイイイイイイイイン!!

    ズシイイイイイイイイイイイイイイイン!!

その一歩ごとに床が震える。
妹はこちらに向かって歩いてきた。この部屋に用があるわけではない。この部屋の先に用があるのだ。妹の巨大な足が俺の部屋の前を通過していった。その時見えたそのソックスの裏にはたくさんの黒いものが着いていた。あれは…アルファと呼ばれた蟻達の成れの果てなのだろう。身体がバラバラになるほどに潰れていた。蟻となっている俺からは、それは恐怖の象徴だった。そのまま妹は廊下の向こうへと去っていった。
隊長が唸った。

「ニンゲンめ…! よくも…」
「た、隊長、ここも危険です。撤退した方が…」

別の蟻が進言したが隊長は首を振った。

「ダメだ。食料は運ばねばならん。アルファが全滅したのならその分を我々が遂行しなければいかんのだ」
「な、なんでだよ! だってこのままだとこっちも全滅しちまうんだろ! さっき一人の勝手で隊の全員が死ぬって言ったのはあんたじゃないか!」
「わかってる!!」

俺は隊長に言った。
だが隊長は拳を握りながら怒鳴り返してきた。

「だが我々が食料を運ばなければ、それを待っている街の連中はどうなる!? 食料を待ち望んでいる子ども達はどうなる!? 我々は彼等のために、命を賭して食料を集めなければならないのだ!!」

その怒声に、俺はひるまされた。
隊長の覚悟。それは凄まじい使命感を背負っているからこそ。

「…」
「…フン! いくぞ」

隊長は部屋の中へ引き返した。その後姿に俺は何も言えなかった。


蟻達は部屋に散らばるポテチの欠片を持てるだけ持った。

「よし…これより全速力で街に戻るぞ。落とした食料を拾う必要は無い。今はとにかく少量でも食料を街に持ち帰り、その後すぐさまアルファの分を取りにここへ戻る」
「…」

蟻達がいっせいに肯いた。そしてドアに向かって走り出した。ドアの隙間まで来ると先頭の蟻が周囲を確認する。何もいないことを確認すると街に向かって走り出した。後続の蟻達もそれに続いてゆく。隊長は隊の中ほど、廊下の中央で後続の確認をしていた。後続に位置していた俺が隊長の前を通ったときだ。

「おい」

隊長が声をかけてきた。

「さっきは怒鳴って悪かったな」
「な、なんで…」
「俺も昔はそうだった。死んだらなんにも成らないだろうってな。仲間の命を犠牲にしてまで大切なものかよって」
「…」
「だがその内気付いたのさ。仲間達も同じ気持ちだ。街の連中のために命を張る、それは、俺たちにしか出来ない」
「でも…」
「俺には女房も子どももいる」
「!」
「そいつらを守りたいのさ」

隊長の顔は実に清々しかった。こんな危険な任についているというのに。
その隊長が、俺の方をポンと叩いた。

「お前に会えてよかったぜ。お前は例え大切なもののためでも誰かが死ぬのを良しとしない。命を大切にする奴だ」
「や、やめてくれ…。俺は…」

俺はあんたが言うようないい奴じゃない。俺は人間だ。さっきも、あんた達の仲間を殺したんだ…。

「帰ったらウチに来い。家族を紹介するぜ。ついでに娘もな」

蟻の娘を紹介されても…とは思わなかった。
彼等は仲間のために命をかけることも厭わない。なのに俺は…。

とその時だった。
突然先頭の蟻から通信が入る。

『た、隊長!!』
「!! どうした!?」
『奴です! ニンゲンがまた…!! うわぁぁあああああああ!!』

蟻の通信が途切れると同時だった。
ズシィイインという重々しい地響きが二人を揺るがした。
見ると、廊下の角からぬぅっと巨大な妹が現れた。

「あ、まただよ。いやだなぁもう」

妹はミニスカートなのは同じだがすでに私服に着替えていた。
半袖のシャツにミニスカート。そこから伸びる脚はソックスを脱いで素足になっていた。その足が今、蟻の隊列の上に降ろされている。先頭を行く蟻達がいた場所だ。

