※【嬲り】



  『 足 消臭 』



「ただいまー」

その声は、ケースの中に捕らわれた小人達にとっては恐怖以外の何者でもなかった。
彼らが悲鳴を上げながら逃げ場の無い透明なプラスチックの折の中を走り回る間にも大地を揺るがすズシンズシンという足音はどんどん近づいてくる。

やがて、透明なケースの壁の向こう、巨大なドアがガチャリと開き、その向こうから、彼らから見たらドア相応に巨大な女子学生が現れた。

「あー今日も疲れたー」

言いながら部屋に入ってきた巨大少女はカバンをベッドの上に放り投げ足に手を伸ばすと履いていた黒いハイソックスを脱いでそれもベッドの上に放り投げた。
そして素足となった少女が床を大きく揺るがしながら近づいてくるのを見て小人達は更に大きく悲鳴を上げた。

ズズン。少女がケースの置かれた棚の前に立つと、彼らの入ったケースはその少女の作り出す影に覆われ薄暗くなった。
先ほどまで部屋を一望できていたケースの向こうは、今は一人の少女の胸部で埋め尽くされている。
白いワイシャツの生地が、内部に格納された少女の胸で盛り上がっていた。

そうこうしているうちに、小人達の入ったフタの無いケースに少女の手が侵入してきて、内部にいた数十の小人の中から8人を無造作に選んで攫っていった。
当然小人達は逃げ回ったが、この逃げ場の無いケースの中、彼らの100倍の大きさの少女の手はあまりにも巨大すぎて彼らはあっさりとその指先に摘まれケースの外に取り出される。

着いた先は少女のもう片方の掌の上である。
そこは8人の小人を乗せても余裕の広さがあった。
僅かにすぼめられた掌の起伏のある地面の上で彼らは寄り添いあって自分達を見下ろしてくる少女の顔を見上げていた。

「今日もよろしくね」

少女は掌の上の小人達に笑顔で言った。
しかしそれこそが小人達にとっては恐怖だった。

彼らを掌の上に乗せたまま移動した少女はベッドに腰掛けると右足を持ち上げベッドに乗せた。
そして掌の上の小人を一人つまみ上げると右足の親指と人差し指の間に挟みこんだ。
更にもう一人を横の人差し指と中指の間に。
また別の一人を中指と薬指の間に。
そしてもう一人を薬指と小指の間に。
計4人が少女の右足の指の間に挟みこまれた。

少女の足の指は直径1.5mと小人達の身長ほどに太い。親指に至っては小人よりも大きい。
小人達は、少女の大木のように巨大な足の指にほぼ全身を挟みこまれてしまったのだ。
それは小人達がどれほど力を振り絞ってもビクともせず、逆にそれらの指のほんの些細な動きが彼らを翻弄する。

小人達がしっかりと自分の足の指に挟まったのを見て少女は満足そうに微笑んだ。
挟まり具合を確認するように足の指をくにくにと動かすと足の指の間の小人達は断末魔のような悲鳴を上げた。
体を挟み込んでくる大木たちが有機的な動きを持って間に挟まる彼らの小さな体をサイドから締め上げてくるのだ。
ねじり、ひねり、彼らの全力の抵抗をあっさりと封じ込め、その小さな体を簡単に変形させる。
小人達は指の動きに全く抵抗できず、その動きのままに体を曲げた。
肉体がミチミチと音を立てる。骨がメリメリと悲鳴を上げる。
彼らは足の指のなすがままになっていた。
4人も揃って、一人の少女の足の指にも抵抗できなかった。

しかし少女の目的は足の指で小人を嬲る事ではない。小人を足の指の間に置く事に意味があった。
小人達は少女の足の指によってひねり潰されそうなほど弄ばれていたが、それ以外にも、彼らはその少女の足の指の間から立ち上る強烈な臭いに打ちのめされていた。
暑い季節。一日を靴下とローファーと上履きという密閉された空間に押し込められてきた少女の足は汗と体臭が相まって相応の臭いを発する。
少女ですら顔をしかめてしまう臭いだ。
それを小人達は、その臭いの源泉に超至近距離で閉じ込められているのだ。
彼らを包み込む空気すべてが少女の足の臭いにやられていた。
どれだけ顔をそむけても、新鮮で濃密な足の臭いが鼻に飛び込んでくる。
一呼吸するたびに、鼻がもげそうなほどの痛みが鼻を痛めつける。
両手を動かし空気を払っても、顔をどちらに向けても、それは変わらなかった。
凄まじい異臭が彼らの鼻と喉を痛めつけた。
更につい今しがたまで靴下に包まれていたそこは大量の汗を発しており、それによって空気の湿度も半端なものではなかった。
夏の気温。密閉された空間。そして少女の体温で暖められた空気のこもるその場所はサウナか南国のような湿度を持っていた。
あまりの暑さに小人達も一気に汗をかき出した。
蒸し暑い足の指の間。立ち込める足の臭い。締め付けてくる巨大な足の指。
恐ろしい三重苦により小人達は頭がクラクラしてきていた。
ボーっとする。正常な考えができない。
熱中症のような症状に陥っていた。

そして、その足はそのひとつだけではない。
少女は右足を下ろし、今度はもう片方の足である左足をベッドに乗せそちらの足の指の間にも残りの小人を挟んだ。
左足もベッドから下ろし両足を揃えてみる。
自分の両足がきっちり並び、その足の指の間には計8人の小人がしっかりと挟まれていた。



