広大な室内会場。
そこには世界中から格闘技のプロが集められていた。
会場内に在る無数の白線のリングの中では男達が血と汗と涙を流し拳を蹴りを繰り出している。

そのひとつのリングに100人ほどの格闘家たちが集まっていた。
これから彼等は、現世界チャンピオンに挑むのである。
チャンピオンはこれまで無敗。そのチャンピオンと、彼等100人は一斉に闘う。
そこまでしなければならない相手なのか…。
ゴクリ。
男達は唾を飲み込んだ。
その時、

「お、おくれました〜!」

喧騒轟く会場内に透き通ったかわいらしい声が響いた。
見ると会場の入口に一人の少女が立っていた。
少し大きめの道着を着込み、手足に若干ブカブカ感を漂わせる。
年の頃も10未満か10代前半。
…だが、そんな少女が何故この屈強な男達の集まる会場に?
男達は首を捻った。

少女がテテテテ…と走ってきた。
するとその姿が大きくなってゆく。
大きく、大きく…。
それを見る男達の顔は段々と上を見上げていった。

  ズシン…  ズシン…  ズシン  ズシン!  ズシィン!!  ズシィイン!!  ズシィイインン!!  ズシィイイイイン!!!

息を切らし走ってきた少女。
その少女が目の前まで来たところで男達はその少女の大きさに気付いた。
1000倍…。
それが少女の大きさであった。
男達の前に立った少女は息を整えながら審判に尋ねた。

「はぁ…はぁ…あの…私、失格になってないでしょうか?」
「はい大丈夫です」
「はぅ…よかったぁ…」

ほっと胸を撫で下ろす少女。
その足元にいる男達の目の前にはゆるい道着からぴょこんと飛び出ているつま先の丸っこい足の指があった。
だがその指の一本一本ですら、彼等の家よりもはるかに大きいのだ。
審判が言う。

「ではこれよりチャンピオンと挑戦者100名による試合を始める」

え? この子がチャンピオン!?
驚き見上げた先では少女が笑顔で見下ろしていた。

「よろしくおねがいしまぁす」

少女がぺこりと頭を下げてきた。
審判が両者に手を向け、その手を互いの方へと動かした。

「では……始め!」

試合が始まった。
男達が右往左往しとりあえず構えを取る向こうで、少女が片足を上げた。
足は彼等の上にセットされ、男達は少女の足の裏の影に包まれた。

「えい」

ずん! 少女は足を降ろした。
その足を持ち上げてみると、足の裏には百人の男達がのしいかになって張り付いていた。

「1本(×100)! それまで! チャンピオンの勝ち!」
「わぁい! やったぁ!」

ぴょんと飛び跳ね手を合わせる少女。

「ではこれが賞状とトロフィーです」
「ありがとうございまぁす♪」

手に賞状とトロフィーを抱いた少女は、足の裏に男達を張り付かせたまま笑顔で会場を後にした。