妹が歩き出した。隊の上をである。一歩ごとにたくさんの蟻があの巨大な足に踏み潰されてゆく。先頭から順に、しらみつぶしにである。蟻達は恐怖で隊を崩しバラバラに逃げ出した。そんな蟻達も、妹は丁寧に踏み潰してゆく。持ち上げられた妹の足の裏には無数の潰れた蟻がくっついていた。その足が次の蟻達を狙う。彼等も、その足の裏にこびりついた隊列に加えられた。一度に何十という蟻が消えてゆく。
隊長はうなった。

「お、おのれ…。新入り、お前は逃げろ!」
「そ、そんな…」
「隊が全滅したらいったい誰が街に食量を運ぶんだ!」

隊長に押しのけられるも俺はそこを動けないでいた。
一時とは言え仲間も、見捨てることなんてできない。

すると妹の声が轟いた。

「あ。そうだ」

妹は駆け足で廊下の角の向こうに姿を消した。終わったとも思えないが…。そして十秒も立たぬうちに戻ってきた。手に何かを持って。

「これで君達は逃げないね」

言うと妹はそれを一滴、足元に垂らした。それはハチミツだった。それが垂らされた瞬間、蟻達は我先にとそこに集まっていった。蟻の悲しい習性か。甘いものには集まらずにいられない。十数匹の蟻がそこに集まった。その上に、妹の足が掲げられる。

「くすくす、おバカさん」

 ズシン。彼等は踏み潰された。そしてまた妹がハチミツを垂らすと先ほどと同じ様に蟻が集まり潰される。完全に手の中で踊らされている。だがそれを幾度か繰り返しているとやがて足の裏がハチミツでベトベトになってくる。妹はそれをティッシュで拭った。するとハチミツは取れ、そこにあった無数の蟻達の亡骸もきれいになくなった。綺麗な桜色をした足に戻っていた。

  ズズゥゥゥゥウウウウウウウンン

 妹が片膝を立てて座り込んだ。もう片足は伸ばされ、蟻の後列をかかとで押し潰した。隊長や俺のいる隊中部は妹の脚の間に挟まれた。妹は膝を立てたほうの足の指にハチミツを垂らした。するとそこに次々と蟻が集まってゆく。足の指に垂らされたハチミツの臭いにつられて指の前に集まる蟻、妹は足の指を動かしてその蟻達をすり潰す。指と指、指と床の間に挟まれて簡単に。そして臭いに誘われている蟻達は、前を行く自分の仲間が潰されているというのにその足に向かってゆくのを止めない。次々と蟻達は、自ら望んでその足の指で潰されていった。
 角言う兄も身体の中に湧き上がる衝動を抑え切れなかった。足に向かう列に並んでいた。が、何かが視界に入った瞬間、兄の身体はそちらに向かって歩き始めていた。向かう先は妹の脚の間。座り込み、片膝を立てた事により前方におおっぴろげになっている妹の白いパンティに向かって。ミニスカートの屋根が作り出す薄暗い空間のそれは背徳的な雰囲気を醸し出す。兄もありになっているとは言え男、女体の醸し出すフェロモンには逆らえなかった。
 足の指で蟻がプチプチと潰れて行く感触を楽しんでいた妹は、その列からはずれ、自分の方に向かってくる一匹の蟻がいることに気付いた。? なんだろう? その蟻はまっすぐに自分に向かってくる。もう目の前は自分の股なのに。妹はスカートをめくってその蟻を観察していた。するとなんとその蟻は自分のパンティを登り始めたのだ。自分の真っ白いパンティを黒い点の様な蟻が登ってくる。よじよじちまちま。それはとてもおかしな光景だった。少女の股間を覆う下着という卑小なものを、この蟻は必死になって登ってくるのだ。遅い。とってものろい。それだけこの蟻にとって自分のパンティは巨大なのだ。やがて蟻はパンティの、自分の秘所によって盛り上がっている部分まで来た。その小さな盛り上がりですら、この蟻にとっては大きな山なのだろう。自分がとても大きく強くなった気がして妹はくすりと笑った。そしてその蟻はその盛り上がっている部分の中腹で動きを止めた。丁度割れ目の真ん中だ。まるで初めからこの場所が目的だったように。今日は体育があって汗もかいた。きっとそこもじっとりと蒸れていることだろう。その臭いを嗅ぎつけてきたのだとしたら…。