それを確認した少女はベッドから立ち上がり机に向かって歩き始めた。
少女にとってはただの徒歩だが、足の指に挟まれる小人にとって巨大な少女のただの徒歩はとんでもない現象だった。
彼らを挟んで静止状態だった足は直後まるでミサイルのように一瞬で発射され超高速で前方に打ち出され半秒と掛からぬうちに床へと着地する。
少女のそのたった一歩は小人にとってまさに大砲で打ち出されるようなものだった。
一瞬で超高速まで加速する。全身の肉や魂まで置き去りにするかのような超加速。ほんの一瞬のことだが
、その速度は、彼らに呼吸すら許さぬほどの高速移動なのだ。
彼らから見る少女の歩く速度はおよそ時速400km。つまり時速400kmの速さを、生身で受け止めなければならないのだ。
全身の皮や肉が突っ張る。呼吸すらできぬ。停止からの加速が急すぎて、何が起きているのかすら理解できないほどだ。
それも半秒に満たぬ間のこと。足はすぐに床に下りる。だがその衝撃も、指の間に挟まれる小さな彼らには衝撃的なものだった。
足がズンと床を踏みしめる衝撃は、当然足の指に挟まれる彼らも感じることになる。
100倍の大きさの少女が遠慮なく踏み下ろす足のその衝撃は計り知れない。
踏み下ろされるときに足にかかる重量、およそ6万t。
大型バスの重量をおよそ10tとすると、少女の一歩には、大型バス6千台が落下してくるような衝撃が込められているのだ。

そんな衝撃を指の間に挟みこまれ強制的に受け止めさせられている小人達は当然悲鳴を上げたいが、それすらできない衝撃だった。
少女の足が床を踏みしめると床が上下にグラグラ激しく揺れる。少女にとっては気にするほどのことでも無い揺れだ。
しかし少女の100分の1の大きさの小人、しかもその衝撃の震源地に捕らわれている小人達にとってはとんでもない大揺れだった。
足が床に落下した瞬間、一瞬のうちに体を上下に数十cmもシェイクされるのだ。視界がぶれる。胃の中がひっくり返る。脳が打ちのめされた。
ほとんどの小人がたった一歩で脳震盪を起こしていた。

そしてまたもう片方の足が動いて着地するまでの一瞬の静止状態を経て、またミサイルのように発射される。
それを、少女が机に到着するまで数回繰り返すのだ。



少女が机に着いてしまえば、あの、絶叫マシーンですらかわいく見える殺人的な歩行もなりを潜める。
締め付けと臭いと衝撃とを休むまもなく受け続けた小人達はぐったりとしていた。
机に着き、その下で軽く交差した足の指の間でその小さな体をだらんとさせている。
未だに臭いもきつく、指による締め付けも緩まないが、先ほどまでの大歩行に比べればかわいいものだった。

ただ、歩行が終わり、机に着いて足の仕事が無くなったからと言って、彼らに対する責め苦が終わるわけではない。
暇をもてあました足はその指の間に捉える小人たちを意味も無く嬲り始める。
くにくにと動いて間に挟まる小人達の小さな体をひねりあげる。すると小人達は悲鳴を上げる。その悲鳴は机の上の少女の耳にまで届いて少女をクスリと微笑ませた。
小人達が抵抗しようとしているのは少女も気づいていたが、そんなものはちょっと指を動かすだけで簡単に無に帰してしまえる。
あまりにも弱すぎて、少女がちょっと動くだけで小人の努力は0になってしまうのだ。
そんな小人の儚い抵抗も、少女にとっては楽しみの一つである。
そうやって抵抗してくる小人を足の指でひねったり転がしたり、時に足の指をぎゅっと握って間に挟まる4人全員を同時に締め上げる。
それだけでそちらの足の小人はみんなおとなしくなる。
もう少し抵抗してもらった方が楽しめるのだが、そうやって自分の圧倒的な力で屈服させるのもまた楽しかった。
かかとを軸につま先だけをパタパタと上下させる。
すると小人達は上下に10m近くも動いて絶叫する。
左右に動かせば悲鳴も一緒に左右に動く。
ときに少女が全く意識せず、本当に自然な動作で、机の下で脚を組んだときも小人達はその足のうねるような動きに悲鳴を上げていた。



やがて少女の宿題が終われば、小人達のお役も御免だ。
丁度宿題が終わる頃合に、足の消臭が終わるからだ。
少女の足の香りはすべて小人達に吸い取られていた。

椅子の向きをぐるんと変え、椅子に座ったまま前かがみになった少女は足に手を伸ばし、指の間から8人の小人達を取り出し掌に乗せた。
そして立ち上がるとあの棚に置かれた透明なケースまで近づいていき、掌に乗せていた小人達を放り込む。

「ありがと。また明日よろしくね」

ケースの中の小人達に軽く手を振って、少女はシャワーを浴びるべく部屋を出て行った。

ケースの中に戻された小人達は長い長い拷問の果てに気絶してしまっていた。
ケースに残されていた仲間の小人達が心配そうにその小人を見つめる。
ただし、決して近寄ろうとはしなかった。

ケースの中央に転がるその8人の体からは、少女の足の凄まじい臭いがしていたからだ。