放課後。
女子が2倍サイズの学園で、男子:アマギと女子:トウハは保健委員の仕事で保健室へとやってきていた。


  *


「失礼します」

トウハがドアを開けて保健室に入り、その後ろにアマギが続く。

 大きい女子用のドアは男子も通れるが小さい男子用のドアは女子は通れない。なので男子と女子が共に行動するときは女子が男子をエスコートするのがこの学園の決まりである。
 特に二人の身長の差は凄まじく、トウハの身長380cmに対しアマギの身長は160cm。アマギの身長はトウハの脚よりも低い。アマギはトウハの脚の間を歩いて通れるほどだ。

しかし、2m以上の身長差のある二人が訪れた保健室は電気が消えており先生もいなかった。
職員会議か、帰宅してしまったのだろう。

いずれにしろ先生がいないのならば仕方が無い。
二人は手に持っていた保健委員の書類を机へと置いて部屋を出ようとしたが、そこでトウハの目に身体測定で使う器具が入る。

 この学園では男子と女子の体躯があまりにも違いすぎるためそれぞれの身体測定では別々の専用の器具が使われる。
 なので男子が女子の器具を、女子が男子の器具を使うことは無い。

「せっかくだし、ちょっと計ってみようか」

トウハはアマギを振り返って笑った。


  *


身長計を使ってお互いの身長を互いの器具で計ってみた。
まずはトウハが男子用の身長計を使おうとしたが、使うまでも無く結果は明らかだった。

「あはは、そりゃ無理だよね」

身長計の上にポンポンと手を置くトウハ。
男子用の身長計の最大値は200cm。身長380cmのトウハの半分ほどの高さにしか届かない。ちょっと背伸びをすればその身長計すら股下をくぐれるだろう。
トウハが床に座れば、座高くらいは計れるかもだが。

「じゃあ今度はアマギ君の番」

トウハが女子用の身長計を用意しアマギがその前に立つ。
だがここでも問題が起きた。
低い身長は男子用の器具で間に合うので、女子用は250cm以下のメモリは用意されてなく計測できないのである。
トウハがするすると下ろしてきた計測用の突起は、アマギの頭の遥か上で止まった。

「あらら、届かないや。アマギ君小さすぎ」

クスクスと笑いながら大きな手でアマギの頭を撫でるトウハ。
少し恥ずかしそうに頬を染めるアマギ。
アマギの頭を撫でるためにトウハはしゃがんでいるが、それでもトウハの方が目線が高くアマギを見下ろせる。


  *


次は体重計。
男子用の体重計に乗ろうとしたトウハだがまた問題が起きる。
体重計からトウハの足がはみ出てしまったのだ。
体重計の四辺の長さはそれぞれ30cmほど。対してトウハの足のサイズは長さ56cm幅21cmと、長さは体重計の倍近い、幅は乗面を半分以上覆ってしまう。
両足をそろえて乗せるどころか、片足すら収まらなかった。

仕方が無いのでトウハは体重計の上に片足でつま先立ちになる。
するとデジタル式の液晶画面の数字が急速に上昇し、そのあまりにも膨大な重量に体重計はエラー音という悲鳴を上げ始めた。

「男子用の体重計にはちょっと重すぎたかな。ふふ」

トウハが下りると危機的状況から解放された体重計はまるで息を整えるように元の正常な表示へと戻った。


今度はアマギが女子用の体重計に乗って見る。
四方60cmというまるで座布団のような大きさの体重計の上には足を乗せる目印として白く足形が描かれている。
明らかに自分の足よりも大きな足形だった。
アマギは、自分の足がすっぽりと納まってしまう足形の上に足を乗せて体重計の上に立つ。身長計の時とは違い、今度は正常に計測できた。
体重計の表示板には「50kg」と表示された。

「うわー、やっぱりアマギ君てすごい軽いね」

体重計に乗るアマギの後ろに立ちながらも真上から覗き込んできたトウハが言う。
ついでということで、アマギが下りた後、トウハも女子用の体重計に乗った。

靴下に包まれたトウハの大きな足が体重計の上にズシンと乗せられる。
もう片方の足も。
トウハの両足が体重計に乗る。
すると表示板の数字が急速に膨れ上がり、やがて「640kg」と表示して止まった。

「あ、やった。ちょっと痩せてる」

体重計の上でトウハがぴょんと跳ねてアマギはズシンと地響きを感じた。

640kg。アマギのおよそ13倍。アマギ13人分の質量がトウハ1人の中に詰め込まれているのである。
力士でも200kgに届く人は少ない。力士3人が乗ったシーソーをトウハ1人で浮かせられる。力士1人のシーソーならトウハが片足を乗せるだけで力士はポーンと飛び上がってしまうだろう。

「それじゃ帰ろうか」

体重計から降りたトウハはアマギの体を片手でひょいと抱え上げ保健室を出ていった。
校舎自体は女子の規格に合わせて作られており男子にはとても広いのだ。なのでトウハは手が空いているときはアマギを抱きかかえて移動する。

「そうだ、帰りに何か食べてかない?」

すぐ目の前からトウハの大きな笑顔が見下ろしてきてアマギはコクンと頷いた。

その後、ファミレスでトウハは50kgのパフェを平らげたという。