「エッチな蟻だなぁ」

 妹はその小さな蟻を摘み上げ目の前まで持ってきた。蟻は自分の指の間でジタバタともがいている。なんかかわいい。こんなエッチな蟻は初めてだ。こんなに小さいのなら、割れ目の中に入れてしまうことも簡単だろう。自分の性器の穴は、この蟻から見たら彼等の巣よりとても大きいに違いない。実際に入れてみようか。でも愛液が出たら溺れてしまうかも。膣に噛み付かれてしまうかもしれない。あ、でもそれはそれで刺激があって楽しそうだなぁ。妹はそんなことを考えていた。
 パンティの丘の上に登った兄。そこはじっとりと蒸し暑く、汗と妹の少女としての臭いが充満していた。その臭いは今もこの白いパンティの中からあふれ出てくる。男としての性を止められない。人間の身体だったなら間違いなく行為に及んでいた。そんな妹のパンティに身体をこすり付けていたら突然巨大な指によって摘みあげられた。その時の圧力は気を失いそうなほど苦しかった。なんとか脱出しようともがいても指はびくともしない。やがて妹の目の前に持ってこられた。妹の顔が視界を埋め尽くすほどの巨大さで自分を見下ろしている。くりくりっと目を動かしキラキラと輝かせている。まさか指の間に摘まれたこの蟻が自分の兄だとは気付くまい。そして俺が必死に暴れているのに、妹の顔色にはそれに対処しようなどという色は伺えなかった。つまりほとんど力を込めない無意識で俺を摘んでいるのだ。なのに俺はそれに抗えない。圧倒的な力の差だった。その指がぐにぐにと動き出した。潰されそうだった。実際はただ指の間の蟻をこねるようにしているだけなのだろう。蟻の身体がどこまでもつか。これが外骨格でない人間の身体だったならとっくに潰されてしまっている。くりくりこねこね。目が回るほどの回転と激痛。まだどの脚も折れてはいないが、骨格はメキメキと音を立てていた。そして回転の最中に見えた妹の顔はとても楽しそうだった。一匹の蟻を、生命を指先の間で弄んでいることに愉悦を覚えているのか。子どもっぽい屈託の無い笑顔だった。先ほどまでも同じ様に屈託無く、無数の蟻を踏み潰していたのだ。今も、足の指で、俺の仲間の蟻を潰しているに違いない。圧力から逃れたいが、妹の指に噛み付く気にはなれなかった。その時、

  メキィ!

 嫌な音と激痛を感じた。どこかがやられたのだ。どこだ。だが身体中を苛む激痛のせいでそれがどこか確認出来ない。しかし同時に指の動きも緩やかになった。俺の身体が壊れた事に気付いたのだろう。視界を埋め尽くす妹の顔は笑顔で言った。

「もうおしまいみたいだね。バイバイ、エッチな蟻さん」

 ギュッ。指の力が瞬間的に強まった。先ほどまでの比では無い。自分の身体が潰れる感触がした。──と思った瞬間である。


「いったぁぁぁぁあああああああああいッ!!」


 妹が悲鳴を上げた。同時に妹は手に持っていた俺を投げ捨てていた。それは無意識だったのだろう。投げ捨てると同時に妹は立ち上がっていた。床に落ちた俺。蟻である自分の身体はこの程度では壊れない。先ほど壊れたのはどうやら脚の1本だったようだ。だが、まだ5本ある。しかしいったい何が妹に悲鳴を上げさせたのか。すると、

「新入り! 逃げろぉッ!!」
「!?」

 隊長の声が響いた。見ると隊長が妹の足の小指に噛み付いていた。あの大きな隊長の身体から見ても、妹の足の小指はとてつもなく巨大だ。その指先に隊長は噛み付いていた。恐怖を感じないわけが無い。だが仲間を助けるために。
 妹は隊長に噛み付かれたままの足を持ち上げるとブンブンと振った。人間で言えば時速数千㎞の速度だ振りぬかれる足だ。指先で振り回される隊長。次に妹はその足を思い切り床に踏み降ろした。


  ズッシイイイイイイイイイイイイインッ!!


    ズッシイイイイイイイイイイイイイイインッ!!


 足が地面に叩きつけられるたびに、隊長の身体も地面へと激突させられる。足はもげ、身体は潰れ、隊長の身体はボロボロだった。そして次に妹が足を振ったとき、ついにその顎を離してしまった。吹っ飛んだ後、床に叩きつけられた隊長。俺は慌てて駆け寄った。

「あ、あんた!」
「お、俺に構うな! 早く逃げろ! あそこに駆け込め!!」

 隊長が指した先にはドアの隙間。俺の部屋である。

「奴は俺がなんとか食い止める! 生き残ってる連中を連れてさっさと行け!!」
「馬鹿な! あんたを置いて行けない!」
「俺に構うなと言っただろう!!」

 言い合う二人の声を妹の怒声が掻き消した。

「もう、許さないんだからぁ!!」

 床を踏みしめる足の小指から血が出ていた。隊長の決死の攻撃の成果だ。妹は足を振り上げるとそこにいる蟻に向かって無差別に振り下ろしていった。


  ズシイイイイイイイイイイイイインッ!!


    ズシイイイイイイイイイイイイイイインッ!!


生き残っていた蟻達は次々と数を減らしてゆく。

「こ、こんな事になるなんて…。なんで俺を助けたりしたんだ! 俺は勝手をしたのに…」
「フン、これからの時代を引っ張るのはお前みたいに命を大切に出来る奴だ」
「そんな…」

次の妹の一歩が二人の真横に踏み降ろされた。その衝撃でドアの方へと吹っ飛ぶ二人。

「ぐぅ…! さぁ早く行け! すぐそこだ!」
「あんたも…」
「俺はいい。こんな身体じゃ、どうせ長くはもたねぇ…」
「…」

ズゥン! ズゥウン! 周辺の蟻を踏み潰し終えた妹がこちらに向かって迫ってくる。

「急げ!」
「あんた、家族がいるんだろう! 覚悟はどうした!!」
「…その心配はもう必要ねぇよ」

妹が二人の目の前に立った。巨大な影が二人を覆う。そして足が振り上げられた。いくつもの仲間の亡骸がついた足だ。


  トン


俺の身体は、隊長に突き飛ばされドアの隙間へと入った。
慌てて身体を起こした俺は隊長の方を見た。
隊長は笑っていた。


「娘のことは任せたぜ。…息子よ」



   ズズゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンン!!!



直後、凄まじい衝撃が俺の身体を遅い、身体中をぶつけた俺は気を失った。


ハッと気が付いたとき、そこはいつも見る俺の部屋だった。通常サイズの部屋に家具、食べかけのポテチの袋。何もかもがいつも通りだった。

「夢……か…」

俺は頭を掻いて横に置いてあったポテチの袋に手を伸ばした。するとそこに落ちていた食べかすの周りに小さな蟻達がいた。慌てて殺虫剤に手を伸ばしかけるが、見た夢を思い出し手を止める。

「あんたたちもがんばってるんだよな…」

俺は一際大きな欠片を手に取ると、それをドアの隙間の前に置いた。
するとドアの隙間から出てきた、他の蟻よりも少し大きな蟻がこちらを見て頭を下げた気がした。
驚いた俺だが、そのまま彼らに手を振った。蟻達は欠片を持ってドアの隙間へと消えて行った。
心の中に妙な気持ちが渦巻く。別れの悲しみか。自分が手にかけてきた彼等の仲間に対する悔悟か。わからない。が、彼等が仲間のために必死になっていることを知っている。これからも、がんばってほしい。俺は、彼等の未来の幸運を祈った。




「あ、また蟻だよー」
「ッ!?」


─ おわり ─